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Beyond the Record  作者: しおん
『サル=ヴァリド』
10/29

遺跡の奥へと進むにつれ、空気はさらに冷たく、重くなっていった。

 壁には古代文字のような刻印が浮かび、ところどころに崩れた石像が並んでいる。人型のものもあれば、獣のようなものもある。どれも目がくり抜かれていて、不気味な静けさを放っていた。


 床には風化した石畳が広がり、ところどころに祈りの紋様が刻まれている。苔が入り込み、亀裂が走るその模様は、まるで“記憶の残骸”のようだった。


 「ここからが本番だな。依頼の目的は3階にある“記憶の間”の調査。魔力の残留が強い場所だ」


 レイが魔道板を確認しながら言う。

 彼の声に、ウンランが眉をひそめた。


 「ロックハウンドなんて普段遺跡に入り込まないし、何か様子おかしいかも。レイ、ミナに一応魔導弾渡しといて。あとレイも装備そのままいく?気を引き締めた方がいいね」


 「オッケー。装備どうすっかなー。悠真も陸翔もけっこうやれそうだし、少しタンク寄りでいくかな。銃と剣は…そのままでいっか。《ヴォイド・クローゼット》」


 レイが呟くと、空間に黒い裂け目が生まれた。

 右手を突っ込むと、マガジンが握られていた。それをミナに放り投げ、再び手を入れてバックラーを引き抜く。


 「手品みてー!すげー!」


 「単なる収納スキルだよ。地味なもんさ」


 「レイのスキルがうちの要なんだよ。こーやって対応幅が変わってくるからね」


 ウンランがぽつりと呟く。


 「……あ、足音。前方、来る」


 ミナが銃を構えた。彼女は出身不明。星からの転移ではなく、街の入り口付近で倒れていたところを保護された。本人曰く、こっちに来て1年ちょっと。


 通路の先、石畳の影から現れたのは――ロックハウンド。

 岩のような鱗を持つ四足獣。赤い目が光り、低い唸り声を上げている。


 「来るぞ!」


 レイが前に出て、バックラーで牽制。

 ウンランが地面に手をつける。


 「地陣、展開!」


 石畳が震え、壁際に地面がせり上がる。

 ロックハウンドの突進がそれにぶつかり、動きが止まった。


 「悠真、右から!」


 「了解!」


 悠真がナイフを構え、側面から斬りかかる。

 だが、鱗が硬く、刃が通らない。


 「硬っ……!」


 「腹か背中!鱗の隙間狙え!」


 陸翔が叫び、拳を握る。


 「悠真、下がれ!」


 陸翔が踏み込み、右肘でロックハウンドの顎を打ち上げる。

 続けて回し蹴りが腹部に入り、獣がよろめいた。


 「八極拳か?それにあの蹴り……ここまでやるかよ。」


 レイが呟き、銃を構える。

 ミナの横から跳弾が不自然な軌道を描き、ロックハウンドの背中に突き刺さる。


 「バレット・ダンス」


 一瞬止まった瞬間、レイの銃声と共にロックハウンドが崩れ落ちた。


 「ふぅ……しんどかった」


 「これで終わりじゃないぞ。奥にまだいる」


 通路を進むと、床の紋様が複雑になっていく。

 空気がざらつき、魔力の密度が高まっている。


 「……下だ!」


 陸翔が叫んだ瞬間、床が突き破られた。

 地中から現れたのは――スレイヴ・モール。


 筋肉質でずんぐりした体型。前脚が異常に発達していて、岩を砕くほどの腕力を持つ。

 皮膚は岩のような鱗状で、目は退化している。


 「振動で探ってる!動かないで!」


 ミナが叫び銃を撃つが大して効かず、動きは止まらない。 魔導弾に替え忘れていたことを思い出し、小さく舌打ちをする。

 悠真に突進しながらを振り回してくるがが、悠真は動かない。


 「悠真!」

 「大丈夫!」


 突進しながらの渾身の振り下ろしを悠真はあっさり避けてそのまま顔に膝蹴りを入れてカチあげ、そのまロシアンフックで吹き飛ばす。


 陸翔が待ち構えてたかのように前に出る。

 低く構え、息を一気に吐き出す。脚が地面を叩き、ひび割れた石畳が砕ける。


 「…撃掌!」


 伸びた手がスレイヴ・モールの唯一柔らかそうな腹部に吸い込まれた瞬間、炸裂音が響きスレイヴ・モールが前に倒れた。

 

 ぽかーん……3人は時が止まったように立ち尽くす。何を隠そう、初めてスレイヴ・モールとの戦闘の時、弱点を正面から隠した早い突進、銃弾も剣も通じずウンランも吹き飛ばされ気絶し、どうにもならない状態の時、たまたま遺跡の探索に来てたカリムに助けられた過去を持っていた。


 「まだ終わってないから銃か剣でとどめを。」

 「あ、あぁ…」


 レイが呟き、銃でトドメを刺す。


 戦闘が終わり、悠真は大きく息を吐き呼吸を整え陸翔のところへ歩き始めた。

 その時、床の紋様が淡く光り、視界が揺れた。


 「……っ、なにこれ……」


 怒り。誰かの、強烈な怒りが脳に流れ込んでくる。

 インプリント――記憶の断片が、感情とともに押し寄せる。


 「悠真、大丈夫か?」


 「うん……ちょっと、誰かの記憶が……」


 ミナが頷く。


 「この遺跡は、記憶が濃い。触れるだけで、過去が流れ込むこともある」


 さらに奥へ進むと、空間が歪んでいる場所に出た。

 壁が波打ち、空気がざらついている。


 「ここが“記憶の間”の入り口か……」


 レイが魔道板を確認する。


 「次で依頼達成だな。気を引き締めていこう」

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