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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
92/150

1月前半

3学期が始まり、

俺たちは早速新しい冒険知識を学習する。


「1つ、傷を治す魔法

 2つ、空を飛ぶ魔法

 3つ、心を読む魔法

 4つ、時間を操る魔法

 5つ、瞬間移動

 ……これらは“この世に存在しない魔法”として

 国際冒険者連盟から発表されていたものだ」


同級生たちが一斉にユキの方を見る。


「ああ、お前たちの言いたいことはわかる

 彼女は瞬間移動(テレポート)の使い手だ

 その事実を俺たちは知っているし、

 杉田雪という人物は確かに実在している

 そこで、だ……」


内藤先生がユキに何かの書類を手渡し、続ける。


「この度、国際冒険者連盟は杉田雪の能力を認め、

 “この世に存在しない魔法”のリストから

 “瞬間移動”の項目を削除することに決定した!」


先生が戦闘以外の場面で感情を昂らせるのは珍しい。

褒めてほしいんだろうな……お気に入りの生徒を。


まあ、ユキが世界から認められたというのは

たしかにすごいことなのだと思う。

その才能を潰そうとしていた日本冒険者協会とは

全く正反対の対応だ。


パチパチパチパチ!


とりあえず拍手してあげると先生はうんうんと頷く。


「その紙、なんて書いてあんの?」

「英語だから読めない……」


あとで翻訳してやるべきだろうか。

お得意の瞬間移動で逃げられるかもしれないが……。


っと、先生の話はまだ続くようだ。


「それともう1つ、“傷を治す魔法”の項目も

 削除する方向で検討しているらしい」


ん……?


その話にはみんなもピンと来ない。

少なくとも知り合いにそんな能力の持ち主はいない。


「今から50年ほど昔の話だ……

 インドのとある貧しい農村に、

 “奇跡の少女”と呼ばれる存在がいてな

 彼女はちょっとした切り傷や擦り傷を治したり、

 微熱を下げたりできる能力を持っていたらしい」


「それこそまさに回復魔法って感じだな」

「あたしもそういう能力が欲しかったなー」


「彼女の噂は瞬く間に広がり、

 やがて海外からも取材が殺到するほどの

 有名人になったんだ

 そして外からやってくる者たちの影響で村は潤い、

 生活が豊かになっていったんだが……」


「あ、悪い方向に行くパターンだ」


「彼女の能力を拡大解釈した連中が押し寄せてな

 やれ『目を見えるようにしろ』だの、

 やれ『足を動けるようにしろ』だの、

 能力以上の要求をしておいて、それができなければ

 彼女を詐欺師呼ばわりしたんだ」


「いつの時代にも頭の悪い奴がいたもんだ」


「そんな連中の相手なんかしなければいいものを、

 彼女は優しすぎる性格をしていたために

 どうにかしようと必死に頑張り続けた

 ……その結果、奇跡の少女は精神を病み、

 自ら命を絶ってしまった」


「ほら、バッドエンドだよ……」


「その悲劇を繰り返さないように、

 『怪我や病気を治す魔法なんか存在しない』

 と断言したのが“この世に存在しない魔法”

 を発表するきっかけだったんだが……

 幸か不幸か、傷を治せる能力者が現れてしまった

 しかも2人もだ」


「おおっ、2人も!」


「去年退学した三國と四谷を覚えているか?

 あいつらがそうだ

 それまで怪我や病気とは無縁だったために、

 自身の才能に気づくことができなかったらしい」


たしかどちらも一条ハーレムのメンバーだったな。

怪我を負った同期生なら大勢いただろうに……。

ただ、それはさしたる問題ではない。


「その能力が認められてしまっては、

 ますます我々の扱いが酷くなりそうですね」


冒険者が病院で門前払いされてしまうのは

『冒険者は医者要らず』という、

マスコミが広めたデタラメに起因する。

もし本当に傷を治せる者がいると発表されれば、

そこにつけ込まれるのは目に見えている。


「ああ、その通りだ

 なので連盟には日本国内の事情を伝えてあり、

 慎重な判断を下すように頼んでいるところだ」


傷を治す魔法……それはとても有用な能力だが、

現環境では俺たちの活動に支障を来しかねない

諸刃の剣のような存在である。



その後に聞いた話によると、

他の元1組の生徒の能力は二宮が“受信機(レシーバー)”だそうで、

手紙や電子メールに書かれている文面の一部を

無意識に読み取ってしまうものらしい。

かつては預言者と呼ばれた者たちがこの能力を

持っていたのではないかと考察されており、

現代ではこれを諜報活動に活かせないかと

研究している組織があるとか無いとか……。


一条と五色は“二重確認(ダブルチェック)”だそうで、

ドアノブに触れた際に鍵が掛かっているかどうか

瞬時に把握できるという、反応に困る能力だ。




午後4時になり、訓練が始まる。

それは決して楽な内容ではないが、

学園で過ごせる日々のなんと幸せなことか。


前学期は緊急事態の対応で忙しすぎた。

このまま何事も起こらなければよいのだが……。


「では訓練を開始するぞ」


っと、集中だ。集中。


本日から脱出訓練の揺れ設定が6に上がり、

まともに立っていられないレベルの強さになる。

初回なので障害物は免除されるが、

それでもかなりの高難易度だと予想される。




ビー!という機械音と共にゲートが開き、

選手たちがゴール目掛けて一斉に走り出します。


おおっと、早くもここで1着!

