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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
54/150

谷口吉平

それは去年の3月、春休み中の出来事であった。

主任訓練官である内藤は警備室からの電話を受け取る。


『不審者を確保したのですが、

 どう対処いたしましょうか?』


「そいつの目的はなんだ?

 何か怪しい行動をしているのか?」


『あの、それが……

 どうやら彼は入学希望者のようです』


「入学希望って……いや、今はもう3月だぞ?

 一般入試は8月だし、とっくに手遅れだ」


『ええ、そうですよね

 ですが彼は何度説明しても理解できないようで……』


「……わかった、すぐそちらへ向かう」


内藤訓練官は警備室へと急行した。




そこにいたのは身長180cmを優に超える大柄な男性で、

顔つきを見るに年齢は自分と同じくらいだろう。

何かしらの事情で高校が決まらなかった中学生ならまだしも、

中年男性がこの時期に入学希望とか……意味がわからない。


「……それで、あんたの名前は?」


「谷口ですけど?」


「氏名を言え」


「しめい……?」


「……」


「……」


「……おい、ふざけるな

 フルネームを答えろを言ってるんだ

 それができないのなら身分証明書を提示しろ」


「いや、谷口(たにぐち)吉平(きっぺい)ですけど?」


「なんの目的でここに来た?」


「この学校に通いたいって、さっきから言ってるじゃないですか」


「もう定員に達しているから諦めろ」


「ていーん……?」


「それもわからないのか……

 とにかくお前は入学できない

 さっさと帰れ」


「いや、それじゃ困るんですけど?

 高校に通えなかったら、ぼく中卒になっちゃうじゃないですか

 そんな社会の底辺みたいな生き方はしたくないんですよねえ」


「中卒、だと……?」


内藤訓練官は警備員に視線を送った。

意図を察した警備員は速やかに『谷口吉平』の情報を突き止めた。



「……どうやら彼は先日、都内の中学校を卒業した生徒のようです」


満15歳。

とても信じられない。

どう見てもくたびれた中年男性だ。


それはさておき、尋問は続く。


「どうしてこの学園に通いたいんだ?」


「え、だって、ここなら誰でも入れるんでしょ?

 本当はもっと偏差値の高いとこに行きたかったんですけどね

 もう締切が過ぎちゃってたんだから、しょうがないじゃないですか」


「締切が過ぎるまで、お前は何をしていたんだ?

 高校を選ぶ時間なら充分にあっただろう」


「それは……色々ですよ

 ぼくは忙しい身なんで」


「もっと具体的に答えろ

 他の中学生たちが自分の進路に対して真剣に向き合っている中、

 お前は一体、何をしていたせいで忙しかったと言うんだ?」


「それは、ほら…………色々ですよ」



ぶち殺すぞ。



内藤訓練官はその衝動を抑え、尋問を続けた。


「ここがどういう場所だか知っているのか?

 普通の高校とは全く違う環境なんだぞ?」


「それくらい知ってるに決まってるじゃないですか〜

 魔法の学校なんでしょ? 馬鹿にしないでくださいよ」


「殺すぞ……」


関東魔法学園。

そこは全国5ヶ所に点在する魔法学園のうちの1つであり、

世界で初めて最難関ダンジョンを攻略した冒険者を輩出した学園でもある。

他の魔法学園よりも天才の育成に力を注いでいるのが特徴で、

言わばここはエリート中のエリートを育成する機関なのだ。

そんな選ばれし者のために用意された場所に、彼は似つかわしくない。


それと、どうも彼はここを『誰でも入学可能』と勘違いしている。

有能な素質を持つ魔法能力者だと判定されればそれも可能だが、

その時期はもうとっくに過ぎている。

万が一そういう素質の持ち主だとしても、関東(うち)では受け入れられない。

もし強引にねじ込むにしても他の学園に飛ばすしかない。

具体的に言えば、生徒数だけは無駄に多い東京魔法学園に。



谷口に気づかれないように基礎魔力を計測してみると……66。

平均以下の数値だし、こんな奴を東京に押しつけるのは迷惑だろう。


やっぱり追い返そう。


「……東京都文京区にある“冒険者登録局”で、

 “冒険者登録証”は発行してもらったのか?」


「そんなの当たり前じゃないですか」


「それを見せてみろ」


「いや、今日は家に忘れてきたので……」


「ほう、それはおかしな話だな

 “冒険者登録局”なんて施設は存在しないし、

 “冒険者登録証”なんてのも俺の出まかせなんだが……

 よくもまあ、いとも簡単に引っかかってくれたものだな」


「ええっ!?

 ぼくを騙したんですか!?」


「そうだよ、間抜けめ

 お前は不合格だ

 とにかくもう帰れ

 二度とその面を見せるな」






翌日、内藤訓練官は自分の耳を疑った。


「えっ……何を仰っているんですか学園長!!

 気は確かですか!?

 あれの入学を認めるだなんて……!!

 いや、それよりも山口を東京魔法学園に飛ばすだなんて……!!」


なんと、学園長は不審者である谷口吉平を

当学園の生徒として迎え入れようと決断したのだ。


しかもそれだけではない。


有望株の山口(やまぐち)将太(しょうた)と引き換えにしてまで、

この関東魔法学園で谷口を受け入れようというのだ。


「ええい、うるさい!!

 これはもう、この私が決定したことだ!!

 貴様らに反論する権利は無い!!

 おとなしく決定に従え!!」


世の中には権力を持たせてはいけない人種がいる。


クズだ。

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