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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
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王の剣

中学3年の春、ヒロシの学校に卒業生が訪れた。

その先輩を見かけたことはあるが名前は知らない。

彼は各教室を回り、水晶玉を覗き込んだりしていた。


その先輩が何者なのかは先生が教えてくれた。

彼は魔法学園に通う生徒であり、将来有望な後輩を探しに来たのだと。


ヒロシは期待した。


ヒロシには夢があった。

いつか冒険者になってピラミッドダンジョンを攻略したい。


その夢への近道が今、目の前にあるのだ。


「悪りいが、お前に才能があるかどうかは答えられねえんだ

 そういう規則なんで諦めてくれ

 7月が終わっても通知が来なかったら……まあ、そういうことだ」



ヒロシは待った。

待って、待って、待ち続けた。


そして、7月が終わった。



通知は来なかった。






──8月某日。


ヒロシは打ちのめされていた。

これまでに40人以上の受験者が挑んだが、誰一人として合格者はいない。

一般入試に備えてある程度の勉強はしてきたが、

この関東魔法学園の入学試験には学業成績など全くの無意味であった。


地面に刺さった剣を引き抜く。

ただそれだけの試験なのに、これが難関だった。


重量500kgの鉄塊は、彼らには重すぎたのだ。



待機列には絶望の空気が漂っていた。

中には試験を受ける前から辞退する者もおり、

不合格となった者たちは悔しそうにするでもなく、

ヘラヘラと笑い合いながら帰り支度を始めていた。


こんなの無理だという思考に支配されそうになるが、

この会場にはただ1人、期待を感じさせる受験者が存在した。


彼はとても同い年の男子とは思えない風貌で、

近接戦闘に最適化された肉体の持ち主であった。

それだけでなく天然の銀髪に獣のような鋭い目つきをしており、

高い鼻と長い足も相まって海外の格闘家にしか見えなかった。


「46番、前へ!」


その彼に順番が回ってくるとガラリと空気が変わった。

さっきまでヘラヘラしていた不合格者たちも真顔になり、

事の成り行きを見守ろうと姿勢を正す。


皆、同じ気持ちだったのだろう。


あいつならやってくれる、と。




──46番は柄を握り、


「ふうぅぅぅ……」


──意識を集中させ、


「おおおぉぉ……」


──力を蓄え、


「……ぁぁぁあああああっっっ!!!」


──500kgの鉄塊を天高く掲げた。しかも片手で。




皆、同じ表情をしていた。


受験者だけでなく、試験官でさえあんぐりと口を開けて固まっていた。


46番はやってのけたのだ。

人類には不可能レベルの難関試験を強行突破したのだ。

その勇姿は実に雄々しく、そして神々しく目に映り、

まるで一枚の絵画を思わせるような瞬間であった。


会場は大歓声に包まれ、受験者たちは46番を褒め称えて胴上げを行なった。

試験官は険しい表情をしていたが、そのうち諦めたようにフッと笑った。


「46番……合格!」




その後、試験は再開されたが合格者は現れなかった。

まあ当然だろう。剣の重さは変わらないのだから。

あの46番──甲斐晃が異質だっただけだ。


「77番、前へ!」


とうとうヒロシの番が来た。



──ヒロシは柄を握り、


「ふうぅぅぅ……」


──意識を集中させ、


「おおおぉぉ……」


──力を蓄え、


「……ぁぁぁあああああっっっ!!!」


──剣は全く動かなかった。



みんな甲斐晃の真似をしたが、結果は同じだった。

そして、それはヒロシも例外ではない。


……そのはずだった。


「うらあああああ!! 動けえええええ!!

 頼むから合格させてくれえええええ!!

 お願いしまあああああす!!」


なんとも諦めの悪い彼の姿に、他の受験者たちは思わず笑ってしまった。

どうせ無理なんだからそれ以上頑張っても意味が無い。

彼らはそう考えていたのだろう。


ヒロシの悪あがきを笑わない者もいた。

彼は獣のような眼光で、ただじっと一部始終を見守っていた。


尚も頑張るヒロシに試験官が近寄る。


「77番、見苦しいぞ

 まだ多くの受験者が控えてるんだ

 もう諦めて順番を回しなさい」


「うっ……」


無情な警告を受けてしまい、ヒロシはガクリと肩を落とした。


その時、誰かが叫んだ。


「諦めるな!!

 まだ不合格と宣言されていない!!」


「えっ……?」


声の主は甲斐晃だった。

どういうわけか本日のヒーローが応援してくれている。

みんなの期待に応えてくれた彼が、今はこちらに期待してくれている。


それならば応えるしかない。


ヒロシは最後の力を振り絞った。



「うりゃあああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」



──剣は全く動かなかった。



が、今度は誰も笑わなかった。


ヒロシの全身から放射された光が会場中を水色に照らし、

その場にいた者たちはまたしても度肝を抜かれたのだ。


それは手品などではなく、



魔法だった。






「──小中(こなか)(ひろし)

 男、身長168cm、体重58kg、氷属性

 試験には落ちたが、観衆の前で魔法を披露してしまったからな……

 能力者は試験免除という方針を取っている以上は受け入れざるを得ない」


「それにしても変な話ですよねぇ

 彼の入場時には0と記録されていたのに、

 退場時には1になっているだなんて……

 こんなケースは初めてですよ

 やっぱり測定器の不具合でしょうかね?」


「あまりにも小さすぎてブレが生じたのかもしれない

 基礎魔力10未満の能力者なんて前代未聞だからな

 測定器のメーカーも想定してなかったんじゃないか?

 ……いずれにせよ、こいつが最弱候補生なのは間違いないな」


「あはは、それ本人の前で言っちゃだめですよ」

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