1月中旬
第十三試合 準決勝戦
高音凛々子&森川早苗 vs 玉置沙織&野村勇気
「野村は強敵だった……」
「戦ってないでしょ」
なんとこの試合、玉置野村ペアは会場に現れなかったのだ。
進道千里が敗退した影響で優勝候補になったにも拘らずだ。
「え〜、只今の試合の結果ですが……
玉置選手と野村選手の失格により、
高音選手と森川選手の不戦勝といたします」
不戦勝。
なんとも虚しい勝利である。
「ふざけんな野村あああ!!」
「俺の1万返せえええ!!」
「バカヤロおおお!!」
観客席から怒号が飛び交うも、
ここにいない当人たちに聞こえるはずもなく……。
ちなみに野村は先日から風邪を引いて寝込んでいたのだが、
それを知った玉置は看病のために彼の部屋を訪れ、
ついでに濃厚接触したので彼女も感染したというのが真相だ。
第十四試合 準決勝戦
黒岩真白&並木美奈 vs 杉田雪&小中大
黒岩並木ペアは最強の進道千里を倒したダークホース。
あの戦いを見て進道の意中の相手を知った生徒は多いが、
肝心の黒岩真白は彼からの好意には気がついていない。
杉田小中ペアは前回グダグダな試合をしたせいで評価が低く、
こちらに賭けている観客が少ないので見返りが大きい。
テレポートと二段ジャンプのコンビ……改めて謎のタッグだ。
「では……試合開始!!」
どうなるかわからない戦い。
両陣営共にまずは様子見モードでジリジリと距離を詰めてゆく。
「アイスストーム!」
そして並木が先制。
センリの雑ファイヤーと同じ要領で、範囲優先の雑アイスを放つ。
それが届く前にユキはテレポートで相手ペアの遥か後方に移動し、
ヒロシは横方向に転がって回避に専念する。
ヒロシの残りライフ……100。
攻撃魔法が制服に当たっているというのに、
またもやダメージが発生していないことになっている。
だが、もうあまり驚きはしない。
観客たちもそれが何を意味するのか薄々わかっていた。
“ローリング中は無敵”。
どんな原理でそれを実行しているのかは不明だが、
まあヒロシだからしょうがないと納得していたのだ。
「アイスストーム!」
今度はヒロシを追いかけるのではなく、その向かう先へと放たれた。
そこには何も無い……のだが、なぜかヒロシのライフが2減ったのだ。
(やっぱりそうか……
あのローリングは完全に無敵ってわけじゃなくて、
ダメージ判定を着地点に逃してるだけなんだ
いや、どんな原理かわかんないけど……)
並木美奈はヒロシ破りの糸口を見出した。
一方その頃、ましろとユキは追いかけっこをしていた。
「待て待て〜!」
「やだ……」
ユキはテレポートでヒュンヒュン飛び回るも、
ましろの足は意外と速く、しかもスタミナまである。
並木のアイスストームは広範囲に放たれており、
そちらへ逃げれば自分もダメージを喰らってしまう。
これでは落ち着いて正七角形を思い描けず、攻撃魔法を放てない。
ユキは逃げるだけで精一杯だった。
そして並木は更に攻撃範囲を広げ、ヒロシ撃破に尽力していた。
彼女の武器はロッド。これで相手を叩いてもポイントを奪えないが、
魔法ダメージを与えた際にボーナスが付くという特徴がある。
どんなに威力が弱くても相手のライフを2減らせる。
彼女はその性質を利用して全力で勝ちに行っていたのだ。
通常のアイスストームとは違い、この雑アイスなら数分の放射が可能だ。
0.5秒毎にダメージ判定が発生する仕様から計算して、
最大で25秒間、雑アイスを当て続ければライフ100を削り切れる。
ヒロシはローリングの秘密を見破った並木から逃れることができず、
じわじわとライフを削られ、気がつけばもう残り50を切っていた。
このままでは負ける。
そう確信し、ヒロシは一か八か賭けに出た。
「バリアー!!」
胸の前で腕を交差させ、そう叫んだのである。
するとヒロシは雑アイスの直撃を受け続けているにも関わらず、
どういうわけかそれ以上ライフを減らさなくなったのだ。
ヒロシの新技……“バリア中は無敵”!
