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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
41/150

12月中旬

最近、ヒロシの様子がおかしい。

だがこれが初めてではない。

彼は以前にも同じように芸術棟に足繁く通い詰め、

その後ダンジョンに乗り込んでソロ狩りを敢行していた。

今回もおそらく錬金術絡み……阿藤先輩絡みだろう。


「え、俺が何をしてるかって?

 ただの素材集めだから気にすんなよ!

 でも心配してくれてありがとな!」


ヒロシは爽やかな笑顔でダンジョンに突入したが、

瞳孔が開きっぱなしだったので不安になる。


「阿藤先輩

 あなたは一体、ヒロシに何をさせているんですか?」


「んー?

 ひーくんにはね〜、

 “ポーンストーン”を集めてもらってるんだよ〜」


ポーンストーン……それは一般的には使い道が無いとされている石だが、

錬金術で“ナイトストーン”、“ビショップストーン”、“ルークストーン”、

“クイーンストーン”、“キングストーン”へと変化させられる。


その特性はチェスにおける最弱の駒“ポーン”に由来しており、

上位の駒への昇格……“プロモーション”が唯一可能なのだ。

実際のチェスではキングへの昇格は不可能だが、まあいいだろう。


「ヒロシにポーンストーンを集めさせて、

 それで何を作ろうとしているんですか?」


「うふふー♪

 それはね〜……

 いつも手伝ってくれるひーくんにご褒美をあげたいんだよ〜

 私からのクリスマスプレゼント、喜んでくれるかな〜?」


クリスマス……ああ、そんなイベントもあったな。


「来週には期末テストが控えていますので、

 あまりあいつをこき使わないであげてください

 ……というか、先輩も勉強しなくて大丈夫なんですか?」


「テスト勉強……

 うっ、頭が……!」


この人もだめそうだ。




芸術棟から出るとひんやりとした外気に晒され、

今はもう冬なのだと思い出させる。


「ほらタマちゃん、僕の手を握って!」

「ノム君の手、あったか〜い!」


バカップルが見える。

が、彼らだけではない。

その光景は10代の少年少女だけでなく、学園職員にも適用された。

冬……それは最も人肌の温もりを求める季節でもある。


「加藤先輩! 私とつき合ってください!」

「ごめんね、僕にも好きな子がいるんだ」

「じゃあ黒岩先輩お願いします!」

「じゃあ!?」


後者裏では女子が先輩たちに告白をして玉砕していた。


「花園先生、今夜飲みに行きませんか?」

「え〜、本当に飲むだけ〜?」


花園と津田の2人はもう関係を隠すことなく、

周囲の目も気にせず学園内でいちゃついている。

津田訓練官は妻帯者なのだが……。


「ねえアキラ君!

 クリスマスに予定はある!?」


「冬休みは実家で過ごす

 冬眠できなかった野生動物が畑を荒らしに来るからな……

 親父に害獣駆除は無理だし、俺がやるしかない」


おそらく早苗は遊びに誘おうとしてくれたのだろうが、

今回は家族の生活を優先して断らざるを得なかった。




俺は最近、ある女子が気になっていた。

といっても恋愛感情ではなく、その人物像に興味が湧いたのだ。


2組の松本静香。

かつては走り込みでユキと最下位争いをしていたが、

体型を隠さなくなってからは下から3番目辺りに落ち着いた。

本人の戦闘能力はとても低いそうだが、

どうやら回復と強化(バフ)に高い適性があるようで、

攻撃魔法よりも先に回復魔法を習得したらしい。


資料室で彼女が仕上げた計画書と報告書を何度か目にしたが、

まずとても字が綺麗だという点だけで好感が持てる。

そして夏休みの補習を免れた5人の中の1人であり、

勉学をおろそかにしない姿勢も素晴らしい。


彼女とパーティーを組んだ経験がある者によると、

単に回復や強化で戦闘を安定させてくれるだけでなく、

応急処置の知識があり、手作り弁当が大変美味だったとのことだ。


支援役(サポーター)としてこれほど優秀な人材は他にいない。


「テスト前にダンジョンで勉強会を行うんだが、

 もしよかったら松本さんも参加してみないか?

 俺と正堂君だけでは教師役が足りないんだ」


「えっ、ダンジョンで!?

 なんでそんな場所で……?」


「友人たち曰く、『地上には誘惑が多い』そうで、

 それなら思い切って緊張感のある場所でやろうという話に……

 まあ、半分は悪ノリというやつなんだろうな」


「それはまた随分と思い切ったねぇ

 うーん……

 わかった、私も参加してみるよ

 日時、滞在先と予定時間、

 それと他の参加者の情報を教えてもらえるかな?

