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第43話「氷撃」

※図解有

「理系は要らないのよ」

「……」


氷の上で足場が悪い。


(スキル『数学者』、《現実演算》。摩擦係数μを0.7へ)


まるで石畳の上に立っているようだと錯覚する程、ジルの足元は安定した。



「熱は眠り、白き刃は骨身にして、胎動の終わりを告げる声。陽を見ず、降り注ぎ、それが狭間で慈しみたれ。弓槍を超え、肉に穴を、ただ穴を開け」


女帝ハレーから、斬撃や投石武器、矢のような攻撃がいくつも放たれる。

ジルは、インテグラルサーベルでその殆どを受け流しながら、廊下の先のハレーの方へ僅かに進んでいく。

氷とインテグラルが触れる度、金属音とはまた違う、ヒンと高い音が鳴った。


(くっそ……手数が多すぎる、それに速い)


女帝ハレーは、日頃から国民へ音声放送を行なっているためか、アナウンサーの如く正確に、速く魔法の詠唱を繰り返す事ができる。

また、放送用の魔道具は一度に大量の魔力を消費するため、彼女の魔力量は鍛え上げられていたのだ。


(何だこの速度……複数の魔法攻撃の展開を可能にしているのか?)


サッ。

ジルの頬に、氷の矢が掠める。


(ダメだ……インテグラルで防げなくなってきている。量が発散し過ぎている…解析は出来るが、これじゃ収束しないから積分が出来ない)

「逆境」


条件が揃い、ジルの思考が一段と加速する。


(座標指定で……いや、そこまで頭は回せない。となると…壁を作るか? 幸いなことに、この廊下は高さと幅が共に5m。ひとまずここから7m先に一辺が5mの正方形を…)


ジルの右手付近にインターフェースが現れる。

左手のインテグラルで攻撃を捌きながら、即座に面積が25㎡の正方形を作り出す。



ダダダ、ガッ、ズ。

ダダダ、ガッ、ズ。


3種類の音が、リズムよく面と衝突する。


「……ん?」

(3、1、1。3、1、1……そうか。同じ詠唱を繰り返すから、語彙も魔法も同じものが繰り返され……つまり、ただの"同一関数の反復")


ジルは目を細め、魔法を一種類ずつ視認する。


(形状が、それぞれ同じ)

「なら——」


ジルの生成した正方形が破壊される。

それと同時に、空中に「()(括弧)」が浮かび上がった。


(斬撃パターン、投石パターン、発射パターンをそれぞれA、B、Cと置く)


括弧の前で、攻撃がアルファベットの文字へと変わり、括弧の中へとまとめられていく。

「n(3A+B+C)」


「因数で括れる」


ハレーの詠唱が中断された。

少し、杖を握る指が強張る。

彼女の攻撃がジルに届いていない事を理解するのは不可能だった。


「その奇妙な文字列は……」

「スキル『数学者』第二段階、ファクトライザー。あんたの魔法を簡略化させてもらった」

「……フン、関係無いわ。何故なら朕は」


突然、ジルの視界から女帝ハレーが消え去る。

(こういうタイプは大抵…奇襲が正面か背後の二択、つまり50%。ただし……ズレれば当たらない)


「文系至上主義なのだから」


ハレーはジルの背後に現れ、大きく杖を振りかざす。

赤紫の装飾が付いたそれは、ジルの脳天を捉えていた。

(忌々しい、朕の前から消えよ。血飛沫は祝福と成るわ)


「スキル『数学者』第三段階、ラインフィールド」


_________________________________________________


ハレー ジル

⇧ ⇧

__-4__-3__-2__-1__ 0__ 1__ 2__ 3__ 4__ 5__ 6__ 7__


_________________________________________________


床に、等間隔で数字が1、2、3と浮かび上がった。

杖が弧を描き、派手に振り下ろされる。

ブンと空気を押す音が聞こえるだけだった。


「……フン、逃げ回るのは弱い者だけよ」

「逃げたんじゃない。あんたが前に進んだんだ」

「何? 朕は確かに」


ハレーは即座に振り返る。

ジルは確かに動いていなかった。

自分が背を取ったつもりが、何故か前に来ている。


(此奴……何をしよった?)

「……?」

「何をされたか分からないか?」


ハレーは眉間にしわを寄せ、やはり杖をついた。


「数直線上のあんたの位置を、俺の背後である-2から6までズラした」

「スウチョクセン…?」


ハレーは杖の先を見る。

ジルの言う通り、赤いカーペットの上に「6」と白く光る数字があった。


_________________________________________________


ジル ハレー

⇧ ⇧

__-4__-3__-2__-1__ 0__ 1__ 2__ 3__ 4__ 5__ 6__ 7__


_________________________________________________


「もちろん、こういうことも出来てだな」


ハレーが振り返る。

ジルは数直線上の「0」から、「4」まで移動していた。

(やはり。理解出来ないものは要らないわ)


__________________________________________________


ジル ハレー

⇧ ⇧

__-4__-3__-2__-1__ 0__ 1__ 2__ 3__ 4__ 5__ 6__ 7__


__________________________________________________


キーン……。


ジルのインテグラルサーベルと、ハレーのT字杖が触れる。

両者共に力を込めるが、膠着。

次に何が起こっても、おかしくはなかった。



「そこまでです。両方とも武器を下ろしなさい」

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