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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
55/150

3月下旬

「一条刹那

 黒岩真白

 進道千里

 杉田雪

 高音凛々子

 玉置沙織

 十坂勝

 並木美奈

 野村勇気

 松本静香

 正堂正宗

 森川早苗

 甲斐晃

 栗林努

 小中大


 ……以上15名の進級を、ここに承認する!!」



無慈悲な発表が行われた。


残りの者は3名を除いて全員が進級試験を突破できたというのに、

彼らは期末テストで赤点を取って進級を果たせなかったのだ。


それはしょうがない。

彼ら自身の努力不足が招いた結果だ。

が、ひとつ納得できない。


玉置沙織。


こいつは進級試験に2回落ちている。

学習意欲は皆無であり、他の生徒の士気を下げる存在だ。

そして平気で人に銃口を向けることができる危険人物でもある。


しかし学園長は彼女の能力を数字だけで高く評価したらしく、

その一存で当関東魔法学園に残留してもいいと決定したのだ。



「俺のデータによると、

 今までの進級者は毎年5人程度しかいなかったようだ」


「俺の分析では、

 今年は大豊作の年だったとみて間違いないだろう」


田辺渡辺……。

彼らはお笑い芸人の道を目指すと言って学園を去った。



カルマ、カムイ、アリス。

彼らはグリムの元オタク仲間であったが、

とうとう関係を修復することができずに別れの時を迎えた。


「俺たちはこれからも3人で頑張っていくよ」

「こうしてちゃんとプロ免許も取得したしな!」

「私は一般の高校に編入するね」


「「 ええっ!? 」」


「だって、中卒なんて恥ずかしいじゃん……

 私はまともな人生を歩みたいし、

 冒険者なんて底辺の職業にしがみつく理由なんて無いよ」


「アリス、お前……免許取らなかったの!?」

「『冒険者ってすごい』って褒めてたじゃん!」


「褒めただけだよ?

 ……あ、もしかして勘違いしちゃった?

 ごめんね〜

 『底辺の職業で頑張ってる人ってすごい』って意味だったんだけど、

 そっかぁ、君たちは勘違いしちゃったかあ……

 これから大変な人生を送るんだろうけど、頑張ってね〜!」


カルマとカムイは冒険者として、

アリスは一般人として生きていくようだ。



「私も普通の女の子に戻ります!」


「昭和のアイドルかよ!」

「“俺たちの相川さん”に戻れると思うなよ!」

「チャラ男になびいてた癖に清楚ぶりやがって!」


あちらでも何か揉めているようだ。



「くそっ、英語さえ落とさなければ……!」

「こっちは2教科だった……ハア……」

「せっかくここまで頑張ってきたのにねえ」

「でもまあ、楽しい1年だったよ」

「この学園に未練は無い……と言えば、嘘になるな」


学友たちが去っていく。

全員と仲良くなれたわけではないが、ここまで共に歩んできた仲だ。

引き止めたい衝動に駆られるが、学園の方針は『去る者追わず』だ。



「ちょっ……ぼくの部屋の荷物!!

 勝手に引っ張り出さないでくださいよ〜!!

 ああっ!! 腹筋マシン投げないで!!

