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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
61/150

5月前半

食堂で事件が起きたらしい。


門倉(かどくら)梨紗(りさ)という女子が突然、

のぞみの昼食を床にぶち撒けて台無しにしたようだ。


彼女の言い分では『肉を食べるのは野蛮な行為』だそうだが、

他の生徒も同じ場所で肉を食べていたというのに、

わざわざ一番体の小さいのぞみを狙い撃ちしたのだ。


なんとも許し難い。


「あ〜、先輩……

 お怒りはごもっともですが、

 この件の始末は私に任せていただけませんか?

 1年生同士の揉め事ですし、私もムカついてるんで」


「君がそう言うのなら任せるが、

 どうやって解決するつもりだ?

 話し合いでどうにかなる相手とは思えんが……」


俺は菜食主義そのものは否定しない。

何を食べ、何を食べないかは本人の好きにすればいい。

だが、それを他人に押しつけてくる連中とは相容れない。

門倉という女子はその典型だ。

奴らには話が通じないのだ。


「ほら、今月から対人戦が始まるじゃないですか

 そこでビシッと決めて、わからせてやるつもりです!」


「勝てる見込みはあるのか?」


「先輩がいるじゃないですか!」


ああ、そうだ。

俺は彼女の先輩だ。

しかも彼女は全面的に俺を信用してくれている。

全力で応えるしかない。この素晴らしい後輩からの信頼に。


「近接格闘訓練室へ移動しよう

 これからしばらく徹底的に接近戦の練習を行う

 防御は考えなくていい

 ひたすら攻撃力を上げるぞ」


「……はい!!」


狙うはノックアウト。

門倉に地獄の苦しみを味わわせてやる。



調べてみたところ、門倉の身長は157cm。

アリアより2cm高い。


「門倉の体重は非公開になっているが、

 相手は君より重そうか? 軽そうか?

 物理戦闘において体重は重要になる

 重量=パワーと言っても過言じゃない」


「あ、それなら全然平気ですよ

 あいつ肉食べてないんで、鶏ガラみたいな体型です

 筋力では完全に私が上回ってるでしょうね」


「それは心強いな

 だが、彼女は3組の生徒だ

 何かしらのスポーツで好成績を残しているはず

 そのあたりの情報は聞いていないか?」


「え、そういうクラス分けなんですか?

 ……いや〜、中学時代に何部だったかまでは知りませんねぇ」


「そうか、ではこちらで調べておく

 とりあえずミット打ちを始めよう

 狙うは肝臓と鳩尾(みぞおち)

 執拗なボディーで相手を苦しめてやれ」


「はい!!」




翌朝、のぞみに怒られてしまった。


「あの、勝手にそういうことするのやめてくれません?

