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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
47/150

1月下旬

俺たちは第4層へとやってきた。

まず目についたのは花畑だ。

あの時と何も変わっていない。


……そう、何も変わっていないのだ。


以前来たのは5月……春。今は1月……冬だ。

にも拘らずそこには馬酔木(あせび)の花が咲き乱れ、

その蕾をコツバメが食べていた。

まあダンジョンの中は1年を通して15〜20度の気温なので、

花も蝶も今が春だと勘違いしているのかもしれない。


「お〜、やっとこの景色を撮れるぜ!」


ヒロシが上機嫌で一眼レフをパシャパシャさせていると、

ましろはカメラの前に割り込んでポーズを決めた。


「ちょっ、ましろちゃん邪魔!

 そこどいて! 花撮らせて、花!」


「じゃあ顔半分だけでいいから〜」


「ブログ用の自撮りじゃないんだから!」


楽しそうで何よりだ。



並木は興味深そうに馬酔木の群生を観察している。


「ねえアキラ君、この花って食べられる?」


「いや、馬酔木には毒がある

 最悪の場合、死ぬ可能性もあるから食ってはいけない」


「ふーん、いざという時の食料になるかと思ったんだけどねぇ」


いい心掛けだ。


ちなみに先輩から聞いた話だと奥の方にも花畑があるようで、

そちらの方が植物の種類が増えて心が癒されるらしい。

彼らは長期滞在訓練の時、多くの時間をそこで過ごしたそうだ。



ユキは花よりも蝶に惹かれているようだ。


「速い……」


コツバメは小さな体で俊敏に飛び回る蝶であり、

それはなんだかユキと似通う部分にも思える。


「蛾のように舞い、蛾のように刺す……」


「蝶だぞ」


「蛾ぁーん……」


なんだ、ユキも冗談を言えるようになってきたじゃないか。




俺たちは花畑を離れて先に進んだ。

辺りの風景が今まで通りの洞窟へと戻り、少し寂しさを覚える。

壁際には巨大の岩の塊……ではなく、


「ゴーレムだ」


第2層では月に一度しか発生しないあいつがすぐそこにいる。

倒し方は心得ているのでこの場で処理してもいいが、

こちらに気づいていないようだし相手にする必要も無い。


「俺、試したいことがあんだけどさ

 ちょっとだけいいかな?」


まあ断る理由も無い。



ヒロシはゴーレムに近づき、

唯一の攻撃手段である“掴む”を誘発させた。


「おりゃあ!」


そして青白い静電気を発生させて、

ゴーレムの行動をキャンセル……できなかった。


「う〜ん、だめか

 こいつには感電が効かねえみたいだ」


ヒロシは残念がり、スローな掴み攻撃を回避して戻ってきた。



「悪りい、失敗だったわ」


「いや、気にするな

 むしろそういう検証は助かる

 協会が発行した図鑑は全く役に立たないし、

 過去の戦闘記録もほとんどワンパターンだからな

 色々と試してみて、前例を増やすべきだと思う」


「ねえアキラ君

 あいつって凍結通じるかな?」


「残念ながら記録によれば通じないようだ

 ……って、並木にも状態異常付与の適性があるのか?」


「ああうん、一応ね

 私は結構いろんな適性を広く浅くって感じでさ、

 いわゆる器用貧乏ってやつなのよ

 次はフリーズ習得しようかな〜って考えてるんだけど、どうだろ?」


「凍結の使い手が増えるのは頼もしい

 だが、他に気になるものがあったら優先しなくてもいいぞ」


そんなやり取りをしているうちに、

ゴーレムはゆっくりとこちらへ近づいていた。



「えい」


ピチュンという音と共に光線が放たれるが、

ゴーレムの分厚い装甲をぶち破るにはまだ威力が足りないようだ。


「あ、あれっ!?

 でもちょっと削れてるよ!!

 ユキちゃんすごい!!」


ちょっとどころか、かなり掘り進むことに成功している。

もう一度同じ箇所に当てれば外殻を貫けそうだ。


「蛾のように舞い、蛾のように刺す……」


どうやらユキはその台詞を気に入ったらしい。


そして彼女はゴーレムの真正面にテレポートし、

削った箇所に照準を合わせて(ぜろ)距離射撃を試みた。



ブシュウウウゥゥッ!!