杉田雪!

開始1秒でゴールイン!


「ユキちゃん!

 テレポートに頼ってちゃ訓練にならないよ!」


黒岩選手から至極真っ当なツッコミが入る。

だが杉田選手、耳を塞いで聴こえてないアピール。

この態度はいただけません。


そして2着は甲斐晃!

四足歩行のフォームでゴールに駆け込みました!

まるで獲物を追う肉食獣が如き力強い走りでした!

しかしどこか浮かない表情。これは……?


「15秒もかかって悔しいんだろうな」


15秒……新記録なんですけどねえ。

これまでの最速が確か37秒だったはずで、

20秒以上も更新してるじゃないですか。


「たしかに記録だけ見ればそうだが、

 結局は本人が納得するかどうかの問題だからな」


そんなもんですかねえ。


「……ところで津田先生

 あんた、こんな所で何やってんだ?

 今日の巡回はあんたの担当だろ?」


「えっと……

 いやあ、今日も妻に呼び出されそうな気がして、

 それなら最初から業務を引き継いでおいた方が

 落合君の負担にならないと思いましてですね」


「つまり、仕事を丸投げしたんだな」


「形だけ見ればそういうことになりますね」


「俺に人事権があればとっくにクビにしてるよ」


「主任にその権利が無くて助かりましたよ」






本日の訓練が終了して自室に戻ると、

可愛い後輩たちが出迎えてくれた。

彼女たちはやる気に満ちた目をしており、

これから特訓を受ける気満々といった感じだ。


……と思ったが、どうも違うようだ。


「今日は別件の連絡で参りました

 私たち冒険者免許を取ろうと思ってまして、

 明日にでも行ってきますという意志表明です!」


免許……1月……そういえばそんな時期だった。

去年は同級生たちに「まだ取らない方がいい」

と諭したが、彼女たちなら大丈夫だろう。


早いもんだな。

今年はあっという間の1年だった。

それだけ楽しい時間を過ごせたということだろう。

まあ、悲しい出来事もあったが……。


「できれば一緒についていきたいが、

 時間割がな……

 いっそ訓練をサボるか」


「いえいえ、それはやめてください

 優等生の先輩にそんなことさせたくありません

 ここはどうかひとつ冷静に、

 私たちを信じて送り出してください」


「む……

 では、そうするとしよう

 ただ1つだけ確認させてくれ

 これは去年俺たちもされた質問なんだが、

 どうしてお前たちは冒険者になりたいんだ?」


そしてこの質問こそが試験の本質であり、

筆記や実戦はただの茶番に過ぎない。

その理由によって合否が決まるわけではないが、

できることならまともな動機であってほしい。


「え、理由ですか?

 う〜ん……

 …………

 ……入学前は『魔法使ってみたい』

 くらいの軽い気持ちだったんですけどね

 今では自分の力に結構自信がつきましたし、

 それを戦えない人たちのために使いたいなと……

 ……なんて、私のガラじゃないですよね!

 ホントは先輩と一緒に冒険したいからです!

 キャー! 言っちゃったー♡」


アリアからバシバシと叩かれる。

本当に以前より筋力がついており、少し痛い。

でもまあ、まっすぐな理由で大変よろしい。


「もしよければ、のぞみも聞かせてくれ」


「……」


だが彼女は考え込んでいる。

答えたくないのか、それとも特に理由は無いのか。

べつにそれを責めたりはしない。

ただなんとなくで冒険者になる人も多いそうだ。


「答えにくいならべつに──」


「あ、いえ

 今ちょっと言葉を選んでまして……」


ふむ、ちゃんと理由はあるようだ。




とりあえずのぞみの返答は後回しにして、

先に晩飯を済ませようという流れになった。


親父が釣ってきたワカサギは下処理済みであり、

あとはこれを揚げれば天ぷらの出来上がりだ。

ただ、本日用意した食材はそれだけではない。


「ん、豚肉ですか?

