8月前半
鈴木という男が放火殺人の容疑で逮捕された。
彼はティルナノーグ大宮に隣接する町で町内会長を務めており、
以前から度々住民に対して嫌がらせを行なっていたそうだ。
彼は魔物の人権を守る会という反冒険者カルトに属する人間であり、
冒険者や魔法能力者を排除するのが正しい行いだと信じ切っていた。
「そんな……
一般市民の尊い命が失われてしまっただなんて……
あの場所に冒険者のテントさえ無ければ、
こんな悲惨な事故は起きなかったのに……」
「何が事故だ、このサイコ野郎!!
お前が放火したせいでそうなったんだろうが!!
現場で爆発したのはお前の街宣車だって証拠もあるんだぞ!!
住民が逃げられないように西口を塞いでたんだってな!?」
「街宣車……
いや、それは冒険者に盗まれたんですよ
あいつらはなんでも奪い取ろうとする害虫ですからね」
「何が盗まれただ!!
防犯カメラにしっかりとお前の姿が映ってるんだよお!!
ぶち撒けた燃料に火を放つお前の姿がよお!!」
「防犯カメラ……
いや、私はきっと魔法で操られていたんですよ
身に覚えがありません 弁護士を呼んでください」
「ふざけるなあああ!!!」
取り調べは難航していた。
確たる証拠がいくつもあるというのに、
ある組織が捜査に横槍を入れ、その進行を妨害していたのだ。
「まあまあ刑事さん、落ち着きましょう
これは冒険者絡みの事件なので、
あとは全て我々にお任せください」
「任せられるかアホ!!
お前らも魔人会側の人間だろうが!!
どうせ身内を庇おうって魂胆なんだろ!?
100人以上が死んでるってのに、ふざけんな!!」
「いえいえ、我々“魔法犯罪取締局”は公平な機関ですよ
魔人会と繋がりがあるというような噂も耳にしますが、
そんなのはただのネット上のデマに過ぎません
あなた方と同じく、中立な立場にございます
平和な世界を実現したいという気持ちは一緒ですよ」
「その『平和な世界』ってのが怪しいんだよ!!
魔人会のスローガンと被ってんじゃねえか!!」
「おや、そうなんですか?
全然知りませんでしたね……」
魔法犯罪取締局……通称“アホウドリ”。
その名の由来は麻薬取締官の略称である“マトリ”と被らないようにするため
と言われているが、ただ単純にアホだからという意味合いが強い。
『疑わしきは罰する』が彼らの流儀であり、
過去に数え切れないほどの違法捜査や誤認逮捕を繰り返している。
そんな無能機関がなぜ生き残っているのかといえば、
バックに平輪党がついているという理由に他ならない。
当然、魔人会とはズブズブな関係にある。
所変わり、アキラたちは1週間ぶりに関東魔法学園へと戻ってきた。
「先輩、おかえりなさい!」
「毎日ニュース見てますけど、本当に大変そうですね……」
後輩2人に出迎えられて浮かれそうになるが、
すぐに気を引き締めて今後の予定を伝える。
「俺たちは軽く休憩した後、またすぐに出発する
ここに戻ってきた目的は装備品や医薬品の調達で、
それらを現地の協力者に支給して人手不足を補う作戦だ
初日を乗り切った後に大半の冒険者が去ってしまってな……」
「何かわたしたちに手伝えることはありますか?」
「いや、その気持ちだけで充分だ
現地の様子について色々と聞きたいことはあるだろうが、
これから1時間以内に仮眠、入浴、食事を済ませたい
悪いが心身のリフレッシュに集中させてくれ」
「たったの1時間で……
あ、それなら私たちがご飯の用意しときますよ!
先輩が少しでも長く眠れるようにご協力いたします!
のぞみもそれでいいよね?」
「うん」
「2人とも……ありがとう」
タワーの前にも別の後輩の姿があった。
「ちっす、ヒロシ先輩!」
「皆さんもお疲れ様です」
「お、リキにKじゃん
お出迎えご苦労!
リキはちゃんと補習受けてるか〜?
K、ちゃんと見張っとけよ〜?」
「うっ……俺なら大丈夫っすよ!」
「自分がしっかり見張っておきますのでご安心ください」
「はは、そんじゃ頑張れよ!
俺たちはちょっと休ませてもらうぜ
この後、また出なきゃいけないんでな」
「え〜、せっかく俺の新技を見せたかったのに……」
「おいリキ、状況を考えろ 先輩たちは忙しいんだ」
リリコは女子寮にいた後輩たちを掻き集め、
大浴場に浸かりながら全身を揉ませていた。
「よーっし、オメーらいい感じだぞ!!
