表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
53/150

3月中旬

「エクリプス!」

第4層に到着後、松本はまず全員の防御力を強化した。

しかも仲間だけでなく、同行者の津田訓練官と須藤先輩にもだ。


「リフレクト!」

更にその効果を増幅し、より強固な守りへと進化する。

松本静香にはこれがある。彼女は1人でこのコンボが可能なのだ。


「おいおい、どこにも敵の姿なんて見えないじゃないか

 そんなに身構える必要は無いから安心してくれたまえ

 なんたって今回はこの僕がパーティーにいるのだからね」


「はは、久我君はわかってないなあ

 エクリプスはただ防御力を強化するだけじゃなく、

 魔物に気づかれにくくする効果があるんだよ

 彼女は不要な戦闘を避けようと先手を打ったのさ

 言わば『エンカウント率半減』みたいなもんかな

 いや、リフレクトでその効果を増幅したということは……

 今はほぼ『エンカウント無し』の状態だろうね」


「そ、そんなの知っていたよ正堂君

 それを踏まえた上での発言だったのだがね……!」


「……と言えば、嘘になるな」


「ひぃっ!」


十坂に睨まれ、久我は黙った。




今回の進級試験の挑戦パーティーは支援役(サポート)の松本静香がリーダーを務め、

防御役(タンク)は正堂正宗と森川早苗、攻撃役(アタッカー)は十坂勝と久我龍一という構成である。


「しかし、オメーらそんな軽装備で壁役を務めるつもりか?

 本当に任せて大丈夫なんだろうなあ?」


これまでのパーティーの前衛は大体重装備に身を包んでいたのだが、

正堂は盾を持たず、足軽のような和風の軽鎧を纏っている。

早苗に至ってはまるで舞踏会のドレスのようであり、

とてもこれから戦地に赴く者の姿とは思えない。


「何度も映像を見て行動パターンは覚えたからね

 今回は回避重視でやらせてもらうよ

 あ、そうそう

 僕にとってはこの剣が盾代わりなんだ

 いざとなればこれで攻撃を防ぐから大丈夫だよ」


そう言い、全長2mほどの刀を軽々と振り回す。

これなら少しは安心できそうだ。


「私と正堂君が標的を挟み撃ちにしてヘイトを分散させる作戦なの

 だから2人とも俊敏に動けた方がいいよねって打ち合わせて……

 一応ドレス装備は見た目以上に防御力があるから安心してほしい

 それと、これには消費MPを抑える特殊効果が付いてるから、

 第二形態での拘束時間を延長できるはず」


バルログには凍結が通じない。

早苗が付与できる状態異常は他に『バインド』がある。

それを前半戦から使い続ければMPが持たないだろう。

使うなら後半。敵が飛行モードに入ってからだ。


「森川さん、ポーションならたくさん持ってきてるよ?

 残りMPは気にせず、どんどん魔法使ってもいいんじゃないかな?」


クーラーボックスの中にはぎっしりと詰まったポーションが。

だが、早苗はあまりいい顔をしない。


「飲める量には限界があるからね……」


早苗は以前ダンジョン内で猫缶を食べて腹を壊した経験があり、

トイレが近くなるような飲食はしないように心掛けていた。




しばらく標的を探し回っていると別の魔物を発見した。

ストーンメイジが3体、通路を徘徊している。


「チッ、邪魔な位置にいやがんな……

 しゃあねえ、ぶっ潰すしかねえな」


十坂はレンタルメイスを手に取った。

彼の武器は特殊な槍なのだが、この階層には打撃有効な敵が多いので

サブウェポンとして持ってきておいたのだ。


「じゃあ僕が囮になるから、

 久我君はマジックシールドで援護してくれ」


「それより今のうちに奇襲を仕掛けるってのはどうかな?

 僕ならこの距離からあいつらをまとめて倒せる自信があるよ」


この久我という男、実際にスペックは高いのだ。

フェンシングで培った剣技、特に刺突技術に長けており、

肉体派ばかりの1年3組の中ではトップレベルの魔法制御力を持つ。


その高スペックなステータスを台無しにする要素が1つ。


「ライジングフォース!」


「ああっ!」

「何してんだアホ!」

「くそ、せっかくのチャンスが……!」

「敵に気づかれちゃったよ!」


彼の使用した魔法『ライジングフォース』は、

攻撃力を強化すると同時にエンカウント率を上昇させる魔法である。

しかも『リフレクト』でその効果が増幅されてしまい、

周囲にいたストーンメイジ以外の敵にも発見されてしまったのだ。


『不要な戦闘は避けよう』というリーダーの方針に反する行い。


そう、久我君は馬鹿だったのです。




30分後、不要な戦闘を終えた一行は疲弊していた。


「あぁぁ、僕の剣がぁぁ……!」

 買ってからまだ3ヶ月なのにぃぃ……!」


そして、事態を悪化させた張本人は折れた剣を前に嘆いていた。

レンタル品ではないので、学園が弁償してくれるわけではない。


「ったりめーだろうが!

