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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
82/150

10月後半

本日未明、東京都新宿区にて爆破テロが発生した。

首謀者は敬虔な魔人会信者の川嶋という化学教師であり、

彼は7月末に起きたティルナノーグ火災に感銘を受けて

自らも“魔物解放運動”をしなければならないと思い立ったらしい。


彼は中学生の息子を引き連れて新宿ダンジョン前に現れ、

現地の冒険者に向かって魔物の殺戮をやめるように抗議したらしい。

しかし彼が全身に装着していた爆弾はどう見ても市販の線香花火であり、

冒険者たちは相手にするだけ無駄だと判断して彼に耳を貸さなかった。


だが、息子の体には本物の爆弾が巻き付けられていた。


川嶋は冒険者たちから無視されたことで激昂し、

正義の怒りを示すべく息子の爆弾を起爆させたのだ。

これにより爆心地付近のビルが3棟倒壊し、

人々の混乱に乗じてダンジョンから魔物が大量に流出してしまった。

現在判明しているだけでも300名以上の死者が出ており、

事態収拾の目処はまだついていない。



「また魔人会絡みかよ……

 本当に存在する価値のねえ集団だな」


「今回も実行犯1人に全ての責任を押しつけるんだろうね

 信者に邪悪な教えを広めているのは上の連中なのに……」


「本部にガサ入れすれば絶対にヤバいモン出てきそうだよな」


「それは難しいかもね

 噂じゃ警察の上層部にもそっちサイドの人間がいるらしいし」


「そういや教祖の情報を嗅ぎ回ってたフリーの記者が、

 水死体になって発見されたなんて事件があったよな

 たしか自殺として処理されたはずだけど……

 やっぱりそういうことなんだろうなぁ」


「怖い話だねえ

 ……っと、そろそろ到着するみたいだよ」


車窓から外の様子を窺うと機動隊の方々が道路を封鎖しており、

関係者以外が立ち入らないよう厳重に見張っていた。

俺たちは全員降車し、冒険者免許と生徒手帳を提示して

関東魔法学園の2年生であることを証明した。


「ん……どうした?

