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SignPØst Us  作者: サクナギ
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第2話 目的地は軽音楽部っ!Part2

迎えた次の日、放課後。私はとっとと5組から飛び出し、2組へ向かう。しばらくして出てくる茜。


「来たね、茜。それじゃ行こうか。音楽準備室。」

「うむ!」


ギターを担ぎ準備万端の茜。かくいう私も、今日はギターを担いでいる。5組には軽音楽部に行くであろう楽器を持った生徒を2人ほど見かけた。なんと、荒井くんはベーシストだったのだ。真面目くんかと思っていたから、教室から出る時ベースを担いでいるのを見て驚いた。


軽音楽部の部室は音楽準備室にある。音楽準備室は旧棟にあり、旧棟は東棟側に歩いていくとある。つまり、今私たちがいる西棟4階からはほとんど対角線上。ちょっと面倒だと思う中、私たちは足早に廊下を歩き、階段を駆け下り旧棟へ向かった。


旧棟に入っていくとすぐに音楽準備室の表札が目に入った。何やら楽器の音がどんちゃんと聞こえてくる。私たちは中に入っていくと、そこにはすでにかなりの人数の1年生が押し寄せていた。これは良い、選び放題だ。


よく見てみると、前方には列が、後ろの方では4,5人のグループがいくつもごちゃごちゃと形成されているのがわかる。すでに様々なバンドの勧誘が始まっているということを意味するのだろう。私たちは少し出遅れてしまったか…?


「君たち、いま来た?」


黄色のリボンを付けた生徒に話しかけられる。3年生だ。


「はい。大橋つぐです。」

「私は小林 茜!です!」


彼女はニコッとし口を開く。


「私はケミカルスピーカーズのギタボ、関園セキゾノ アイ。軽音楽部部長だよ。案内役をしてあげる。」


ケミカルスピーカーズ、聞いたことがある。たしかゴスロリバンドだった気がするが、こうして制服を着ているとあの妖しげな雰囲気は完全に隠れてしまっている。普通のJKだ。


彼女に案内されるがまま、音楽準備室に入っていく。


「主な上級生バンドとしては、メイセキ、ピンクベージュ、ブルースレッド、そして私たちケミカルスピーカーズとかがいるかな。実は私、結構人気あるんだよ?」


おちゃめな顔を見せる関園先輩。そりゃもちろん、見たことあるので人気は承知です。


「先輩のこと、中学生の時に文化祭に来た時、見たことあります。ゴスロリ系で迫力があったし、熱狂的なファンが多い印象だったので覚えてます。先輩、学校外でも活動してますよね?」


私が尋ねると、先輩は自分のことについて知られていることがよほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて答えた。


「そうよ!よくヴォヤージュでライブしてるから、学外のファンが結構いるのよ!」


ヴォヤージュというのは、ライブハウスヴォヤージュのことだろう。キャパは100人程度のライブハウスで、この高校出身のバンドはまず学外でライブをするならココ、みたいになっている場所だ。私も何度か訪れたことがある。


「関園先輩、すごい人!私もギタボなんですよ!」


茜が先輩に話を持ちかける。ギタボ同士、話が弾みそう。そんな中、何やら一番前の方で先程の列は人だかりとなってバラバラとしており、ドラムの音やベースをチューニングする音が聞こえてくる。


「あ、そっか、今日はメイセキの歓迎ライブだ。君たちも良かったら見てってちょうだい!」


関園先輩に背中を押され前の方へ押し出されていく。このバンド、昨日クラスの男子が言ってた…なるほど、どおりで生徒が多いわけだ。おそらくここにいる生徒のほとんどはこのメイセキというバンドを聞きに来たのが大半なのだろう。そしてボーカルと思わしき人がマイクの前に立つ。どうやらベースボーカルのようだ。


『メイセキ、始めます。』


一言話し始め、MC…かと思ったらいきなり演奏が始まった。ベースから始まったその曲は6拍子のラインを弾いている。合わせてドラムが入ったかと思えば、高速ギターリフが入る。そしてこのギターの音は…7弦だ。メタルと言うべきか、プログレッシブと言うべきか、サイケデリックと言うべきか、そのすべてを混ぜ合わせたようなイントロだ。そして歌い始めから高音。しゃがれた高音はかっこよさに拍車をかけ、安定して変拍子を叩くドラムはこのバンドの実力の高さを証明していた。


そうしてあっという間に1曲が終わった。おそらく今回は歓迎ライブということで1番で終わらせたのだろう。


『”酔狂的人生に捧ぐ音の振動群”でした、ありがとうございました。ここでメンバー紹介。』


『Gt.キラメキ。』


低く鈍いパワーコードを鳴らす。


『Gt.カルマ。』


おぞましいタッピングを披露する。


『Dr.ウレイ。』


とんでもない音数のバスドラムが聞こえる。


『そしてVo. &Ba.トドロキ。』


彼はシンプルなフレーズを披露。


なんというか、とんでもなく厨二だが、それを超えるかっこよさを演奏で出しているからこそ許される名前といった感じがする。他人のバンドに文句をつけたいわけじゃないけど。実際人気もあるみたいだし、大きな歓声が上がっていた。


メイセキのライブが終わると、再びバンド勧誘ムードが戻ってくる。私も必死にどこかの輪に入ろうとあたりを見渡してみる。さっきのライブの間にも1年生たちはバンドメンバーを集めていたらしく、後ろの方のグループ群は増えているように見える。焦っていると、茜に裾を引っ張られた。



