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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
63/150

5月後半

「なあ、アキラ

 最近お前さ……全く俺たちと交流してないよな?」


「ん……そうか?

 毎日授業で顔を合わせているだろう」


「顔を合わせてるだけなんだよ

 最後に俺とまともに会話したのはいつだ?

 守備範囲ドストライクの女子に(うつつ)を抜かすのは結構だが、

 たまには男同士の友情ってのも思い出してほしいんだよな……」


ヒロシは不満そうだ。

まあ、たしかに最近の俺はどうかしていたかもしれない。

これもひとえに、立花希望が可愛すぎるせいだ。

それに高崎亞里亞との掛け合いも楽しい。


正直、男同士の友情よりもそちらを優先したい。


だが、それではいけないのだろう。

円滑なコミュニケーションを実現するには、

時として自らの意見を押し殺して妥協せねばならない。


「だったら、今夜あたりみんなでダンジョンに潜ってみるか?

 進級して第5層が解禁されたというのに、まだ行っていないしな」


「おう、今夜な!」




その日の午後、後輩女子2人には新たな訓練メニューを用意した。

25mプールの横幅12.5mを利用し、1本のロープを張っておいた。


「え、もしかして綱渡りですか?」


「ああ、そうだ

 バランス感覚や体幹を鍛えるトレーニングとしてだけでなく、

 魔法を使用する上で必要な集中力も身につけられると思う

 先生に確認したところ、『いいんじゃないか』との返答を頂けた

 もしこれで高い成果を上げることができれば、

 今後、正式な訓練法として採用されるかもしれない」


「おお……!

 私たち、責任重大ですね!」


「それならサンプルを増やすべきでは?

 たった2人だけで、訓練に効果があるかどうか判断できるんですかね?」


「そう言われてもな……

 他に水着姿を見たい女子がいないんだ」


「セクハラ禁止!!」



とりあえず手本を見せるべく、俺は上着を脱いだ。

スマホや財布などがズボンに無いことを確認する。

左右の重量を同じにするためだ。


「え、先輩

 水着にならないんですか?」


「ああ、失敗しなければ濡れないからな

 10年以上の経験があるし、自信はある」


「サーカスでもやってたんですか?

 そういえば体も柔らかいし……」


「いや、俺の地元には娯楽が少なくてな

 綱渡りは度胸試しの遊びとして子供たちの間に伝わっていたんだ

 一番高い場所のロープを渡り切った子供は英雄扱いされてな、

 俺はそのおかげで同年代の者たちからは馬鹿にされずに済んだ」


「へえ、なんだか男の子らしいエピソードって感じで素敵です」


「素敵……か

 実は少し嫌な思い出があってな

 俺が綱渡りをしている最中にロープを切った奴がいたんだ

 そいつは俺に負けるのが嫌で、つい魔が差したそうだが……

 それで俺は大怪我を負い、死の淵を彷徨った経験がある」


「なんて卑怯な……

 絶対に許せませんね、そんな奴は」


「許した」


「ええっ!?

 先輩、殺されかけたんですよねえ!?

 私だったら絶対に許しませんよ!?」


「それが普通の考え方なのかもしれないが、

 そいつが涙と鼻水で顔面グシャグシャにして謝る姿を見たら、

 誰かを憎みながら生きるのは馬鹿らしいと思えるようになったんだ」


「はぇ〜……

 器がでっかいっすね

 ……ねえ、のぞみ

 この人、男の器がすっごく大きいよ♡」


「セクハラ禁止!!」



昔話はそこで切り上げ、俺はロープに両足を乗せた。

事前に確認済みではあるが、張りの強さに問題は無い。

これなら女子2人が同時に乗ったとしてもプールに沈むことはないだろう。


そして一番(たわ)む中央まで行き、少し縦に揺れて確認作業を行う。


よし、平気だ。


「先輩、すごい……

 まるで平坦な道を歩いているかのようにスタスタと……」

「両手でバランス取ったりしてないし……」


「ちょっとカッコつけてもいいか?」


「既にカッコいいですよ!」

「カッコつけなくていいです」


俺はその場で跳躍し、後方宙返りを決めてからロープに着地した。


「おおおおお!! 本当にサーカスとかやってないんですか!?」

「すごいとは思うけど、それが何?」


そして俺は無事に反対岸まで渡り切り、

アリアからは拍手を、のぞみからはじっとりとした視線を送られた。可愛い。



手本を見せ終えたので、次は彼女たちの番だ。


まず挑戦したのはアリア。

おそるおそるロープに足を乗せ、もう既にグラグラと左右に揺れている。

そして1歩、2歩……


バシャーン!


