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Beyond the Record  作者: しおん
プロローグ
1/5

プロローグ1

かつて子供だった大人たちに捧ぐ。飛び方を思い出せ。

 山に囲まれた盆地に広がるこの地方都市は、空気が澄んでいて、街の灯りも控えめ。夜になると、空には無数の星が広がり、流れ星が頻繁に見られることで知られていた。観光地というほどではないが、季節によっては展望台に人が集まり、星を眺める姿が見られる。


 蒼月悠真は、古びた軽トラックの荷台に積んだ工具箱を見ながら、鼻を鳴らした。


 「次、猫の脱走防止柵の設置だってさ」

 神原陸翔が助手席から淡々と告げる。

 「猫かー。依頼主、かわいい女の人だったらいいな」

 「……お前、仕事中くらい真面目にやれ」

 「いや、真面目にやるけどさ。可愛い子だったらテンション上がるだろ?」


 悠真は笑いながらエンジンをかけた。

 陸翔は呆れたようにため息をついたが、特に否定はしなかった。


 ふたりは地元の便利屋で働いている。

 悠真が亡き祖父から引き継いだ小さな事務所で、陸翔はそこに居候のような形で一緒に働いている。依頼内容は掃除、修理、買い物代行、ペットの世話まで多岐にわたる。


 「そういや、今日の夜、流星群来るらしいよ」

 悠真が言った。

 「……展望台、混むな」

 「行こうぜ。仕事終わったら。星見ながら語ろうや」

 「語ることなんてないだろ」

 「あるって。人生とか、女の子とか、、、お前なんでそのキャラでもてるんだ!ハゲて死ね」

 「モテてないだろ」

 「どこの鈍感系の主人公だよ……まあいいや」


 依頼は無事に終わった。

 猫は可愛かったが、飼い主はおばあちゃんだった。


 夜、ふたりは展望台へ向かった。

 空は澄んでいて、星が鮮明に見えた。展望台には何人かが集まっていたが、騒がしくはない。みんな静かに空を見上げていた。


 「なあ、陸翔。お前ってさ、星とか興味あるの?」

 「……ない」

 「じゃあ、なんで来たんだよ」

 「お前がうるさいから」

 「それ、俺が言うセリフだろ」


 悠真は笑った。陸翔は口元だけで笑ったような気がした。


 空には、ひと筋の光が走った。

 流れ星だ。誰かが小さく歓声を上げる。


 悠真はその光を目で追った。

 速くて、儚くて、消えるのが早すぎる。

 それでも、何かが胸に残る。


 「なあ、陸翔。最近、変な夢とか見てない?」

 「夢?」

 「俺さ、昨日の夜、空が落ちてくる夢見たんだよ。で、俺がそれに飲まれるの」

 「……それ、ただのストレスじゃないのか」

 「かもな。でも、なんかリアルだったんだよな」


 陸翔は何も言わず、空を見上げた。


 その夜、空にはもうひとつの光が現れた。

 それは流れ星とは違って、まっすぐに地上へ向かっていた。

 誰も気づいていない。けれど、悠真はその光に目を奪われた。


 まるで、誰かを“迎えに来る”かのように。


 「……陸翔」

 「見えてる」

 「なんだ、あれ」

 「わからない。でも、流星じゃない」


 光は、ゆっくりと地上に近づいてくる。

 ふたりは言葉を失った。


 その瞬間、悠真の胸にざわつきが走った。

 陸翔も、眉をひそめていた。


 「なあ、陸翔。俺たち、なんか変じゃないか?」

 「……気づいてたか」

 「やっぱ、お前もか」


 空が、静かに震えていた。

 星が、何かを告げようとしている。


 それは、まだ誰も知らない“始まり”だった。

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