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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
12/29

遺跡の空気は、どこか重たかった。静寂と冷気が染みついた石の回廊を抜け、夕暮れの街が見えた瞬間、悠真は思わず息を吐いた。


「ふぅ、お疲れ様でしたー!」


 街の輪郭が茜色に染まり、石畳の道には人々の喧騒が戻っている。レイが耳をぴくりと動かしながら、鼻をくすぐる匂いに目を細めた。


「やっぱり街の匂いってのは落ち着くよな。人が生きてる匂い、遺跡は獣とカビ臭い匂いだからな。」


「遺跡の空気、ちょっと重かったもんな」


 悠真が頷くと、陸翔は無言で空を見上げていた。彼の双角が夕陽に照らされ、淡く光っている。


 ギルドで依頼達成の報告を済ませ、報酬を受け取った三人は、集会所の食堂へ向かった。木造の扉を開けると、香ばしい煮込みの匂いが鼻をくすぐる。


「ほれ、これが今回の報酬。うちらだけじゃ危なかったから少し色つけて1000ゼル。あとウンランが魔物の素材も換金しに行ってるからもう少しでくるんじゃねーかな?」


 レイがテーブルに並べた貨幣に、悠真は目を見張った。


「え、そんなに?」


「あぁ。冒険者は命懸けだからな。しかもオレらの依頼だから初心者向けのやつよりは割がいいんだよ。それに今回明らかに異変もあったから報酬上乗せさせた。」


「そうなんだ!!けどいっぱいじゃらじゃらあるけどどれくらいの価値なの?」


「そーいや言ってなかったな。銅貨が1ゼルで20枚で銀貨1枚分。で、だいたいボロ宿に1泊40ゼル。できるくらいかな。円じゃわかんねーけど1ドルで5ゼル、銀貨は4ドルってとこか」


「割と飯の感覚は日本の価格に近いかもな。宿は安いな。」


「そうかもな。ちなみにボロ宿なんて向こうから来たやつだと屋根と壁があるだけのレベルだからな。シーツはダニすごいし寝れたもんじゃねーよ。普通は大体安くて100ゼルくらいからかな。んで、銀貨が20枚で大銀貨、そっから金貨、最後に白金貨も20枚おきに変わってく。白金貨は大きな取引とかめちゃ高級な素材の装備にしか使わねーかな。」


 悠真は銀貨を手に取り、光の反射を眺めながら呟いた。


 「この世界の価値観、少しずつ分かってきた気がする」


 「いや、レイ難しいこと言ってねーからな」


 陸翔は一言だけ言ってスープをすする。その横顔に、何か思うところがあるような影が差していた。


 「ただいまー!換金してきたよ!ロックハウンドの牙3匹分とスレイブモールの素材。最後の魔物は消えちゃったから素材取れなくて残念だったけど全部で500ゼルだったよ!」


 「素材だけでも意外と儲かるんだなー。」


 「もっと危険度高かったり、希少なモンスターだと0がどんどん増えるよ。確か白虎の毛で1000万ゼルで売買されてたよ。神獣の毛なんてどうやって取ったんだろうね。」



 食後、レイが魔道板を取り出すと、悠真は「また始まった」と笑った。


「レイ先生のお勉強会、第二回ー。

今日のテーマは“種族”。この世界には、いろんな種族がいる。知らないと、無意識に失礼なこと言うかもしれないし危ない種族もいるからな。」


「なるほど。じゃあ、よろしく先生」


 レイは得意げに板に図を描き始めた。


「まずは亜人族。ビーストフォークって呼ぶやつもいる。見た目は人間に近いけど、耳と尻尾が動物っぽい。犬系、猫系、狐系、いろいろいるよ。あと総じて身体能力が高いけど魔法はほとんど使えない。」


「カリムさんは……虎系?」


「正解。嗅覚と聴覚が優れてて、夜目も利く。あと、感情が耳と尻尾に出やすいから、嘘つくの苦手。ちなみにカリムさんめちゃくちゃ強いからな。こないだ素手でロックハウンド倒してた……怒らせないようにな?」


 悠真がひきつりながら笑う。


 「……絶対怒らせないようにします。」


 「マジでそうしろよ。怒ったの見たことはないけど。」


 「この前怒ってるの見たよ。会議所の金属製の扉吹っ飛ばしてた…。しかも5メートルくらい。」


 ウンランが頬をピクピクさせながらそう呟く。陸翔が静かに口を開いた。


「悠真、マジで怒らせるなよ。お前マジでたまに予想もつかないことするから……」


「だな。うちのじいちゃんよりこえぇ…あ、陸翔って……角族?鬼だし。あ、ミナさんおかえりー」


「ただいま。そう。彼の角は“双角型”で、魔力の流れが安定してるタイプね。だから、感情が面に出ない。」


 陸翔は少しだけ視線を上げて、悠真と目を合わせた。


 「誰が角族だよ…。ミナさんも戻ってきて速攻のらないで…。スキル使ってる時点で人間しかいないんだから。」


 「てっきり角生えるのかと。」


 「……生えるんじゃねーか?」


 陸翔がちらりとレイを見た。何か言いたげだったが、口には出さなかった。


「次は妖精族。別名がフェイライン。メジャーなとこだとエルフとかドワーフだな。あとピクシーとかホビットとか種類が多岐にわたる。種族で神聖魔法や闇魔法、精霊魔法、色々使うけど多いのは精霊魔法だよな?」


