表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
62/150

肉食女子の集い

赤コーナー。

4組所属、立花希望(のぞみ)

選んだ装備はダガー&シールド。

元々背の低い彼女に短剣の組み合わせ。

リーチの面では圧倒的に不利であるが、

その劣勢を攻撃力3のダガーで覆せるだろうか。


青コーナー。

3組所属、門倉梨紗。

選んだ装備はポールのみ。

華奢な体つきをしているが、彼女は薙刀の使い手だ。

長柄武器の扱いはお手の物。リーチも技術も優れている。

現時点で相手に劣っている部分は性格だけだろう。


「まったく、これだから肉食家は……

 どうしてこうも好戦的なのかしらね?

 ああ、肉を食べているからだわ!

 無実の動物の命を刈り取る行為に罪悪感を覚えない人たちですものね!」


「ええと、門倉さん

 参考までに、肉食動物についてどう思ってんのか聞かせてよ」


「ハッ、そんなの決まってるじゃない!

 そんな野蛮な存在はこの世から消えて無くなればいいのよ!

 そうしたら世界はもっと良くなるのに!」


「あんたさあ、食物連鎖って知ってる?

 普通は小学校で習うんだけどさ……

 肉食動物がいなくなったら地球が滅ぶよ?」


「地球が滅ぶ……?

 何を言ってるのかしら?

 そんなわけないじゃない

 やっぱり肉を食べていると頭がおかしくなってしまうのね

 ああ、私は草食家でよかったわ!」


「あんたもこないだ肉食べてたでしょうが……」



観客席ではアキラとアリアが心配そうに試合を見守っている。


「結局こうなったか……」


「私は止めたんですが……すいません」


「いや、君のせいじゃない

 戦うと決めたのはのぞみ本人だ

 どうしても自分の手で解決したかったんだろう」


「頑固なところありますよね、彼女」


「……俺も身に覚えがある

 同年代の女子よりも背が低かった頃、

 多くの連中が俺を見下し、無力な子供扱いしてきた

 まあ実際に無力だったが……とにかく周りには敵ばかりだった

 そういう連中は無視するのが一番なんだが、

 当時の俺はいちいち反応して突っかかっていったんだ……

 のぞみも今、そういう『ナメられたくない』状態にあるのだと思う」


「先輩が女子より小さかったって……

 ちょっと想像ができませんね」



2人の心配をよそに、審判が合図を送る。


「では……試合開始!!」


のぞみは対戦相手目がけて一気にダッシュ。


「ハイッ!」


パシ!


門倉の冷静な薙ぎ払いがのぞみの小さな体を捉える。

まずはこれで1点。


だがのぞみは持ち点を1つ奪われただけでは止まらず、

そのまま門倉の懐まで接近して短剣を振るった。


パシ!


3倍返しが決まった。


「ちょっと審判!!

 どこを見ているの!?」


「は?」


突然門倉選手から怒鳴られ、審判は思わず困惑する。

どちらも不正は行なっておらず、怪我をしたわけでもない。

試合を止めなければならないような出来事は何も起きていない。


「1本取ったら白線に戻って仕切り直しでしょう!?

 なんでそのまま続けてるの!? ルール理解してないの!?」


ああ、この子は馬鹿なんだ。

審判は理解した。


「試合続行だ」


「はあぁぁ!?」


パシ!


そして審判に抗議しているところへ追撃が入り、

門倉は合計で6点を失った。


「ちょっ、卑怯よ!!

 これだから肉食家は……!!」


審判に自分の主張が通らないと悟った門倉は抗議するのをやめ、

迫り来るのぞみから距離を取り、体勢を立て直した。



「門倉の抗議中、もっと攻撃しておけば……」

「ええ、せっかくのチャンスだったのに……」



パシ!パシ!パシ!


そこからはもう一方的だった。


パシ!パシ!パシ!パシ!パシ!


いくらのぞみが敵に近寄ろうともそれは叶わず、

門倉は俊敏な足捌きで相手を奔走し、

武器のリーチを最大限に活かしてポイントを稼いでいったのだ。



「……ポイントアウト!!