 これはわたしの問題なんで、わたし自身の手でどうにかしますよ

 そうやって『俺が守ってやる』的な態度が一番腹立つんですよね

 外野は引っ込んでてくれませんかねえ?」


「いや、今のお前では確実に負ける

 調べてみたところ、門倉は薙刀(なぎなた)の名手だそうだ

 まだ魔法が使えない現状でこのリーチ差はかなり大きい

 確実に仕留めたいのならアリアに任せるべきだ」


彼女の意見に反するのは心苦しい。

が、俺にも譲れない感情がある。


「門倉を実際にこの目で確かめてみたが、

 体重は30kg代後半といったところだろうな

 相当痩せ細ってはいるが、それでものぞみよりは腕力がある

 武道の経験者だし、技術面でも当然相手が上だろう

 その劣勢を覆せるのは“勢い”だ

 今のアリアは気迫が乗っているし、勝機は充分にある」


「勢いって……

 そんな根性論めいたこと言わないでくださいよ

 もっと理論的な人だと思ってたんですけどねえ

 やっぱり先輩はただの筋肉馬鹿だったんですね」


「いや、戦いにおいて勢いは重要だ

 生物同士、それも感情を持つ人間同士の戦いでは特にな

 一度でも有利な流れを作れれば、あとは大体そのまま勝てるものだ」


「賭けますか?」


「ん?」


「もしアリアがあの女に勝てなかったら、

 先輩は二度とわたしにつきまとわないでください

 それから頭を丸坊主にして、プールは毎日掃除してくださいね」


「わかった、いいだろう

 俺は必ずアリアを勝たせる

 そうしたら俺とつき合ってくれ」


「それはナシで!!」




その日の昼、門倉がまたのぞみに突っかかってきたらしい。

例によって他の生徒が近くで肉を食べているのにも関わらずだ。

今日は昼食を守り切れたそうだが、問題はそこではない。


「本当に許せませんよね……

 あんなに可愛いロリっ子を標的にするだなんて……

 のぞみにつきまとってもいいのは先輩だけなのに……」


「ああ、まったくな

 のぞみを困らせてもいいのは君と俺だけだ」


「いや、お前らの会話はおかしい」


アリアの拳をミットで受けながら、門倉への怒りを募らせる。

あんな鶏ガラ女は俺なら指1本で仕留められるが、

今回は目の前にいる後輩に任せると決めたのだ。

我慢だ、我慢。


のぞみは訓練室にあったダンベルを手に取り、

筋力を増強しようと必死に頑張っている。

あのダンベルは1.5kgしかないが、彼女には重そうだ。可愛い。


「ところで話題は全然変わるんですけど、

 4階になんか変な部屋がありますよね

 あそこは一体どういう教室なんですか?」


4階の変な部屋……ああ、あれか。


「ずっと昔、定員が300名だった頃は普通に使われていたそうだが、

 今ではただの空き教室だ

 人形だらけでさぞ不気味に思っただろうな……

 まあ、ただのいたずらだから深く考えなくてもいい」


結局リリコは自ら仕掛けたいたずらに恐怖し、

あの教室には今でも31体の日本人形が置かれたままだ。


「可愛い後輩が怖がっているようだし、あとで片付けておこう」


「あ、それなら私も手伝いますよ

 ついでに1人引き取ってもいいですかね?

 私、ドールに興味あるんで」


「ああ、それは助かる

 じゃあ練習が終わったら早速行こう」


「はい!」




練習後、俺たちは校舎前に集合した。

時刻は午後10時を回っており、辺りはほとんど真っ暗だ。

彼女たちからは(ほの)かに石鹸の香りが漂い、

風呂上がりなのだろうと容易に想像できて少し心臓が高鳴る。


「いやあ、こうして見ると夜の学校って独特の雰囲気がありますよね

 何か怪奇現象が起きてくれると楽しいんですが……

 私、今、結構ワクワクしてます」


ワクワクか……リリコはビクビクしていたな。


「なんでわたしまで……」


「怖いのか?

 手を繋いでやるぞ?」


「違います、やめてください

 わたしは回収作業を手伝うなんて言ってないじゃないですか

 勝手に巻き込まないでくださいよ……」


嫌ならついてこなければいいのに、なぜかのぞみまで来てくれた。

これもアリアが説得してくれたおかげだろう。

なんとも頼もしい協力者である。



懐中電灯の明かりを頼りに、暗い廊下を歩く。


「いや〜……いい雰囲気ですねえ!

 これでゾンビとか出てきてくれると嬉しいんですけどねえ!」


いつになくアリアのテンションが高い。

彼女はきっとホラー映画を楽しめるタイプなのだろう。


ゾンビ……その概念は知っているが、

俺にはどうも恐怖の対象として認識することができない。

死者が生者に襲い掛かってきたとして、それは脅威となり得るのか?


死んだ者が攻撃してくるにしても、それは寿命を迎えた高齢者や病人、

そして死ぬほどの怪我を負った者だけだろう。

物理的に考えて、生きている人間の方が圧倒的に有利なのだ。

グロテスクなビジュアル以外に怯える要素は存在しない。


「先輩、今度3人で映画鑑賞とかしてみませんか?

 是非おすすめしたい作品があるんですよ」


「ああ、是非」


「わたしを巻き込むな!!」



そして俺たちは例の人形部屋へとやってきた。


「また増えてるな……」


「えっ、増えてる!?

 どういうことですか!?」


「ああ、いや……

 以前に見た時は机と教壇を合わせて31体だけだったんだが、

 教室の後ろの方にもずらりと並んでいるだろう……」


「まるで授業参観ですね〜

 これは興味がそそられますよ!」


「張り切っているところ悪いが、さっさと片付けよう

 このままではいたずらの犯人をつけ上がらせるだけだ」


「あ、待ってください

 どうせならその犯人を炙り出してみませんか?」


「犯人を……

 ふむ、ではそうするか

 もうやめるように直接言ってやろう」


俺たちは部屋の隅にビデオカメラを仕掛け、夜の校舎を後にした。




翌日、また門倉がやらかしたらしい。

しかし今回はのぞみに被害は無い。


「あいつ、他人には肉を食うなって言ってる癖に、

 今日はガッツリと肉を食ってたんですよ

 なんでも“ヴィーガンチートデイ”だそうで、

 ヴィーガン活動を続けるための『正しい肉食』なんだとか

 ……わっけわからんわぁ!!」


バシンッ!


