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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
19/150

7月上旬

「おっしゃあああああ!!」

「ぃやっほーい!!」

「やったぜ!!」


今日も今日とて男子寮には掃除機の音と歓喜の声が響き渡る。

魔法訓練の開始からしばらく経ち、

魔力を出力できるようになった生徒が増えてきている。

ただ、それだけではまだ実戦で使い物にならない。

なので彼らは魔法制御力を高めるため、次のステップに進んでいた。


“磁石訓練”。

2つの磁石同士を近づけ、ギリギリくっつかないようにキープする内容だ。

どうも放出する魔力の流れを安定させる効果があるらしく、

ファイヤーストームやアイスストームなどの範囲攻撃を強化するらしい。


逆に同極の磁石を強引にくっつけようとする訓練方法も存在する。

反発し合う力を押さえ込む感覚を体に覚えさせることにより、

そちらはファイヤーボールなどの単体攻撃の強化に繋がるそうだ。


ストーム系とボール系はほぼ誰でも習得可能な汎用攻撃魔法として知られ、

使い手ごとに得意不得意が分かれるのが大きな特徴だ。

それはこの2つの訓練を交互に繰り返すうちに自覚できるようだ。


「フッ……

 どうやらこの俺が最初に放つ魔法はファイヤーボールらしい

 火球……いかにも王道らしくて素晴らしいではないか」


「いいよなあ、グリムは炎属性で……

 俺も炎か雷がよかったんだけどなぁ

 自分で言うのもあれだけど、氷キャラって感じしないし」


「ああ、たしかにヒロシのイメージには合わない……

 氷はクールなライバルキャラのポジションだよな

 炎は熱血主人公、雷はスピードキャラといったところか」


「スピードキャラなら風属性のイメージかな

 まあ、現実には存在しない属性だけどね

 俺ん中で雷は“勇者”とか“選ばれし者”ってイメージだ」


「なるほど、そちらの解釈もありだな」


「ちなみに、もしアキラに属性があったら……“土”だよな」


「異議なし」


属性トークで盛り上がる2人をよそに、

俺はグリムから借りた掃除機で部屋を綺麗にしていた。

やはり旧式とは吸引力が段違いだ。これは素晴らしい。




翌日の訓練が始まる前に、魔法という不思議な力について

もう少し踏み込んだ内容が教えられる運びとなった。


「相川、ちょっと手を上げてみろ」


「はい……?」


落合先生は突然、相川さんの手の平目掛けてファイアーボールを放った。

それは狙い通り直撃し、彼女は思わず「熱い!」と叫んで手を引っ込めた。


「先生!! いきなり何やってんですか!!」

「この学園にまともな訓練官はいねえのかよ!!」

「俺たちの相川さんが一体何をしたって言うんだ!!」


生徒たちは怒り、非難の嵐が巻き起こるが、

落合先生の態度は不気味なほど落ち着いていた。


「相川、まだ熱いか?

