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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
35/150

復活者

赤コーナー。

1年3組所属、本郷(ほんごう)拳児(けんじ)

3歳から空手を始めて、中学時代に全国優勝を成し遂げた実力者。

残念ながら魔法能力者だと判明したがゆえにその記録は抹消されたが、

その近接格闘能力は本物であると断言できる。

選んだ装備はポール&シールドであるが、

彼は毎回試合直後にこれらの装備を捨てて素手での勝負を求めてきた。

最初から判定を考慮に入れず、真正面からぶつかり合いたかったのだ。


青コーナー。

1年4組所属、小中(こなか)(ひろし)

見た目はその辺の標準的な10代男子にしか見えないが、

その心の内には熱いモノを持っている男として知られている。

1戦目、2戦目では有利に試合を進めていたにも関わらず敗北し、

未だにその結果に納得のいかない生徒も多く存在する。

今回は右手にダガー、左手にソードという変則的な装備を選択しており、

やはり彼も近接戦闘による決着を狙っているのが見て取れる。



「では……試合開始!!」



審判の合図により、両者が勢いよく飛び出す。


そしてお互いの間合いが適切な位置に到達した瞬間、

本郷は正体(せいたい)……左半身を前に出した構えを取り、

「コオオォォ」と呼吸を整え、右拳に精神を集中させた。


だが、先制攻撃はヒロシだった。


本郷は一手遅れてしまった。



ヤクザキック。



試合開始早々に決まった、顔面を狙った前蹴りである。

彼は武道家として“型”を重んじたがために不意打ちを喰らったのだ。


(……よしっ!!)


その技を仕込んだ早苗は心の内で歓喜する。

しかし、教えた技とは異なるので少しだけ微妙な気分でもある。

彼女は胴体狙いの前蹴りを伝授したのだが、

ヒロシはアドリブでそれよりも高い位置を攻撃したのだ。



本郷は頭を激しく左右に振って痛みを吹き飛ばし、

自らの心の甘さ……油断を反省して再び対戦相手と向き合う。


……が、そこにいるはずのヒロシの姿が見えない。

だが側面や背後に回られた気配は無い。


下だ。


それに気がついた時には既に手遅れであった。



バシッ!!



本郷の顔が苦痛に歪む。


「……ぃよっしゃ!!」


今度はセンリが歓喜の声を上げた。



ヒロシは最初の攻撃の直後に自ら地面に寝そべり、

その体勢から本郷の脚を狙って回し蹴りを放ったのだ。



バシッ!!



そしてまた変則的なローキックが同じ位置に直撃し、

それを嫌がった本郷は一旦後退して仕切り直そうとした。


が。



バシッ!!



ヒロシの執拗なローキックが三度(みたび)、本郷の脚を捉えたのだ。


「おい、なんだそりゃー!」

「カッコ悪りいぞー!」

「真面目に戦えー!」


観客席からはブーイングの声が上がる。

が、ヒロシはお構いなしに変則的なローキックを繰り返した。



本郷は初めて体験するその技術に困惑していた。

いくら逃げようとしてもヒロシは素早く体勢を立て直して距離を詰め、

スライディングからのローキックを執拗に繰り返してくるのだ。

反撃しようにもヒロシは仰向けの体勢から前蹴りを放ち、

的確に本郷の脛や膝を狙い撃って近寄らせなかった。


「ヒロシぃー! みっともねえぞー!」

「赤ちゃんみたいな格好しやがって!」

「やる気ねえのかよ! ちゃんと戦え!」


外野がうるさい。


あいつらは何も理解していない。

こんな戦法は見たことが無い。

攻略法がわからない。


格闘家である本郷は今、格闘技によって追い詰められていた。



“アリキック”。

それは、世紀の異種格闘技戦で使用された伝説の蹴り技である。

寝そべった体勢から放たれるそれは一見ふざけた技に見えるが、

ボクシングのヘビー級世界チャンプを再起不能寸前にまで追い詰めた技だ。


本郷は空手しか知らないがゆえに、その技を知らなかったのである……!