ゴーレムの胸から赤い液体が噴水のように(ほとばし)る。


「ぃいやあああぁぁっ!!!」


真正面に立っていたユキは全身にそれを浴びてパニックに陥った。


「ましろ、タオルの用意を」

「ラジャー」




当初はもう1つの花畑を見に行こうと東へ進んでいたのだが、

予定を変更して西のルートへ進むことになった。

というのもそちらには水場が存在し、

ユキの汚れを洗い落とすのにちょうどいいからだ。


途中で何匹かゴーレムを見かけたが、無視して突き進んだ。

それを見かける度にユキはビクッと震えて俺の陰に隠れていた。

どうやらさっきの出来事がトラウマになってしまったらしい。

そういえば以前ユキはゴーレムに捕まったことがあるので、

元々苦手意識のある相手だったのかもしれない。


そして俺たちは目的の場所へと辿り着いた。

そこには全長30m、深さ1mほどの楕円形の水溜まりがあり、

仲間たちのテンションが上がる。


「おおっ、ダンジョンの中にプール……!

 これなら水持ってこなくてもいいんじゃね!?」


「ヒロシ、本当にそう思うか?

 調査隊によればここの水は毎日新しくなっているそうだが、

 ここは歴代の先輩方が風呂場として利用してきた場所だ

 たとえ水質が安全だと証明されていようが、

 よほどの緊急事態でもない限りはとても飲む気にはならない」


古い水はどこへ消えているのだろうか。


「水温も大丈夫そうだし、とにかく早く入ろ入ろー

 ユキちゃんもジャージ持ってきてあるよね?」


「ましろも入るの……?

 なんで……?」


「あたしプール好きだし!」


まるで遠足気分だ。




とりあえずプールには並木を見張りとして残し、

俺とヒロシは少し周囲を歩き回った。


「おっ、なんだあいつ

 初めて見る魔物だな……」


通路には身長150cmほどの石人形が徘徊しており、

右手には槍、左手には盾、そして全身鎧という出立ちであった。


「名前は“ストーンナイト”……まあ見た目通りだな

 先輩の話では、ゴーレムと違って“核”は存在しないらしい

 だが刃物による攻撃が通じないという点は同じのようだ

 打撃か魔法で処理するのがセオリーだと聞いている」


「くそ〜、剣士の俺にとっちゃ不利な相手じゃんかよ

 こりゃ3層と同じで全然役に立てないかもしんねえ……」


「いや、そうとも言い切れないぞ

 この階層には“ラミア”という魔物がいるらしく、

 加藤先輩の“ショック”……つまり感電の状態異常が役に立ったそうだ

 今のところ俺の周りで感電を扱える同期生はお前しかいないし、

 もしかしたら重宝される可能性も大いにある」


感電は凍結の下位互換のように言われることもあるが、

個人的には全然そんなことはないように思える。


凍結は長時間足止め&属性耐性上書きという特性があるものの、

場合によってはその上書きがネックとなり得るのだ。

打撃には極端に弱くなるが斬撃や刺突は100%通らなくなり、

炎氷雷属性の攻撃魔法の威力も半減してしまう。


一方の感電は一瞬とはいえ足止め効果があり、

更に魔物の行動をキャンセルするというおまけ付きだ。

そして相手の属性耐性にはなんら影響を及ぼさない。

元々大きな弱点の存在する敵には感電の方が有用なのである。


要は性質が違うだけで、その使い分けが重要なのだ。


「ラミアか……

 それって下半身が蛇のモンスター?」


「いや、魔物図鑑では首から上が蛇の姿をしていて、

 そこから下は人間の女性のようなフォルムをしていたな」


「気持ち悪りいなオイ!」




しばらくすると、また新たな敵を発見した。


「あ、わかった!

 あいつの名前は“ストーンメイジ”だろ!」


「ほう、よくわかったな

 予習してきたのか?」


「いや、そうじゃねえけど……

 なんとなく魔法使いっぽい見た目だし、そうかなあと」


その石人形は杖を携えており、ローブを着ていた。

まあそれも魔物の体の一部ではあるが、細かいことはいいだろう。


「それで、どうする?

 あいつはストーンナイトよりも索敵範囲が広い

 しかも無属性の魔力の塊を放ってくるようだ

 これは女子メンバーを呼ぶべきか?」


「ん〜……

 いや、まだ水浴び中だろうしやめとこうぜ

 俺がバリア張って囮になるから、お前がやっつけてくれよ」


“バリア中は無敵”……ヒロシ専用の謎技術だ。

その妙技を実戦で活かすにはコツが要る。


ヒロシは基礎魔力が極端に低いので

通常のパーティー構成では魔物から狙われにくいが、

非魔法能力者との組み合わせではその前提が覆る。

この時初めて彼は対魔法ダメージ用の避雷針となれるのだ。



「バリアー!!」



薄紫色の魔力の塊がヒロシ目掛けて集中砲火する。

標的に当たる度にパン、パンと音を立てて掻き消えてゆく。


「くぅぅぅっ……!!」


その猛攻にヒロシは耐える。

無敵といっても防具に備わっているバリア機能の残量……

HPの減少を防ぐだけであり、痛みを消してくれるわけではない。

それに物理攻撃は普通に通用するらしいので万能の防御技でもない。


「なあ、前々から気になっていたんだが……

 “無属性”って一体なんなんだ……?