3歩に届かず、あっさりと落下してしまった。


「あ〜〜〜、もうっ!」


彼女は悔しそうな声を上げるが、その顔は笑っていた。

これが地元ならただでは済まないが、ここは学園内の安全なプールだ。

これくらいの緩い雰囲気で綱渡りに取り組んでも構わないだろう。



続いてのぞみが挑戦する。

彼女もまた慎重にロープへと足を乗せ、そろりそろりと進んでゆく。

1歩、2歩、3歩……


4歩、5歩、6歩、7歩。

その姿はまるで塀の上を歩く仔猫のようだ。可愛い。


「おおっ!? いい感じじゃないですか!?」

「ああ、重心の低さが安定感を生み出しているのかもな」


8歩、9歩……


バシャーン!


「あら、落ちちゃった」

「だが初挑戦にしては上出来だ」



2人が失敗したのを見届けたので、コツを教える。


「まずは片足立ちができるようになるまで練習するんだ

 左右の足を交互に3秒、5秒、10秒……とステップアップしていき、

 両方30秒をキープできるようになれば、もう充分だろう」


片足立ち。

運動に慣れていない人間には意外と難しい。

平地で60秒間、直立していられる人がどれだけいようか。

それを不安定なロープの上で行うというのだから、

彼女たちにとっては割とハードな訓練と言えるだろう。


「うわっ……わぁ!」


バシャーン!


「くっ……!」


バシャーン!


2人の美少女が体勢を崩し、あえなくプールに落下する。

そして彼女たちは何度も挑戦を繰り返しては水に落ち、

目標を達成しようと躍起になっている。


なんと素晴らしい光景であろうか。

できればこのままいつまでも続けていたい。

この後の予定などすっぽかして、彼女らと至福の時を過ごしたい。


だが、俺は約束してしまったのだ。

残念ながら、今日は同級生とダンジョンへ行く約束をしてしまったのだ。




「──さて、そろそろ8時になるな

 今日はもう切り上げよう」


「はーい♪」


アリアはそう返事し、自然な流れでマットに横たわる。

運動後のマッサージの時間だ。


彼女は指圧される度に官能的な声を出すので少々やりづらい。

それ自体はいい。俺も結構楽しみにしている。

けれども、その光景をのぞみに見られていると複雑な気分になる。

それに監視カメラが回っており、なぜだか緊張してしまう。


「あっ♡ あっ♡」

「もっとボリュームを抑えてくれ」

「……」


「先輩の肉棒……とっても気持ちいい♡」

「指だ」

「……」


「のぞみ……ごめんね?」

「俺もなんか……すまん」

「いや、謝られても……」


のぞみへのマッサージは、女子寮に戻ってからアリアが行なっている。

できれば俺の手でほぐしてやりたいのだが……まあ、仕方ない。






そして午後9時。

俺たちは久しぶりの冒険活動を開始した。

メンバーは俺、ヒロシ、グリム、センリ、正堂君の5人。

見事に男のみのパーティーであり、非常にむさ苦しい。


「はあ……

 それじゃ今日もゼロ災でいこう、ヨシ」


「おいアキラ

 お前、今……ため息ついたよな?」


「ただのあくびだ

 ほら、もう夜だしな」


「まあ落ち着け、ヒロシ

 お前だって阿藤先輩が絡んだ時はおかしくなってただろ?

 今のアキラはそういう状態なんだよ

 これくらい大目に見てやれって」


「あのな、グリム……

 こいつは『色恋沙汰に現を抜かすような男にはなりたくない』

 って、俺にハッキリと宣言したことがあるんだぜ?