 懸垂マシン壊さないでくださいってば!!」


新しく3年生になる男子4人が谷口の部屋を整理している。

どうやら退学決定後から一切何もしてこなかったようだ。

奴はおそらく、このまま堂々と居座るつもりだったのだろう。

さっさと消えてほしい。


2学期までは上からの命令で奴の進級ノルマを手伝わされていたが、

今学期にはそれが無いまま終了した。

学園長が心変わりした理由は気になるが、もう忘れよう。






卒業式が終わり、俺は先輩方に挨拶回りをした。

彼らとは時間割の都合上、あまり交流することができなかった。

しかしそれでも俺たちを見守ってくれた存在には変わりない。

感謝の言葉を伝えるチャンスだ。


「ったく、退学してった奴らから『気合い注入してください』

 と言われたからとりあえずビンタしてやったけど……

 あいつら一体、何が楽しいんだ?」


「ふふふ、みんなドMだったのよ

 私だったら他のモノを注入してほしいと所望したでしょうね」


須藤先輩と後藤先輩。

とりあえず進学組の3人は全員、魔法大学に合格したようで安心だ。


「甲斐、俺が感謝してたって小中に伝えといてくれ

 あいつにはトーナメントで稼がせてもらったからな」


「ご自身で伝えた方がヒロシも喜ぶんじゃないですか?」


「いやあ、そうしようとは思ったんだが……

 あいつは今、阿藤を宥めるのに必死だからな……」


阿藤先輩は案の定テストで赤点を取り、卒業できなかった。

更に、珍しい才能があるにも関わらず留年を認められず、

退学処分を言い渡されて混乱していた。


「彼女と一緒に卒業できなくて残念だわ

 でもまあ、学園の所有物を無断で錬金術に使ってたんじゃあね……」


留年を認められなかった原因はそれだ。


「さて、そんじゃ俺たちはそろそろ行くぜ

 予約の時間にはまだ早いが、遅れたくはないからな」


「ホテルの予約よ」


「ちげえよ!!」


彼らは打ち上げ会場に向かっていった。




タワーへやってきた。

来月から俺たちはここで生活することになる。

男子寮の和室のように狭いといいのだが……。


「あぁ、今年も無事にみんなの卒業を見送ることができたわ……!」


「稔さん……

 感動してる場合じゃないでしょう!

 それは先生だけに許された台詞ですよ!

 あなたは生徒なんです!

 来年度からは高校6年生なんです!」


不破先輩は今年もだめだったようだ。

というかもう1人卒業に失敗しているのだが、

その件は聞かされていないのだろうか……。


「はあ……こんな調子じゃ、いつまで経っても卒業できませんよ?

 ここにはなんでも揃っていて生活に不便は無いのでしょうが、

 それがいつまでも続くとは思わない方が身のためです

 僕やアキラ君のように、あなたを怖がらない後輩は貴重なんです

 いつか必ず孤独になる日が来るでしょう」


「あぐぅ!

 1人になるのは嫌……かも……」


彼女は『孤独』という単語に強く反応を示した。

まあ、人懐っこい印象の人だしな……。

本当はもっと多くの人間と触れ合いたいのだろう。

だが彼女は常に暴力的に乱れた魔力を垂れ流しており、

それが他の魔法能力者に恐怖を植え付けてしまうらしい。


「……いっそのこと不破先輩をここから出して、

 生徒たちに慣れてもらうというのはどうですか?」


我ながら良い案だと思った。


「いや、それは稔さんが1年生の時に試したそうだけど、

 1週間で30人が退学しちゃったから取りやめたんだ」


即却下された。


「不破先輩を怖がらなそうな友人がいるのですが……」


「ああ、ヒロシ君かい?

 僕も彼には期待してたんだけどねぇ

 テストの結果、不合格だったよ」


「テスト、ですか……?」


「ああ、実は君の他にも何人か生徒会室に呼び出していてね

 稔さんと一緒にモニターを観ながら待機してたんだけど、

 みんな廊下で気絶しちゃって大変だったなあ……

 とりあえず彼らには貧血だろうと説明しておいたよ」


色々と試していたんだな……。


「会長……いえ、天神先輩はなぜ平気でいられるのですか?

 何か特別な才能の持ち主であるということでしょうか?」


「いやいや、僕も最初のうちは何度も気絶したよ

 でも稔さんを1人にさせるのはどうしても嫌でね

 先生方の反対を押し切って通い続けているうちに、

 いつのまにか平気になっていった感じかなぁ」


なるほど。

彼が恐怖を克服できたのには理由がある。

それを他の者に押しつけるわけにはいかない。


愛の為せる業なのだから。




その後、新生徒会長から発表があった。

上級生の生活拠点であるタワーの部屋割りに関する内容だ。

新2年生たちは旧3年生のいなくなった6階に住む予定だったが、

今年は15人も進級したため、1フロアだけでは足りなくなったのだ。


「──アタシの権限で女子は5階、男子は6階ってことに決定したから!

 んで、男は合計12人だから2人は諦めてちょうだいね!

 誰かアタシの采配に文句ある奴いるぅ!?」


新生徒会長……工藤(はあと)先輩の独断により、そうなってしまった。


「あ、あの……

 5階には2つ空きがありますよね?

 そこに住まわせてもいいのでは……?」


「却下!

 あのね、松本ちゃん……

 男を信用しちゃダメよ?

 アタシ、ダンジョンの中で襲われそうになったからね?

 今までアタシを女扱いしてこなかった連中が全員よ?

 あいつらは基本ケダモノなの それは覚えておいて」


心当たりのある4人が顔を背ける。



そして、男子同士による話し合いが行われた。

議題はもちろん『誰がタワーでの生活を諦めるのか』だ。

新入生が退学すれば男子寮に空きが出来るが、

それまでは他の場所でやり過ごすことになる。


「んじゃ俺が辞退してやるよ」


これは荒れるかと思われた矢先、早速1人が決断した。


「え、いいのかい十坂君

 ここの設備は男子寮とは比べ物にならないほど充実しているらしいよ?

 各部屋に風呂があるし、洗濯機や乾燥機も……」


「おい、引き止めんなって正堂!

 せっかく自分から諦めてくれんだから、ほっとけって!

