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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
36/150

10月下旬

以前センリが話していたが、

魔法を使えるようになってから半年が成長のピークだそうだ。

それを証明するかのように同期生たちは急成長し、

最初は1発しか撃てなかった攻撃魔法をバンバン連発できるようになり、

使用できる魔法の種類も2つ、3つと増やしていった。


「やったよアキラ君!

 私、フリーズを使えるようになったよ!」


そして、ついに早苗も敵を凍結させる魔法を習得したのだ。


「ああ、よく頑張ったな

 これでノルマを達成できる」


そう、ノルマ。

今学期中に第3層の魔物の討伐数を稼ぐ必要がある。

そいつらは物理攻撃が通用しない種族であり、

魔法を使えない人間には討伐することができない。

が、魔法で凍らせてしまえば打撃が有効になる。。


どうやら早苗には状態異常付与と弱体の魔法に高い適性があるようで、

今現在、凍結魔法を使用できる1年生は彼女だけしかいない。


その性能を確かめるべく、俺たちは早速ダンジョンに向かった。




第3層。


記録によればこの階層の魔物は年間を通して3種類の精霊しか出現せず、

その発生頻度もほとんどブレずに安定しているらしい。

攻撃魔法を覚えたての1年生が自信をつけるための場所……

たしかに適していると思う。


それはさておき、10m先には“ジン”という魔物がいる。

雷属性の精霊で、いわゆる雷様かみなりさまのような風貌をしており、

この姿は日本国内でしか見られない限定バージョンらしい。

多くの国ではランプの魔人のような姿が一般的であり、

一部の地域ではプラズマボール状だったりと、謎多き存在だ。


試し撃ちの前に、魔法知識の深いセンリに確認を取る。


「魔法属性の三竦みでは『雷は氷に強い』となっているが、

 あいつにも凍結は通用すると考えていいんだよな?」


「ああ、バッチリ効くぜ

 状態異常耐性と属性耐性は別物だからな

 あと意外に思うかもしれねえが、

 雪だるまみたいな見た目の“ジャック”にも凍結が通るんだぜ」


それはたしかに意外だ。

まあ、とりあえず全ての精霊は凍結可能らしい。


「早苗、準備はいいか?」


「うん、いつでもいいよ!」


早苗は標的に狙いを定め、手をかざした。



「……フリーズ!」



早苗の手の平からキラキラと輝く風が発生し、

それに当てられたジンはこちらに気づいて近づいてくるも

すぐさま動きが鈍くなり、やがて氷の塊の中に封印された。


俺はその塊に近づき、ゆっくりと手を伸ばした。

センリ曰く『1ダメージでも与えたら割れる』そうで、

そうならないように指先で氷の表面を優しく撫でてみた。


「おお、これはすごいな……

 冷たさや触り心地と言い、本物の氷と区別がつかない」


思わず感嘆の声を漏らす。

早苗は頬に手を当てて照れ臭そうにしている。


「……んで、アキラ

 本当にやんのか?」


センリの指摘で目的を思い出した俺は現時刻を確認する。

午後4時15分。


「ああ、どれくらいの時間を足止めできるのか確認しないとな

 資料室を漁っても凍結後にすぐ討伐したという記録だけだし、

 先生方やセンリも知らないと言うのなら自分で調べるしかない」


「そりゃ調べる必要がねえからだ

 過去にも検証しようとした奴は存在するが、

 どいつもこいつも途中で飽きてそれっきりだ

 凍結が通用する敵は『凍らせた時点で勝ち確』だからな

 もし解除されたら、もう一度凍らせりゃ済む話だし……」


「そうだとしても、俺は限界値を知っておきたい

 もしこの検証が予定時刻より長引いた場合、

 それ以上つき合えないと感じたら帰っていいぞ」


「ああ、そん時ゃ遠慮無く帰るぜおれは」


「私は最後までつき合うよ!」


そして俺たちは凍結の持続時間の検証に取り掛かった。



拠点には大量に持ち込んだ段ボールを敷き詰め、

クッション無しでも寝転がれるスペースを作った。

それから少し離れた場所に簡素な個室を用意した。

今回は特にその部屋を使う予定は無いものの、

実際に入ってみた感想を聞いておきたかったのだ。


食料は肉や魚の燻製、乾物、缶詰など常温で長期保存可能な物を揃え、

糖分の補給源として蜂蜜も用意してある。

そして水は大事だ。今回は100リットル持ってきた。

多めに用意しておくに越したことはない。


「用意しすぎなんだよ

 まるでキャンプじゃねえか……

 3時間の活動予定でこんな消費できるわけねえだろ」


「まあ、そうなんだが……

 これが1週間ともなると100リットルでは足りなくなる

