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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
20/150

7月中旬

“花熊戦争”……それは魔法学園史上、最もくだらない争いだった。

どうやら花園と津田の両名は昔から生徒の人気取りに必死だったらしく、

年々仲が悪くなり、今年になってついに爆発したとのことだ。


実にくだらない。

“良い先生”とは生徒の笑いのツボを押さえている人ではなく、

学ぶ喜びを与えてくれる人を指す言葉だと思っている。

生徒からの尊敬を得たければ、己の職務を全うすればいいだけの話だ。



そして、そのくだらない争いに一石を投じる生徒が現れた。


「なあ、みんな

 もう……やめにしないか?」


3組の正堂(せいどう)正宗(まさむね)

中学時代には生徒会長を務め、剣道の全国大会で優勝した実力者らしい。

学業成績も大変優れており、正に文武両道を体現したような男子であった。


「津田先生は不適切な行いをしたかもしれないが……

 僕にはそこまで責められるような行為だとは思えないんだ

 みんな、よく考えてみてくれ……相手は女子高生なんだ」


「正堂君……?」


「みんなにも気になる女子の1人や2人、いるだろう?

 それも、小学生でも中学生でもない……女子高生なんだ

 ちなみに……意外に思うかもしれないけど、僕の好みはギャル系だ」


「正堂君……」


「僕がもし津田先生と同じ立場だったのなら……絶対に手を出すね!!

 君たちだってそうだろう!? 迫られたら我慢できないだろう!?

 それが僕たち……“男”という生き物なんじゃあないのか!?」


「正堂君……!」


彼は品行方正な優等生として有名らしいが、

他の男子とそう変わらないように思える。



そして2組では並木美奈を中心に、

噂好きの女子たちが井戸端会議を行なっていた。


「花ちゃんがお手つきした生徒ってジュンジュンらしいよ?」


「えっ、あのイケメン俳優の!?」

「私ファンなんだけど!?」

「ここの卒業生だったの!?」


「いや〜、1年目で退学しちゃったんだってさ

 その後モデルの道に進んで……って、そこからは知ってるよね

 あの人、年上好きを公言してるし間違いないよ

 ……それを踏まえてよく考えてみて?

 もしみんなが花ちゃんと同じ立場だったとして、

 教え子にイケメンがいたら……絶対に誘惑しちゃうよねぇ?」


「並木さん……?」

「並木さん……」

「並木さん……!」


こうして花園と津田の両陣営に味方がつき、状況が悪化したのだ。




会議室ではまともな話し合いが行われていた。

議題はゴーレム対策であり、俺も関係者としてその場に呼ばれた。


調査隊の北澤さんの報告によると『引っ越し完了』の状態だそうで、

これからは第2層にゴーレムが出現するのが当たり前になるんだとか。

いくら攻撃性能が低いとはいえ件の魔物は本来なら第4層の敵であり、

戦い慣れている上級生ならともかく、1年生には対処が難しい相手だ。


「須藤と甲斐が在籍している間は安全だが、

 問題はこいつらが学園を去った後だ

 特定の誰かに頼ったやり方は長続きしない

 “普通の1年生”が処理できるようにならなくては困る」


須藤(すどう)怜二(れいじ)先輩とは、例の男子たちの憧れの人である。

巨大なハンマーを振り回す豪快なパワーファイターで、

ゴーレムの外殻を一撃で破壊できるのはこの人と俺だけらしい。

ちなみに彼は生徒会副会長という立場にあるようだ。


「処理も何も、今まで通り無視させればいいんじゃないですか?

 ゲームと違って倒しても経験値が入るわけでもないし、

 相手にするだけ時間の無駄だと周知すればいいのでは?」


「花園先生、何を言っている……

 冒険者の役目はダンジョンから魔物を流出させないことだ

 今までは第3層に狭い通路があるおかげで防げていたが、

 これからはそうもいかなくなるだろう

 環境が変わったんだ……今はそういう話をしている」


「では、訓練内容をもっと筋トレ重視にしてみるのはどうです?

 更に鈍器の練習時間を伸ばして、打撃が得意な生徒を増やすんです」


「津田先生……あんた何年訓練官をやっている?

 筋肉量が一定以上になると魔法が苦手になるのは常識だろうが……

 大抵の場合は魔法能力を強化した方が有利になる

 物理面と魔法面を両立できる器用な生徒はごくわずかだ」


そんな仕様があったのか……。


「床に油や剥離剤を撒いて転ばすってのはどうですかね?

