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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
43/150

アー君

「アー君!

 こっち向いて〜!」


「キャー!

 手振ってくれた!」


「超カワイイ〜!」


都内の水族館ではヒョウアザラシのアー君が人気者になっていた。

先月、ましろたちが学園ダンジョンで保護した彼だ。

他にもアザラシは存在するが、彼は鼻に傷があって判別しやすい。

そして彼はショービジネスを理解している節があり、

来館した客に対して積極的に手を振るパフォーマンスを行なっていた。


「すっかり元気になって……

 これでもう何も心配することは無いね」


「ああ、やっぱりプロに任せて正解だったな」


黒岩真白、進道千里の2人はそんなアー君の姿を見て安心した。

他の同期生は視界に存在しない。その2人だけだ。

今日はその2人だけで水族館に訪れたのだ。


(頑張れ、センリ……!)


(邪魔なんだよ……!)


視界には入っていないが、並木美奈が近くをうろついている。

探知能力を持つセンリにはそれがわかってしまうのだ。


「あっ、こっち来るよ!」


ましろがはしゃぐ声を聞き、センリは一旦そちらに集中する。

邪魔者の始末は後回しでいい。


アー君はガラスのそばまで来ると両手をバタバタとさせ、

その視線はまっすぐにましろを見つめていた。


「おい、こいつ……

 お前のこと覚えてんじゃね?」


「ホント!?

 そうだったら超嬉しいんだけど!!」


ましろがガラスに触れるとアー君も同じように手を突き出し、

ふたりはガラス越しの再会を果たしたのであった。


「ほら、やっぱりな

 きっと助けてもらった恩を忘れてねえんだ

 まったく、泣ける話じゃねえか」


「あ゛〜ぐ〜〜〜ん!!

 お母さんだよ〜〜〜!!」


「本当に泣いてやがる……」




水族館の職員は号泣するましろから事情を聞き出し、

館長の許可を得て特別にブースの中に入れてもらった。

そしてましろが両手を広げると、アー君はその腕の中へと飛び込んでいった。


「いやあ、本当に泣ける光景だねえ

 あんなに嬉しそうなアー君を見たのは初めてだよ

 いつも元気に振る舞ってはいるけど、

 どこか寂しそうな表情もしていたんだ

 よっぽどましろちゃんと会いたかったんだろうねえ」


「館長さん、確認しますけど

 あいつは野生のアザラシなんですよね?」


「野生かどうかは断言はできないけど、

 少なくとも日本の子ではないよ

 全国の水族館に確認を取ってみたけど、

 ヒョウアザラシが脱走したという話は聞かなかったしね

 ちなみに僕らは斑紋の数や形で個体を見分けているから、

 アザラシには識別タグを取り付ける必要が無いんだ

 それが野生かどうか判別できない原因なんだけど……」


「そうですか……

 元の場所に帰すのは難しそうですね」


「そうだねえ

 できれば僕らも本当の親御さんと会わせてあげたいんだけどねえ」




ましろはしばらくアー君と遊び続け、

気がつけば閉館30分前になっていた。


「えっ、もうこんな時間!?

 ごめんセンリ!

 せっかく一緒に来たのにほったらかしちゃって!

 もっといろんなとこ見て回りたかったよね!?」


「いや、いいって

 元々そいつに会いに来たんだし気にすんなよ

 色々見るのはまた今度でもいいじゃねえか」


「また今度……

 うん! 絶対また一緒に来ようね!」


(……ぃよっしゃあ!! おれから誘えたぜ!!)


センリは心の中でガッツポーズを決めた。




2人は物販コーナーでお土産を買うことにした。


「あっ、これ!

 アー君のキーホルダー売ってる!」


「さすがは人気者……

 欲しいなら買ってやるぞ」


「じゃあセンリの分はあたしが買うね!」


「お、おれの分!?」


「……いらない?」


「いや、いる!!

 せっかく来たんだしな!

 こういうのは記念だもんな!」


そして2人はお揃いのキーホルダーを購入。




そして何事も無く学園に戻り、何事も無く解散した。


「さて、並木……

 そろそろ出てきてもらおうか

 おれらの周りをうろちょろしやがって……」


センリは怒りをあらわにするが、

並木は特に感情を表さずに物陰から姿を現した。


「……いや、怒りたいのはこっちなんだけどね?

 なにもキスしろとまでは言わないけど、

 せめて手繋ぐくらいのことはしてほしかったかな

 せっかくのデートで何してんのよあんたは……」


「なっ……!

 べ、べつにデートとかじゃねえし!

 ただアザラシの様子見に行っただけだし!」


「100万円もするスーツで?

 ……まあ、それがあんたの普段着だって可能性もあるけど、

 私にはバリバリ気合い入れてたようにしか見えないのよねえ

 髪型もオールバックだし……」


「う、うるせー!

 これがおれの休日のスタイルなんだよ!」


「はいはい

 次のデートではもっと上手くやんなさいよ

 そんじゃおやすみ〜」


「くっ……!

 言うだけ言って逃げやがって……!」


だがセンリ自身も『スーツはやりすぎたかな』と反省しており、

次のデートではましろと手を繋ぐという目標を掲げるのであった。

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