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第48話「証明の第二歩」


「お、ジル先生!」


少し遠くの方から、聖騎士が1人駆けてきた。

フレッド・クレイドル——通称エド。

おそらく給金が半分程になったのか、明らかに空元気だった。


「エド」


シャンデリアの光が一瞬エドの鎧に反射され、ジルは咄嗟に目を瞑った。


「なあ……聖教国で調べるって言ったろ?」

「ああ、言っていたな」

「実は魔王軍幹部や魔王の最新情報が書いてある書簡を見つけたんだ」

「ん?」


ジルは顔を顰めた。

もしかしたら、と思い聞いてみる。


「それは四天王についての情報か?」

「お! よく分かったな! なんでも、"電殻"ってのと、"呪飼"ってのと……」

「それさっき議論会でやったよ」


ポラリスが突然口を挟む。


「……ちょっと待て、お前確かゲーツの…」

「ああ。"吸血"のポラリスさ」

「いや…だが書簡には、ふど」

「"吸血"って事にしといてよ。ね?」

「お、おう……てかなんで幹部が議論会に」


質問の多いエドに、ポラリスはウンザリした。

ジルは「そこまでにしてやれ」と腰に手をあて、頭の上に付いた耳の裏を掻く。


「あれからどうなったんだ? ゲーツ2体と知り合いだろう?」

「3体だが」

「増えたのか!?」

「いや、あの時は隠してたが」

「元からかよ!?」


ジルはゲーツ3体と聞き、一つ思い出した。

(『最悪の仮説』……結局何も無かったな。ポラリスが上手くやったのか?)


「なあジル先生」

「ん?」

「いや……やっぱいいわ」

「お前なぁ……前もそうやって」


エドは「またな!」と大きく手を振り、人混みの方へ消えていった。


(……むしろ、理系迫害が多少甘かったな。異常値は有ったが、上位層では理系は使えると思われているのか?)

「いや、少し揺らいだだけか」


ジルは呟くと、ポラリスとデミトアの方へ向き直った。


「アーク達と確認をしないとな」


そして、帰路につく——かに思われた。

だが、ジルの意思は、ポラリスのたった一つの発言によって、大きく逸れる事となる。


「ね。実は、アークにとても似ている人が居たんだよ」


ピタリ。

ジルの歩いていた足が止まった。

途端、彼の目の色が変わる。


「どんなやつだった」


ポラリスは、その人物はジルの知人なのだと本能的に察した。


「キャラメル色の髪をして、頬に火傷の跡があった。19歳だってさ」



ジルは——。




7年程前。

アードストール王国のとある市民学校卒業式の日、火災によって炎に包まれ、消えた生徒。

その生徒との思い出の中の笑顔とだけが、彼を教師として繋ぎとめる。



「名前は確か……」


"ネイピア・ラークス=ヒル"



ポラリスがそう呟いた瞬間、ジルの数十分前の記憶が蘇る。


王城内の図書館、魔法陣に関する書物の置いてある棚。

そこに何故かいたネイピア。


「魔法陣…? ネイピア…e、イニシャル……」

「各国の名字が書かれている本を読んだ事がありますが、ラークス=ヒルなどという名字は…」


ヒバリの丘←––→フクロウの浅瀬


パズルのように紐解かれる。

ジルの脳内には、真っ先に答えが出た。

そして彼は、走り出す。


凡庸な希望を強く抱き、鼓動と頭痛を強く感じながら。



エマ・アウル=フォード



「くっそ……!」


どうして、もっと早く気付けなかったのだろう。

ジルの中に、そういった思いが募る。


王城を飛び出し、『数学者』スキルの使用すら忘れ、走る。




一方その頃。



大陸最南端、貿易都市イェクアールベッツィアの沖


メリアー諸島からの世界議論会参加者達は、空間魔法で既に乗船していた。

非情にも、大陸に暫しの別れを告げる。

頭首タクタは、従者として同行した女性に話しかけた。


「ラー……いやアウル=フォード」

「はい?」

「……例の奴には会えたんか?」

「ジルセンには会えたよ」

「ほーん。ならええんやが」


白いローブを脱ぎ、彼女はそれを木箱の上に置いた。

そして立ち上がって、手すりに両手をかけ俯く。


「きっと、ジルセンなら分かるよね。また会えたもん、きっとすぐに会えるよ」


船上から海面に、小粒の涙が数滴垂れる。

海に紛れて、すぐ消えていく。

強い波が、エマの泣き声を掻き消すばかりだった——。

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