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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
75/150

8月後半

内藤訓練官の前に冒険者が整列する。


「これよりティルナノーグダンジョン攻略に取り掛かる!

 目標は最深部にある“コア”の破壊……(すなわ)ち、ダンジョンの消滅だ!

 ただし、消滅と言っても完全に消え去るという意味ではない!

 あくまでも一時的な消失……我々はダンジョンのリセットを行う!」


言った通りだ。

一番奥にあるコアを破壊すればダンジョンは消える。

そしてしばらくすると復活し、元の状態に戻る。

完全に消滅させる方法はあるのだが、それは今は実行できない。


俺たちが解決すべき課題は2つ。

魔物の数を減らすことと、凶暴化を解除することである。

それを同時に行えるのがダンジョンのリセットというわけだ。

その作戦を遂行する準備がようやく整ったのだ。


第1班から第4班まではそれぞれ対応する階層に配置され、

最終班が無事に帰還できるように退路を確保するのが役目だ。

単純な戦闘能力だけでなく、継戦能力も重要になってくる。


調査隊の北澤さんの話によれば、

このダンジョンはコアを破壊してから約30分で消滅するらしい。

全てのフロアを5分以内に駆け抜ければ余裕で脱出できる時間だ。

不要な戦闘を回避すれば小学生の足でも間に合う距離だろう。


だが、ダンジョンでは何が起こるかわからない。

念には念を入れて、足の速い者は後半に配置した方がいい。



第1班。

殲滅対象はコボルト、ゴブリン、半魚人。

とにかく敵の数が多いので殲滅力と継戦能力の両立が求められる。

そこで主力となるのが両刃槍の使い手である十坂と、

異様に長い刀を得物にしている佐々木先輩だ。

この2人ならばMPを消費せずともスタミナの続く限り戦闘可能だ。

最強サポーターの松本さんは足が遅いのでここに投入することになった。


第2班。

殲滅対象はジェリー、ジャック、ジン。

物理攻撃が通らないので魔法使いが活躍するフロアだ。

3属性対応のセンリと、安定の無属性のユキ。

調査隊の北澤さんと部下2人も助太刀してくれるそうだ。

ここでの回復役(ヒーラー)はましろが担当する。

そこにカルマとカムイが加わり、この2人はMPを使い切ったら

第1層に移動して雑魚散らしに加勢する手筈となっている。


第3班。

殲滅対象はゴブリン、オーク、トロール。

主な獲物は身長2m強のオークで、高い前衛力を必要とするフロアだ。

ここで戦うのは内藤先生、宮本先輩、黒岩先輩、正堂君、一条。

オールラウンダーの野村は今回、味方の回復に徹する予定だ。

リリコは1体だけ徘徊しているトロールを倒した後は撤退させる。


第4班。

殲滅対象はミノタウロス。

ただし殲滅よりも足止めを優先する戦いになる。

落合先生、工藤先輩、加藤先輩、並木が参加する他、

卒業生の天神先輩、須藤先輩、後藤先輩も駆けつけてくれたので心強い。


そして最終班。

殲滅対象はコアのみ。

これまでの魔物が全て出現するそうだが、戦闘は全て回避する。

それが実行可能なのは俺しかいない……と思っていたのだが、

ヒロシもこの大役に抜擢された。



「ぅおぉぉ……

 この俺がラスボス倒すのか……

 なんかすっげえ緊張するぜ……」


「ヒロシ、大丈夫か?

 脚が……いや、全身が震えているぞ

 もし無理そうなら俺1人でやるが……」


「こっ、これは武者震いってやつだ!

 ラスボス撃破の手柄は独り占めさせないぞ!」


「べつに手柄とかどうでもいいんだが……」 


作戦が開始されたら、もう後戻りはできない。

相棒がこんな状態では俺まで不安になる。

さて、これはどうしたものか……。


そんな俺たちの不安を感じ取ったのか、

内藤先生が激励の声を掛けてくれた。


「大丈夫だ、お前たちならやれる

 むしろお前たち以外の適任者が思いつかない

 魔力が無い、あるいは極端に低いおかげで魔物に気づかれにくく、

 どちらも防御性能……とりわけ回避性能に優れている

 その上、普段から“安全第一”を心掛けて活動しているだけでなく、

 『こんな所では終われない』という思いの強さもあるだろう」


「あ、ありがっ、ます……!」


余計にプレッシャーがかかったようだ。


「……ダンジョンのリセットは3年生になったら実習する課題だ

 お前の先輩たちがみんな通ってきた道だ……当然、俺もな

 そこまで大した内容じゃないから、もっと気楽にやれ

 最初は甲斐1人に任せようという方向で会議が進んでいたが、

 どうせだからお前にも経験させてやろうという流れになっただけだ」


「え? あ、そうなんですか……?

