9月上旬
1年生の時間割は午前に授業、午後に訓練、
それが終わると“その他の時間”だ。
2年生はその他、授業、訓練の順番となっており、
3年生は訓練、その他、授業……と、学年ごとにズレている。
これは訓練官の人手不足を解消するための苦肉の策である。
“その他”は1年生にとっては自由時間みたいなものだが、
どうやら上級生たちは学園の外で任務をこなしているらしい。
そして任務優先で授業や訓練の時間が潰されることもあるそうだ。
<ビィー!ビィー!ビィー!>
廊下で久しぶりに会った宮本先輩に絡まれていると、
彼のスマホからけたたましいアラーム音が発せられた。
それは隣に立つ佐々木先輩のスマホからも聞こえてきた。
「ぅおうっ!?
なんだこりゃあ!?」
「なんだ、じゃないだろう
緊急召集だ すぐにタワーへ向かうぞ」
緊急召集……魔法学園の管轄内で重大な事件や災害などが起きた際、
現地の冒険者だけでは事態を収拾できないと判断された場合は、
上級生たちが現場まで赴く手筈となっている。
つまりこれは何かが起きたという証だ。
「チッ、行くしかねえか
ヒロシ! 甲斐!
そんじゃまた今度な!」
そう言い残して先輩たちは去っていった。
ヒロシの方を見ると、何やらスマホを操作している。
「インターネットか?」
「ああ、うん インターネット……
そういやお前にネットの使い方教えてねえな……
とりあえずそれは後回しにするとして、
それらしいニュースが無いか調べてんだよ」
「何か見つかったか?」
「コンビニ強盗が何も盗らずに逃走……
歳の差芸能人カップルがお忍びデート……
小学校教師が児童に『廊下を走るな』と暴言……
……う〜ん、まだそれっぽいニュースは出回ってねえな」
「それは暴言なのか……?」
「さあ……
言い方がまずかったとか?」
2学期が始まってまもなく、俺は指導室に呼び出された。
①日本冒険者協会からの嫌がらせ
②学園長からのくだらない指令
③八百長試合の依頼
さて、どれだろうな……。
「日本冒険者協会からお前宛てに荷物が届いてる
それと、今学期も谷口のノルマを消化してやってくれ
あと、試合を組むことになるかもしれない生徒がいる」
まさかのフルコースとは驚きだ。
「1つずつお願いします」
「そうだな……
まずこの荷物からいくぞ」
俺は落合先生から渡されたカッターナイフで段ボール箱を開封した。
「なっ……!?」
「そうきたか……」
その中には…………成人向けの映像作品が大量に詰め込まれていた。
パッケージには裸の女性の写真が堂々と……はしたない。
「うちにビデオデッキはありませんよ……!」
「いや、カセットの時代はとっくに終わってんだよ……
しかしこれはどうしたもんかね
お前の評判を落とすために考え抜いた作戦なんだろうけど、
ノーダメージどころか男子たちにとっちゃ嬉しいプレゼントだな
こんなに大量のAV、お前1人じゃ処理できないだろ
不要な作品は欲しがってる奴に適当に配ってみたらどうだ?」
「それがよさそうですね……
もしよければ先生もどうぞ」
「おっ、そんじゃありがたく……
……おい、ちょっと背中向けてろ
何を選んだのか知られたくないからな」
「あ、はい」
数えていないのではっきりとは言えないが、
段ボール箱の中身はおそらく10作品ほど減っている。
「さて、今学期の谷口のノルマだが……
あいつに第3層の魔物を倒させろ」
「えっ」
第3層には物理攻撃が通用しない精霊種族のみが出現する。
奴らに谷口をぶん投げてもダメージを与えることは不可能。
しかも一度も訓練を受けていない谷口が魔法を使えるわけがない。
攻撃魔法が使えなければ精霊を倒せない。
詰みである。
そして、このノルマは俺も達成しないといけない課題だ。
物理攻撃しか行えない俺にはどうすることも……
……いや、できる。
「以前、先輩から教わったのですが、
精霊は魔法ダメージを与えて倒すか、
“特定の状態異常”を利用するのが攻略法だそうですね」
「ほう、予習済みか
でもその種類までは教わらなかったようだな
まあ答えは“凍結”……最強の状態異常だ
敵を凍らせて動きを止めるだけでなく、属性耐性を上書きできる