 自ら立てた誓いを平然と破るのはどうなんだ?」


「まあまあ落ち着けよ、ヒロシ

 人の心ってのは常に移り変わるもんだろう

 特に俺たちは10代半ばの不安定な時期にある

 見た目があれだから忘れがちだが、アキラだって少年なんだ

 本気で女に惚れたらこうなっちまうのも仕方ねえよ」


「センリまでこいつを擁護すんのか……

 ああ、そういやお前にも好きな女子がいるもんなあ

 ……水族館デート以降、ましろちゃんとの仲に進展はあったのか?」


「はあぁ!?

 いきなり何言い出すんだお前!

 べ、べつにあれはデートとかじゃねえし!

 ……つか、どっからその話…………って並木か、くそっ!!」


「まあまあまあ落ち着きなよ、進道君

 君が黒岩さんを好きだってことはとっくにバレてるよ

 気づいてないのは本人だけだってこともね

 ……それより、僕は小中君の態度が気になるよ

 憧れの阿藤先輩が学園を去ってしまって、寂しいのかい?」


ヒロシは図星を突かれた。


「ああ、そうだよ!! 悪いか!?

 今の俺には冒険しかねえんだよ!!

 みんな、もう恋愛の話はよそうぜ!!

 ここはダンジョンだぞ!! わかってんのか!?」


ヒロシ……。


俺は彼に対して不誠実だった。

都会に出てから初めて出来た友人であるというのに、

そんな大切な存在を(ないがし)ろにしてまで自分の楽しみを優先したせいで、

あいつが寂しい思いをしていた事実に気づけなかった。


「……ヒロシ

 それに、みんなも……すまなかった

 俺は浮かれすぎていた

 これからはもっと周りに気を配るように努力する」


「おう、そうしろ……

 …………

 でも、優先順位は“後輩>俺たち”のままでいいからな

 休み時間にちょっと雑談するくらいの距離感でいいんだ

 お前がいきなり俺たちにベタベタしてきたら気色が悪い」


「えっ、だめなのか」


「言っといてよかった……」




俺たちは気を取り直して、目的地の第5層へと向かった。

そこは足首の高さまで水が張ってあるフロアであり、

工夫無しでは不愉快な思いをするのは明白だ。

なので全員ほぼ新品の長靴に履き替え、

念のため雨合羽を装備して現地に突入した。


「落とし穴の場所は地図に載っているが、

 ダンジョンでは何が起こるかわからない

 もし地形が変わっていた場合、大事故に繋がる恐れがある

 一歩一歩、足元に注意しながら進んでいこう」


記録によれば、この10年間で2人が脚を骨折したらしい。

とても殺意の高いステージなので気を抜いてはならない。


「おい、お前ら

 ここの水は魔法を通す特別製らしいから、

 雷属性の攻撃魔法は使うんじゃねえぞ

 味方の放った魔法で感電とか冗談じゃねえ

 ゴム長靴を履いてるとはいえ、事故る可能性は潰しとかねえとな」


センリからの忠告に、該当する2人が頷く。


そしてヒロシの新装備が光る。

文字通り、ダンジョンに光を照らしたのだ。


「ジャーーーン!!

 ライト付き安全帽だ!!

 これなら懐中電灯が無くても常に遠くまで視界を確保できるだろ?

 未知の階層での探索では特に役立つと思ってさあ!」


「わかった、わかったからこっち向くな!

 さてはお前、それを自慢したかっただけだろ!

 アキラを誘導したのも、この瞬間のためか!?」


「ん、誘導……?」


「いや、べつにそんなんじゃねえし!

 とにかく俺が先頭を歩くから、みんなは後に続いてくれ!

