第44話「命題7」part2 -却下-
「……実に不愉快だ」
「統計学の外れ値ってのは…正にあんたの事だ」
皇帝アウレウスと、ジルが立ち上がる。
(デミトアがようやく帰って来られたというのに、それを殲滅するなどと……)
「却下すべきだ」
これが狼煙だった。
ようやく、世界議論会の——後会議が始まったのだ。
「確かに、あまりに曖昧な思考かもしれませんが、どう足掻いても人は迷うものですよね」
「それは、一国の長としては傲慢な判断だ」
「いくら政治的・社会的な思いがあったとしても、到底…許されることではないはず」
「シンプルにアカンやろ。倫理的に考えーや」
ノアも、アメも——複数の代表者が、命題の却下を申し出る。
ハレーは杖を強く握りしめた。
「もう次へ行っても構わんだろう。気に要らぬのなら、帰国するなりすればよい」
オルドリクは、厳粛な声で続けた。
「王城に害をなす貴殿は、この場には相応しくない」
「フン、そなたの息子は理系の愚物だと聞いたわ。それに、雷狼の少年だとか呼ばれているとも」
「"居なくなっても困らない"……貴殿の言った通りだ。ただ違うのは、"殺してやる気もさらさら無い"という事だ」
ハレーがゴミの分別の話をした際に、ジルが真っ先に思ったのはこうだ。
(親父ならゴミがそこら辺に有ろうが気にも留めないだろうな。そうでなきゃ、王都の40%が貧民街になることも無い)
「資源分配の効率を気にしている時点で、あんたはあんたが嫌いな俺たち理系と似た思考をしている」
ジルははっきりと断言した。
「フン、甘すぎるわ」
ハレーが吐き捨てるように言う。
「これは逃げじゃないわ。"朕が前に進んだ"だけよ」
そして、杖と悪態をつきながらハレーは大会議室から出て行った。
そんな中、ジルは誰に言うでもなく呟いた。
「……どうして数学では、平均を求める事が多いか。それは世界が偏り過ぎているからかもな」
第七命題が却下され、心身が消耗気味な参加者たち。
それは聖女ユミィとて例外では無かった。
「まさかノルゼリアが……ハレー殿があそこまで増長なされていたとは」
彼女のセレストブルーの瞳が揺れるのを見て、オルドリクが進行を引き継いだ。
「それでは、第八命題へと移ろうか」
そのまま、オルドリクは命題を発表した。
「第八命題は、イェクアールベッツィアより"金融詐欺の多発問題"だな。ケイ殿」
「分かりました」
返事の元に居たのは、まだ20代前半の若き商才。
モスグレー色のフラッフィーヘアーをふんわりと揺らしながら、立ち上がり雄弁に語りだした。
「さて、まずは貿易都市イェクアールベッツィアが初の世界議論会出席を果たせた事を感謝させて頂きたい」