更に物理攻撃も通るようになり、特に打撃に弱くなるおまけつきだ」
なんと都合が良い……とにかく助かった。
「凍結を扱えるのは主属性が氷の生徒で、
更に状態異常付与の適性持ちでないと習得できない
それほどレアな適性じゃないから、探せばすぐに見つかるだろう」
知っている範囲ではヒロシと森川さんと並木さんが氷属性だ。
誰か1人でも適性を持っていてくれればいいが……。
「さて、最後に八百長だが……相手は玉置だ」
その名を聞いて少し嫌な気分になる。
玉置沙織……谷口ほどではないが、だいぶクズ臭のする女だ。
何もしないぶん谷口よりはずっとマシではあるが、
その“何もしない”で利益を得ようという思考が気に食わない。
聞いた話によると彼女は定期テストで選択問題のみ全問正解し、
全教科で赤点を回避したという豪運の持ち主らしい。
実力で補習を免れた身としてはなんだかモヤモヤする。
「まあ、まだ試合決定というわけじゃないけどな
今月で個人戦は終わるってのに、玉置はまだ1戦もしてないんだ
ノルマについては伝えてあるんだがな……
ギリギリになるまで動かないタイプなんだろう」
玉置は相変わらず訓練で手を抜いているし、
ただ本格的にやる気が無いだけかもしれない。
いっそのことノルマ未達成で退学になった方が本人も喜ぶだろう。
そうなれば訓練なんてかったるいことをせずに済むのだから。
そんな人物をなぜトーナメントに出場させたいのかといえば、
彼女が1年1組の生徒だからだろう。
これまでの学園生活でもうみんな気づいていると思うが、
あのクラスは才能溢れる者が集められた“魔法使いクラス”なのだ。
玉置には何かしらの強力な才能が眠っているのだろう。
そのまま眠り続けてくれ。
男子寮に戻った俺は玄関前で少し悩んだ。
この箱の中身を誰にどう配ろうかと。
みんなの嗜好を把握しているわけではないし、
白昼堂々手渡すのはきっと迷惑だろう。
「お、アキラ
それって中身何?
なめ茸入ってる?」
「ヒロシ……
ちょっと困ってるんだ
これを処分するのを手伝ってくれ」
……。
「え、おい、これ……
へえ〜、ほうほう……」
「言っておくが、勝手に送られてきただけだからな
俺の私物ではない……絶対に違う」
「あ〜、うん
わかってるから大丈夫だって
送り主は例の協会の連中だって明記してあるし、
ジャンルがバラバラすぎて統一感が無いんだよ
アキラが熟女モノなんて観るわけねえもん」
「理解してもらえて助かる」
「しっかしどうすっかねぇ
男子全員に均等に分ける方法なんてないし
……いっそのことオークションに出しちまうか?」
「競売……?
それは高校生が行なっても法的に問題は無いのか?
俺にその分野の知識はないぞ」
「あ、いや、俺も利用したことないからわかんねえわ
それに18禁のアイテムなんて出品したらまずいよな……」
2人して頭を悩ませていると、その男は現れた。
「やあ、お二人さん
何かお困りかな?」
「正堂君……」
「正堂……!」
結局、俺とヒロシには解決策を見出すことができず、
正堂君のアイディアに従って谷口以外の男子を教室に集めた。
入学当初はちょうど50人だった男子が今では27人。
先月は3人辞めたらしい。随分と少なくなったものだ。
「はい、それじゃみんな静かにして〜!
これからジャンケンの総当たり戦を行います!
ルールは簡単!
1人ずつ全員とジャンケンしていって、
一番勝ち数の多い人から好きなお宝を1本持っていけるルールです!
最下位まで順番が回ったら、また1位の人から残りのお宝を選べるよ!
そうやって最後のお宝が無くなるまで回し続けようじゃあないか!」
尚、お宝は誰が何を持っていったのかわからないように、
1人ずつカーテンの中に入って選ぶことになっている。
そして1人で複数のお宝を持っていく不正を防止するため、
監視役は絶対に必要だろうとのことだった。
「監視役の甲斐晃だ
役割の都合上、みんながどれを選んだのか知ってしまうが、
ここで知り得た個人情報は絶対に口外しないと約束する
俺は約束を守る男だ……どうか信じてほしい」
「甲斐君……俺は信じてるぜ!」
「男と男の約束だぜ……!」
「だから早く始めようぜ……!」
みんな……
そこまでして観たい物か?