 それにしては赤身が多いような……」


「ほう、違いがわかるか

 これは先日仕留めたばかりの猪肉で、

 知っての通り豚の先祖だから味は似ているぞ

 今日はぼたん鍋にしようと思うんだが……」


「「 賛成!! 」」


都会育ちの2人が受け入れてくれるか不安だったが、

杞憂に終わって何よりだ。

肉食女子の彼女たちがジビエを拒否する理由は無い。




午後9時前に食べ始め、その1時間後には

鍋の中がもうすっかり空っぽになっていた。

2人はお腹をさすりながら大の字になり、

とても満足してもらえたのだと伝わってくる。


これまでに獲った肉は狩りの下手な親父や

体の弱い村人たちに全て分け与えていたが、

これからは自分の取り分も確保するべきだろうか。

俺にはその権利があるはずだ。


もっと彼女たちを喜ばせたい。

この幸せな時間をもっと味わいたい。


そんなことを考えていると、

のぞみが上半身を起こして

こちらをじっと見つめてきた。


「ん、もっと欲しいのか?

 すまないが来週まで待ってくれ

 まあ、野生動物なんで

 確実に獲れる保証は無いが……」


「あ、いえ

 そういうことではなく……

 わたしが冒険者になりたい理由を話そうかなと」


お、どうやら言葉選びが終わったようだ。

俺とアリアは姿勢を正し、のぞみの言葉を待つ。




「わたしが冒険者を目指した理由はですね、

 その……

 …………

 初恋の男の子と一緒に冒険をしたかったからです」




…………。



……えっ?



のぞみが顔を真っ赤にして、

体をモジモジさせている。


いつもの俺だったら

その仕草を可愛いと感じたのだろうが、

今はなんだか知らない女性を見ている気分だ。



初恋の男の子……。



彼女も1人の人間である以上、

そんな相手がいたとしてもおかしくはない。


だが、いてほしくなかった。


完全に俺のわがままだとは承知しているが、

俺がその相手でありたかった。

そうなろうと自分なりに頑張ってきたが、

その全てが無駄だった。


俺は最初から負けていたのだ。


名も知らぬ、初恋の男の子とやらに。



「ちょっ……のぞみぃ!!

 なんてこと言うの!!

 この人ロリコンだし、

 絶対に処女厨に決まってるでしょ!!」


「え、やっ、だって本当のことだし」


「本当でも黙ってなきゃだめだって!!

 せっかく最近はいい感じだったのに……もう!!

 ほら、帰るよ!!

 さあ立った立った!!」


「や、でもまだ続きが……」


「先輩をオーバーキルする気!?」



後にアリアから聞いた話によると、

俺はショックのあまり押し入れに閉じこもり、

段ボール箱の中で丸くなっていたそうだ。


この辺りの記憶は全く無い。






翌日、案の定2人は免許を取得して戻ってきた。


「ははは、おめでとう!

 俺は心から嬉しく思っているぞ!

 さあ、ご褒美は何がいい?

 なんでも好きな物を奢ってやるぞ!」


「ありがとうございます

 ですが先輩……

 その、無理しなくてもいいですよ?

 見るからに空元気って感じで少し痛々しく……」


「わたしが変なこと言ったばかりに……

 あ、よくよく考えてみたら、

 わたしに初恋の男の子なんていませんでした

 ただの勘違いだったんで、

 どうか昨日の件は忘れてください」


「いや、気を遣わなくていいぞ!

 俺はただ、失恋しただけだ!

 お前の初恋は上手くいくといいな!」


「アキラ先輩……」


たしかにこの時の俺は痛々しかっただろう。

実際、心が痛かったのだ。


俺はこれまでのぞみから

異性として意識されてこなかったのに、

一体何を期待してアプローチし続けてきたのだろう。

彼女は最初から一貫して俺を拒絶してきたのに、

なぜしつこくつきまとってしまったのか。


無力感、嫉妬、後悔……

なんて不愉快な感情だろうか。


やはり俺に恋愛なんて向いていなかったのだ。


「……先輩、諦めないでください!

 私は応援してますからね!」


「いや、俺はもういいんだ……

 それより、のぞみを応援してやってくれ

 彼女には幸せになってほしい

 ……それが俺の願いだ」


「先輩……」

基本情報

氏名:道進 千里 (しんどう せんり)

性別:男

年齢:17歳 (11月3日生まれ)

身長:150cm

体重:43kg

血液型:A型

アルカナ:法王

属性:炎

武器:ディパーチャープラン (短剣)

防具:クロスロード (盾)(共有)

防具:オーバーロード (衣装)

アクセサリー:アー君キーホルダー

アクセサリー:シルバートロフィー


能力評価 (7段階)

P:4

S:5

T:6

F:6

C:9


登録魔法

・ファイヤーボール

・ファイヤーストーム

・リベリオン

・アイスボール

・アイスストーム

・アブソリュートゼロ

・サンダーボール

・サンダーストーム

・グランドクロス

・マジックシールド

・マジックアーマー

・ライジングフォース

・アナライズ

・ソウルゲイン

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