 何が必要になるか把握しておきたいからね」


早速支援役として優秀だという片鱗が窺える。

まあ事前準備をするのは当然なのだが、

友人たちはそういう質問をしてこなかった。






そして当日。


「しかし……すごい数になったな」


計27人。

同期生の半分以上がこの催しに参加してくれたのだ。

彼らは1学期の失敗で反省し、真面目に勉強する気になったのだろう。


「教師たちも連れてこうぜ!」

「いや、今は2年教えてる時間だろ」

「そもそも一般人をダンジョンに連れ込んじゃだめだよ」


そこかしこから楽しげな会話が聞こえてくる。

勉強嫌いな彼らが一体なぜ……。


ああ、そうか。

彼らはきっと遠足気分なのだろう。

対人戦しか行事の無い環境だし、こういうイベントは珍しいのだ。

まあ俺は遠足というものを体験したことが無いので推測だが。


「それにしても荷物が多すぎるだろう

 滞在時間は半日未満なんだが……」


箱型の台車が5台、クーラーボックス10個、

パンパンに詰まったリュックサックを背負っている男子が3人。


「ああ、これバーベキューセットだよ」

「夏休みはどこにも出掛けられなかったからな!」

「下手したら冬休みも潰れるかもしれないし、

 今のうちに思い出作りしようぜって話し合ったんだ」


「お肉は松本さんが用意してくれたんだよ」

「実家がお肉屋さんで羨ましいよね〜」

「今から楽しみ〜!」


こいつら……。




現地に到着後、俺たちは手分けして段ボールを敷き詰めて

防水シートを被せ、あっという間に拠点が完成した。

とはいえ個室は無く、ただ床と机があるだけの空間だ。


「へえ、段ボールかあ」

「軽いし持ち運びが楽だよね」

「うちも真似してみるか」


この方法はまだ広く浸透していなかったらしい。


「さて、みんな

 事前に振り分けた通りに着席してくれ

 苦手な教科が被っている者同士を同じ班にさせてもらった

 それなら1回の説明で4人同時に教えられるから効率がいい」


4人の班が6つ。

教師役は正堂君、松本さん、そして俺だ。



30分が経過した頃、コボルトの群れがこちらに近づいてきた。


「おや、これはこれは……

 どうやらこの僕の剣の錆になりたいようだね」


「久我君、座ってくれ

 敵は全部俺が倒す

 報酬は全員で山分けだ」


久我君は不満そうな顔をしつつも指示に従った。


シャッ!


そして俺はヒョウの構えからの斬撃で3匹同時に首を切り落とす。

今となっては1匹ずつ通路で迎撃する必要は無い。

我ながら手慣れたものだ。


「えっ、素手で!?」

「噂は本当だったんだ……!」

「やべえよあいつ……」


半分以上の生徒が目を丸くしてこちらに注目している。

そういえば彼らとは一度もパーティーを組まなかったな……。


「あーくんはゴーレムも素手で殺せるぞ」


「ゴーレムを!?」

「いやいやいや! さすがにそれはない!」

「でも甲斐君ならきっと……!」


「あとローパーをヌンチャクみたいに振り回すぞ」


「マジで!?」

「100kg以上あるだろアレ!」

「もはや人間じゃねえ!」


リリコが余計なことを言ったせいで盛り上がる生徒たち。

これでは勉強に集中できない。


その時、正堂君がパンパンと手を叩いて注目を集めた。


「はい、みんな静かにして〜!

 甲斐君を怒らせたらあのコボルトみたいになっちゃうよ!」


生徒たちは首無し死体を見て青褪め、口を閉じて勉強を再開した。

静かにしてくれたのはありがたいが、これでは妙な誤解をされる。


「いや、俺は人間を狩る気は無い……」


「あーくんはワニを狩ったことがあるぞ」


「ワニを!?」

「その話聞きたい!」

「勉強どころじゃない!」


リリコ……!



その後なんとか彼らを静かにさせて勉強を再開し、

1時間が過ぎた頃、ふざける生徒が現れ始めた。


「ロン! 七対子(チートイツ)!」

「ぐはあ〜、やられた!」

「これで3連勝かよ!」

「並木さん麻雀強いね〜」


紙麻雀とはなかなか渋い遊びを……。


「なあ、そういうのは休憩時間にやってくれ

 もし勉強しなくても余裕だと言うのなら、

 教える側に回ってくれると助かるんだが……」


「わはは、ごめんごめん

 4人卓だったもんで、つい」


目を離すとすぐこれだ。

教師って大変なんだな……。



それからしばらくして、再びコボルトの群れが接近していた。

全部俺が倒すとは言ったものの、今回は2グループだ。


「正堂君、向こうを頼む」

「了解」


と、その時。


ドスッ!ドスッ!