「あの、ところで……
どうしてこの場に津田先生がいらっしゃるんですかね?」
男子たちは一斉に件の男性に注目する。
津田剛志……教え子に手を出しただけでなく、
つい最近、2組の教室で花園美咲と不倫した男。
生徒からの信用が地の底を突いた今となっては、
かつての人気を取り戻すのはもう不可能だろう。
「はっはっはっ、僕も心は男子だよ?
いいじゃないか、先生も混ぜてくれよー」
「よく平気でいられるよな……」
「開き直ってやがる……」
「不倫クマ……」
聞こえよがしにヒソヒソ話をする男子たち。
津田はそれが聞こえていても気にしないそぶりだった。
「ああ、彼は僕が呼んだのさ」
そしてまさかの正堂君が呼んだゲストとは。
「中には誰も選ばなさそうなグロいジャンルもあるからね
そういう作品が最後まで残ったらあの人に押しつければいいよ
なんたって彼は守備範囲の広い男だからね……まあ、保険さ
……津田先生! それで構いませんよね!?」
「うっ……!
くそ、嵌められた……!!」
参加者たちがジャンケンをしている間、
俺は暇だったのでニュースサイトを眺めていた。
ようやく俺もインターネットが使えるようになったのだ。
関東圏内で特に災害や大事件は起きていないようだが、
先輩たちは一体なぜ緊急召集されたのだろう……謎だ。
俺の調べ方がどこか悪いのだろうか?わからない。
「──よっし! 一番手はもらった!」
そして最初はヒロシ。
こいつも相当な幸運の持ち主だな。
選んだのは……巨乳モノか。実にヒロシらしい。
身近な人間がノーマルな嗜好の持ち主で安心した。
「はっはっはっ、みんな悪いね! お先!」
津田……。
選んだのは……女子校生モノ…………と。
「先生、早速不正を行おうとしないでください
1人1本というルールですよ」
「しーっ! もっと静かに頼むよ〜
よく考えてみてくれ……俺は最後にハズレを掴まされるんだ
今のうちに当たりを確保してバランス取りを──」
「みんなー!!
津田先生が2本持っていこうとしてるぞー!!」
「なんだって!?」
「卑怯者め!!」
「このクズが!!」
彼にはペナルティーとして、
ハズレ作品だけが提供されることになった。
俺たちは気を取り直し、箱の中身の消化作業を再開した。
妙な服装だ……どうやらアニメのコスプレらしい。
これは公然猥褻罪で逮捕されないのか?
熟女にも需要があるんだな……。
40人とか多すぎないか?
ああ、彼はギャルが好きだと公言していたな。
え、嘘だろ……相手は犬だぞ!?
全身に金箔…………意味がわからない。
その後も彼らの多種多様な嗜好を知ってしまい、
俺は申し訳ない気分になりながらも監視を続けた。
「…………」
センリはじっくりとパッケージを吟味し、
何度も眉をしかめたり首を横に振ったりと、
どうやらこれだという作品には出会えなかったようだ。
そして最終的にヒロシと同じジャンルの物を持ち去った。
しかし……世の中には本当にいろんな人がいるな……。
みんなのおかげで箱の中身をだいぶ減らすことができたが、
最後まで残ったのは言葉にするのもおぞましい内容の物ばかりだ。
こういう作品も需要があるから供給されているのだろう。
俺にはとても理解できないが……。
何はともあれ、保険を用意しておいてくれた正堂君には感謝だ。
これで全てのAVを処理できて肩の荷が下りた。
──後日、先輩たちが緊急召集された理由が判明した。
「いや〜、すっげえくだらねえ理由だったぜ?
なんか女どもに大人気のイケメン俳優がいてよぉ、
そいつが40歳年上の女優とデートしてたとかで大騒ぎになって、
その混乱に乗じてダンジョンから魔物が流出してたんだとよ
まったく、芸能人の熱愛報道とか何が楽しいんだかなあ」
俺には全く理解できない……。
基本情報
氏名:宮本 正志 (みやもと まさし)
性別:男
年齢:17歳 (5月10日生まれ)
身長:164cm
体重:67kg
血液型:AB型
アルカナ:戦車
属性:炎
武器:陽炎&月光 (双剣)
防具:阿修羅 (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:8
S:8
T:4
F:3
C:2
登録魔法
・ファイヤーストーム
・ライジングフォース