「 だねー。精霊魔法以外だと白羽、黒羽くらいじゃない?」


「見たことあるかも。白い羽根の人が広場にいた」


「それ、たぶん“白羽族”。神聖魔法に適性があるタイプ。羽根の色で属性が違うんだよ。天使っぽいけど亜人だね。」


「黒羽は……?」


「闇属性。ちょっと警戒されがちだけど、実は回復魔法も得意だったりする」


 悠真は魔道板の羽根の絵を見ながら、ふと呟いた。


「空、飛べたら気持ちいいだろうな」


「空飛ぶスキルのウワサあったよね?」


「あぁ、コントロール上手くいかなくて落ちて死んだやつだろ?」


 ウンランが笑うと、悠馬が頬を引き攣らせた。


「話し脱線するけどスキルの使い方気をつけろよ。特に悠真。使った時、肩いてぇって言ってたけど衝撃溜めて放出するスキルなら威力あげ過ぎると体壊すぞ。スキル使いこなせなくて死んだり再起不能なんてそこら中に転がってる話だからな。」


「気をつけるよ。けど多分大丈夫。スキルが使い方教えてくれてるみたい。あんなヘマしないよ。ちょっと練習しなきゃかもだけど。」


「ならいいけど。スキルが使い方教えるか…確かにな。後でお前らのスキル教えろよ。当面組むなら知っといた方がいい。話し戻すぞ。こっからは単一種族。別名がアークライン。種族って言ってるけど統一性はない。神話とか伝記に出てくる存在。具現化してれば神、天使、悪魔、なんでも。さっきちらっと出た白虎もそうだな。詳しいことはわからねーけど。」


「見つけてもあまり近づくなよ、悠真。お前は珍しがって絡みに行きかねねー。」


「うーん、確かに。RPGのボス的な存在が普通に歩いてるんでしょ?」


「こないだ会った転移者、確かセラ=アストラの仕事で来てなかったっけ?あの人があそこの偉い人天使だって言ってたよ。」


「宗教国家…オレと相容れないものを感じる……」


「仮にここを出てフリーで仕事受けたとかならいいけど、軽いノリで遊びに行っても悠馬の場合、邪教徒認定されて殲滅とかありえるからあんまりお勧めしないわ。」


 悠真は少し黙ってから、ぽつりと呟いた。


「種族…地球には肌の差しか無かったけど…」


 レイは頷いた。


「だからこそ、知っておくべきなんだよ。この世界にも差別はある。けどオレらはこの世界だと新参者だ。見た目とかで誰かを“知らない”まま判断しないために。今日はこんなとこにしとくか。2人は飲むだろ?ビール持ってくるけど?」

「めっちゃいるー!」

「あぁ、頼む。」


「あとは2人のスキルね。陸翔のスキルはコピー?もう少し知りたいわ。」

「敵対しないなら教えるよ。」

「慎重ね。けどその慎重さ大事よ。地球と違って命の価値が軽いからね。私たちは敵対しないしスキルの情報を他に流さないと誓うわ」

「オーケー。疑ってるわけじゃないから気を悪くしないでくれ。おれのスキルが。」


「ほら、ビール」


「サンキュ。うめー。ミナとウンランは飲まないの?んでオレのスキルがコード・コンコード。視界の中に収めてる仲間、これが互いに仲間って認識してないとダメみたいだ。

帰りに道歩いてる人で仲間だと思って試してみたけど発動しなかった。ミナの言う通りスキルをコピーする。ただ本人より威力とか精度が落ちるのと、集中しないと制御出来ないからどうしても片手間には難しいな。慣れたら伸びるのかもしれないけど今はコピーしてから使える時間が20秒。1分に1つのスキルしかコピー出来ないみたいだ。確かにこう話しててなんでかわからないけど詳しくわかるな。」


「だろ?不思議な感じだよね。オレのはショックバンク。殴った衝撃を溜めて放出するスキル。溜めてられる時間は今は多分そこまで長くは無さそうかな?多分手足での攻撃の衝撃を吸収してるみたい。だから殴っても痛くなかったからめちゃやりやすい!ただ衝撃を小出しに出来たらいいんだけどまだ難しいから練習かな?

あ、あとミナさんが撃ったタマ当たったところ火が出たじゃん?、あれが魔導弾?」


「そうだよ。あれは火の魔導弾だな。あと持ってるのが貫通と雷か。うちらのスキルはウンランはそのまま説明された感じか。オレは任意のクローゼット3個と繋がってる。オレ1人ならクローゼットにそのまま入ってそこに行ける。1個武器、一個食料、一個は偵察行った時やソロの帰宅用にしてる。んでミナのスキルが跳弾のスキルなんだけどミナが言うには着弾場所決めたらそこに飛んでくらしい。まぁこんなとこか。」


「あと一個聞きたいわ。2人の戦闘の慣れも強さも異常よ。地球出身なのよね?」

「うん、じいちゃんに2人とも鍛えられたからね…思い出すだけで疲れが3倍になるからその話しは今度ね……」


 勉強会が終わり、三人は集会所の屋上に出た。街の灯が星のように瞬き、夜風が心地よく頬を撫でる。


「この世界、まだまだ知らないことばっかりだ」


 悠真が空を見上げると、レイが隣に座った。


「最初はみんなそうだからな。少しずつでも知っていけばいいんだよ。」


 陸翔は少し離れた場所で、静かに夜空を見ていた。その顔に、何か重たいものが宿っているように見えた。


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