 早く身分証を見せなさい」


そして小さな問題が発生。

事前に身分証は必須だと聞かされていたにも関わらず、

そいつはそのアイテムをどちらも携帯していなかったのだ。


「先生〜

 なんか免許無いと入れないみたいだし、

 私、帰ってもいいですよね?」


「ああ帰れ、玉置

 これからしばらく毎日通うことになるだろうが、

 お前はもう来なくていい 役立たずは必要無い」


「そんじゃ帰れって言われたんで帰りま〜す

 ……あ、財布持ってきてないんで交通費下さいよ」


内藤先生は軽く舌打ちし、財布から万札を取り出して地面に捨てた。

玉置は不満そうな表情を浮かべながらもその金を拾い、

持ってきていないはずの財布の中に収めて現場から立ち去った。




新宿ダンジョン前。

そこは瓦礫の山と化しており、辺りには硝煙の匂いが漂っている。

あちこちで冒険者たちが魔物と戦う中、消防士や救急隊員が合間を縫い、

自らの危険を顧みずに懸命な救助活動を行なっていた。


見渡す限りではここのメインの討伐対象はゴブリンやオークであり、

学園ではあまり見かけない四足歩行型の魔物の姿も存在する。

更には飛行能力を持つ者や金属のような外殻を持つ者など

バリエーションが豊富で、ティルナノーグよりもレベルが高い印象を受けた。


だが人間側も負けてはいない。

前回とは違い、今回は圧倒的に若者の数が多い。

国内の冒険者人口の4割程度は東京で活動していると推測され、

ここ新宿はその中でも上位の人気エリアなので

野良冒険者の個人戦力はそれなりに高いようだ。



内藤先生は現場の状況を把握し、生徒たちに指示を出した。


「我々は不要な戦闘は極力避け、

 救助活動及び逃げ遅れた人々の避難誘導を行うものとする

 救助班は救急隊員の護衛をしつつ、必要があれば手を貸してやれ

 なので体力の高い甲斐や正堂あたりが適任だろう

 そして重要なのが“救急隊員が見捨てた者の救助”だ

 怪我を負った冒険者は病院まで運ばれないどころか、

 応急手当てすらしてもらえないからな

 この役目は松本に任せたい

 それと十坂がいれば怪我人の運搬が楽になるだろう

 残りの者は一般市民を安全圏まで連れていけ 以上だ」




そして俺たちは救急隊員の行手を阻む魔物を蹴散らし、

彼らが円滑に活動できるように協力を申し出たのだが……。


「いや、君たち人命救助の素人でしょ?

 いきなり手伝いたいとか言われてもねえ……

 まあ、目障りな魔物を倒すのは許可してあげるよ

 くれぐれも僕たちの邪魔だけはしないでおくれよ」


棘のある物言いだ。

この緊急事態で苛立っている……だけではない。

彼らもまた、冒険者が嫌いなのだ。



しばらくすると狼型の魔物、キラーウルフ4匹と遭遇。

攻撃方法は牙と爪による単純なものしかないが、

こいつらは群れの最後の1匹になると遠吠えをし、

他の群れを呼び寄せるという性質を持っている。

なので遠吠えされる前に倒すか、まとめて処理するのが望ましい。


「フリーズ!」


もしくは最後の1匹を先に凍結させてしまえばいい。


「おお、十坂君もいつのまにか習得してたんだね

 これで随分と戦闘が楽になるよ」


「まあ最大MP少ねえから連発できねーけどな

 今のは試し撃ちだ あんま期待すんなよ」


敵を凍結させられる槍使い……ふと早苗を思い出す。

彼女は今頃、元気にやっているだろうか。

あれから一切音沙汰が無いので心配になる。


とりあえずキラーウルフ3匹は俺、正堂、十坂の3人で撃退し、

残りの凍結した1匹は……


「せーのっ!」


バキーン!


さっき俺たちに『邪魔するな』と言っていた救急隊員がキックをかまし、

微妙なダメージを受けた衝撃でせっかくの凍結が解除されてしまった。

復活したキラーウルフは即座に遠吠えし、仲間に自分の位置を知らせる。


「馬鹿野郎!!

 素人が余計な手出しすんじゃねえよ!!」


「いや、昔サッカーやってたからいけると思ったんだよ

 それに手伝ってあげようとしたんだから、

 そこまで怒らなくてもいいでしょ」


そして反省の色無し。

どうしてこう、素直に謝れないのだろうか。



ウルフを処理後、頭から血を流して座り込む戦士を発見した。

彼はこちらに気づくと弱々しく手を振ってきたが、

救急隊員は一瞥した後にフッと笑い、そのまま通り過ぎてしまった。

その態度には心底腹が立つが、こんな奴でも一般市民にとっては

医療従事者として必要な人材だと割り切らなければならない。


松本さんは速やかに救急箱から必要な道具を取り出し、

怪我した戦士の応急手当てを行なった。

その間に十坂は内藤先生への連絡と担架の組み立てを済ませていた。


「私たちは一旦この人を車まで運んでくるね

 十坂君、『3』で持ち上げるよ

 ……1、2、3!」


なんともスムーズなやり取り。

こちらの方がよっぽど救急隊員っぽい。




避難誘導を任された者たちは4班に分かれ、

逃げ遅れた人々がいないか捜索開始した。


そして早速ヒロシとユキの班が生存者を発見する。


「えっ、すぐ近くで爆発騒ぎがあったんですよ!?

 魔物も流出してるし、ここにいたら危険ですよ!?