「くそおおおおお!!」


不本意だった。

本郷はこの時、初めて対戦相手に攻撃魔法を放った。

あくまで拳と拳での勝負にこだわりたかった彼が、

プライドをかなぐり捨てて試合に勝とうとしたのだ。

それは言わば屈辱のファイヤーストームだった。


しかし、ヒロシのライフは2しか減っていない。

元々魔力の高くない本郷には、それしか与えられなかったのだ。


だが、それでいい。

1ダメージでも与えられるのならば、それで判定勝ちを拾える。

今のところ両者のポイントに差は無い。

選択した装備の評価ではヒロシが有利だが、

ある程度ライフを削ることができればその判定は覆る。



と、その時。

ヒロシと本郷を結ぶように光の線が発生し、

それは『バチッ』と音を立てて一瞬で消えたのだ。


それは想定外の事態であった。



なんと、ヒロシも攻撃魔法を仕返したのである。



ヒロシの全身が青白い光に包まれた直後、

それが静電気となって本郷に襲い掛かったのである。

減らせたライフは1だけだが、彼は確かに魔法ダメージを与えたのだ。


観客席ではセンリが怪訝な顔をしながら呟いた。


「あり得ねえよ……」


そう、あり得ない。

ヒロシは“氷属性の攻撃魔法以外に適性は無い”と診断されており、

雷属性の攻撃魔法など放てるわけがない。

しかも『サンダーボール』でも『サンダーストーム』でもなく、

よくわからないオリジナル魔法を使用したのだ。




本郷は完全にペースを乱され、己を見失っていた。

近づけば奇妙なキック、離れれば奇妙な攻撃魔法が飛んでくる。

それならばと思い切って上空からヒロシを踏み潰そうと跳躍する。


が、しかし。


パシパシッ!!


ヒロシはその大振りな攻撃を最小限の動きで回避すると同時に、

左右の武器を繰り出して本郷から5ポイント奪うことに成功した。


本郷は勝負を焦ってしまったのである。


「ファイヤーストーム!!」


苦し紛れの攻撃魔法。

だがヒロシは怯まずにゴロゴロと転がりながら本郷に接近し、

またもや低空姿勢からの変則蹴りをヒットさせたのだ。


「くそがああああ!!」


パシパシッ!!


そして焦って手を出してきたところへの的確な反撃が入る。

ヒロシも横っ面を叩かれたが、これで本郷から10ポイントを奪えた。



両者は一旦距離を取り、次の一手をどうしようかと思考する。



だが、考えるまでもない。

むしろ考えさせてはいけない。

ヒロシにとって、これは千載一遇のチャンスなのだ。

実力で上回る相手に作戦を組み立てる猶予を与えてはいけない。


「おりゃ!!」


そしてヒロシは再び謎の攻撃魔法を放つ。

全身から青白い光を発し、それは静電気となって本郷を襲った。

その威力はピリッと来る程度の微弱なものではあるが、

対人戦の仕様上、どんなに弱くても1ダメージは入ってしまう。


「くっ……!」


そして電気による攻撃は、人間の意思では抗えない“怯み”……

“ヒットストップ”が生じてしまう。


パシパシッ!!


その一瞬の隙を突き、ダガーとソードが本郷の胴体を捉える。

これで計15ポイントを与えることに成功だ。



本郷は追い詰められていた。

だが、こんな時こそ慌ててはいけない。


心は熱く、頭は冷静に。


本郷は右半身を前に出し、自身が得意とする逆体(ぎゃくたい)の構えを取った。

そして目を瞑り、「コオオォォ」と息を整えて精神を集中させた。



パシパシッ!!