 火傷は残ってるか?」


相川さんは手の平と甲を交互にひっくり返し、

不思議そうな顔で自分の手を眺めながら答えた。


「いえ、なんともありません……」


その不可解な出来事に生徒たちは困惑し、

先生からの説明が始まるのを待ったのだ。



「……見てもらった通り、魔法で人を傷付けることはできない

 それは、攻撃魔法が物理現象ではないからだ

 まあ……“実体化”という高等技術を使えば物理干渉も可能だがな

 とにかく攻撃魔法を人に当てても基本的に害は無いということだ

 それで殺せるのは魔物だけだと覚えておけ」


「そうだったのか……」

「じゃあ仲間に誤射しても平気ってことか?」

「それならちょっと安心だ〜」


「ただし……

 魔法を使った間接的な人殺しの方法はある

 さっき示したように、一瞬だけ熱さや痛みを感じるからな

 例えば高所作業中の人間に雷属性の攻撃魔法を仕掛ければ、

 感電に驚いて体勢を崩して落下……なんて事が可能だ」


「ひでえ手口だ……」

「やっぱり危険かも……」

「証拠が残らないから完全犯罪だし……」


「いや、証拠は残る

 魔法の痕跡を調査する専門家が存在してな、

 そいつらはエリート中のエリートだ

 誤魔化そうとしてもまず逃げ切れない

 それで捕まるアホが毎年何人かいる」


主に、独学で魔法を使えるようになった者たちが

そういう事件を起こしてしまうようだ。


「……続いて、回復魔法についても説明する

 『回復魔法とは、怪我や病気を治療する能力ではない』

 これは重要だから必ず頭に入れておけ

 あくまで防具のバリア機能を修復させるだけの能力だ

 傷を負っても回復魔法があるから大丈夫……とか思うなよ

 小中(こなか)がいい例だ

 魔法で治せるのなら、今頃とっくに包帯を外しているはずだ」


クラス中がヒロシの右腕に注目する。

たしかにましろのキュアでは治らなかった。

本人は治せると思い込んでいたようだが……。


「……それと、俺たちは大体30歳前後で魔法が使えなくなる

 まあ個人差が激しく、25歳で終わる奴もいれば、

 40歳を過ぎてもまだ現役という奴もいるがな

 共通するのは“ある日、なんの前兆もなく魔法の力を失う”点だ

 お前らにとってはまだだいぶ先の話になるが、

 これも確実に重要事項だから絶対に忘れるなよ」


「え〜、せっかく使えるようになったのに……」

「一生使えるわけじゃないんだ……」

「選手生命短いなぁ」



「……俺からは以上だ

 では、本日の訓練を開始するぞ」


そう言い、落合先生はラジカセのスイッチを入れた。

訓練室に軽快な音楽が鳴り響く。


本日最初の訓練はエアロビクスダンスだ。

あのやる気無さそうな担任がキビキビと踊る姿は珍しい。

常に真顔のままであり、それがシュールさを生み出している。

一部の生徒はつい笑ってしまいそうな様子だったが、

絶対に笑ってはいけない空気であったために己と戦っていた。


彼は個人戦の審判を務めた際に怒鳴り散らす姿を晒したせいか、

“怒ると怖い先生”のような印象がつきまとっている。

まあ誰だって怒れば怖いだろうが、学校という環境下では特に

そういう大人を刺激するべきではない。

同級生たちの多くはとても気まずく、やりづらそうだった。




訓練終了後、俺はある人物から頼み事を引き受けた。

2年生の黒岩(くろいわ)(とおる)先輩……黒岩真白の兄である。

とても寡黙な人で、今まで事務的な会話しか交わしたことがない。

表情の変化に乏しく、どことなく内藤先生と雰囲気が似ている。

加藤先輩と同じく魔法剣士の戦闘スタイルらしいが、

単独行動ばかりしてきたので他の先輩方は彼の実力を知らないそうだ。


「今月から第3層への入場が解禁された件は知っているな?

 妹は早速、友人を連れてその場に行きたがっている

 俺が護衛に付くが、念のためお前にも同行してもらいたい

 第2層には短期間で立て続けに強敵が出現したからな……」


「ええ、わかりました」



俺は準備を整え、ダンジョン前に集合した。

少し意外だったのは、ましろの“友人”がセンリではなかったことだ。

いつもセットでパーティーに参加していたので不思議な気分になる。


「あたしにも女友達いるんだよー

 ミナ、自己紹介!」


「はいどうもー

 2組の並木(なみき)美奈(みな)でーす

 下から読んでもナミキミナだから覚えやすいでしょ?