並木だけでなく観客や審判も困惑したが、
まあヒロシだからしょうがない。
どんな原理かは不明だが、受け入れるしかない。
並木はその新技を目にして動揺するも、
すぐに冷静さを取り戻して現状を確認した。
ましろとユキは未だに追いかけっこを続けており、
どちらもダメージを負っていない。
だが、ヒロシだけは半分以上ライフが減っている。
この状態を維持したまま制限時間が終わればこちらの勝利だ。
どうやらヒロシのバリアには制約があるようで、
その場でじっと耐え続けていることから他の行動ができないのだろう。
それならばこちらにとって都合が良い。
残りの時間、あとはこの雑アイスを当て続ければいいだけだ。
それから並木は雑アイスを途切れないように放射し続け、
ましろはひたすらユキを追いかけ続け、2人の勝利は目前だった。
だが、残り10秒で想定外の事態が発生してしまった。
「えいっ!」
ユキが正体不明の魔法を使ったのだ。
“バタフライエフェクト”。
それは使用した本人にも何が起きるのかわからない。
もしくは何も起こらない場合もあるらしい。
彼女はこのまま逃げ回っていても負けるだけだと悟り、
残りMPを全て消費するその大技に賭けてみたのだ。
だが何かが起きた様子は無く、ハズレ効果を引いたような空気になる。
しかし電光掲示板を見ると、ヒロシとユキのライフは255と表示されていた。
彼女は『味方全体を完全回復』の大当たりを引き当てたのである。
「ましろオォォ!!
回復!! 回復ゥ!!
ヒール! ヒール! ヒールゥ!!」
並木は瞬時に劣勢を把握し、相棒に最善手を取るよう伝えた。
「キュア! キュア! キュアァ!!」
7……6……
「ヒールヒールヒールヒールヒールゥゥ!!」
「キュアキュアキュアキュアキュアキュアキュアァァ!!」
5……4……
2人は残りの数秒間、全力で自己回復することに注ぎ込んだ。
両陣営の残りライフが同じ数値であれば、
持ち込んだ装備の差でギリギリ判定勝ちを狙える。
並木はそこまで考慮して装備の選択をしていたのだ。
が、残り10秒でその展開に持ち込まれるとは思ってもみなかった。
3……2……1……
「おりゃあ!!」
そして残り0.5秒を切った時点でヒロシが静電気を放ち、
並木は1ダメージを負ってしまったのである。
「──黒岩選手、並木選手、残りライフ255、254
杉田選手、小中選手、残りライフ255、255……
判定により、杉田選手と小中選手の勝利とする!!」
残り10秒からの大逆転劇。
並木が最後に1ダメージを負わなければそちらが勝っていた。
ヒーラーが2人いながらも、まさかライフの差で負けるとは想定外だ。
また番狂わせが起きてしまった。
最強の進道千里を倒したダークホースが敗れてしまい、
全く期待されていなかった杉田小中ペアが決勝戦へと進出したのだ。
──試合が終わりガランとした会場に内藤訓練官が訪れ、
探知の魔法で何かを探している生徒に声を掛けた。
「どうだ、進道?
何か痕跡は見つかったか?」
「いえ、何も
試合中もずっとヒロシの解析を試みましたが、
ローリングもバリアも“魔力を使った行動ではない”
と考えるしかない感じですね……」
「そうか……
では二段ジャンプも同様の技と判断するのが妥当だろうな」
「まったく、どうなってるんだか……
アクションゲームじゃあるまいし……」
「……ちなみにあいつの主属性は氷と診断されているが、それも怪しい
お前も知っての通り氷属性の能力者は検査時に“青”く反応するんだが、
あいつの場合は“水色”だったんだ……
基礎魔力が極端に低いせいで色が薄いのだと解釈されていたが、
こうも謎の挙動ばかりされると話が変わってくるぞ……」
「炎氷雷無に当てはまらない新属性……ってことですか?」
「断言はできんが、そういうことになるな……」
ヒロシの基礎魔力は史上最低の1だが、限りなく0に近い1であり、
それは無限の可能性を秘めていることを意味していた。
数日後。
俺は指導室に呼び出された。
いつもの流れだ。
「甲斐、冒険者免許を取得したそうだな
まずはおめでとうと言っておこう」
「ありがとうございます
……ですが、あの試験内容で落ちる方が難しいと感じました」
「ああ、だろうな
俺の時も『ナメてんのか』と思ったね……
まあとにかく、これで自由に冒険活動を行えるようになったわけだ
協会の連中が学園側にごちゃごちゃと文句言ってきてるが、
それは俺たちの方で対処するから気にするな」
言わなければ知らずに済んだのに……。
しかし、自由か……いい気分だ。
これでようやく武器と防具を装備可能になったし、
学園ダンジョン以外の場所でも活動できるようになった。
いよいよ目標地点である聖域ダンジョンの調査を行えるのだ。
「さて、今学期のノルマだが……」
ああ、そうだ。
厄介事は日本冒険者協会絡みだけではない。
自分の力では何一つノルマを消化できないあの男がいた。
「特に無い」
「えっ」
肩透かしもいいところだ。
まあ、奴の相手をしなくてもいいのは助かるが……。
「強いて言えば進級することがノルマみたいなもんかね
冒険者免許の取得、筆記試験、そして進級試験の3つが条件だ
お前はそのうち2つを既にこなしてるから、
あとは筆記試験さえクリアすれば……って、お前なら楽勝か」
「進級試験なんて受けた覚えはありませんが……」
「5月にバルログをやっつけただろ?