 石人形相手に刃物が通じるかよ!

 ……なあ松本、この馬鹿はここに置いてこうぜ

 役立たずどころか完全に足手まといだ

 こういう奴は必ずまた何かやらかすぞ」


「いや、置いていくのはちょっと……

 十坂君、あまり彼を責めないであげてね

 こうなったのはリーダーである私の責任だよ

 久我君がこういう人だと見抜けなかった私が悪いの」


「んなわけあるか

 こいつは八百長の台本破ってボコボコにされたアホだぞ?

 ……ああ、もしかして今回もそういうことか?

 打ち合わせ通りに動かなかった結果がこれかァ!?」


「ひぃっ!」


「十坂君、落ち着いてくれ

 彼は打ち合わせには参加しなかったんだ

 だからそれを責めるのはお門違いというものだよ」


「ァアン!?

 おい久我、てめえ……打ち合わせに参加しなかったのかァ!?

 やる気あんのかテメーはよォ!? 舐めてんじゃねえぞコラァ!?」


「ひぃぃ……っ!」


「十坂君も参加しなかったよね……?」




そして彼らは東の花畑で少し休憩した後、

不要な戦闘を避けて北の広間へとやってきた。


バルログ。


進級試験の討伐対象であるその魔物は仰向けになり、

腹に手を当てたままじっとしている。

それはまるで昼寝中の熊のようであり、

どことなくほのぼのとする絵面であった。


「なんかちょっと可愛いかも……」

「あんな感じで待機してるんだな……」

「エンカウント無しの状態だと珍しい光景が見れるねえ」


とりあえず一行は10分ほど撮影した後、戦闘を開始した。


だが、当初の作戦通りにはいかなかった。



リーダーの松本は、ここで大胆な作戦変更を行なったのだ。



「ライジングフォース! リフレクト!」

松本は久我の攻撃力を強化し、その効果を増幅させた。

それと同時に久我は魔物から狙われる確率が急上昇し、

彼は今、“美味しい餌”……絶好の囮役として機能していた。


「ひえぇぇぇっ……!!」


久我は狭い通路の中で1人、怯えていた。

その通路は、かの有名な“巨乳には通れない通路”である。

そこならば魔物が侵入することはできず、攻撃が届かない。


それがたとえ、バルログの攻撃であっても……!


(行け行け行けぇ……!!)

(ツンツンツン……っ!!)

(勝てればそれで良し!!)


バルログはいくら背後から攻撃されようとも意に介さず、

ただひたすら通路の中にいる久我だけを狙い続けている。


久我が防御役(タンク)、松本が支援役(サポート)、残り3人が攻撃役(アタッカー)

これならば全員が活躍し、1人残らず進級試験に合格できる。


そしてその目論見は見事に大成功を収め、

松本静香は仲間たちを勝利に導いたのだ──!






──最終パーティー……一度は不合格になった3名を含む、

最後の6名が進級試験に挑もうとしていた。


黒岩真白。防御役(タンク)回復役(ヒーラー)

進道千里。強化(バフ)、範囲攻撃、MP供給、避雷針など様々な役割(ロール)を兼任。

高音凛々子。ザコ戦では両手剣or大槌、ボス戦ではファイヤーボール。

玉置沙織。実体化した武器による遠距離物理攻撃専門。

東雲ありす。役立たず。

谷口吉平。役立たず。


「よし、谷口は来てないな

 それじゃあ出発しよう」


リーダーは学園最強の魔法使い、センリ。

この面子だと彼以外の適任者がいないのは明白だ。



谷口はこの期に及んで進級試験に参加しなかった。

授業も訓練も補習も試験も、彼は何一つ参加してこなかった。


出席回数0。


彼はこの1年間、この魔法学園で何も学ばずに過ごしたのだ。

これからもきっと何も学習しないのだろうが、それが彼の選んだ道だ。




第2層にて、ローパーの触手がリリコ目掛けて襲い掛かる。


シュルル……パシッ!