 炎、氷、雷はまあイメージできるんだが、

 無属性の定義がよくわからないままなんだ」


「えっ、今それ聞くぅ!?

 俺、今、すごく耐えてんだけど……!?」


「どうしても気になってな……

 それで、お前は今どういう痛みを感じているんだ?」


「やっ、先にあいつら倒してくれよ!!

 戦闘が終わったら答えてやるからさあ!!」


俺は今知りたいのだが、ヒロシは答えてくれそうにないので仕方ない。



「ハアッ!!」



俺はトラの構えからの掌底で3匹のストーンメイジを粉砕した。

ゴーレムの外殻に比べればだいぶ脆く、(くみ)(やす)い相手だ。

おそらくストーンナイトの方もこんな感じなのだろう。

ちなみにこの石人形シリーズが第4層での主な収入源となる。


「……それでヒロシ、どんな感覚だったんだ?」


「お前……自分で味わってみろよ……

 なんつうか、古いスポ根アニメの主人公になった気分だぜ」


観たことが無いのでわからない。

が、相当辛いのだろうということは伝わった。




「やっほー!

 ユキちゃんの汚れは綺麗さっぱり洗い流せたよ!

 どうせだから2人も水浴びしてくれば?」


合流した女子3人は全員ジャージ姿だった。

これは見張り役の並木も水遊びに興じたということだろう。


「いや、結構だ

 それより今日はもう切り上げた方がいい

 ジャージにも防御性能はあるとはいえ、制服ほどの効果は無い

 俺たちの基本方針は“安全第一”だ

 ヒロシ……例のスローガンを言ってやれ」


「今日もゼロ災でいこう、ヨシ!」


指差し確認。

それはヒロシが安全帽を被り始めた頃から続けている習慣だ。


安全という言葉の裏には常に危険が存在している。

俺たちのいる場所が安全なら防具など必要無い。

だが実際は俺以外の全員が何かしらの防具を身につけており、

予期せぬ危険に対しての備えをしているのであった。


「ああ、そういえば俺もそろそろ装備を揃えないとな

 せっかく解禁されたのに、まだ何も購入していない」


すると仲間たちは渋い顔をした。


「えっ、武器持っちゃうの!?

 まさか防具も……!?」


「そんな……

 このまま無装備縛りで突き進んでほしかったのに……」


「せっかくここまでやってこれたのにねぇ……」


「残念……」


なぜか否定的な反応を貰ってしまった。


「いや、俺にも装備は必要だろう

 俺には前衛の役割しか務まらないんだし、

 攻撃役(アタッカー)防御役(タンク)の戦闘力が強化されれば、

 パーティー全体の安全性と継戦能力が向上するのは自明の理だ」


「それはそうかもしんないけどさ……」

「アキラのイメージじゃないっていうか……」

「ロマンが無くなっちゃうのよねぇ……」

「ロマンチックは大事……」


ロマン……。

そんなあやふやなもののために命を危険には晒したくないのだが……。


「え、じゃあさ

 もしアキラが装備を持ち込むとして、

 なんの武器で戦ってくつもりなんだ?」


「メインは斧にしようかと……まあ、農具だがな

 うちにある物は片刃だから斬撃と打撃が両立可能だ

 それと手裏剣を仕込めば遠距離から奇襲を仕掛けられるぞ」


できれば弓をメインに使っていきたいのだが、

それは冒険者法で禁止されているので仕方ない。

海外では当たり前のように弓や銃が使われているらしいが、

国内ではそういう決まりなのでとりあえず従うしかない。

このゴミのようなルールを制定したのはもちろんあの組織だ。


「斧と手裏剣……

 どっちも珍しいチョイスだな

 それはそれで興味あるけど……

 でもなぁ……う〜ん……」


そして仲間たちは渋い顔のままだ。

彼らは一体、俺に何を期待しているのか……。


まあ、まだしばらくは素手でどうにかなりそうだし、

本当にきつくなるまではこのスタイルで続けてみるか。

基本情報

氏名:本郷 拳児 (ほんごう けんじ)

性別:男

年齢:15歳 (3月6日生まれ)

身長:178cm

体重:75kg

血液型:A型

アルカナ:皇帝

属性:炎

武器:火龍の牙 (爪)

防具:龍の道着 (衣装)


能力評価 (7段階)

P:7

S:6

T:6

F:2

C:4


登録魔法

・ファイヤーストーム

・アナライズ

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