試合中に目を瞑るべきではなかった。


本郷が目を開けた時にはもう手遅れで、

彼の足元にはダガーとソードが落ちていた。


ヒロシは最後、2本の剣を投げて攻撃したのだ。


こうして本郷の持ち点は0になったのである。




「……試合中断!!」




ヒロシは自身の勝利を確信して喜びそうになったが、

審判の口から出た言葉に耳を疑った。

『試合終了』ではなく、『試合中断』……これは妙だ。


しかも審判はヒロシに対して厳しい視線を向けている。


「え……えっ!?

 なんですかその目は!?」


わけがわからない。

格下のヒロシが格上の本郷を圧倒したのはおかしな話かもしれないが、

それでもちゃんとルールの範囲内で正々堂々と戦った結果のはずだ。


(ハッ、まさか……!)


ヒロシはさっき顔を一発殴られたことを思い出す。

もしかしたら谷口戦の時のように重傷を負ったのかもしれない。


……が、特に出血はしていないし、骨が折れている様子も無い。


小中(こなか)あぁっ!!

 一体、どんな不正をしたんだあぁっ!!

 お前とはクリーンな勝負ができると思ってたのによおぉっ!!」


そして本郷が激怒しながら胸倉を掴んできた。

急いで審判が割り込んでくれたので何事も起きなかったが、

止められなかったらきっとヒロシは殴られていただろう。


とりあえず状況から察するに、ヒロシは不正を疑われていたのだ。



審判が怪訝な表情で指示する。


小中(こなか)君、制服を脱ぎなさい

 君はさっき攻撃魔法が直撃したにも関わらず、

 仮想ライフが全く減っていなかったんだ……

 装備品の不具合という可能性もあるので調べさせてもらう」


そう言われ、電光掲示板に目をやるとヒロシのライフ……98。

最初に使われたファイヤーストームの分しか減っていない。

その後の攻撃は回避したと思っていたが、そうではなかったようだ。

なるほど、これはたしかに疑われても仕方ない。


ヒロシは言われるがまま、その場で制服を脱いで審判に手渡した。


「下着も脱いだ方がいいですか?」


その提案に審判は少し悩み、念のために下着も脱がせた。


カーテン内で審判団が入念に全身をチェックするが何も出てこない。

当然だ。ヒロシは不正などしていないのだから。



結局その場ではおかしな点を何も発見できず、

競技で使用した装備品を調査するために試合結果は保留となった。






──それから3日後。


『先日行われた敗者復活戦にて不可解な現象が発生いたしましたが、

 調査の結果、両選手が使用した装備品は正常に機能しており、

 又、ビデオ判定でも不審な挙動は無かったと判断し、

 我々審判団は小中(こなか)(ひろし)選手の勝利をここに宣言いたします』


というメールが全校生徒のスマホに送られてきた。


「やったなヒロシ!」

「俺はお前を信じてたぜ!」

「これでトーナメントに出れるな!」


疑いの目を向けていた同級生たちから賛辞を送られ、

ヒロシは微妙な気分になりながらも彼らにお礼を言った。

本当はあの瞬間に勝利の喜びを味わいたかったのだが、

まあ、身の潔白が証明されたので良しとしよう。


これで自分もトーナメントに参加できる。

とても誇らしい気分だ。



そんなヒロシに、見覚えのある男子が声を掛けてきた。


「まさか君があの本郷君に勝ってしまうとはね……

 とりあえずは、おめでとうと言っておくよ」


「久我……?」


「だが、トーナメントで優勝できるとは思わないでくれたまえ

 君は所詮、数合わせの枠を勝ち取っただけの存在なのだからね」


「久我……」


「まあ精々頑張りたまえ

 僕は君を応援しているよ……と言えば、嘘になるな」


「久我……!」


彼は背を向けたまま手を振り、クールに去っていった。



「なんだあいつ……」

「相変わらずキザな野郎だぜ」

「トーナメントに出場しない奴の台詞(せりふ)じゃねえよな?」

個人戦績


本郷 拳児

4戦0勝4敗


小中 大

4戦1勝3敗

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