だが、触手に捕まったのはましろであった。


「ら、らめえぇぇぇ!!」

「おい黒岩、いい加減それやめろ」


もう見慣れたいつもの光景。

最も魔物から狙われやすいリリコの身代わりとして、

ましろは自らローパーに捕まりに行ったのだ。


とりあえずリリコが触手をぶった斬ろうとするが、

ここでリーダーが待ったをかける。


「おい、東雲

 お前も一応はファイヤーストーム使えんだろ?

 試験官にアピールしたいなら今がチャンスだぞ

 どうせバルログ戦は高音が一撃で終わらせるだろうからな」


「え〜、無理!

 だって私ぃ、女の子だもん!」


「そうか、好きにしろ」


反論する気も起きない。

女だからなんだというのだ。

ここは戦場だ。男も女も関係無い。




第3層にて、玉置はお得意の回転式拳銃(リボルバー)を実体化させた。

落合訓練官は反射的に険しい表情になる。

だが、玉置が銃口を向ける先に味方はいない。

それでも跳弾による事故が発生する確率は存在する。


「おい、玉置

 お前は何をしようとしてるんだ?」


質問の答えによって判断しよう。


「え、何って……

 私も敵を倒しておこっかな〜、と思ったんで……」


玉置は何も理解していない。

この階層に物理攻撃が通用する魔物は存在しない。

やっぱりこいつも何も学ばずに1年を過ごしてきたクズだ。




そして第4層。


ましろは羽の装飾が施された大盾、『クロスロード』を渡された。

それはセンリが母から受け継いだ最高品質の防具であり、

この世に2つと無い、超レアアイテムであった。


「そんな貴重品をあたしが持っててもいいのかな……」


「何言ってんだよ

 盾ってのは前衛が使ってこそ価値があんだよ

 防御役(タンク)のお前が持つのがベストだろうが」


「うぅ、緊張するなぁ

 傷付けないように気をつけるね……」


「だから何言ってんだって

 本体が受けるはずの傷を請け負うのが盾の役目なんだよ

 今まで出番が無かったぶん、そいつにも仕事させてやれ」



しばらく進むと、通路にストーンナイトを発見。


「ライジングフォース!」

センリはましろを強化した。


「どすこーーーい!!」

ましろは盾を構えたまま突進し、次々と石人形を破壊してゆく。

元々の本体スペック+最高級の装備+強化魔法による相乗効果だ。


「おいセンリ、オレも強化してくれよ

 こいつを振り回すのには慣れてなくてよ」


リリコの手には、須藤先輩から借りた巨大なハンマーがあった。

どうも彼女は通常サイズの武器では満足できない性格らしい。


「お前を強化すんのはボス戦の時だけだ

 ただでさえお前の魔力は多くの敵を引き寄せてんだ

 これ以上強くしたら、おれたちは生きて帰れなくなるぞ」


魔力がありすぎるのも困り物である。



次の戦闘ではましろの強化を切り、

今度はセンリが防御役(タンク)を務めた。


「マジックアーマー!」

ここで初のお披露目となる補助魔法。

それは、何かしらの魔法を受けた際にMPを回復するというものだ。

今回のお相手は魔法行動しかしてこないストーンメイジ。

これにより、センリはMP使い放題の状態になる。


パン、パン!


ストーンメイジが放った薄紫色のエネルギーの塊がセンリに衝突する。

だが彼は敢えてその攻撃を避けず、全て受け止めていた。

もちろん道中で消耗したMPを回復するためだ。


「キュア! キュア!」

ましろはセンリの回復に努める。


「ソウルゲイン!」

回復に費やしたMPをましろに補充して永久機関が完成。


「ファイヤーボール!!」

リリコが敵を1匹排除。


「おい高音ぇ! 1匹は残しとけよ!

 全員のMPが満タンに近い状態で戦闘を終わらせたいからな!」


今の彼にとって、ストーンメイジは無限ポーションも同然であった。



そして、彼らは討伐対象のバルログと対峙した。


……のだが、特筆すべき事項は何も無い。


「ファイヤーボール!!」

予定通り、リリコが一撃で決めてくれたのだ。




「黒岩、進道、高音……

 以上3名を合格とする!」


「ええっ、また!? 勘弁してよもお〜!!」

「私も合格にしてくださいよ〜!!」

「ぼくも合格にしといてくださいよ〜!!」


クズ3名は落ちた。

基本情報

氏名:谷口吉平

性別:男

年齢:16歳 (4月16日生まれ)

身長:187cm

体重:135kg

血液型:AB型

アルカナ:愚者

属性:無

武器:なし

防具:勇者の鎧 (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:9

S:1

T:1

F:3

C:1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