あいつが進級試験の討伐目標なんだよ
討伐に成功したパーティーが合格になるって内容だ
わんさか出現するような魔物じゃないし、
お前にもう一度倒させると他の生徒が探すのに苦労する」
そういえばそうだった。
あの時、宮本先輩は『進級試験用の中ボス』だと言っていた。
調査隊の北澤さんから討伐に成功したと認められたし、
その記録を参考に判断したのだろう。
ん……あれ?
「バルログは強敵でした
谷口が単独で撃破するのはまず不可能でしょう
奴とパーティーを組みたがる生徒なんていませんし、
尚更俺たちの力が必要になるんじゃないですか?」
「ん〜、今回は上から何も言われてないんだよなぁ
まあいざとなったら学園長の一存で強引に進級させられるし、
特に気にしなくてもいいんじゃねえの?」
それは大変ありがたい話だが、何かが引っかかる……。
教室へ行くと、ヒロシが同級生からの質問に答えていた。
「試験って難しかった?」
「いや、超簡単だったぜ」
「どんな内容だったの?」
「幼稚園児レベルのクイズと、ゴブリン10匹倒しただけだな」
「プロになった気分はどう?」
「いや〜、まだ実感湧いてなくてさ」
プロか……まあ俺もまだ実感が無い。
まだそれらしいことは何もしていないのだから。
とりあえず彼らには伝えておかないといけないことがある。
「なあみんな、聞いてくれ
俺とヒロシはもう免許を取得したけど、
みんなはまだ取らない方がいいと思っている」
「え、なんで?」
「おいおい、自分たちばっかりずるいぞ〜」
「俺たちも立派な冒険者目指してここまでやってきたんだぜ!」
「期末テストや進級試験でつまづいたら退学になるんだ
その時にきっと『この先どうしようか』と悩むだろう
本当に冒険者として生きていく覚悟があるのならともかく、
もしかしたら普通の生活に戻りたいと思うかもしれない
免許を取ったらもう後戻りはできない……それを忘れないでくれ」
同級生たちは押し黙り、考え込んだ。
普通の生活……戦いとは無縁の日々。
わざわざ自分から危険に飛び込まずとも、
他の誰かに任せてしまってもいいのだ。
彼らはまだその道を選択することができる。
訓練終了後、自室でワカサギの下処理をしていると来客があった。
「一条君……?
俺に何か用か?」
非常に珍しい客人だ。
彼と言葉を交わしたことは無い。
そしてなぜか彼は不機嫌そうだ。
「おい、甲斐晃……
てめえのせいで俺の女が学校辞めるとか言い出したんだが、
一体どう責任取ってくれるんだ? ァア!?」
「俺のせいで……?
いや、君が何を言っているのかわからない」
「すっとぼけてんじゃねえ!!
『覚悟の無い奴は学校辞めろ』とか演説したんだろ!?
それに感化された三國と四谷が退学届出しちまったんだよ!!」
これが伝言ゲームというやつか……。
そこまで言っていないが、趣旨は伝わっているようだ。
「その2人には戦う覚悟が無かったんだろう
たとえ俺が何も言わなかったとしても、
遅かれ早かれ同じ結果になっていたはずだ
彼女たち自身が悩んだ結果そう選択したのだから、
君がとやかく言う筋合いは無いんじゃないか?
それに退学届を提出済みならもう手遅れだ
『去る者追わず』が学園の方針らしいからな」
「くっ……!
覚えてろよ甲斐!!」
そう吐き捨てると、一条君は嵐のように過ぎ去っていった。
彼が怒る理由がわからない。
退学したからといって彼女たちの存在が消えるわけではないのだ。
放課後や休日に学園の外で会えばいいだけの話だろう。
「アキラ、わかってねえなあ
あいつは“学園の中で”女を侍らせたいんだよ
俺たちに見せびらかせて優越感に浸りたいんだろ」
「そういうものか……?」
「なんたってハーレム野郎だからな」
ハーレム……なんだか理解できない感覚だ。
複数の女性と同時につき合うのは疲れないのだろうか?
基本情報
氏名:久我 龍一 (くが りゅういち)
性別:男
年齢:16歳 (5月21日生まれ)
身長:171cm
体重:61kg
血液型:O型
アルカナ:女教皇
属性:氷
武器:スピードオブライト (片手剣)
防具:デュエリスト (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:5
S:8
T:6
F:4
C:7
登録魔法
・アイスストーム
・マジックシールド
・ライジングフォース
・ディーツァウバーフレーテ