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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
64/150

女子会

「ん……?」

「え、あれっ?」

「ここ、どこ……?」

「大きな蟹の看板がある……」

「えっ、もしかしてここって…………」



大阪?



5人の女子が関東魔法学園のダンジョンから出ると、

どういうわけか遥か遠く離れた西日本の地に立っていた。

ついさっきまで男抜きでワイワイ楽しんでいたというのに

その熱も一気に冷め、ただただ困惑するしかない。


並木美奈。

高音凛々子。

黒岩真白。

杉田雪。

松本静香。


彼女らは今、ものすごくレアな現象に巻き込まれていた。



ダンジョンワープ。



ごくまれにダンジョンの出入り口が別の場所に繋がることがあるらしい。

その超低確率な現象を、彼女らは見事に引き当てたのだ。


見ると、道頓堀にダイブする男性の姿があった。


「ほら、やっぱり大阪だよ!」

「なんで飛び込んだ!?」

「どっかの球団が優勝したとか?」

「野球の話はよくわからない……」

「とにかく助けを呼ばなきゃ!!」


緊急通報により、男性は一命を取り留めた。


どうやら件の男性は入れ込んでいた風俗嬢に彼氏がいると発覚し、

ショックのあまり衝動的に川へ飛び込んだとのことらしい。




「大阪まで無料で来れちゃった!」

「値段の問題じゃねえだろ」

「あたし関西弁話せないんだけど!」

「言語の問題でもないと思う……」

「とりあえず学園に連絡しよう!?」


松本の提案により、並木は学園に電話を入れる。


訓練官たちに確認したところ、

帰還するまでの経費は全て学園が負担するということなので、

『むしろ思い切り楽しんでこい』という返答が頂けたのだ。


「よし!

 そんじゃお言葉に甘えて、

 思い切り大阪観光を楽しんでいきましょうか!!」


「おっし、そういうことなら遠慮はしねえぜ!」

「食べ歩きツアー決定だね!」

「いえーい」

「みんな切り替えが早いなあ……」




まず彼女らが口にしたのは、定番のたこ焼き。

関東の物よりもふわとろの生地が特徴らしいが、

普段からたこ焼きを食べ慣れていない彼女たちには

その違いがよくわからなかった。

だが、やはり出来立てをその場で食べるのは美味い。

8個入り1パックが数分もしないうちに消化される。


「2個目も〜らい!」

「あたしもおかわりするね!」


と、誰に許可を得るでもなくリリコとましろが2つ目を頬張る。

ユキはまだ1個目をハフハフ言いながら食べている最中であり、

その様子を残りの2人が暖かく見守っている。


「松本ちゃん、おかわり欲しいなら今のうちだよ

 あの2人が3つ目に手を出す前にね」


「えっ、いいの?

 並木さんも食べたいんじゃ……」


「いやいや、私のモットーは“広く浅く”だから、

 いろんな物を少しずつ胃袋に取り入れたいわけよ

 それに食べ歩きはまだ始まったばかりだし、

 最初からハイペースだと後半持たないだろうしね」


「なるほど……

 それじゃ最後の1個貰っちゃうね」


パックが空になり、ユキは少しショックを受ける。

少食な彼女でもこれなら食べやすく、

実は2つ目に挑戦しようと思っていたのだ。




続いて彼女たちは露店で串カツを買い、

大阪とは関係無い話題で盛り上がる。


「森川さんもこの場にいればよかったのにねえ」

「早苗が学校辞めてからもう2ヶ月か……」

「本当に突然だったからびっくりしたよね」

「私はどうすればいいのかわからない……」

「どうして退学しちゃったんだろうね……」


せっかくの観光中なのに少ししんみりとした空気になり、

リリコはこれではいけないと思い立って仮説を述べた。


「あ〜、実はな……

 早苗はあーくんに惚れてたんだけどさ、

 肝心のあーくんは新入生のちびっ子にメロメロだったろ?

 それを見てショックを受けたんじゃねえかな……

 あいつとは1年間一緒に過ごしてきた仲だってのに、

 ぽっと出の女に負けちまったんだからそりゃ悔しいよなあ」


「へえ、やっぱりアキラ君狙いだったのね」

「そうだったんだ! 全然気づかなかった!」

「私は知ってた……」

「だからって学校辞めるほどかなあ?」


「松本、失恋のダメージってのは思った以上にでけえんだ

 その恋心が本気であるほど返ってくる痛みは大きくなる

 さっき道頓堀に飛び込んだ奴もそれが原因だったろ?

 なんつうか、何もかもがどうでもよくなっちまうんだよ

 それがたとえ自分の命でさえもな……」


「そういうものなのかな……?」


並木は少しニヤリとする。


「もしかして高音さんもショックだったりする?