「おっ、いいパンチだ

 その調子、その調子!」


実はそれほどいいパンチではないが気迫は乗っているし、

ちゃんと急所を狙っていた。この殺意の高さこそが大事だ。


「そういえば食堂で先輩たちを見たことないですけど、

 いつもお昼ってどうしてるんですか?」


「ああ、学年ごとに時間割がズレていてな

 2年生は正午から通常授業を行なっているんだ

 だからそれ以前か、授業終了後に食事を取っている」


「へえ〜、なんでそんな変な時間割なんでしょうね?」


「訓練官不足を補うための苦肉の策だ

 訓練官になるには厳しい審査に合格する必要があるそうで、

 もしそれを乗り切ることができたとしても、

 想像以上の激務にやられて辞めてしまう人が多いらしい」


「どの業界も人手不足なんですねぇ」




練習後、ビデオカメラを回収しに夜の校舎へと足を運ぶ。


「また人形が増えた……

 ということは犯人が来たようだな」


「さ〜て、ちゃんと撮れてるといいんですけどね〜♪」


「また連れてこられた……」


とりあえずビデオを昨晩の時点まで巻き戻し、

そこから早送りしながら映像を確認する。


午前0時、変化無し。


午前1時、変化無し。


午前2時、変化無し。



それから15分後……変化あり。



「あっ、誰か来た!」


そこに映っていたのは身長180cm代の人物であり、

狭い肩幅や胸部の膨らみからして女性だろうと推測できる。

髪は前後共に非常に長く、角度的に顔は確認できない。

白いワンピースに裸足という変わった格好をしており、

深夜だというのに明かりを持っていないのが気にかかる。


その女性がカメラに顔を向けようとした瞬間──



ザザッ!



映像が乱れてしまったのだ。


「ん……故障か?

 まったく、肝心なところで……」


が、映像はすぐに復旧し、例の女性の姿は消えていた。

俺は再び女性が教室に入ってきた場面まで巻き戻し、

何か手がかりは無いかと再生と巻き戻しを繰り返す。

やはり映像が乱れる前後で人形の数が違う。


うーむ……。


「先輩…………バッチリ撮れてましたねえ!?

 これって間違いなく幽霊の仕業ですよねえ!?

 私たち、心霊現象の瞬間を捉えちゃいましたよ!!」


「幽霊?

 そんなものを信じているのか?

 俺には人間にしか見えないんだが……」


「いや、だって、こんなタイミング良く映像乱れますぅ!?

 なんか、ほら、電磁場的なアレですよ絶対!!」


「強力な磁石でも持っていたんじゃないか?

 そのうち君たちにも支給される道具だ

 ……しかし、こんなに背の高い女性に心当たりが無いな

 おそらく学園職員の誰かだろう」


「あ、先輩はホラー映画を楽しめないタイプなんですね」


その時、俺は後ろから袖を引っ張られた。


「あの、先輩……

 もう帰りましょう

 わたし、眠いんで……」


見ると、のぞみは全身をガクガクと震わせている。


「怖いのか?

 抱き締めてやろうか?」


「いえ、怖いとかじゃないです

 わたしは眠くなると体が震える体質なんです

 ドサクサに紛れてセクハラしようとしないでください」


そんな体質は聞いたことが無い。

強がっているのがバレバレだ。可愛い。


「……まあ、今日はこれで引き上げよう

 次はこの教室で一晩張り込んでみるか」


「張り込み……!

 それは楽しそうですねえ!」


「わたしは絶対に参加しませんよ!!」

基本情報

氏名:高崎 亞里亞 (たかさき ありあ)

性別:女

サイズ:F

年齢:15歳 (2月22日生まれ)

身長:155cm

体重:48kg

血液型:A型

アルカナ:恋人

属性:炎

武器:レンタルメイス (槌)

防具:レンタルシールド (盾)


能力評価 (7段階)

P:3

S:4

T:3

F:4

C:1

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