 とにかくこれで1人減ったな! あともう1人名乗り出ろや!」


「宮本先輩……

 こうなった原因を作った先輩方が辞退したらどうです?」


「いやいや、後輩のお前らが諦めるべきだろ?

 こういうのは年功序列なんだよ!

 俺たちは最上級生として、ここでの生活を手放すつもりは無いぜ!」


なんて横暴な……。


しかし、十坂が名乗り出るとは意外…………でもないか?

あいつは早朝と放課後に松本精肉店でバイトしているわけだし、

むしろ学園の外に住んだ方が移動時間を短縮できて都合が良い。



十坂以外には誰も名乗り出ない。

みんなプライベートな空間が欲しいのだから当然だ。


「部屋の中を見せてもらってもいいですか?

 とりあえず間取りを確認しておきたいので」


俺の提案に先輩方は頷き、去年は使われなかった部屋を公開した。


うーん……広い。

最低でも男子寮の3倍以上はある。

たしかに設備は充実しているが、なかなか居心地が悪そうだ。

こうなったら俺が……


「センリなら女子フロアに住まわせてもらえるんじゃね?

 普段から女子制服着てるわけだしさあ!」

「あぁん!?

 おれが女子制服着てんのは魔法防御力のためだっつうの!!

 決して女装趣味があるとか、そういうわけじゃねえぞ!?」


「ロン毛のてめえが諦めたらどうだ?

 女より長く伸ばしやがって……気持ち悪りいんだよ!」

「俺に負けた奴が偉そうに……

 お前を慕ってくれる女がたくさんいるんだろ?

 そのビッチ共の家に泊めてもらえばいいじゃないか」


「正堂君には和室が似合うと思うけどなぁ」

「野村君には公園がお似合いだよ」


……彼らは勝手に揉めていた。



不毛な話し合いの末、俺がタワー暮らしを諦める運びとなった。

これで問題解決だ。


「悪いな、アキラ

 でも本当にいいのか?

 ルームシェアするって手も……」


「いや、俺は狭い場所の方が落ち着くからな

 それになるべく1人で眠りたい

 とりあえず学園内に寝泊まりできそうな場所が無いか探してみる」


「そっかあ

 ……んじゃ、十坂はどうすんの?」


「ケッ、おめえにゃ関係ねえだろ

 自分の寝床くらい自分でどうにかするに決まってんだろ」


十坂はそう言い捨てて立ち去った。



そして俺は上の者と相談し、訓練棟の一室をあてがわれた。

そこは警備員さんの休憩所であり、主に仮眠を取るための空間だ。

休憩所なら他にもあるので遠慮無く使っていいと言われた。

なんともありがたい話である。


この部屋は程良く狭く、しかも個室のシャワー付きだ。

これならば快適な暮らしが望めるだろう。

それに訓練棟にあるので各種トレーニング室との距離が近く、

自主練を行うにはもってこいな環境だ。


素晴らしい場所だが、男子寮に空きが出たらここを離れなければならない。

そのことは常に頭に入れておこう。




俺の引っ越し作業はすぐに終わった。

移した荷物はここへ来た時と同じ、布団と食料だけだ。

今は掃除をしている。


立つ鳥跡を濁さず。


1年間お世話になった場所だ。

感謝の気持ちを込めて、丁寧に窓を拭く。

次の住人が気分良く1年を過ごせるように、

キッチンの油汚れを全て洗い落とす。


「よっ、アキラ!

 荷物の整理終わったのか?

 ……って、すっげえピカピカじゃん!

 あとで俺の部屋も掃除してくれよ!」


「ヒロシ、それは自分でやれ

 これは言わば、後輩への最初のプレゼントだ

 良い先輩だと思われたいのなら行動で示すべきだろう」


「そっか、先輩かあ……

 もう来週には2年生なんだよな俺たち……

 思えばあっという間の1年だったぜ」


「ああ、無事に進級できて何よりだ

 だがここで気を緩めるわけにはいかない

 正式な冒険者として学園の外でも活動するようになるし、

 後輩の護衛を任されるし、去年よりも確実に忙しくなるだろう」


「これからが本番ってわけか

 ……あっ

 俺、言ってみたい台詞があるんだけど」


「ん?

 なんだ、言ってみろ」



ヒロシは右拳を突き上げて叫んだ。



「──俺たちの戦いはこれからだ!!」

基本情報

氏名:玉置 沙織 (たまき さおり)

性別:女

サイズ:D

年齢:16歳 (2月1日生まれ)

身長:168cm

体重:42kg

血液型:O型

アルカナ:世界

属性:無

武器:なし


能力評価 (7段階)

P:4

S:1

T:10

F:10

C:10


登録魔法

・リアライズ

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