⑧
“記憶の間”は、空間そのものが歪んでいた。
壁は波打ち、天井は見えず、床の紋様は浮かび上がっては消えていく。
空気はざらつき、魔力の密度が異常に高い。魔力をわかってない悠真すらも重い空気を感じ、誰もが無言で、ただ慎重に歩を進めていた。
「……誰か、いる」
ミナが立ち止まり、銃を構える。
その視線の先、祭壇の奥に人影があった。
フードを深く被った人物。性別も年齢もわからない。
ただ、空気が変わった。重く、冷たく、鋭く。
「転移者か?それとも……」
レイが呟いた瞬間、空間が震えた。
石畳の紋様が赤く光り、祭壇の裏から黒い影が飛び出す。
「モンスターだ!」
影は四足の獣型。だが、ロックハウンドとは違う。
皮膚は半透明で、内側に光る紋様が走っている。
“記憶の残骸”――この空間に染まった魔物だ。
「ウンラン、地陣!」
「了解!」
ウンランが地面に手をつけるが、魔物の突進が早すぎる。
地陣が展開する前に、彼は吹き飛ばされた。
「ウンラン!」
悠真が叫び、警戒しながら前に出るが魔物の動きは異常だ。
相手の踏み込みに合わせて悠真が拳を振るう。確かな手ごたえと同時に、悠真の腹部に衝撃が走る。
「ぐっ……!」
「悠真!模倣スキル、地陣!」
悠真と魔物の間に小さな壁ができる。
一方、悠真は拳に、何かが“溜まっている”感覚があった。
「大丈夫、当てながら逆の手挟んだから……なんだ、これ」
魔物が再び跳びかかる。 地陣のおかげで動きが限定出来たおかげで、かろうじて避けて反撃を加える。
「やっぱり…」
確かな確信を得て、悠真が拳を握る。
「ミナ!援護だ!」
「バレットダンス!」
レイの銃撃をあっさり避けつつミナの上から降ってくるような変則的な軌道すらも躱わす。しかし着弾地点から炎が吹き上がり僅かに魔物の出足が乱れるがそのままミナに向かってくる。
「ミナ!下がれ!がっ!」
レイがミナの前に立ちバックラーを構えるが、牙を剥き出しにしさらに加速してくる魔物に、バックラーごとあっさり吹き飛ばされる。
「レイっ!」
銃を連射するが全て避けられそのまま飛び掛かる姿勢に入る魔物。その刹那――
「オラァっ!」
飛びかかるより早く陸翔がモ魔物へ一歩踏み込み、腰を沈めた。
次の刹那、全身を弓のようにしならせて――肩を突き出す。
空気が弾けたような衝撃音と共に、鉄塊を叩きつけられたかのような衝撃が走る。
肩から背中、腰、脚――全ての力を一点に集約させた突撃。
受け止めようとした相手の防御は瞬時に粉砕され、その身体ごと数歩、いや数メートル後方へと吹き飛ばされる。その先に何故か悠馬が待ち構えていた。
「ナイスパース。喰らえ!"ショックバンク"!」
拳が唸る。
衝撃が走る。
魔物の体が、爆発的な力で魔物が体を四散させながら壁を破壊して隣の部屋まで吹き飛んでいく。
その瞬間、悠真の脳内に悠真の子供の頃、悠馬を見るだれかの記憶が流れ込む。
「悠真……今の……」
陸翔が呟く。
悠真に駆け寄り、悠真の胸元を見つめる。
「紋章が出てる。赤と黄……複合色。スキル発現だ」
悠真は拳を見つめた。
痛みはない。だが、重みが残っている。
「………肩痛ってー!溜め具合考えないとな…殴った衝撃が、溜まってた。スキルって……こういうもんなんだな」
ミナが近づき、目を細める。
「感情が流れ込んできた……インプリント、起きてる」
フードの人物は、何も言わずに立ち去ろうとする。
だが、悠真が声をかけた。
「待てよ。お前、誰だ」
人物は立ち止まり、振り返らずに言った。
「ははっ。名乗るほどの者でもないさ。」
そのまま、空間の歪みに溶けるように消えていった。
悠真は拳を握り直す。
胸の紋章が、淡く脈打っていた。
「俺のスキル……《ショックバンク》。殴って、溜めて、ぶっ放す。……悪くない」
陸翔が笑う。
「バカだからか…シンプル過ぎる。」
レイは黙って頷いた。
ミナは銃を構え直し、祭壇の奥を見つめる。
「ミナ、どーした?
「気のせい…?」