オレはこのまま寝かせてもらうけど、30分後に必ず起こせよ!?
それとマッサージはそのまま続けてろよな!!
サボった奴は絶対に許さねえから覚悟しとけ!!
あと飯の用意も済ませておけ!!」
「は、はい……!」
「絶対にサボりません……」
「ごゆっくりお眠りください……」
「あっ、こっちにも何人か回してもらえるー?」
「こら、ミナ! 図々しいよ!?
1週間ぶりにお風呂入れるだけでもありがたいのに……」
「だからこその贅沢でしょうがー
私たちは今、本当にきつい任務を請け負ってるわけだし、
ちょっとくらい先輩風吹かしてもバチは当たんないでしょ
どうせだからあんたも揉まれておきなさいな」
「う〜ん、そういうもんかなぁ……」
そして1時間後、上級生たちは物資を調達して戦場へ向かった。
彼らは後輩たちのおかげで元気になれたと感謝していたが、
たったあれだけの休憩で心身を癒せたはずがないことは
未熟な1年生たちにもよくわかっていた。
「5分じゃ食べ切れなかったか……
のぞみ、一緒に食べよ」
「うん……
おにぎりとかにしておけばよかったね
そしたら持っていけたのに……」
「先輩たち、目の下にクマ出来てたよな」
「ああ、ろくに休める環境じゃないんだろう
せめて車の中で眠れればいいが……」
「リリコ先輩の胸、大きかったね」
「今そういう話するぅ!?」
ティルナノーグ火災が発生してから2週間が経過した。
ニュース番組はどこも連日その話題で持ち切りで、事件の規模や影響、
亡くなってしまった方々の無念などが報じられていたが、
なぜか逮捕された犯人に関する情報には一切触れようとしない。
それどころか冒険者バッシングに熱心な報道局まで現れる始末。
……いや、彼らは昔からそういう方針で活動を続けてきた。
“へいわビジョン”という名のそれは、
平和な世界を願う公平な報道局なんだそうだ。
当然、平輪党とはズブズブな関係にある。
『私が思うにですね……
あの場所に冒険者のテントさえ無ければ、
このような痛ましい事故は起きなかったのではないでしょうか』
『やっぱりそうですよねえ
勝手に焼け死んだ冒険者たちは自業自得ですが、
巻き込まれた一般市民はたまったもんじゃないですね』
『これはもう、あの連中が無実の一般市民を殺したようなもんですよ
そんな害悪な存在がどうして堂々と生きていられるんでしょうね』
『大体、魔物を流出させないのが仕事とか言っておいて、
結局ダンジョンから流出させてますしね
あいつらの存在意義って本当になんなんでしょうねえ
そもそも罪の無い魔物を殺そうという考えがおかしいんですよ』
『しかも盗撮で捕まった冒険者がいるそうじゃないですか
そいつが証拠を燃やそうとして、こうなったんじゃないですか?』
『ああ、それはあり得ますねえ
冒険者なんて所詮はみんなそういう生き物ですからねえ』
そのニュースもどきの映像に底知れぬ嫌悪感を覚え、
アリアはついスマホを叩き割りそうになる。
「アリア
気持ちはわかるけど、それわたしのスマホだからやめて
いや、正確には学園の所有物だけどさ……」
「あ、そうだった ごめん
……しかし、本当になんなのこいつら
冒険者が必死に戦ったからこそ区域外への流出を防げたのに、
まるで犯罪者扱いされてるようで心底気分悪いわ!」
「この局は昔からずっとこんな感じらしいからね……
視聴者に『魔法使いは悪者』の印象を植え付けたいようで、
10年も20年も前に起きた冒険者や魔法能力者絡みの事件とかを、
いつまでもネチネチと叩くような番組しかないんだってさ
今回盗撮で捕まった人はこれからずっと標的にされるんだろうね」
「たしかに盗撮は許せないけどさあ……
それにしても偏向報道が過ぎると思うわけよ
よくこんな局が潰れずに存続してるよね」
「平輪党が選挙に勝つために作った局だって噂だからね
裏で色々とお金が動いてるんでしょうよ」
「ぐぇ〜、なんかもう悪の組織にしか見えんわー」
後日。
自主的に綱渡り訓練を行うのぞみに対し、
プールサイドからアリアが提案する。
「……ねえ、のぞみ
どうせ私たちは補習の対象外だし、
現地に行って先輩たちを手伝ってみない?」
「その格好で?」
見ればアリアは肉球天国(わんこ)を着用しており、
戦闘準備完了といった顔つきだった。
それは一見ふざけたコスプレのようで、実はかなり高性能の防具である。
だが、のぞみはその外見上の問題に苦言を呈したわけではない。
「わたしたちは仮免だから学園ダンジョン以外では活動できないでしょ
どうしても手伝いたいなら怪我人の治療とか炊き出しとかだけど、
そっちは人手が充分に足りてるって聞いてるよね?