 アキラ君の話はましろから聞いてるよ

 しっかし……やっぱ実物を近くで見ると迫力あるねぇ

 私にも今度、谷口ぶん投げるとこ見せてよ

 あ、ちなみに私鈍器持ってるけど腕力は普通だからね

 とりあえず魔法使いキャラ目指してるんでよろしくー」


彼女と話すのはこれが初めてだ。

もっと控えめな性格だと思っていたが、

割とグイグイ来るのでギャップに驚かされる。

あまりこれといった外見上の特徴は見当たらず、

強いて言えば星型の髪留めをしているくらいだろうか。


「それで、並木さんの攻撃魔法の性能を知りたい

 属性、種類、威力、射程、それから何発撃てるのかも重要だ

 まだ魔法を覚えたてで全部把握していないかもしれないが、

 円滑な活動のために少しでも正確な情報を共有しておきたい」


「ほうほう、聞いてた通り几帳面なのねぇ

 大雑把な私とは正反対の性格だわこれ

 えっと……使うのはアイスストームで、スライムは一撃で倒せたよ

 射程はちょっとわかんない……まあ、あそこの壁には届くかな

 先週、1日に2発撃ってもぶっ倒れなかったからそれ以上いけるかも」


大雑把と言う割にはそれなりに検証を行なったようで、

これくらいの情報があればまあまあ参考になる。

並木さんは結構真面目な性格なのかもしれない。




ダンジョン入場後、彼女たちは早速ふざけ始めた。

ましろはビデオカメラを相方に向けてインタビューを行う。



「どう? 緊張してる?」

「う〜ん……はい、ちょっと」


「こういうビデオ出るの初めて?」

「えへへ、どうでしょう」


「ちょっと脱いでみよっか?」

「え〜、もうですかぁ?」



これは……どうしたものか。

止めるべきか、放置するべきか……。


先輩はいつも通りの無表情を決め込んで後方を歩いており、

妹のはしたない行動を止める気は無いようだ。


よし。俺も放っておこう。



「経験人数教えて?」

「うーん、秘密です」


「初めてはいつ?」

「えっとぉ〜……言えません」


「好きな男性のタイプは?」


「顔がいいのは大前提として、チビデブハゲは論外

 年収は1000万円以上で、スポーツが得意で、

 率先的に家事をしてくれて、私の浮気を許してくれる人ですね」


「婚活かよ!」



あのビデオカメラは学園から支給された物で、

生徒たちの魔法技術の成長記録を撮影する目的だけでなく、

今後は報告書作成用の参考映像、

及び、魔物討伐の証拠を残すために使用される。


2年生が同行してくれる期間はそろそろ終わる。

来月からは1年生だけで冒険活動を行なわなければならない。


巣立ちの時が近い。




第2層にて、ローパーから奇襲を受けた。


が、15m先からの触手攻撃を回避することは容易(たやす)い。

奴はそれを仕掛ける直前に独特な音を発するのだ。

そのブチュブチュ音は触手を束ねる際に発せられるものであり、

それが止んでから約1秒後に攻撃が飛んでくる。


このメンバーの中で一番魔力が高いのはましろであり、

ゆえに彼女は魔物から狙われやすかった。

そして件のローパーも当然、ましろを標的にしていた。


パシッ。


俺はタイミングを合わせ、触手をキャッチする。


「いやいやいや……

 変な音なんて全然聞こえなかったよ!?

 耳すごっ!! 筋肉だけじゃないよこの男!!」


「ミナもそのうち慣れるよー?

 最近あたしにもわかるようになったし」


「野生動物並みの聴覚……!」


俺は掴んだ触手を手繰り寄せ、ローパーの本体を確保した。

こいつはこの第2層において非常に有用な攻撃手段となる。

言うなればローパーの触手は丈夫な鞭であり、

本体を敵に当てれば鎖鎌(くさりがま)の分銅並みの威力を与えることが可能だ。

コボルトの群れを一掃するのにこれほど適した魔物はいない。


「“くさりがま”がイメージできないんだけど!

 一般人には馴染み無いからねそれ!」


「忍者の武器らしいよー?」


「余計わからんわ!」


「鎌は農具だ」


「それは知ってる!」



しばらく歩くとコボルト3匹と遭遇した。

早速ローパーの出番だ。

俺は手にしたそれを鉄球のようにブンブンと振り回し、

手前にいるコボルト目掛けて解き放った。


「鉄球って振り回す物だっけ?」


ローパーの本体が後頭部に直撃したコボルトは

奥にいた2体を巻き込んで壁まで吹き飛び、

グシャッと嫌な音を立てて潰れたのだった。


「ねえアキラ〜

 今度みんなでビリヤード行こー?」


また遊びに誘われた。

ビリヤード……これも未経験だ。



そしてまた歩いていると、危惧していた魔物と遭遇してしまった。

体長5m以上の岩の塊。本来は第4層の魔物……そう、ゴーレムだ。


「これは一体どういうことだ……?

 またあいつがいるだなんて、あまりに妙だ

 まさか今後はこの階層にも出現するのが当たり前になるのか?

 ……まあいい、この件は俺が上に報告しておく

 甲斐、やれるな?」


「はい」


俺はゴーレムに近づいて掴み攻撃を誘発させ、

体勢が沈み込んだタイミングで掌底を放った。

奴の外殻は石片となって飛び散り、弱点の“核”を曝け出す。


「素手の威力じゃねええ!!」


前回はこれを握り潰したせいで全身を濡らしてしまったので、

今回は反省を活かして手法を変更した。


俺はゴーレムの体内から“核”を引き抜き、壁に向かって投げつけた。

取り出す際に血管のようなパーツから噴き出す液体を浴びてしまったが、

全身をグショグショに汚されるよりはマシだ。


弱点を潰されたゴーレムの全身が崩壊し、戦闘終了だ。

このように対処法がわかっていれば苦戦する相手ではない。


「常人には再現できねええ!!」






──第3層。

道中は特に問題無く、無事に目的地まで辿り着けることができた。


「問題(おお)ありだよ!!」


そしてお(あつら)え向きと言わんばかりに、

火の玉の姿をした魔物……ジェリーが少し先に漂っていた。

並木さんのアイスストームは氷属性の攻撃魔法であり、

この魔物に対して弱点を突けるので最適な相手だと言える。

本日の目的が今、俺たちの目の前にいる。


「アイスストームッ!!」


並木さんは両手を前方に突き出し、凍てつく吹雪を放った。

その直撃に晒されたジェリーはまさに風前の灯が如く、

轟々と吹き荒れる吹雪に揺られた後に雲散霧消していったのだ。


「じゃあみんな帰ろー」


「私の見せ場はこれだけかい!!」

基本情報

氏名:並木 美奈 (なみき みな)

性別:女

サイズ:D

年齢:16歳 (6月9日生まれ)

身長:160cm

体重:50kg

血液型:O型

アルカナ:女教皇

属性:氷

武器:レンタルメイス (槌)

防具:レンタルシールド (盾)

アクセサリー:星型の髪飾り


能力評価 (7段階)

P:4

S:4

T:5

F:4

C:3


登録魔法

・アイスストーム

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