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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
4/150

4月下旬

「よし、リベンジだ……!」


ゆっくり近づけばスライムは攻撃してこない。

その情報を伝えると、ヒロシは俄然やる気を出した。


「栗林君も一緒にどうだ?」


俺は思い切って誘ってみたが、


「実はもう3組の奴らとパーティー組んでてさ、

 計画書提出しちゃった後なんだわ

 せっかく誘ってくれたのに悪いな」


フラれてしまった。


「あーくん、今日ヒマー?

 放課後ダンジョン行ってみねえ?

 オレまだ入ったことないんだよなー」


そこへやってきたのがリリコだ。

暑いのか、Yシャツの襟を引っ張ってパタパタさせており、

下着が見えても気にしていない様子だ。実にはしたない。

ヒロシと栗林君は黙り込み、その光景を注視するばかりだった。


「ん……?

 え、あーくんってアキラのこと?

 もしかしてこれってデートのお誘いか?

 俺がいたらお邪魔だよな……

 スライムリベンジは別の日でもいいぜ?」


「いや、妙な誤解はやめてくれ

 リリコは俺にとって……弟のような存在だ

 恋愛感情を抱いたことはないし、今後も芽生えることは断じてない!」


「相変わらずデリカシーねえなあ

 せめて妹だろーがよ

 オレだってこんな奴と恋愛なんざしたかないね

 こいつロリコンだし眼中にねーよ」


「えっ、アキラってそうなの!?」


「小っちゃい女の子捕まえて、楽しそうに体を(まさぐ)ってるの見たことあるぞ」


「ええ……ドン引きだよ

 まさかアキラにそんな趣味があっただなんて……」


「誤解を招くような発言をするな

 それはおそらく、久々に会った妹と遊んでいた時のことだろう

 都会の小学校に通わせていたから、お前はその存在を知らないんだ

 ……大体、あの頃は俺もお前も小学生だったろう

 ただのくすぐり合いを性的な目線で見る方がおかしい」


「あ、なんだそういうことか

 アキラ……俺はお前を信じてたぜ!」


「切り替えが早い……」


「でもあーくんはこいつらと違って、オレの胸をガン見してねえじゃん」


男たちは沈黙した。




本日より新しい訓練メニューが追加された。

担当の訓練官は3組の担任である津田(つだ)剛志(つよし)先生であり、

大柄でがっしりとした体格に毛むくじゃらの外見はまるで熊を思わせる。

実際、一部の女子生徒からは“クマちゃん”の愛称で親しまれており、

いち早く新入生たちの人気を獲得した訓練官と言えよう。


「みんな、“有酸素運動”と言うと堅苦しく感じるよね?

 でも難しく考えなくていいよ!

 これから君たちに行なってもらうのは“エアロビクスダンス”だ!

 呼吸機能の向上によりスタミナの強化ができる訓練さ!

 それから機敏な全身運動を行うことで効率的な体の動かし方を学べるよ!

 何より体を動かすのは楽しいと実感してもらうことで、

 今後の訓練に対するモチベーションを維持しやすくなるんだ!

 人前で踊るのに慣れないうちは恥ずかしいだろうけど、

 とっても合理的なトレーニングだから真剣に取り組んでね!」


色々と考えられているんだな……。

まあ、一人前の戦闘要員を育成する機関なのだからそれも当然か。

きっと無駄な訓練など用意されていないはずだ。


「それじゃあ早速始めるよ!

 最初は動きを覚え切れないだろうけど、

 できる限り先生の真似をしてみてね!

 ……5(ファイ)6(シック)7(セブン)8(エイッ)!」


軽快な音楽が体育館に鳴り響き、エアロビクスダンスが始まった。

まず1曲目はデモンストレーションとして津田先生だけが踊り、

生徒たちにその流麗な舞いを披露した。


大柄な中年男性がキビキビと動く姿に滑稽さを感じたのか、

一部の生徒はクスクスと笑い出した。

津田先生はウインクを返し、もっと笑っていいという空気を作り出す。

こうして爆笑の渦が巻き起こったのだ。


彼らは津田先生が只者ではないことを理解していない。

新体操選手のような完璧に計算し尽くされた演舞を見せられているというのに、

どうしてこんなにも笑っていられるのだろう。



2曲目からは生徒も参加するという流れだが、ほとんどの者は動けない。

単に動きを覚えられていないか、恥ずかしくて大きく動けないのだ。

みんな少しだけ体を動かしてはいるが、それはダンスとは言えない。

ただ手足を適当に振っているだけであり、全然楽しそうではなかった。

かくいう俺も動きを覚え切れておらず、とてもぎこちない。


そんな中、異彩を放っていたのは3組の丸山(まるやま)和輝(かずき)君だ。

彼は小太りの体型であるにも関わらず津田先生と同等の切れを見せ、

動きを完全に再現するだけでなく随所でアドリブを加え、

曲の終わり際に激しいブレイクダンスを披露して周囲を驚かせたのだ。


「こらっ! マル〜!

