第82話「Perhaps like that.」
でも、異世界と言えば、やっぱ魔法か?
俺もあんな風に、バンバン使えちゃったりするのか?
召喚されたばかりで頭の整理が追いつかないが、にしても、目の前の玉座にふんぞり返っているあのおっさんのオーラ、凄いな。
見るからに「俺が皇帝です」って感じの威圧感がある。
「ユー、勇者ヒツキ殿を客間へ連れて行け」
「仰せのままに」
おー。
ガチでメイドって居るんだな。
皇帝らしきおっさんの命令に、無表情で一礼したメイド服の女性が俺の前に進み出た。
ラノベとかだと、大体こういう感情の起伏が薄いメイドキャラが、実はめちゃくちゃ強かったりするんだよな。
この人がどうかは知らんが。
「では、こちらに」
「え? あ、はい」
ユー。そう呼ばれた彼女は、無機質な足音を大理石の廊下に響かせ、どこかに俺を案内してくれた。
きっと、あのおっさんが言っていた客間なのだろう。
すれ違う騎士やメイドたちからの視線が、チクチクと痛い……。
「この世界では、文系以外は迫害の対象です」
案内された豪華な客間に入るなり、ユーは振り返って、俺に訳の分からない事を言い出した。
待って?
どこからツッコめばいい?
「えっと……それって、理系だとダメ、みたいなこと?」
「仰る通りでございます」
良かったー。
昨日返されたテストは数Ⅱが赤点ギリギリの大惨事だったし、俺は間違いなく理系ではないもんな。
「てか何それ。最高じゃん」
数学が、物理が、生物が……俺を苦しめてきたあの忌まわしき学問たちが、全部いらない子扱いされてるって事だよな!
「俺も気持ち分かるわー! 何がサイン、コサイン、タンジェント〜 だよっ! 馬鹿みたいだしな!」
「そうですか」
俺の熱弁に、ユーはピクリとも表情を変えずに相槌を打った。
温度差がすごい。
「ねえ、魔法ってどうやって使うの?」
「勇者様の世界に、魔法は無かったんですか?」
「うん。面白くないとこだったよ」
やべっ。
今の流石に失言だったよな?
異世界から来たすごい奴感を出しといた方が良かったかもしれない。
「で、魔法はどうすんの?」
「簡単です。詠唱をするだけで」
「本当に?」
「はい」
えー。
詠唱って、あれだろ?
厨二くさいワードをタラタラ言ってくやつ?
『闇の炎に抱かれて消えろ!』みたいな。
うわ、ちょっと嫌だわぁ。
俺にはそういうセンス無いし。
「他、無いの? 詠唱しなくても戦えるようなやつ」
「それでしたら、スキルが御坐います。ただ、勇者様は異世界からいらっしゃったようですので、授けられているかは分かりませんが」
「誰かに見てもらうことは出来る?」
「でしたら、私が」
これでスキルも無かったらヤバいよな。
ただの数学ができない高校生が異世界放り出されただけになっちゃう。
まぁ数学なんて将来使わないし、いいんだけど。
頼むから、攻撃系!
王道からちょっとズレててもいいから、なんかこう、ビシッと戦えるやつ!
「スキル『鑑定』……」
ユーの芯のある声が、俺に突き刺さる。
彼女の瞳に、微かな魔力の光が宿った。
「勇者様のスキルは——」
ドキドキ……。
「『銃司』です」
「……じゅうし?」
ともかく、銃だから攻撃は出来るみたいだ。
剣とか魔法よりは、ファンタジー世界での銃ってちょっと抵抗あるけど、でもSPみたいでカッコいいじゃん。
世界観フル無視だけど。
「スキルの場合はどうやって使うの?」
「初めて使用する時は、"スキル名発動"と念じるか、口に出すことで可能です」
「よし。スキル『銃司』、発動!」
おっ。これなら詠唱みたいな恥ずかしさは無いし、抵抗無いかも!
すると、俺の右手にズシリと重みが生まれた。
いつの間にか、黒光りする金属製の『銃』——リボルバーのような形状の拳銃を握っていた。
「えっ、すげえ」
「それが『銃』ですか。どことなく、魔導機械の魔力式光剣に似ていますね」
「そんなのあるんだ」
ただの中世ファンタジーかと思いきや、ビームサーベルなんて単語が出てくるとは。
どうやら、この世界は俺が思っていたより複雑みたいだ。
「え、じゃあそういうビームサーベルとかで戦うのが普通なの?」
「いいえ。使用するのは、悪趣味な王侯貴族の方々くらいです」
ユーは相変わらず無表情のまま、あっさりと斬り捨てた。