 アキラ君とは一番長いつき合いだもんねえ

 それに失恋の痛みをよく知ってるようだし、

 実は森川さん以上に辛かったりして……」


「いやいや、オレ自身に失恋の経験はねーよ

 施設にいた頃に同い年の女が妊娠したことがあってな、

 相手の男が既婚者だと発覚しても諦め切れなかったらしくてさ、

 その夫婦を呼び出して目の前で手首を斬る事件が起きて──」


「ああ、うん

 変な質問してごめん」




お次は豚まんで有名な店に立ち寄る。

この時点でユキはもう満腹に近い状態であり、

並木は自身の分を4分の1サイズに千切って彼女に分け与えた。


そして、ここでも恋愛に関する話題が続く。


「じゃあ高音さんってどんな男がタイプなの?」


「どんなって……

 いや、あんま考えたことねーな

 とりあえず最低限、オレの体ばっか見てる奴は論外だ

 それからロリコンや女装男にモヒカン、あと当然チャラ男も勘弁な」


「同級生の男子全滅じゃん」


「それと歳上と歳下も興味ねえや

 同い年にまともな奴がいりゃよかったんだけどな

 ……そういう並木はどうなんだよ?」


「ん、私?

 そうねえ……

 やっぱりまずは私を養ってくれる人かな

 で、イケメンで細マッチョで優しくて、

 ユーモアがあって男友達の多い人がいいな」


「オメエ、それじゃ一生結婚できねーよ

 少しは妥協ってもんを覚えろ」


「え〜、高音さんがそれ言っちゃう?

 そっちも似たようなもんだと思うけどなぁ

 ……ましろは好きな男子とかいるー?」


ましろは反射的に眉がピクッと動き、嫌悪感を隠せずにいる。


「え、いきなりあたしに振られても……

 そういう話題には巻き込まないでほしいな

 実はあたし、昔はよくストーカーに狙われるほどの美少女でさ、

 それが嫌でここまでブクブクに体重増やした経緯があんのよ

 ある程度強くなった今なら元の姿に戻っていいかもしれないけど、

 まだしばらくは悩みの種を増やしたくはないんだよね」


「はいはい、そういうことにしときますかね

 ……ユキちゃんの恋愛事情はどう?

 ぶっちゃけ、アキラ君のこと好きだよね?

 ライバルが1人減った今が攻め時なんじゃないの?」


ユキもピクリと反応するが、嫌悪はせずに頬を赤らめる。

だがその表情はどこか浮かない印象を受ける。


「今はまだその時じゃない……

 アキラがあの女から完全にフラれて、

 心がボロボロになってる時が狙い目だって教えてもらった……」


「ああ、傷付いてる時に優しくされるとコロッといっちゃうもんね

 ……って、誰からそんなの教わったの?

 やけに具体的なアドバイスじゃん」


「それは言えない約束……」


「そう、それは残念……

 じゃあ最後に松本ちゃん、ズバリ好きな男子とかいる?」


「え、いや、私もそういう話はパスしたいな〜っと……」


「おやおや、目が泳いでますな〜?

 これはひょっとすると、そういうお相手がいるということですかな?」


「やっ、変な勘繰りはやめて

 べつにそんなんじゃないから……

 あ、ほら! てっちり(フグ鍋)の店があるよ!

 次はあの店に寄ってみようよ!」


「その必死な態度が怪しい……」




ユキに続き、リリコが満腹を訴えた。

ペース配分を考えずにバカスカ食ってきた影響だろう。


「そんで、松本ちゃんが気になってる男子って誰よ?

 私の予想だとイニシャルはMTなんだけど……」


「やっ、本当にそういうんじゃないから!

 それよりほら、お好み焼きのお店があるよ!

 せっかくだし食べていこうよ!」




次の脱落者は意外にも最重量のましろだった。

彼女は食事の合間にこまめな水分補給を行なっており、

それがジワジワと効いてきたのだ。


「で、結局松本ちゃんは十坂君に対してどう思ってんの?

 前々からなんか怪しいと睨んでたんだよね〜」


「並木さん……しつこいよ

 いい加減にしないと、私だって怒るからね?」


「ほうほう、ますます怪しいですなあ……」




そして、ついに並木もダウンした。


「ギブ……

 本当に、これ以上はもう無理……」


並木だけではない。

松本以外のメンバーは全員グロッキーな状態であった。

彼女らは人目を憚らず地面に突っ伏し、

ただ1人、松本静香だけが悠然と立ち続けていた。


「シメにカニすきを……と思ったけど、みんな無理そうだね

 今日はもう遅いし、そろそろ泊まる場所を探そう?

 経費は全部学園持ちだから値段は気にしなくていいよ」


「あっ、はい……」

「とにかく横になりたい……」

「検索、検索っと……」

「うっぷ……」


この日、最強の女子が決定した。

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