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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
37/150

11月上旬

「25kgか……

 以前よりはだいぶ健康に近づいたが、

 もう少し体重を増やしておきたかったな」


「私は重い女になる……」


「ユキ

 本当に出場するんだな?

 トーナメントに……」


ユキはコクリと頷いた。


当魔法学園における唯一の行事、対人戦の後半が来週から開催される。

トーナメントの出場条件は“個人戦で1勝以上した生徒”であり、

この杉田雪も条件に当てはまっている者の1人だ。

というのも彼女は内藤先生のお気に入りらしく、

その戦いに出場させるため、八百長で1回勝たせていたのだ。


……まあ、その1勝を貢いでしまったのは俺なんだが。


それはともかく彼女の体格は貧相すぎて不安になる。

身長135cm、体重25kg。とても高校生には見えない。

この少女を本気で殴れるような卑劣漢は……残念ながら存在する。


どうやらあの谷口もトーナメントに出場するらしい。

更には同類の玉置までもが参加するそうで、もう不安しかない。


「ユキ……

 お前が出場したいというのならその意思を尊重するが、

 絶対に無茶な真似はしないように心がけてくれ

 お前には瞬間移動(テレポート)があるんだ

 常に相手と距離を取っていれば直接攻撃を喰らわないし、

 いざとなったら会場から逃げることもできる

 くれぐれも怪我だけはしないように注意してくれ」


「アキラは私を大事に思ってる……」




俺はダンジョン内にある仮設の喫煙所へと足を運び、

内藤先生……主任訓練官と面談を行なった。

彼は1年1組だけでなく2年生と3年生の担任も兼任している人物であり、

特に上級生の訓練はほとんど彼1人で指導しているそうで、

その話だけでも相当忙しい立場なのだろうと容易に想像がつく。


が、今はそんなの関係無い。


「先生はなぜそこまでして杉田雪を戦わせたいのですか?

 たしかに彼女は特別な才能を持ち合わせていますが、

 俺には彼女が戦いに向いているとは思えません」


「お前もそう思うか?」


「えっ

 それはまあ、はい」


てっきり反論されるものと覚悟していたが、

意外な反応で面食らってしまった。


「今回のトーナメント出場だけでなく、

 入学前にも考え直せと説得したんだがな……

 まあ本人が強く望んだ結果がこれだ

 甲斐、お前にも心当たりがあるだろう」


言われてみれば、俺の決断を賛成してくれる人ばかりではなかった。

だが、家族や身近な人たちの理解を得られていたので気にしていない。


「……質問を訂正させていただきます

 杉田雪はなぜそこまでして戦おうとしているのですか?」


「さあな

 詳しい事情は本人から直接聞け

 杉田はだいぶお前に懐いているようだし、

 心を開いてくれるだろうからな」


心を開く、か……。

決して軽い事情ではないのだろう。




その後、俺はユキを連れて資料室に訪れた。

この部屋の存在を知っているのはごく一部の生徒だけであり、

プライベートな会話をするには最適だと思ったからだ。


「ふふ、アキラと密室で2人きり……」


「鍵は開いている

 それより、お前が冒険者を目指す理由を聞かせてもらえるか?

 俺は故郷にある邪魔なダンジョンを消し去りたいからだ」


質問を受け、彼女は黙り込んだ。

まあ仕方ない。

きっと他人に軽々しく話せるような内容ではないのだろう。


「……私の両親はこの学園で出会ったの」


が、しばらく沈黙が続くかと思っていた矢先、

彼女はすぐに理由を打ち明けてくれたのだ。


「でも当時はお母さんの片想いだったんだって言ってた……

 それが卒業後にお父さんと再会して結ばれたんだって……

 なんだかロマンチック……

 私もそんな運命の相手に巡り会えたらいいなと思って……」


ん……?


「私も出会えたから……今は満足してる……

 あとは卒業後に結ばれるだけ……ふふふ」


……あれ?