 コナカヒロシ探検隊……いざ出発!!」



出発してから1分もしないうちに魔物を発見……したのだが、

それは襲い掛かってくるどころか、逆に一目散に逃げてしまった。


シャドウ。

光に反応して逃げる性質を持つ謎の魔物だ。

第2層にも存在しているのだが、あれを討伐したという事例は無い。

たとえ非魔法能力者であっても半径5mまで近づくと感知され、

やはり一目散に逃げてしまうのだ。


俺は奴らを袋小路に誘い込んで追い詰めたことがあるが、

ダンジョンの壁の中に溶け込んで逃げるという荒技を披露され、

とうとう捕獲することはできなかった。


「くそ、また逃げられたか……

 あいつ絶対に大量の経験値持ってそうだよな?」


「ああ、10050くらいありそうだよな」


「せいぜい1350くらいじゃねえの?」


「僕は40200派かな

 5人で割ると8040だね」


彼らはおそらくゲームの話で盛り上がっているのだろう。

恋愛の話題は禁止で、その話題ならいいのか……そうか……。



続いて初遭遇の魔物と出くわした。


「お、おお……!?

 なんか魚みたいのが大量に群がってきたんだけど……

 たしか“ドクターフィッシュ”っていうのがいたよな?

 足の角質を食べてくれて美容にいいとかなんとか……」


「ヒロシ、絶対に靴を脱ぐなよ

 そいつらは“ネイルイーター”という名前でな、

 足の爪を剥がすことに特化した恐ろしい魔物なんだ

 この10年間で3人が犠牲になっている……絶対に靴を脱ぐなよ」


「お、おう……」



更に新種発見。

体長は180cmほどであり、全身を緑色の鱗に覆われている。

顔は(ふな)に似ており、両手には三叉槍(トライデント)が握られている。

常に3〜5匹の群れで行動しており、

その習性はコボルトやゴブリンと似通っている。


「わかった!

 あいつの名前は“サハギン”だろ!」


「いや、正解は“半魚人”だ

 雷属性が弱点らしいが、この場では使いにくいな……」


先程の忠告通り、感電の恐れがある。

それ以外の方法で仕留めるべきだろう。


「僕が処理してもいいかな?

 ああいう武器持ちの敵との距離感を測っておきたいんだ

 それと、みんなに僕の実力を見せるいい機会だしね」


正堂君の提案に賛成する。

彼の装備“メガ村正”は2mほどの刀であり、

幅が広いので盾代わりにもなる攻防一体の武器だ。


そして彼は半魚人の群れに刃を向け、姿勢を正して呼吸を整えた。



「明鏡止水──」



空気が変わる。


「おおっ!? なんかカッコいい技名!」

「やっぱ侍キャラには四文字熟語が似合うな」

「さて、お手並み拝見っと……」


半魚人の群れが「ギャッ、ギャッ」と鳴きながら正堂君に襲い掛かる。


シパパパパッ!!


彼の制空圏に侵入した半魚人は目にも止まらない早業で首を刎ねられ、

正堂君はその場から1歩も動かずに5匹の魔物を全滅させたのである。


「うおぉぉ……」

「お見事」

「やるじゃねえか」


「明鏡止水は“待ちの剣術”……まあ、要するにカウンター狙いさ

 そこらじゅうに落とし穴の危険性がある以上、

 あまり動き回る戦い方はしない方がいいと思ってね」


その剣技は鮮やかであり、同じ両手剣使いのリリコとは全く次元が違う。

リリコは力任せにぶん回しているだけだが、彼には技がある。

学年最強の剣士の名は伊達ではない。眼鏡は伊達だが。


「へえ、カウンター狙いかあ

 アキラのネコの構えも迎撃特化だったよな?

 それの斬属性バージョンみたいなもんか」


「おいおい、甲斐君と比べられちゃ僕の立つ瀬がないよ

 彼は自動強化無しで人外の強さだからね」


「あはは、悪い悪い」


なんだか堂々と化け物扱いされているような……。






──学園に帰還した時には既に日付が変わっていた。

あまり乗り気ではなかったが、男同士のパーティーというのも

なかなかいいものだったと思い出すことができた。


詳しい内容は言えないが、仲間たちは下ネタで盛り上がっていた。

それは女子が混じる環境では実現できない。

今回の冒険活動は彼らにとってもいい刺激になったと思う。

基本情報

氏名:有馬 力 (ありま りき)

性別:男

年齢:15歳 (7月30日生まれ)

身長:165cm

体重:56kg

血液型:A型

アルカナ:力

属性:無

武器:レンタルソード (片手剣)

防具:レンタルシールド (盾)


能力評価 (7段階)

P:4

S:5

T:2

F:8

C:1

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