 俺より目立っちゃだめだろ〜!」


「へへっ、すいませんね先生

 テンション上がっちゃったもんで、つい」


4組とは違い、3組の生徒は担任との距離が近いようだ。




訓練終了後、しばしの休憩を挟んでから荷物を整え、

俺たちはダンジョン前に集合した。

今回はリリコがいるので光源は必要無いのかもしれないが、

何があるかわからないので一応ランタンは忍ばせてある。


計画書を提出すると、それを受け取った細身の先輩は名乗り始めた。


「僕は2年の加藤(かとう)(ひゅう)

 今回は僕が同行させてもらうよ よろしくね」


ああ、この人がそうか。

同じクラスの女子たちが彼の話題で盛り上がっていた。

たしかに爽やかな印象の色男で、これならモテるのも無理はない。


「はい、よろしくお願いします

 ……って、一緒に来てくれるんですか?

 あまり長居する気は無いのですが」


「そういう決まりだからね

 僕たち2年生には新入生を見守る任務が与えられてるんだ

 鬱陶しく感じるかもしれないけど手は出さないから安心してね」


「え?

 おいアキラ、お前こないだ1人でダンジョンに行ったんだよな?」


「ああ、先輩はついてこなかったぞ」


「おっと、それは聞き捨てならないね

 誰に計画書を渡したのか覚えてるかい?」


「はい、工藤先輩です」


「ああ、彼女か……

 あとで上に報告しておくよ

 とりあえず準備がOKなら出発しよう」


「あ、はい

 よろしくお願いします」




ダンジョンに入ると、まずその明るさに驚かされた。

宮本先輩の時とはまるで違う。通路の奥の方までくっきり見える。


「こんなに明るいダンジョンは僕も初めてだよ

 さすがは高音(たかね)さんだね」


そういえばリリコは自分自身を『天才らしい』と口走っていた。

平均的な魔法能力者よりも遥かに高い魔力の持ち主なのだろう。

次にリリコと活動する時にはランタンを持たなくても平気そうだ。



目的地に向かう途中、ヒロシは加藤先輩と雑談を交わしていた。


「先輩の剣ってなんだか独特な形状をしてますよね

 刃がギザギザでノコギリみたいというか」


「銘は“デアデビル”……命知らずって意味だったかな

 普通の剣よりも刺突ダメージが大きいのが特徴さ

 相手の体から引き抜く時、返しの刃が傷口を広げてくれるんだ

 ちなみに刺突攻撃は狭い通路や天井が低い場所でも使えるから、

 剣士として立ち回りたいならよく練習しておくといいよ」


「へえ、ただのデザインじゃなかったんですね

 俺の剣もそれにしよっかなあ」


「いや、おすすめできないね

 力任せに振り回せばすぐ刃がダメになるし、

 かといって慎重に扱いすぎれば敵を仕留め損ねてしまう

 更に、手入れの際に怪我する人が多いらしいよ

 これを使いこなすには充分な技量と長年の経験が必要なんだ」


「長年って……先輩は2年生ですよね?」


「うん、でも実家が魚屋でね

 小さい頃から店を手伝ってたから刃物の扱いには慣れてるんだ」


「なるほど……

 俺には厳しそうな剣だなぁ」


「まあ他にも剣はあるし、なんだったら剣にこだわらなくていい

 そのうち訓練で色々な種類の武器を触る機会があるから、

 そこで一番自分の手に馴染んだ物を選ぶといいよ

 今すぐ装備を買い揃えちゃうと、きっと後悔すると思う」


「剣以外かあ……

 わかりました、参考にします」



しばらく進むと魔物を発見した。

本日の目的であるスライムではない。

あれは……馬人間だ。


右半身が馬、左半身が人間というアンバランスな外見を持ち、

目標に向かってまっすぐに進めないという特性を持つ。

図鑑にはそれ以上の情報は記されていなかった。


「なんだあいつ……キメーな……」

「あの人間の部分も魔物……なんだよな?」


2人はドン引きしている。

俺は予習していたので少し衝撃を和らげることができたが、

やはり実物を見ると困惑してしまう。


「ある程度ダメージを与えると、左右に分離して更にグロくなるよ

 嫌なものを見たくなければ一気に倒すしかない

 まあ、分離した後はその場でのたうち回るだけだから安全だけどね」


あの図鑑は……欠陥品なのか?