 とりあえず飲み水の消費量を1日2リットルと仮定して、

 それが5人パーティーだと1週間で70リットルだ

 だが俺たちはただでさえ戦闘で汗を掻く機会が多いし、

 飲む以外にも顔や手、傷口を洗ったりするのにも水が必要だ」


「1週間っつうと……

 ああ、長期滞在訓練の予行演習ってわけか」


「そういうことだ

 先輩方のような失敗はしたくないからな

 今のうちから何度か疑似体験を重ねておいて、

 本番では快適に過ごせるように準備しておきたい」



「ねえ、アキラ君

 さっき作ってた個室ってもしかして……トイレ?」


「その通りだ

 ただ、あれでは音が漏れてしまうだろうな

 帰ったら防音設備について勉強しておこう」


「やっ、音以外にも……その、臭いとか……

 拠点に設置するのはどうなのかなって」


「ふむ……

 では、もっと遠くにトイレ用のスペースを確保するか

 資料室に地図があったから、よさげな場所を探しておく」


「男女別でお願いね!」


早速問題点が浮き彫りになる。

試して正解だ。




それから1時間が経過したが、依然としてジンは凍結したままだ。

センリの解析魔法(アナライズ)によるとジンの魔力の波長は乱れておらず、

この状態はまだしばらく続くだろうとのことだ。


「アキラ、お前は猫なのか?」

「いや……」


「アキラ君が食べてるのって猫缶だよね?」

「ああ……」


「どんな味がするんだ?」

「薄い……食えなくはない」


「なんで買っちゃったの?」

「てっきり人間用かと……」


店の並べ方が悪かった。

ツナ缶やマグロ缶の隣にしれっと置いてあり、

量と値段を比べてお買い得だと思ってしまったのだ。

こんなのがまだ29缶残っている。

しばらくは猫缶漬けだ。


「センリもどうだ?」


「んなモン食わねーよ!

 返品すりゃいいだろうが!」


「返品するのは申し訳ないというか……」


「アホか

 お前は怒っていいんだよ

 悪意ある売り方だったんだろ?

 むしろ怒れ

 なに遠慮してんだよ……」


「もう開けてしまったしな……

 食べ物を無駄にはしたくない」


「じゃあその1缶だけにしとけ!

 残りは全部返品だ!

 ついでに店に苦情入れろ!

 同じような被害者を生み出さないようにな!」


そうか、俺だけの問題ではないんだ……。

他のお客さんのためにもここは腹を括ろう。


「私も食べていい?」


チャレンジャーがいた。




それからまた1時間後。

やはりジンは凍ったままで何も変化は無い。


「おっ、アキラ君たちだ」

「今日は戦戦魔だ」

「やっほ〜」


グリム抜きのグリムパーティーだ。

この階層をうろついているということは、

彼らもそれなりに攻撃魔法を連発できるようになったのだろう。

果たして回復役(ヒーラー)候補のアリスはあれから成長したのだろうか……。


「なんか随分と寛いでるねえ 定点狩り?」

「俺たちもちょっと寝っ転がっていい?」

「ホームレスみたい」


俺たちは凍結の持続時間を検証中であり、

長期滞在訓練の予行演習中でもあると答え、

歩き疲れた彼らがここで休憩するのを許可した。



カルマは段ボールの床上に手足を投げ出して大の字になり、

心底気持ち良さそうに仰向けのまま背伸びをした。


「ふぃ〜〜〜!!

 まさかダンジョンの中でゴロゴロできるとは思わなかったぜ!

 これ、俺らも真似していい?

 クッション何個も並べるより効率いいかも」


「ああ、べつに構わない

 焼却炉の管理人さんからいくらでも貰えるぞ」


ちなみに先輩方は長期滞在中、折り畳み式のマットを使ったらしい。

ただ、この情報は彼らには黙っておいた方がいいだろう。

アリスが『私たちもそうしよう』と言い出しかねない。


普段からそれを持ち歩くのはかさばるだろう。

ただでさえカルマは重労働の防御役(タンク)を担っており、

更に本来は補給係が持つはずの冒険道具一式を運んでいるのだ。

そこに寝具まで持ち歩くようになったら大変なんてもんじゃない。



「あ、アキラ君

 休ませてもらった上に図々しいとは思うけど、

 水が余ってたら少し分けてもらえるかな?

 さっきアリスが転びそうになって、中身ぶち撒けちゃってさ」


カムイからの要望に応え、2リットル入りを3本提供した。

彼は「こんなにいらないよ」と遠慮したが、

まだ活動を続けるのなら多めに持っておいて損は無い。

こちらも少し減らしたいと思っていたのでちょうどいい。


ちなみに彼のトリオ内での立ち位置は攻撃役(アタッカー)であり、

相方と同じく補給係が持つはずの食料や飲み水を運ばされている。

消費すれば中身が減る分カルマよりは楽とはいえ、

やはりこの状況はかなりおかしいだろう。



「うわ、まっず!