行っても手伝えることは無いし、かえって迷惑をかけるだけだよ」
「うぐっ……!
そういえばそうだった……」
アリアの犬耳と尻尾がしょんぼりと垂れ下がる。
その動作を少し可愛いと思いつつ、フォローを入れる。
「今のわたしたちにできることは、強くなることだと思う
アキラ先輩たちがそうしてきたように、
来年はわたしたちが他の誰かを守れるように……
その強さを身につけるために頑張るしかないよ」
「誰かを守れる強さ、か……」
のぞみは自身の発言に少し恥ずかしさを覚え、
つい気が緩んだせいかバランスを崩してしまった。
「あっ……!」
そしていつものようにバシャーン!とダイブを決める。
3往復成功まであと少しだったというのに、また油断してしまった。
やっぱり喋りながらの綱渡りはだめだ。
「あはは、ごめんごめん」
のぞみからじっとりとした視線を向けられ、
アリアは苦笑いしながら謝罪する。
現場にはその2人だけでなく、
監視員として警備室長と部下が立っていた。
「ほら、アリアちゃん!
申し訳ないと思ってるならあなたもダイブ!」
「室長!
なんで私用のカメラで撮影してるんですかね!?」
午後の補習が終わった頃を見計らい、女子2人はダンジョン前に移動した。
先輩の護衛期間が終わり、これからは自分たちの力で道を切り拓く番だ。
今日はその第一歩として臨時パーティーを組もうとしている。
「そういや前に男子2人と組んだことあったよね
あの時はヒヤヒヤさせられたし、もうあいつらと組むのはやめとこ」
「うん、賛成
とりあえず今回集めるメンバーは女子なら誰でもいいよね?」
「んだねー
……と言いつつ、実はもう目星を付けてるんだけどね
ほら、1組に巫女服着てる子いるじゃん?
私たち以外で自前のドレス装備持ってる女子いないみたいだし、
この3人でトリオ結成したら最強の布陣が完成すると思わない?」
「あれってドレス扱いなんだ……
ってか、なんでそれが最強の布陣だと?」
「え、だって『可愛いは最強』だし」
「意味がわからない……」
そして、件の女子が来たので声を掛けてみる。
「拙者は神崎久遠と申す者
いざ尋常に推して参る!」
(拙者……!)
(今からキャンセルできないかな……)
彼女は常に1人で行動していたのでソロ専かと思いきや、
誘われればいつでもノリノリで参加する気質の持ち主であった。
「エクリプス!」
ダンジョン入場後、まずはアリアの強化から始まる。
これで敵から発見されにくくなり、第2層まで安全に向かえる。
……はずが、
「ちょっ、神崎さん!
スライムの相手しなくていいよ!」
「止まって神崎さん!
近づくペースが速すぎる!」
彼女は味方からの忠告に従わず、悪臭を放つ液体の餌食となってしまった。
「ぶええぇぇ〜〜〜っ!!
また衣装を汚されてしまった〜〜〜っ!!」
(えっ、『また』?)
(普通は1回で学習するよね……)
「……神崎さん、今日はもう帰ろう?
大事な衣装だし、すぐに洗いたいよね?」
「本当にそうした方がいいよ
臭い取るのに何度も洗濯しないといけないし……」
「いいや、情けは無用だ!
せっかくお二人からお誘いいただけたというのに、
拙者はまだ何もできていないどころか、足を引っ張ってしまった!
どうか……汚名挽回の機会を与えてもらえないだろうか!?」
「ん……“汚名挽回”なんて日本語あったっけ?」
「汚名返上と名誉挽回が混ざっちゃったんだね」
「いいや、情けは無用だ!
せっかくお二人からお誘いいただけたというのに、
拙者はまだ何もできていないどころか、足を引っ張ってしまった!
どうか……汚名返上の機会を与えてもらえないだろうか!?」
(言い直した……!)
(2回攻撃……!)
彼女たちは、少し変わった同期生と知り合ってしまった。
基本情報
氏名:花園 美咲 (はなぞの みさき)
性別:女
サイズ:E
年齢:42歳 (11月23日生まれ)
身長:167cm
体重:55kg
血液型:O型
アルカナ:女教皇
属性:氷
武器:なし
能力評価 (7段階)
P:4
S:6
T:6
F:4
C:0