 なんだ、もっと特別な行為なのかと……」


「ちなみにコアは移動も攻撃も一切してこないから楽勝だ

 体長は150〜200cmほどで、土筆(つくし)のような見た目をしている

 そいつを壊せば任務完了となる」


「移動も攻撃も無し……見た目は土筆……

 ああ、なんか大丈夫そうな気がしてきた」


ヒロシの震えが止まる。

どうやら安心できたようだ。


「コアを破壊したら地面が揺れ出すから、それがスタートの合図だ

 ダンジョンが消滅するまでに全力で脱出しろ

 お前たちは足の速さ、スタミナ、バランス感覚にも優れている

 それが今回の作戦における最重要任務に抜擢した理由でもある」


「……あれ、俺さっきから褒められてる?」


「小中、何を言ってるんだ……

 今まで頑張って成果を出してきた結果だろう

 いつまで自分が弱い人間だと思い込んでるんだ?

 そろそろ自信を持ってみたらどうなんだ?」


「この俺が……最強…………」


「そこまでは言ってない」




──30分後、作戦は開始された。

俺たちがダンジョンに入場すると同時に、

先客の同業者たちが次々と退場してゆく。


「あとは任せたぞ!」

「しっかりやってくれよな!」

「お前ら死ぬんじゃねえぞ!」


そんな声援を背に受けながら、俺たちは直走(ひたはし)る。

そして第1班の主力2人が左右に分かれて臨戦態勢に入る。

中央には勇者の鎧を着込んだ松本さんの姿が。


「ライジングフォース! リフレクト!」


「オラオラオラァ!!」

「フンッ!!」


彼女の支援を皮切りに、十坂と佐々木先輩が魔物の群れに斬り掛かる。

松本さんは装備の重量にやられて全く身動きが取れないが、

あの防具ならばこのフロアの魔物からの攻撃を完全に防ぐことができる。


第1層はクリアだ。



続いて第2層で魔法使い組を分断。


「そんじゃいっちょ、やったりますかねえ!!」

「みんな、頑張って……」

「頼んだぞ!」

「信じてるぞ!」

「無事に帰ってきてくれよな!」



第3層にて剣士組を分断……の前に、

「ファイヤーボール!!」

リリコが全力版ファイヤーボールでトロールを撃破し、

意識を失った彼女は黒岩先輩によって運ばれていった。


宮本先輩と正堂君が優れた剣士なのは周知の事実だが、

意外だったのが一条の成長力だ。

いくら不真面目な彼でもこの緊急事態はさすがにまずいと思ったのか、

なんだかんだ文句を垂れつつも、ここまでついてきてくれたのだ。


まだ太刀筋は素人そのものだが、彼には天性の勘がある。

オークを相手にするにはまだ力不足のようだが、

ゴブリン程度なら難なく処理可能といった感じだ。


他の剣士が“剣技”で活躍する中、彼はパンチやキックなどを織り交ぜ、

時には頭突きや噛みつきなどのラフファイトも敢行していた。

技術に捉われないその戦闘スタイルは“野生の剣”とでも言うべきか。


ただ、そんな彼の活躍が霞むほどの存在感を放つ者がいた。


内藤真也訓練官……かつて“電光石火”と呼ばれた男。

彼は加齢によりとっくに魔法能力を失っているにも関わらず、

圧倒的な剣の冴えのみで道を切り拓いていったのだ。

彼の鮮やかな剣技の前では、オークもゴブリンも関係無かった。


この男に50勝した男がいるらしい。世界は広い。



第4層の主役はフリーズを使える並木と後藤先輩だ。

凍結させてしまえば5時間は足止めが可能になる。

落合先生と加藤先輩はバインドによる補助の拘束係、

工藤先輩は数少ないソウルゲインの使い手でMPの受け渡し役、

須藤先輩はミノタウロスと正面からぶつかり合えるファイター、

そして天神先輩は“守護神”の異名を持つ、耐久力の高い回復役(ヒーラー)だ。


この階層にも問題は無い。クリアだ。



そして、いよいよ俺とヒロシは第5層へと踏み込む。

壁や地面の作りに変化は無いが、階層が深くなるにつれて

どんどん色が濃くなり、今は深緑の空間となっている。


「よっしゃあ!!

 気合い入れていくぜえ!!」


「おいヒロシ、静かにしろ!

 俺たちの目的はコアの破壊……それだけだ

 不要な戦闘は全て避けねばならない

 隠密行動を心掛けるんだ

 大きな音を出せば、いくら魔力の無い俺たちでも気づかれるぞ」


「お、おう そうだったな……

 みんなが俺たちに期待してくれてんだし、

 それを台無しにしちゃいけねえよな」


気を取り直し、慎重に最深部へと歩を進める。



すると3分もしないうちに目的のコアを発見。

これは運の良し悪しの話ではなく、地図に従って歩いてきただけだ。

このダンジョンは年に1回の定期調査が行われており、

前回にリセットされた20年前から地形や温度に変化は無く、

出現する魔物の種類や発生頻度も昔のままとのことだった。


「これがコアか……

 たしかに頭でっかちで土筆のような見た目だな」


その不思議な物体はぼんやりと白く発光しており、

どうやらそれはヒロシの魔力に対する反応ではなく、

元からそういう性質を持っているようだ。


とりあえず軽くコンコンと叩き、硬さを確かめてみる。


「中は空洞のようだな

 外殻の厚さは窓ガラス程度だし、

 これなら特に苦も無く破壊できそうだ」


「いや、アキラ……

 中身は空っぽどころか、すんげえ魔力が詰まってるみたいだぜ?