全然重くない。




後日、俺は再び内藤先生と面談した。


「そうか、あいつがそんなことを……

 てっきり幼少期のトラウマを引きずっていたのかと……

 しかしまあ、年相応の少女に成長してくれたようで何よりだ」


何よりじゃない。

“幼少期のトラウマ”なんてワードを出されたら不穏になる。

気になってしまった以上、この場で詳しく聞かせてもらう。


「あいつの母親は魔物を研究する機関で働いていたんだが、

 ある日、研究対象が脱走する事故が起きてしまってな……

 彼女は被害を最小限に抑えようと、その身を犠牲にして

 危険な魔物と共にダンジョンの奥へ消えていったんだ

 当時1歳未満だった杉田もその現場に居合わせていた」


母親が魔物絡みの失踪……。

俺の場合とは状況が異なるが、ユキとの共通点だ。


彼女の過去を聞き出したついでに、

なぜあそこまで栄養が足りていないのかも聞いておこう。

本人よりもこの人の方が詳しく答えてくれそうな気がする。

勝手に過去をほじくり返して悪いとは思うが、

1人の少女の命が懸かっているのだ。手段は選んでいられない。


「……あいつの生物学的な父親はろくでなしでな

 妻の失踪後、悲しみを紛らわすために酒に逃げたんだ

 そして3歳の娘を捨てた最低な男だ……父親失格だよ

 結果的に杉田雪は幼い頃に実の両親を失ったんだ

 俺は心理学者じゃないから断言はできないが、

 その時の心の傷が何かしらの影響を与えていると思う」


父親失格か……。

ただ、彼の決断は正しかったのだろう。

ユキもそんな大人の下で暮らすよりは幸せだったはずだ。


「甲斐、これだけは絶対に誤解しないでほしいんだが……

 あいつを引き取ってくれた養父母はとても親切な方々だ

 あの体型は、本人が新しい両親の愛情を拒否し続けた結果に他ならない」


「そうですか……

 ところで気になったのですが、

 先生と彼女は昔からの知り合いなんでしょうか?

 なんだかやけに詳しいような……」


「俺は昔、あいつの母親と同じ職場で働いていた

 毎日娘を職場に連れてきては託児所代わりにしていたな……」


なるほど。

他の生徒よりも入れ込んでしまう気持ちはなんとなく理解できる。




資料室。


「あった……

 これが私のお母さん……」


20年以上前の卒業アルバムの中に、

ユキとよく似た顔立ちの女子生徒の写真があった。

彼女は娘と違って健康的な体型をしており、

その素朴な笑顔からは朗らかな人柄が伝わってきた。


天城(あまぎ)(そら)

杉田雪の母親であり、世界で唯一の“空間魔法”の使い手。

ただし当時の日本冒険者協会はその異質な才能を認めず、

この情報は魔法学園内だけに留まっていたようだ。

そしてその空間魔法は娘にも引き継がれており、

やはり彼女も協会から煙たがられている。



「ん?