 勝者は門倉梨紗!!」



のぞみの初試合はわずか3分で終了してしまった。

相手に2発当てることはできたものの、

それは門倉が油断してくれたおかげである。

そんな相手に実力で負けてしまった。

なんと屈辱的な結果であろうか。


「あなたの敗因はたった1つ……

 それは、肉を食べていたからよ!」


「ウザい……」






翌日、門倉は再び青コーナーに立っていた。

赤コーナーにいるのは4組の高崎亞里亞。

昨日成敗した肉食家、立花希望の友人だ。

仇討ちのつもりなのだろうが、彼女に勝ち目は無い。


門倉は昨日の試合後に生徒手帳でルールを確認し、

『1本取っても白線に戻らなくてもいい』と学習したのだ。

相手の装備は立花希望と同じくダガー&シールド。

それなら昨日と同じやり方で勝てばいいだけだ。



「では……試合開始!!」



そして昨日と同じく、対戦相手がまっすぐ突っ込んでくる。


ああ、どうしてこう肉食家は単細胞なのか。


そんなことを思いながら門倉は最小限の動きで横にスッと避け、

高崎亞里亞からの攻撃をかわしたのだ。


ガシッ。


「えっ?」


門倉は両肩を掴まれていた。


彼女の回避は最小限すぎた。

手を伸ばせば届く距離に避けてしまったのである。


高崎亞里亞は思い切り背中をのけぞらせ……



「オラアァッ!!」



ガッ!!



門倉の顔面に、強烈な頭突きをお見舞いした。


「ぐぼあぁぁ!?」


その衝撃で門倉は2、3歩後退し、

鼻を押さえた手にヌルリとした液体が付着するのを感じ取る。


「しっ、審判!!

 今の反則!! 頭突き、頭!!」


「反則じゃない、試合続行だ」


やはり門倉は馬鹿であった。

せっかくルールを確認したのに、全部読まなかったのだ。

彼女は直接攻撃が認められていることを知らないのだ。


そして高崎亞里亞は右拳を振り上げ、

門倉は反射的に両手で顔面を防御した。


ドゴッ!!


「くぁぁぁぁぁ……!!」


だが、攻撃を受けたのは右の脇腹……肝臓打ち(リバーブロー)である。

門倉は生まれて初めて味わう鈍痛に、涎を垂らしながら床にうずくまる。


それで終わりではない。


門倉は髪を掴まれて顔を上げさせられ、

そこへ容赦の無い右ストレートが飛んできたのだ。


「ごはぁぁ!!」


門倉は再び顔面を押さえて床を転がる。



「……先輩、あそこまでやらせる必要はあったんですかね?」

「俺が教えたのはボディーの打ち方だけだ……お前も見ていただろう」

「じゃあ、あれはアリアの独断だと……?」

「そういうことだ」



アリアの猛攻は続く。


床でうずくまる門倉に対し、顔が空けば顔、腹が空けば腹、

といったように上下への攻撃を使い分け、着実に痛めつけていった。


そして気づけば試合の残り時間は10秒を切り……


5、4、3、2、1……



「そこまで!! 試合終了!!

 判定の結果、この試合の勝者は高崎亞里亞とする!!」



判定。

両選手共にポイントもライフも一切変動していない。

勝敗を分けたのは、持ち込んだ装備の有利不利の差だ。

リーチの長いポールは戦闘では安定するが判定で不利であり、

逆にダガーはリーチこそ短いが判定で有利である。

ただそれだけの差で決着がついたのだ。


「みんなあああ!!

 今の見てたでしょおおお!?

 肉を食べるとこんな風になっちゃうのおおお!!

 この原始人みたいに、乱暴になっちゃうのおおお!!

 文化人でありたいのなら、肉を食べちゃだめえええ!!」


門倉は涙ながらに訴えかけるが、観客たちは知っていた。

彼女は昨日、勝利祝いで特選カルビ丼を食べていたという事実を。

個人戦績


立花 希望

1戦0勝1敗


門倉 梨紗

2戦1勝1敗


高崎 亞里亞

1戦1勝0敗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