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進め!魔法学園  作者: 木こる
2年目
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出会いの季節

グリムはさいたま市の中学校を訪問していた。

来年度に入学する期待の新人を発掘するためだ。


「これから君たちの魔力を確認するから、目を瞑って心を無にしてくれ

 もし魔法使いの素質がある者がいればこの水晶が反応を示してくれる」


まあ嘘だが、それっぽい雰囲気を演出せねばならない。

グリムはインチキ水晶玉の中に紫色の霧を発生させ、

教室を歩き回って中学生1人1人の前にそれを突き出した。


「うおぉ、紫のモヤモヤ……これが魔法かぁ」


「こら、目を瞑ってくれと言っただろ?

 雑念が混じっていると、ちゃんと測れないんだ」


まあ、それも嘘だ。

水晶玉は囮で、本当は隠し持った測定器で全員の魔力を記録している。


(このクラスにも珍しい適性を持ってる生徒はいなかったな……)


これまでに合計で100人以上の中学生がリストアップされているが、

そのほとんどは少し高めの基礎魔力を持っているだけの生徒であり、

今のところ天才は1人も発掘できず、回復魔法に適性を持っている者は

2人しか見つかっていない状況だ。



結局、この中学校も不作だった。

とりあえず基礎魔力の高い生徒にチェックを入れておこう。


「先輩!

 ウチって魔法の才能あるんすか?」


校舎を出ようとした時、巨乳の少女から話しかけられた。

彼女には高音凛々子と同じ程度の膨らみがあり、

アイドル並みのルックスをしているので強く印象に残っていた。


「すまないが、それは答えられない規則なんだ

 君たちの人生を大きく左右する情報だからね

 8月になっても通知が来なかったら諦めてくれ」


そう、諦めるしかない。

この美少女を入学させてやりたいが、彼女には魔力が無い。

一般入試を合格した者は1人いるが、あれは例外だ。


「え〜、教えてくださいよ〜

 教えてくれたらおっぱい触らせてあげますから〜」


「あ、じゃあ教える!

 残念ながら君には魔力が無い!」


規則よりおっぱい。

彼もまた、10代の男子であった。


「わはははは!

 速攻で答えた〜!

 先輩必死すぎぃ〜!

 彼女いないんすか〜?」


「ああ、いないぞ

 じゃあどこか2人きりになれる場所へ……」


「あ、待ってください

 実はウチ、能力者じゃないこと最初から知ってたんすよね〜

 ここ卒業して北日本に通ってる先輩から測ってもらったんで」


「そうなのか

 でも俺は教えたんだから、約束を守ってもらうぞ」


「どうしよっかなー

 規則破ったこと、誰かに喋っちゃおっかなー」


「くっ……!

 それは勘弁してくれ……」


弄ばれている。




放課後、彼女が案内したい場所があると言ってきたので、

断る権利の無いグリムは流されるままについていった。


平塚(ひらつか)(あや)

なかなか押しの強い子だ。

モテるんだろうなあ。

きっと彼氏いるよなあ。


「はい、到着!」


「ん、ここは……“ティルナノーグ大宮”?

 テントが一杯あるけど、キャンプ場か何かか?」


「え、先輩マジっすか?

 埼玉の冒険者なのに知らないんすか?

 ここは高齢冒険者たちが共同生活を営む場所っすよ

 いつか先輩もお世話になるかもしれないんで、

 覚えといた方がいいっすねぇ」


「へえ、そんな場所があったんだな

 ってか高齢冒険者ねえ……

 30歳辺りで魔法使えなくなるって聞いてるけど、

 それ以降も冒険者続けてるなんてすごいな

 よっぽど正義感の強い人たちなんだろう」


「んー、それも教わってないんすか?

 ここの人たちは時代の被害者なんすよ

 昔、平輪党っていう悪の組織が政権を握っちゃった時、

 ひたすら冒険者に不利な法案をバンバン通しまくって、

 冒険者以外の仕事に就けなくなった人が大勢生み出されたんす」


「それがこの場所の住民ってわけか

 ……平輪党なら“万年野党”くらいの認識はあるけど、

 与党になったことなんてあったんだな」


「魔法学園じゃそういう授業やらないんすか?