 あの巨体じゃ自分自身の重みで相当ダメージ入りますよきっと

 あいつ動き鈍いし、起き上がるまでの間に倒せると思います」


「落合先生、その方法は安全性に欠ける

 真面目な生徒なら撒いた油を拭き取っていくだろうが、

 ちゃらんぽらんな連中はそのまま放置するぞ……必ずだ

 何も知らずに後からやってきたパーティーが、

 転倒事故を起こす可能性が高い」



「……須藤先輩、他の先輩方はどうやって対処しているんですか?」


「ん?

 他の連中はツチとノミを使って地道にカンカン叩いてるぞ」


「それなら、その方法を取り入れればいいのでは……?」


「それが支給されんのは3学期……あっ

 早く道具を配れば済む話だなこれ」


「では、そう発言しましょう

 先輩がどうぞ」


「いや、もう少しやらせとけ」


……?


「内藤先生はきっと初めから答えありきのはずだ

 それを発表しないのは会議を長引かせたいからだろう

 1年1組だけでなく、2年と3年の担任でもあるからな……忙しい人なんだよ

 あの人にとってこの無駄な会議は貴重な休憩時間なんだ」


「そんな事情があったんですね……

 では、黙っておきます」




3時間経っても会議はまだ続き、本日の訓練は中止となった。

俺の隣には滅多に会えない3年生が座っている。

これは絶好のチャンスだ。


「以前から疑問だったんですが、

 上級生の数がかなり少ないですよね?

 2年生と3年生を合わせても9人しか見かけたことがありません

 これは進級率が9割未満という解釈で合っていますか?」


「まあ、そんなところだ

 ……ちなみに合計10人だけどな

 お前がまだ見たことのない3年が1人いる

 進級率が低い理由は……まあ色々だ

 単純に進級試験を突破できなかった奴もいれば、

 ノルマを達成できなかったり、力不足を感じて去っていった奴、

 将来を考えて一般人として生きる道を選んだ奴……本当に色々だ」


今まで謎だった須藤先輩とようやく口を聞けたかと思った矢先、

新たに10人目の謎の先輩の存在が浮上してしまった。


「そういえば男女共に寮には1年生の部屋しかありませんが、

 先輩方はどこで生活をしているのですか?」


「ああ、上級生は職員たちと同じ建物を拠点にしてるぜ

 北区画にある白いタワーだ 生徒会室もそこにある

 屋上にはヘリポートがあってな、何か緊急事態が起きた時に

 急いで現場に向かえるように備えてんだ

 ……まあ、俺らの代は1回しか使ったことねえけどな」


上級生は全員プロライセンスの持ち主……つまり正式な冒険者だ。

“魔法学園の冒険者”は野良で活動している人たちよりも信頼度が高く、

何か大きな災害や事件が起きた際、現地の冒険者だけでは

魔物の流出を防げないと判断されれば出動要請がかかる。


「ところでお前、小中(こなか)と仲良いんだよな?