俺よりも先に敵を殲滅する者が現れたのだ。

彼は次々とコボルトの顔面に槍を突き刺し、

全て一撃で葬った後、そのまま立ち去ろうとした。


「十坂君、ありがとう

 ところで俺たちは勉強会をしているんだが、

 もしよければ君も参加してみないか?」


「あぁん?

 ダンジョンの中でお勉強だあ?

 んなモンやってられっかよ」


「そうか、残念だ

 君が教師役なら心強いと思ったんだが……」


「……おい待て

 なんで俺が教師役なんだ?

 俺は見ての通り不良だぞ?」


「なんでと言われてもな……

 君も成績上位者なんだろう?

 それに授業も訓練もサボったことが無いそうだし、

 これまでに何も問題行動を起こしていないじゃないか

 俺には君が不良だとはとても思えない」


「おい、甲斐晃……

 その話……どこで聞いた?」


「落合先生だ

 俺は他の生徒よりも会話する機会が多くてな」


「チッ、そうかよ……

 とりあえずその情報は他の奴らに喋んじゃねーぞ

 もし喋ったら容赦しねえ……覚えとけ」


「言い触らす気は無いが……

 なぜ正体を隠したがるんだ?」


だが彼は答えてくれず、そのまま立ち去ってしまった。




それから何度か戦闘やおふざけで勉強が中断されたものの、

彼らは概ね真面目に苦手科目の克服に取り組んだ。

そして午後6時を過ぎてからは空腹を訴える者が続出し、

区切りもよかったので、予定時刻より早く夕食を取る運びとなった。


彼らは手際良くバーベキューセットを組み立て、

用意した具材を串に刺し、米炊き班は飯盒(はんごう)を火にかけ、

カレー班は野菜を切って鍋に投入したりと、

ここがダンジョンの中であることを忘れさせる光景が目の前に広がっていた。


「う〜ん、いい匂いがするねえ

 僕もちょっとつまみ食いしたいけど……いいかな?」


「え、生徒会長……?

 3年生はこの時間、授業中なのでは?」


会長だけではなく、須藤先輩と後藤先輩も一緒だ。

……今更ながら先輩の苗字には『藤』が多いな。

彼らは制服のままであり、武器だけ装備している。

どうやら本気の狩りが目的で来たわけではないようだ。


「実は今、自習中でね

 後藤さんのサボりにつき合ってるんだ」


「この時期に自習ですか……

 先生に何かあったんですか?」


「まあ、大したことじゃないよ

 数学の寺沢先生の奥さんが万引きしたとかで、

 スーパーまで迎えに行ってるそうだ」


なんとも言えない……。


「あ、会長さん

 お肉なら多めに用意してあるので大丈夫ですよ

 それとハムカツも持ってきてますので温めちゃいますね!」


「おっ、さすがは松本さんだね

 僕の好みをわかってる〜!」


スムーズなやり取りだ。

そういえば会長は松本精肉店の常連だったな。

以前おすすめされたし、俺もそのうち行ってみるか……。



会長はソースたっぷりのハムカツを食パンに挟んでかぶりつき、

バーベキューも堪能してご満悦の表情になっていた。


「おい天神……

 そろそろ戻ろうぜ

 次の授業に間に合わなくなっちまう」


須藤先輩が至極真っ当な指摘をする。

残り10分。急げば間に合う頃合いだ。


「でもカレーがまだだし……」


「我慢しろ

 1年同士の交流に上級生が出しゃばってんじゃねえよ

 お前は食欲が絡むと本当に見境無くなるよな……」


「うふふ、まあいいじゃないの

 授業なんか忘れて、レイジもゆっくりしていきましょうよ」


「ミズキ……

 お前の成績が一番危ねえんだよっ!!」


やはり須藤先輩は苦労人のようだ。




午後9時になり、俺たちは撤収作業に取り掛かった。

本来の目的であるテスト勉強の進捗は6〜7割程度だが、

それだけ理解できていれば1学期よりも酷い結果にはならないはずだ。


彼らは皆、満足そうな顔をしている。

その主な要因はバーベキューだろう。

誰かが思い出作りだと言っていたが……ああ、いい思い出になった。

こうやってみんなでワイワイ食事したのは秋の食事会以来だ。


俺は狭い場所で黙々と食事したいという考えなのだが、

たまにはこんな日があってもいいと思える瞬間だった。

基本情報

氏名:丸山 和輝 (まるやま かずき)

性別:男

年齢:16歳 (10月10日生まれ)

身長:166cm

体重:78kg

血液型:A型

アルカナ:太陽

属性:氷

武器:デススコルピオン (槍)

防具:ヴァンガード (盾)

防具:戦士の鎧 (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:6

S:5

T:8

F:2

C:4


登録魔法

・アイスボール

・マジックシールド

・アナライズ

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