 ましろにそっくりな人がいるな」


「その人はましろのお母さん……」


青木みどり。

娘と見間違えるほどに顔の作りが似ている。

大きな違いといえば髪の色だろう。

派手な金髪の中にピンクや緑のメッシュを入れており、

それはまるでひやむぎを連想させた。


ましろが使用する『キュア』は母親から受け継いだ回復魔法らしく、

今も昔も『ヒール』が主流だと聞いたことがある。

キュアは発生速度と消費MPの少なさという点で優れるが、

ヒールと比べて回復量が物足りないそうだ。



「こっちがましろのお父さん……」


黒岩大地。

平均的な男子生徒よりも小柄な体格をしているが、

学園史上最強の魔法剣士という評価がなされている。

そのあまりの強さに“雷神”の二つ名が付いたらしい。


個人戦績は3年間で100戦100勝0敗……無敵だ。


「当時は1年生だけの競技ではなかったようだな

 上級生、下級生入り乱れての戦いだったみたいだし、

 同じ相手と何度も……って、この名前…………」


内藤真也。

どう見ても主任訓練官のあの人だ。

制服姿で無精髭が生えていないので違和感がある。


黒岩大地に50回も勝負を挑み、その全ての戦いで敗北している。

ただし彼が弱かったというわけではなく、相手が悪すぎたのだ。

彼にも“電光石火”の二つ名があり、最強格の魔法剣士だったようだ。



その後もいろんな人の過去を知って若干の背徳感を覚えたが、

ここに置いてある資料は学園関係者なら誰でも閲覧可能な物だ。

入室許可も得ているし、俺たちは何も悪いことはしていない。




喫煙所。


「黒岩大地か……嫌な記憶が蘇る

 奴の強さはとにかく異常だった

 ……いや、過去形にするのは違うな

 奴は俺と同い年にも関わらず、まだ魔法能力を失っていない

 当分は世界最強の魔法剣士の地位は揺るがないだろうな」


「世界最強ですか

 先生がそれほど称賛なさるとは、相当の実力者なんですね」


「称賛じゃない、事実を述べたまでだ

 奴は世界で初めてD7を攻略した英雄として知られている

 日本では全く報道されていないから、お前が知らないのも無理はない」


「D7……?」


俺は説明を受けて、世界に点在する最難関ダンジョンの存在を知った。


黒岩大地氏はそのうちの1ヶ所、

ブラジルに存在していた“ノヴァエラダンジョン”を消滅させたらしい。

ましろの父親がそんなにすごい人だったとは……。


「しかし、そんな人物が国内では無名だなんて変な話ですね

 もしかして日本冒険者協会からの圧力ですか?」


「ああ、それについてはお前たちがプロになってから話す

 俺たちの“敵”に関わる内容でな まだ教える時期じゃない」


知りたければ進級しろということか。

望むところだ。






後日、トーナメント表が廊下に貼り出され、

生徒たちは我先にと身を乗り出して内容を確認しようとした。

対戦の順番も大事だが、それより参加者が気にしていたのは

“自分が誰とペアになったのか”という点だった。


計32名の参加者たちは事前にタッグを組みたい相手を申告し、

学園職員たちはその希望を考慮しつつ16チームに振り分ける。

その作業がようやく終わったのだ。


「よし、女子と一緒だ!」

「進道君がよかったんだけどなぁ」

「話したことない相手だけど、まあいいか」


全員が希望通りではないにしろ、大体は納得のいくペアのようだ。



「よっしゃあ!!

 これなら優勝間違いなし!!

 100万円はオレのもんだ!!」


リリコが歓喜の声を上げる。

相方は……なるほど、早苗か。どうりで喜ぶはずだ。

密かに個人戦で25勝の戦績を残した謎の格闘家であり、

最近は凍結の状態異常まで使えるようになったのだ。

そしてリリコ自身も攻撃力だけなら最強クラスときた。

正直、強すぎる組み合わせに思える。



「あっ! 私の名前あった!

 しかもノム君と一緒だ〜!」


「やったねタマちゃん!

 僕たちは永遠に一緒だよ!」


玉置と野村のバカップル。

よくあんな女とつき合えるなと感心するが、

それより野村の魔法剣士としての実力は結構高いらしい。

とりあえず玉置が物騒な武器を使わないように制御してほしい。



「チッ、やっぱそうきたか……

 でもまあ、しゃあねえよな

 おれ以外に引き取り手がいねえもんな」


センリは残念そうな反応。

相方は……谷口。ああ、納得だ。

おそらく対戦バランスを考慮した結果なのだろう。

優勝の最有力候補に与えられたハンデと考えておこう。



「あ、あたしミナとペアだ!

 本当はセンリと一緒がよかったんだけどね〜

 まあセンリは一番人気だからしょうがないよね!」


「いきなりコンビ仲が悪くなるような発言はやめんかい!

 言っとくけど、私はましろ一筋で申告書出したからね?

 もうちょい相方に対する敬意を払いなさい」


「へえ、そうだったんだ!

 ありがとねミナ! 趣味が悪いね!」


「自分で言っちゃうんかい!」


あのコンビは相変わらず楽しそうで何よりだ。



「なあ、アキラ

 1組の一条って奴と喋ったことあるか?

 俺、こいつのこと全然知らねえんだよな」


グリムに尋ねられるが、俺も交流の無い男子だ。

センリが言うには『ハーレム野郎』だそうで、

休み時間には取り巻きの女子を引き連れてどこかへ消え、

訓練中はいつも手を抜いて女子と遊んでばかりらしい。


「ぐえ〜、俺の相方そんな野郎かよ〜

 たとえ強くても性格クソだったら楽しめねーよ」


どうやらハズレを引いたようだ。

一条(いちじょう)刹那(せつな)……戦績は3戦3勝0敗となっているが、

取り巻きの女子を利用した八百長の可能性が高い。

1組の生徒なので何かしらの才能はあるのだろうが、実力は不明だ。



「しかもグリムの対戦相手は俺だぜ」


「ヒロシ……

 まあ、やるからには本気でやらせてもらうぜ

 それが強敵(とも)に対する最大の礼儀というものだからな」


「ならば此方(こちら)も容赦せん

 我が剣技にて其方(そなた)を葬り去ってくれよう」


「フハハハハ!

 それでこそ我が好敵手(ライバル)……!

 お互いに悔いの残らない勝負をしようじゃあないか!!」



「なあ、2人とも

 盛り上がってるところ悪いが……

 ヒロシの相方がユキだということを忘れないでくれ

 試合を行う以上は手を抜けとまでは言わないが、

 せめて彼女を怪我させないように気を配ってほしい」


「あ、うん」

「もちろんだ」

基本情報

氏名:後藤 瑞樹 (ごとう みずき)

性別:女

サイズ:E

年齢:18歳 (9月4日生まれ)

身長:170cm

体重:52kg

血液型:A型

アルカナ:審判

属性:氷

武器:なし

防具:メタルマスター (衣装)

アクセサリー:タロットカード


能力評価 (7段階)

P:3

S:3

T:5

F:7

C:7


登録魔法

・アイスボール

・アブソリュートゼロ

・フリーズ

・マジックシールド

・ディーツァウバーフレーテ

・ヒール

・リフレクト

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