「つぐ、あの2人。」


茜が指さした先は教室の後ろの端っこで腕を組んでいる柄の悪そうなイケメンとガタイの良い細目の男子。イケメンの方にはベースが見える。というか睨むようにしてあたりを見ている。近づきたくないんだけど。


「まさか、あの2人に声かけるなんて言わないよね?」

「これは、運命だよ。つぐ。」


聞いちゃいない。裾を引っ張られ彼らの方に向かわされる。絶対運命じゃないよ。



嫌々教室の後ろに向かおうとすると、音楽準備室に美しくも妖艶な歌声が突如として響き渡った。



出どころを探すと、教室の前にあるさっきまでメイセキが使っていたマイクを通して歌っているのがわかった。


なんの歌かはわからないが、英語の歌詞をメロディに乗せて華麗に、そして楽しそうに歌うその女子。綺麗に透き通るようなハイトーンはざわざわとしていた音楽準備室を沈黙へと導いた。


「歌うま…。」


思わず立ち止まって聞き入っていた茜が言葉を漏らす。これには私も同意。


イベントのように起きたその出来事がもたらした静寂はしばらくすると音楽準備室から去り、歌っていた彼女の周りにはわらわらと人だかりができる。


「じゃ行くよ、つぐ。」


彼女の歌声に魅了されて柄の悪い2人のことを忘れてしまうことを願っていたのだけど、そんなことはなく。仕方なく2人の元へ重い足取りで向かった。


私たちは2人の男子が寄っかかっている教室の後ろの方まで行く。柄の悪いイケメンは近づいてくる私たちに気づくなり、しかめっ面をより一層しかめた。なんでこんなに態度悪いの?


「はじめまして、私、小林 茜!一緒にバンドやらない?」


茜はいつもの調子でイケメンに話しかける。私にはこんなこと絶対できない。直感が言っている。絶対なんかおかしいよ、この2人。


「あ?」


一言目がこれか。ほらやっぱりハズレだ。


「茜、もう行こうよ。」

「いや!私とつぐと、あなたたちの4人でバンドを組みたい!」


茜は一切私の意見など気にかけずそう言った。彼女は私の方には見向きもしない。


だんまりを決め込んでいる2人に茜は笑顔で再び話しかける。


「ところで2人の名前はなんて言うの?」


2人は顔を見合わせ、答える。


「…井上イノウエ 英二エイジ。こっちは大森オオモリ 大智ダイチ。」


なぜかガタイの良い細目の男子は腕を組んだまま一言も喋らない。本当に起きてるのか、うたた寝をしているのかすらわからない。パワーバランスがこの英二とやらのほうが上なのか?


「それじゃ、英二、大智、よろしくね!」


茜は満面の笑みで握手をするための手を2人に伸ばした。茜はこんなガラの悪い男子にもいつもの態度を変えないからすごい。


すると英二はそれを見て嘲笑うようにして手をはねのけた。


「誰が組むって言ったんだよ。俺たちはバンドを組むつもりはねえ。」


茜の手をはねのけたことに対して若干の怒りを覚えたが、バンドを組むつもりが無いのに軽音楽部の、しかも音楽準備室にいるのはどういうことだ?


「ちょっと、女の子にはもう少しやさしく接したらどうなの?それに、バンド組まないならここにいる意味も無いでしょ。」


英二は面倒くさそうに頭を掻く。一つ一つの動作でここまで私をイライラさせるのはもはや才能かもしれない。


「うるっせえな。もういいわ、大智行こーぜ。」

「はあ?ちょっと待ってよ。」


私の言葉をわざとらしく無視し、英二はベースを抱え、大智は後を追うように音楽準備室から出ていってしまった。


教室の端っこに取り残される私と茜。それとは対照的に、さっきの女子の周りには相変わらず人だかりができていた。


「茜、次の人を探そう。」

「…。」


茜を短時間でここまで傷つける奴とはもう二度と関わりたくない。言いたいことだけ言って去っていっただけじゃないか。なんだったの、あの2人は。


そうして放課後、私たちは正門を出てゆっくりと最寄り駅まで向かった。




放課後の帰り道をとぼとぼと歩く。


「茜、今日のことは気にしなくていいからね。」

「うん、私もちょっと勢いで行き過ぎちゃったかも…。」


茜は無理に笑顔を作ってみせる。茜にこんな顔をさせたこと、絶対に忘れないからな。


「茜は悪くないよ、あの2人に話しかけたのはちょっと悪手だったかもだけど…まだまだ時間はあるし、ベースとドラム探していこうね。」

「…つぐ、ありがとね。私も元気に頑張る!…ってなんか聞こえない?」


駅前へ近づいていくと、一定の感覚でリズムを刻む音が聞こえてくる。改札近くまで行くと、それがバスドラムから出ている音であることがわかった。


「あれって…。」


ファンフレットの5弦ベースと持ち運び可能なドラムが見える。そして同じ高校の制服、青いネクタイが見える。その楽器たち持ち主は…。


「英二、大智…。」


2人は準備を終え、路上ライブを始めた。



次回 第3話 バンドを組みたいのですが Part1

登場人物


関園セキゾノ アイ:ケミカルスピーカーズのギターボーカルで、部長を務める3年生。3-1


井上イノウエ 英二エイジ:半分刈り上げで横は顎付近まで伸ばしている。モテるイケメン。1-2


大森オオモリ 大智ダイチ:英二の親友。ガタイが良く、ザ・ドラマーって感じ。常にニヤッとしている。1-8

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