 怪我はいつ頃治りそうなんだ?」


「あと1ヶ月ほどでギプスを外せるかもしれないとのことです

 ……ヒロシとお知り合いなんですか?」


「知り合いってほどじゃねえな 一度会話しただけだ

 あん時、俺はあいつが魔法能力者だと見抜けなかったんだよなぁ

 うちに入学すんのは絶対に無理だと思ってたんだが、

 まさか一般入試でミラクル起こすとはな……」


そういえばその時にヒロシは魔法を使ったんだよな……。

本人は『早く魔法使いてえ』と嘆いているが、俺もすっかり忘れていた。


「あいつがトーナメントに参加したら大穴一点賭けをするつもりだ

 大した根性と幸運の持ち主だ……何かやってくれそうな期待感がある

 だから早く健康になってもらわないと俺が面白くねえ」


「賭けですか……

 それは強制参加なんですか?」


「いや、任意だ

 お前は賭け事に好意的な印象を持ってないみたいだが、

 そこまで真剣に捉える必要はないぞ

 まあ唯一の学園行事を盛り上げるためのおまけだし、

 ちょっとした息抜きみたいなもんだと思ってくれればいい」


おまけで済めばいいが……。

村の大人たちは将棋や麻雀などが原因で、

しょっちゅう揉め事を起こしているから心配だ。




それから2時間後、俺と先輩は解放された。

と言っても会議が終わったのではなく、

この場に未成年を置いておくのが嫌だったのだろう。


会議室には内藤先生が吸いまくったタバコの煙が充満しており、

花熊の2人はラベルを隠した炭酸飲料……いや、ビールを飲み出し、

うちの担任は机の下に隠したスマホで動画を観ながらニヤついていた。


ああ、これは……全員最初から真面目に会議する気が無かったんだな。


「次からはお前も暇潰し用に何か持ってきた方がいいぞ」


そう言う先輩は議事録を取るふりをして受験勉強をしていた。

学園を卒業後は“魔法大学”に進む予定だそうだ。


「もう呼ばれたくありませんね」


正直な感想を述べると先輩は笑いながら俺の肩を軽く小突いてきた。

これは……まあ、好意的なスキンシップで合っていると思う。

今までこんなことされた経験が無いので反応に困る。



どう返そうかと悩んでいると、女の先輩がこちらに歩いてきた。

細身で手足が長く、前髪を斜めに切り揃えており、後ろ髪は腰まである。

妖艶な笑みを浮かべており、なんだか独特な雰囲気のある人だ。


「あら、やっと終わったのね

 5時間も廊下で立ってるのは疲れたわ」


「んなわけあるか

 どうせ今こっちに着いたばっかだろ?」


「ええ、嘘よ

 あなたが噂のアキラ君ね?

 私は後藤(ごとう)瑞樹(みずき)……レイジのコレよ」


後藤先輩は小指を立てながらそう発言した。


「だから、さらりと嘘をつくなよ

 こいつが信じたらどうすんだ

 ……んで、なんの用だよ?

 3年は授業中だろうが……まさかまた脱走したのか?」


「ええ、そうよ

 だって私は日本人……英語を話せなくても生きていけるわ」


「アホか

 お前も魔法大学目指してんだろ?

 そんな調子じゃ受かんねえぞ

 受験者は魔法学園の奴らだけじゃないんだぞ

 ただでさえお前の成績は悪いんだ……もっと真面目にやれ」


「それはそれとして、アキラ君は占いに興味はあるかしら?」

「お前、俺の話──」


「占いですか……いえ、特には」


「でも占ってあげるわ」

「強引なんだよ」


後藤先輩は懐からカードの束をスッと取り出し、

カジノのディーラーのように慣れた手つきでシャッフルを始めた。

ただし彼女が切っているのはトランプではない。

それよりも一回り大きく、硬そうな材質で出来ている。


先輩はカードを切り終えるとその中から1枚を引き、絵柄を確かめた。


「あら、これは意外……

 アキラ君、あなたのアルカナは──“魔術師”よ

 魔法の才能が無いのに魔術師とはこれ如何に……

 ああ、でも奇術師や手品師という意味もあったはず

 このタロットは“機会”や“可能性”、それから“はじまり”の暗示よ

 史上初の一般入試合格者のあなたにはピッタリなのかもね」


へえ、そう言われてみるとなんだか……


「これがバーナム効果よ」


「えっ」


「誰にでも当てはまる曖昧な言葉を『自分にだけ当てはまる』と

 感じてしまう心理現象……それがバーナム効果

 誰にだって機会や可能性はあるし、初めての瞬間があるでしょう?

 ちなみに私とレイジの初体験は入学直後よ

 あの頃は30分も持たなかったわね……うふふ」


「後輩の誤解を招いてんじゃねえよ

 今のは、一緒にダンジョンに行ったってだけの話だからな?

 こいつとはこれまでに何も起きてねえ……ただの一度もだ」


須藤先輩も誤解多き人生を送ってきたのだろうか……。






──翌日。

“花熊戦争”は突然、意外な形で終局を迎えたのだ。


「みんな、これは違うの……!!」

「先生たちはその、お酒飲み過ぎちゃっただけで……!!」


なんと花園と津田は2組の教室にて、裸で抱き合ったまま朝を迎えたのだ。


「え、何この2人……本当は出来てたの?」

「喧嘩するほど仲が良いって言うしねえ……」

「親の行為並みに見たくなかった光景だわー……」


「いやっ、本当にそうじゃなくて……!

 私たちは仲直りしようとして、差しで飲み合ってただけなの!!」

「それで暑くなってきたからクーラーの温度下げたんだけど、

 今度は逆に寒くなりすぎちゃって……でも毛布とか無くて……」


「学校で酒飲んでんじゃねえよ!」

「大人としての自覚が足りねえんだよ!」

挿入()しながら言い訳してんじゃねえよ!」



「でもまだ3回目だし」

「ゴムも付けてるし」



「「「 やっぱりやってんじゃねえか!! 」」」

基本情報

氏名:正堂 正宗 (せいどう まさむね)

性別:男

年齢:16歳 (5月5日生まれ)

身長:181cm

体重:78kg

血液型:AB型

アルカナ:力

属性:炎

武器:レンタルブレード (両手剣)

アクセサリー:伊達眼鏡


能力評価 (7段階)

P:7

S:6

T:6

F:4

C:2


登録魔法

・ファイヤーストーム

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