 探知や解析の能力が無い俺でもビリビリと伝わってくるんだ……

 こいつを壊した瞬間、とんでもない量の魔力が溢れるんだろうな」


「ほう、それは俺1人だったら知り得なかった情報だ

 いずれ教わる知識だったんだろうが、得した気分になる」


「俺を同行させたのは、お前の知識欲を満たす目的もあったりしてな」


「もしそうなら、とてもありがたい話だ

 ……さて、コアを破壊するとしよう

 どうするヒロシ? お前がやるか?」


「えっ、いいのか!?

 そんじゃ遠慮無くやらせてもらうぜ!」


そう言うとヒロシは剣を握り直して腰を落とし、呼吸を整えた。

俺は周囲を見渡して安全を確認し、ヒロシに合図を出した。



「──俺が、世界を、救うんだあああぁぁっ!!!」



突然ヒロシが大声を出したので、俺は周囲への警戒を強める。

とりあえず敵影が無いから安心するものの、これは心臓に悪い。

なんかこいつ、昔の自分と似ている後輩と仲良くしているせいで、

昔の悪い癖が復活しつつあるのではなかろうか。


それはさておき、再びコアに目を移す。



パリーン!!



ああ、聞き覚えのある音だ。

1個3万円の水晶玉を割ってしまい、顔面蒼白になる同期生たちを思い出す。



ゴゴゴ、ゴゴゴゴ……



と、地面が揺れ出した。

思い出に浸っている場合ではない。

コアを破壊したという証明…………ダンジョン崩壊の始まりだ。


「ヒロシ、走るぞ!」


「おう!」




第4層にてアクシデント発生。


「あぎゃ!!」


揺れる地面に足を取られて後藤先輩が転倒し、足首を捻挫する。

大した怪我ではないものの、この状況では致命的だ。


「俺に掴まれ!!」


すかさず須藤先輩がフォロー。

後藤先輩はすぐに彼の首に腕を回し、

いわゆるお姫様抱っこの状態で運ばれていった。



第3層では一条が負傷した。


彼は目の前のゴブリンに気を取られ、崩れる天井に気づけなかった。

頭を打って流血しているが、命に別状は無い。帰ったら精密検査だ。

ダンジョンの敵は魔物だけではないと改めて思い知らされた。



第2層、第1層は共に負傷者無し。

松本さんが鎧を脱ぐのに少し手間取ったが、

それ以外は特に問題は無かった。



残り時間8分。

余裕の脱出完了。


勝利は目前。



「お前たち、気を抜くなよ!!

 ダンジョンから溢れ出そうとする魔物を抑え込め!!

 後先考えずに魔法を撃ちまくれ!! 出し惜しみはするな!!」


マナ……大気中に存在する魔力のことで、

魔法能力者の体内にあるものとは少し性質が違うらしい。

さっき破壊したコアから大量のマナが放出された影響で、

どうやら今はMP使い放題のボーナスタイムなんだそうだ。


「ライジングフォース!」「リフレクト!」「バインド!」

「ファイヤーボール!」「ファイヤーストーム!」「リベリオン!」

「アイスボール!」「アイスストーム!」「アブソリュートゼロ!」

「サンダーボール!」「サンダーストーム!」「グランドクロス!」

「ヒール!」「キュア!」「えい!」「おりゃあ!」



仲間たちが各種様々な魔法を絶えず撃ちまくる光景を背に、

俺は頭を負傷した一条を担架に乗せて中学校へと搬送した。


「チッ、だっせえな……

 ここまできて、最後の最後でヘマこいちまってよ……」


「何を言ってるんだ、一条

 それでも最後まで一緒に戦ってくれたじゃないか

 今回の一件でお前のことを少し見直したぞ」


「ケッ、(ヤロー)に褒められたって嬉しかないね

 もしこの俺に感謝してるって言うんなら、

 俺の看病は女にさせるよう伝えておけよ」


「お前のそういうところは好きになれないな

 ……まあ、善処はしてみる」



ともあれ、俺たちはティルナノーグダンジョンのリセットに成功した。

基本情報

氏名:内藤 真也 (ないとう しんや)

性別:男

年齢:43歳 (6月13日生まれ)

身長:174cm

体重:69kg

血液型:B型

アルカナ:塔

属性:雷

武器:聖なる剣 (片手剣)

アクセサリー:携帯灰皿


能力評価 (7段階)

P:7

S:9

T:9

F:5

C:0

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