 あいつらは冒険者の敵だし、マジで潰すべき存在っすよ

 国際冒険者連盟から勝手に脱退した挙句、

 日本冒険者協会とかいう天下り組織を発足したり、

 魔物の人権を守る会とかいうカルト集団を作ったり……」


「そりゃマジで害悪な存在だな……

 たぶんそういうのはこれから教わるんだと思う

 しかし、君は随分と詳しいようだな

 北日本の先輩から聞いたのか?

 それとも身内に冒険者がいるとかか?」


「いや〜、ウチはこの区域のすぐ隣に住んでまして、

 週末はよく炊き出しとか手伝ってるんすよ

 なんで、現場のオッチャンたちから色々と聞きました」


炊き出しとかする子なんだ。

偉いなあ。



それにしても爺さん婆さんばかりだ。

まあ高齢冒険者の拠り所なのだから当然だが、

彼らが戦いを強いられている現実を目の当たりにして驚きを禁じ得ない。


「おや、彩ちゃん

 今日はお友達を連れてきたんだね

 かなり背が高い……って、男か!?

 髪長いし、細っこいからてっきり女かと……」


「あはは、ウチも最初はどっちかわかんなかったっす

 この人は魔法学園から新人探しの仕事で来た栗林さんです」


「あ、どうも」


「へえ、魔法学園の生徒さんか

 じゃあひょっとすると、あいつらの知り合いかもな」


「え、あいつら……?」


「あっ、ちょっと待ってオッチャン!

 ウチの予想じゃきっと知り合いだと思うんで、

 感動の再会のために秘密にしておきたいな〜っと」


俺の知り合いかもしれない奴……誰だろう。



そして案内されたテントに、そいつらは居た。

彼女の予想は見事に的中しており、非常に懐かしい顔ぶれだ。

だが、感動の再会とは言えない。

そいつらとは最後まで関係を修復できずに自然消滅してしまった仲だ。


「え、まさか……グリム!?」

「どうしてお前がここに!?」


「丸山、向井……

 俺は今、新人探しの任務で各地の中学校を回ってるんだ

 お前たちこそ、どうしてこんな所にいるんだ?

 ここは高齢冒険者用の居住地なんだろ?」


「ああ、それが……

 俺たちは退学後に新宿で活動してたんだけどさ、

 そこで不良冒険者グループに全財産奪われちゃって……

 警察に行っても『冒険者同士の揉め事は訓練の一環』

 ってことで全然相手にしてくれなかったんだよなあ」


「それでこれからどうしようかと2人で途方に暮れてたら、

 ここの住民である入間(いるま)さんに運良く拾われたんだ

 みんないい人たちばかりで本当によかった……」


「そんなことがあったのか……

 家族を頼るという選択肢は無かったのか?」


「ん〜、いや〜……

 実は俺たち、魔法学園入学前に施設を卒業してるからさ

 帰る家なんて無いんだよな」


「こういう話は重くなるから隠しておきたかったんだけど、

 俺たちは同じ児童養護施設で育った仲なんだ」


「施設……

 へえ、お前らもそうだったのか

 俺は5年いたぞ」


「「 えっ!? 」」


「……なんだ、その共通点をもっと早くに知っていれば、

 クソ親トークとかで盛り上がれたかもしれなかったのにな」


「クソ親……共通点……」

「お前も俺たちと同じだったのか……」


少し気まずい沈黙が訪れる。


が。


「あ〜、ウチが補足しときますね

 魔法学園から入学の打診をされる生徒って、

 悲惨な経験をしたことがある子が選ばれやすいそうっすよ?

 そういう子は普通に育った子よりも戦う覚悟があるそうです

 もちろん全員がそうとは言い切れませんが、

 統計的にはそんな傾向らしいっす」


「へえ……

 言われてみれば幼少期に親を失ってたり、

 親に捨てられたりって奴ばっかだな

 俺の場合はよくある連れ子への虐待だけど、お前らは?」


「えっ……俺の両親は大麻所持で捕まって……」

「母親がいつも違う男を家に連れ込んで、よく夜中に追い出されて……」


「あっ、ウチはお父さんが死んでます!

 消防士だったんすけどね、消化活動中に『まだ中に子供が』

 って嘘に騙されて、そのまま帰らぬ人になっちゃいました!」


俺たちは、なんて暗い話をしているんだろう。


だが、そんな話題でもなぜだか楽しいと思えた。

これを機に、こいつらとも再び仲良くなれた気がする。


そのきっかけをくれた彩ちゃんには感謝している。

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