第44話「命題7」part1 -沈黙-
「両方とも武器を下ろしなさい」
有無を言わせぬ声が、外で降り始めた雪の中に紛れた。
一拍。
誰も動かない。
氷の棘が軋み、インテグラルが微かに揺れる。
「……二人以外は、既に会議場で待っています」
聖女ユミィは、そこで初めて言葉を継いだ。
「第七命題は、ノルゼリアから提出されたものです」
それでも、女帝ハレーは杖を下ろさない。
「ここは王城。私闘を許す場ではありません」
穏やかな声だったが、退く気はなかった。
沈黙の末、先に動いたのはジルだった。
『数学者』スキルを解除し、何も言わずに踵を返す。
ハレーは杖をつき、舌打ちを一つ。
だが、後に続いた。
アードストール王城 大会議室
「それでは、第七命題を発表…」
俄かに、ユミィが言い淀んだ。
ただ、彼女の微笑みが——悲壮と、倫理的な不快感に塗り潰された。
「……申し上げかねます」
ユミィが怯んだそのタイミングを見計らったのか、ハレーが立ち上がって口を開いた。
「第七命題は、最北の里並びに全世界の理系殲滅よ」
その場の誰も、ものを言わなかった。
唯一、音がしたと言えば書記官が筆を落としたくらい。
「不要なものを整理するだけよ」
議論会の参加者は、誰とも目を合わせようとしなかった。
まるで、議論をするという目的を忘れたかのように。
「まず手始めに、朕の領土である最北の里を燃やして大半を根絶させる」
ハレーは続けた。
「次に、各所の理系を駆除しさえすれば、勝手に絶滅するわ」
「だって、資源には限りがあるわ。時間も、財だって。それらが割かれるのは、心を真に交わせる文系だけで充分よ」
「もちろん例外は認めないわ。ゴミの分別は嫌いでしょう? まとめて燃やすのと何も変わらないわ」
皇帝アウレウスが、幾度か口を開いては閉じた。
先程の自信ありげな表情が、見るからに落ち込み気味になっている。
空中都市の代表代理のアメも、言葉を紡ごうとしたがやはり勇気が足りない。
大会議室の中に、女帝ハレーに反論できる者が何人いるだろうか。
場がそういった雰囲気になりつつあった。
だが——ここで、ある人物の発言が皮切りとなる。
「そんな態度だから、己等の先祖はルーノルゼリアを滅ぼしたんすよ。やり過ぎって分からないんすか?」
空中都市ソオラ代表の従者、クウだ。
確かに、空中都市はかつてノルゼリアの前身を統治下に置いた歴史がある。
「そうだ! まだ分からないのか!」
「殲滅だなんて……!」
非難の声が幾つも上がる。
それでも、ハレーは冷静だった。
「"そこまでは言わないけど、正直居なくなっても困らない"、それがそなたらの意見の…曖昧な中枢よ」
批判者は、悔しさ半分納得半分で引き下がった。
クウにも分かっていた。
(女帝ハレーは、他の長レベルじゃないと止められない)
その時だった。
「……実に不愉快だ」
「統計学の外れ値ってのは、正にあんたの事だ」
立ち上がり声を発した2人は——