 仕事なんてしてる場合じゃないと思いますけどねえ!?」


爆心地からそう遠くないビルにて、

なんとサラリーマンたちが平然と業務に取り組んでいるではないか。

しかもそのフロアだけでなく、ほとんどの階がそんな感じである。

この様子だと他のビルも同じように平常運転なのだろう。


「いやあ、でも働かないと家族を養えないからねぇ

 もう犯人は捕まったみたいだし、

 魔物はエレベーター使えないだろうし、

 それほど危険だとは思わないなぁ

 会社に寝泊まりするのはこれが初めてじゃないし、

 おじさんたちのことは心配しなくてもいいよ」


「いやいや、この状況は1日や2日じゃ終わりませんよ!?

 食べる物はどうするんですか!?」


「食べ物かぁ……

 まあ、近くにコンビニあるからなんとかなるよ」


「今、新宿は封鎖されてて外から物が入ってこない状況なんです!!

 おじさんと同じ考えの人間が大勢残ってるんです!!

 食料なんてすぐに無くなっちゃいますよ!!」


「へぇ、大勢残ってるんだ……

 やっぱりそれほど危なくないんじゃないかなぁ?

 本当に大変な状況なら、みんな真っ先に逃げてるはずだし……」


だめだこいつら……正常性バイアスが働いている。

この非常時に『自分だけは大丈夫』だと思い込んでいるのだ。


「ヒロシ、もう行こう……」


「ああ、うん……」


とりあえず今日のところは引き上げよう。

まずは説得に応じてくれる人たちを逃がすのが先決だ。




グリムと一条の班も似たような状況であり、

サラリーマンたちは口を揃えて『仕事に穴を開けられない』

と返答して会社に残る道を選んだ。


愚かな選択だが、本人がそう望んだのなら仕方ない。

気を取り直して次のビルを当たろう。

そう割り切ってエレベーターのボタンを押そうとすると……


「おい栗林、ちょっと待った

 ジュース買わせてくれ」


「ああ」


「お前は何飲む?

 奢ってやるぜ?」


「は?

 ……いや、俺はいい」


「おいおい、遠慮すんなよ〜!

 俺が(ヤロー)に奢るなんて滅多に無いことだぜ〜?

 ここは素直に奢られてくれよ〜!」


その滅多に無いことを突然されて、気味が悪いなんてもんじゃない。

しかも相手は苦手な一条だ。絶対に借りを作りたくない。


「何を企んでるんだ?」


「何をって……

 いやいや、俺なりにお前を気遣ってやろうと思ってな

 その、なんだ……

 あの事件からもう3ヶ月くらい経つし、そろそろ元気出せよ」


……やはりこの男とは合わない。

その言葉を聞いて『じゃあ元気出そう』とはならない。

こいつは何もわかっていない。何も考えていない。


「でもまあ、お前がそこまで落ち込む理由もわかるぜ?

 テレビで何度もティルナノーグ火災の特集やってたけど、

 死んじまった彩ちゃって子、すんげえ可愛かったもんなあ!

 しかも胸もでっかくてよぉ……本当に惜しい子を亡くしたよな!」


グリムは煮え滾る怒りを覚え、一条の胸倉を掴んで警告した。


「一条、お前……

 もう二度と俺に話しかけるな

 ……ここからは別行動するぞ

 その(つら)を見ているとぶっ飛ばしたくなる」


そう言い残して彼は1人でエレベーターに乗った。


「なんだよ、励ましてやろうとしたのに……」




リリコは野村を連れて、ある場所までやってきた。


「ここ、行きつけの新宿署な」

「そんな、定食屋じゃないんだから」


「やってる〜?」

「24時間営業だよ!」


中に入るとそこには大勢の一般市民が不安そうな面持ちで待機しており、

奥の方では屈強な警察官が真剣な顔をしながら同僚と話し込んでいた。


「……って、デカ長じゃん!

 呼び出す手間が省けたぜ!」


デカ長と呼ばれた人物はリリコの顔を見ると表情が明るくなり、

子供のようにはしゃいで友人との再会を喜んだ。


「おお、リリコじゃないか!

 最近はメールばっかで寂しかったぞ!

 今日こそ自首しに来たのか?