 何コレ……って、猫の餌じゃん!!

 なんでこんなモン持ってきてんの!?」


「いや、何勝手に他人の食料漁ってんだ……

 俺はそれを食べていいなんて一言も言ってないぞ」


アリス……。

やはりこいつが癌だ。

他の2人とは友人になれそうだが、この女はちょっとな……。


「ちょ……こわ〜い!

 そんな顔しないでよ〜!

 美味しそうだったから、つい……まずかったけど

 とにかくごめんね?」


上目遣いで覗き込んでくるが、鬱陶しいだけだ。


「アキラ君! 俺からも謝るよ! 本当にごめん!」

「うちのアリスがとんでもないことを……!」


この2人もどこかおかしい……。




あの後アリスは猫缶を食いかけの状態で立ち去ろうとしたので、

全て食い終わるのを見届けてから彼らとは別れた。


時計を見ると午後7時で、予定していた終了時刻まであと15分。

相変わらずジンは凍結したまま何も変化は見られないが、

仲間の方に悪い変化が現れてしまった。


「あ……

 ちょっと私、その……

 お花摘みに……行きたいなって」


早苗が膝を擦り合わせながら恥ずかしそうに申告する。


「携帯トイレを持ってきてあるんだが……使うか?」


それを見た早苗はどうしようかと少し悩んだが、

ただ無言で首を横に振るばかりだった。


まあ仕方ない。

今はまだこの道具に頼らないといけない状況ではない。

ちゃんとした個室で用を足せるのならそれが一番だ。


「よし、今日はこれで切り上げよう

 とりあえずビデオカメラを設置して撤退だ」


拠点の片付けは後回しでいいだろう。

まずは早苗を無事に学園まで送り届けるのが先決だ。


「アキラ君は大丈夫……?

 たぶんこれ、猫缶のせいかも……うぅっ!」


ん……?

ああ、早苗は腹が痛いのか。

これは思っていたよりもまずい事態だ。


「俺はなんともないが……

 まあ、とにかく急ごう」


「やっぱアキラって猫なんじゃねーの?

 あんなん人間が食う前提で作られてねえんだし、

 そりゃ森川も腹壊して当然だろうが」


「だとすると……まずいな」


俺は携帯トイレにメモを貼り付けて拠点に残し、

早苗を抱え上げて速やかにダンジョンを脱出した。






──午後10時。


俺はカルマとカムイを引き連れて再び第3層まで来た。

目的は、後回しにした拠点の片付けである。


「いやあ、しかし……

 あの場に携帯トイレが無かったらどうしようかと……」


「しかも個室があったおかげで、アリスは恥をかかずに済んだ!」


予想通り、アリスも腹痛を起こして大変だったらしい。

俺は彼女にトイレを提供する条件として、

この2人に撤収作業を手伝ってもらうようメモに残したのだ。


道中の会話で打ち明けてくれたが、

彼らも少しはアリスに不満を抱いてはいるらしい。

だが女子とまともに会話したことのない彼らにとって

アリスは貴重な女友達であり、嫌われるのを恐れているそうだ。


「グリムはいい奴だよ

 またみんなでワイワイ楽しくやりたいと思ってる

 ……けど、まだアリスはあいつを嫌っててさ」


「どうしてこんなことになっちゃったのかねぇ

 まったく、あの頃が懐かしいよ

 なんとか仲直りしてくんないかな、あの2人……」


もうアリスを捨てて男3人で組んだ方がいいと思うが……。

まあ、彼女も含めて“仲間”なのだろう。



現地に到着し、俺は変化に気づいた。

3時間凍結しっぱなしだったジンの姿が消えていたのだ。

自然解凍したか、何者かの手によって解除されたかのどちらかだ。


設置していたビデオカメラを確認しようとすると、2人が反応した。


「ちょっ……ああ!!

 そういえばカメラあったねえ!!

 俺らも仕掛けときゃよかった!!」


「やるじゃんアキラ君!!

 ちゃんとトイレの音入ってる!?

 それ、いくらで売ってくれる!?」


……こいつらとは永遠にわかり合えない気がする。

基本情報

氏名:須藤 怜二 (すどう れいじ)

性別:男

年齢:17歳 (1月24日生まれ)

身長:195cm

体重:99kg

血液型:A型

アルカナ:正義

属性:炎

武器:ヘルファイア (大槌)

防具:戦士の鎧 (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:9

S:8

T:8

F:2

C:3


登録魔法

・ファイヤーボール

・リベリオン

・ライジングフォース

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