「左半身側から攻撃すれば安全だと思うのですが、それで合っていますか?」


「うん、合ってるよ

 ちなみに攻撃手段は“突進”と“噛みつき”だけで──」


加藤先輩が説明しようとした矢先、

馬人間はこちらを察知して襲い掛かってきた。


「──みんな、その場を動かないで!」


そう指示され、俺たちは立ち止まった。

加藤先輩の判断は正しい。

この魔物を相手にする場合、()()()()()()()()()()()のだ。


馬人間は俺たちの周りをぐるぐると走っている。


ぐるぐると走っている。


ぐるぐると……。



……そう、俺たちの周りをただ走り回るだけだ。

奴は俺たちと敵だと認識しているのに、

まっすぐ進めないがゆえに目標へ辿り着くことができないのである。


「ごめんね、失念していたよ

 魔物の多くは“より魔力の高い者”を優先的に狙ってくるんだ

 僕は高音(たかね)さんの魔力が異常に高い件を考慮していなかった

 まさかあの距離で気づかれるとは思ってもみなかったよ」


「んだよ、オレのせいだってのかよ」


「そうだね

 君は魔物にとって魅力的な“餌”なんだ

 今後も常に狙われ続ける点を留意してほしい

 それを緩和する方法はあるけど……

 まあ、いずれ訓練で教わることだから今は黙っておくよ」


魔力は高ければ高いほどいい、というものではないようだ。

魔法攻撃力の高さと引き換えに魔物からの攻撃頻度が増加するらしい。


「それで、誰がやる?

 ただ武器を横に構えてるだけで自滅してくれる相手だけど……」


「ぁあん? そりゃ、オレに決まってんだろ

 あのバケモンはオレ目当てで襲ってきたんだし、

 売られた喧嘩は買うしかねえよなあ?」


リリコはそう言うと持参した剣を握り直し、

体の左側で野球バットのような持ち方をして待機した。


「え、リリコちゃん

 横に構えるだけでいい、って先輩が……

 もしかして迎え撃つつもり?」


「おう、どうせなら豪快にぶっ倒してえからな

 タイミング合わせて一撃で仕留めてやるぜ」


高音(たかね)さん、危険だからやめるんだ

 君のその両手剣は攻撃力の高さと長いリーチがメリットだけど、

 そのぶん重量があるせいで初心者には制御が難しい

 今、僕たちは密集陣形の状態にある

 思い切り振り抜いたら高確率で仲間に当たってしまうよ」


「お、おう……」


先輩に諭され、リリコはおとなしく水平に剣を構える。

そして、馬人間は目の前の障害物などお構いなしに突っ込んできた。


「ウギャアアアアアッ!!」

「マジでキメーよこいつ!!」


上下に分断された馬人間は赤い液体を撒き散らしながら走り続け、

しばらくすると走るのを止めて左右にも分離し、

水揚げされた魚のようにピチピチとのたうち回り始めた。

その際、内臓のような物体を垂れ流してグロテスクさに磨きがかかる。


「魔物に血や内臓は存在しないと図鑑に記されていたのですが……」


「ああ、あれは血でも内臓でもないよ

 そう見えるだけで体の外側と全く同じ成分らしい

 ……今更だけど、魔物の振り撒く液体が口に入らないように気をつけてね

 健康上の問題もあるし、大体は溶けた粘土みたいな味らしいからさ」


試した人がいるんだな……。




本日の目的を終えた俺たちはダンジョンを後にし、帰路に就いた。

空は赤く、それなりに長い時間を過ごしたのだと実感する。


「さ〜って、シャワー室空いてっかなぁ……

 あ、もちろん右側以外な!」


「ああ、あの台は急に水になるからびっくりするよな」


「ん? シャワー室?

 男子寮にはそんなのがあんのか?」


「え、女子寮には無いの?

 風呂どうしてんの?」


「どうしてるってそりゃ……部屋にあるよ

 24時間沸き立ての奴がさ」


「しかもバスタブ付き!?

 え、ちょっ……男女の格差酷くね!?」


「え、マジで?

 バスタブもねーのかよ〜!

 女子寮にゃあ大浴場もあんぞ!

 オレ女でよかったわー! ブハハハ!」


「大浴場……!

 ちくしょう!」


「リリコ、今から部屋に行ってもいいか?」


「男子禁制だからだめですぅー!

 冷たいシャワーで我慢してくださぁーい!」


「くっ……!

 ちくしょう!」


俺は悔しい思いをしたが、なぜだか笑っていた。

友人同士で他愛のない会話をしながら帰り道を歩く。

そんなどこにでもありふれた経験は、俺には新鮮だったのだ。

基本情報

氏名:高音 凛々子 (たかね りりこ)

性別:女

サイズ:G

年齢:15歳 (4月27日生まれ)

身長:165cm

体重:58kg

血液型:A型

アルカナ:女帝

属性:炎

武器:レンタルブレード (両手剣)


能力評価 (7段階)

P:6

S:5

T:2

F:16

C:1

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