 血痕の付着した刃物なんて持ち歩いて……

 とうとう人を殺ったか?」


「ついカッとなって……

 ……なんてありきたりな犯罪、誰がするかよ!

 こいつはオレの商売道具だぜ

 さっきもこれでオークを3匹ぶった斬ってやったところだ」


「ははは、冒険稼業は順調のようだな

 お前たちのおかげでたくさんの人が救われているよ

 1人の市民として礼を言っておこう……ありがとうな

 とりあえず署内でそれを振り回すのはやめようか」


「へっへっへっ

 もっと褒めてくれてもいいんだぜ〜?」




センリ、ましろ、並木の班は魔物の群れに囲まれ、

少しだけピンチの予感がしていた。


相手はゴブリンにオーク、キラーウルフ、

フライングデビル、メタルナイト……と、

初見の魔物も含まれており、無傷での勝利は厳しそうだ。


ならば被害を最小限に抑えて勝つ。

リーダー並木は2人に伝える。


「“ましろ総受け作戦”!」


なんともわかりやすい作戦名。

要するに、タフなましろにヘイトを集中させようということだ。

センリはあまり気が進まないものの最高級の盾をましろに渡し、

ライジングフォースをかけて準備が整う。


そしていざ戦闘開始……



……とはならなかった。



「ハアッ!!」


突如として乱入した若い冒険者。

彼はブレザー姿をしており、年齢はかなり近いように見受けられた。

髪型はオールバックで太い眉をしており、切れ長の目が印象深い。

身長は180cm前後で、服越しでもわかる実用的な筋肉の持ち主だ。


得物は万能武器の代表格であるハルバード。

斬る、突く、叩く、払う、引っ掛ける……なんでもござれだ。

彼はその汎用性に満ちた長柄武器を高い技量で巧みに操り、

あっという間にゴブリンとオークの集団を片付けてしまった。


それだけではない。

「バインド!!」

と飛行能力が厄介なフライングデビルを大地に拘束し、

そちらも一瞬のうちに一刀両断したのだ。


キラーウルフの群れが彼に襲い掛かる。

パワーとスピードの高い魔物であり、

四足歩行ゆえの姿勢の低さがやりづらい相手だ。

「ディストーション!!」

だがこれも一掃。

彼の周囲に強烈な衝撃波が発生し、ウルフたちをまとめて葬り去る。

どうやら彼は武器格闘術だけでなく、魔法の腕も相当な実力者らしい。


そして最後は見た目からして物理防御力の高いメタルナイト。

「ディーツァウバーフレーテ!!」

彼の選択は防御力低下の弱体魔法。実に教科書通りの戦法である。

そして少し柔らかくなった敵にハルバードの柄頭を使って叩く、叩く、叩く。


こうして謎のヒーローはたった1人で魔物の群れを全滅させたのだ。



パチ、パチ、パチ。

その鮮やかな手腕を高く評価し、センリは彼に拍手を送った。


「へえ、やるじゃねえか

 その制服……たしか東京魔法学園だろ?

 ネクタイの色からして2年だよな?

 おれは関東魔法学園の2年、進道千里だ

 よければお前の名前を教えてくれよ」


彼は自慢のオールバックを櫛で整えた後、名乗り出た。


「僕は東京魔法学園の山口(やまぐち)将太(しょうた)

 君たちの同級生になり損ねた男だ」

基本情報

氏名:野村 勇気 (のむら ゆうき)

性別:男

年齢:16歳 (12月6日生まれ)

身長:171cm

体重:66kg

血液型:A型

アルカナ:月

属性:雷

武器:ホーリーアヴェンジャー (片手剣)

防具:プリテンダー (盾)

防具:エインヘリヤル (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:6

S:6

T:6

F:6

C:6


登録魔法

・ファイヤーストーム

・アイスストーム

・サンダーストーム

・マジックシールド

・ショック

・エクリプス

・ディーツァウバーフレーテ

・ヒール

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