最強候補生
「ちーちゃん……
あなたはズバリ、魔法使いよ!!」
「げえっ! マリ姉!!
部屋入る前にノックしろよ!!」
中学2年の夏、進道千里は自室でエアギターの練習中、
突然押し入ってきた従姉の万里から重大な事実を告げられた。
「本当にエアギターだったのかしら?」
「変な想像してんじゃねえ!!
とにかく一旦部屋から出てけ!!」
「ゴミ箱確認してもいい?」
「やめろっ!!」
ちなみに“ちーちゃん”と呼ばれる理由は、
彼の名前が“チサト”とも読めるからである。
「はあ……
なんでセンリに言っちゃうかな……マリちゃん
そういう情報は3年生に上がってから知らされるものでしょ」
「ごめんなさい叔父様
どうしても我慢できなくて、つい……」
「……そんでマリ姉、おれは強いのか?
黙ってられないくらい才能があるってことでいいんだろ?」
「ええ、その通りよ!
ちーちゃんの基礎魔力は平均以上なの!
普通の魔法使いが4だとすると、6くらいの力を秘めているわ!」
「平均以上か……それってなんか微妙だな……
まあ、普通の奴らよりは強いならそれでいいか」
「でも、基礎魔力が高いだけではだめなの!
強い魔法使いに必要なのは、何よりも制御力が大事なの!
どんなに強力な魔力を秘めていたとしても、
それを上手く扱えなければ意味が無いわ!」
「おいおいマリちゃん、待ってくれ
もしかしてセンリを冒険者の道に引きずり込もうとしてるのかい?
親としては、息子を危険な職業に就かせたくないんだけどなあ」
「叔父様、心配するお気持ちはわかります
ですが現在の冒険活動の現場は昔と比べてだいぶ安全になりました
もちろん危険が全く無いとは言いませんが、
才能ある者はその力を世の中のために役立てるべきだと私は考えています
センリが北日本魔法学園に入学した際、最高のスタートを切れるように
今から特訓をつけさせていただきたいのですが……」
「北日本って……ああ、それが目的か
う〜ん……センリはどうしたい?」
「そりゃ決まってんだろ!
おれは最強の魔法使いになってやるぜ!」
そしてマリ姉による特訓が開始された。
センリは早速、もうやめようかと思った。
「おい、マリ姉……
この格好は一体なんのつもりだよ……」
「あはっ! 似合う似合う!
やっぱり私の見立てに間違いは無かったわ!」
センリは女子の制服を着させられていた。
それは最近退学した北日本魔法学園の元生徒の物であり、
魔法訓練の練習着としては最適の装備なんだとか。
センリは悔しかった。
悔しいほどに自分でもよく似合っていると認めてしまったのだ。
スカートはもう少し下げた方がいい。膝の骨格は誤魔化せない。
これは革靴が必要になる。お洒落は足元からだ。
センリは掃除機のホースで手の平を吸い込んでいる。
なんとも地味な光景……当然の疑問が浮かぶ。
「……なあ、これって本当に魔法の訓練なのか?」
「ええ、もちろんよ!
まずは手の平から魔法を発射する感覚を身につけなきゃね!
ちなみにその掃除機は特別仕様で、他の魔法学園の物よりも吸引力がすごいの!
変なモノを吸わせないでね! 魔法以外のモノを発射しちゃうと思うから!」
「なんの話だよ!?」
センリはあとで試した。
センリは水着(女子用)に着替え、マリ姉と共に自宅のプールに浸かっていた。
「これは大気中に溢れる魔力の流れを感じ取る訓練よ
この場合の“魔力”は“マナ”と呼ばれることが多いわね
ちーちゃんには探知魔法の適性があるから、すぐモノにできると思うわ」
「探知ねえ……
そりゃまた地味そうな能力だな」
「たしかに地味に思うだろうけど、
調査隊と呼ばれる人たちにとってはすごく重宝される能力よ
使いこなせれば他の冒険者よりも多く稼ぐことができるわ」
「ふーん、まあ練習しといて損はねえな」
「それじゃあ始めるわね
今からちーちゃんに向かって水圧を押し出すから、
水の流れがどう変わっていくのかに集中してみて」
マリ姉は水中で腕を振り、水流がセンリに向かうように制御する。
「どう? 感じる?」
「ああ……水が当たってる」
「気持ちいい?」
「どこ狙ってんだよ!?」
癖になりそうだ。
後日、2人はテニスコートに移動した。
そろそろスカートを履くのにも慣れてきた。
少し短いが、下はアンダースコートだから見えても平気だ。
「テニスに限らず、球技全般は魔法による攻防のいい練習になるのよ
ファイヤーボールとかの威力や射程を伸ばす効果があるし、
長時間ラリーを続ければ消費MPの抑え方も自然と身につくわ」
「へえ、面白れえな
テニスは得意だからちょうどいいや
前回の敗北から結構練習したからな……
今ならマリ姉にも勝てる気がするぜ」
「まあ! なんて生意気な上の口なのかしら!
そのプライドごと下の棒もへし折って差し上げましてよ!
……あ、それから球筋にはよく注目すること
ボールの動きをイメージする力が強いほど魔法攻撃力に反映されるのよ
あ、タマスジと言ってもペニスボールの方じゃないから注意してね」
「あんたの口からは下ネタしか出てこねえな」
その後もマリ姉による過酷な(?)特訓は続けられ、
センリはそれ相応の実力を身につけることに成功し、
関東魔法学園に入学後、最高のスタートを切ることができたのだ。
「──いやあ、やっぱり強いですね進道君は
これでもう9連勝ですよ
しかも全部の戦いでライフアウトとは……
この時期にそれが可能な新人なんて初めてですよ」
「さすがは北日本最強の進道万里から鍛えられただけはあるな
あいつはもう既にそこらの卒業生よりも強いんじゃないか?
体力はからっきしだが、純粋な魔法戦で勝てる奴が思いつかない」
「ぶっちぎりで優勝候補ですねえ
他の候補生たちが成長してくれないと賭けになりませんよ
……北日本と言えば、危ないところでしたねぇ
もう少しであっちに入学してしまいそうでしたから」
「ああ、あいつの母親が通っていた場所だから、
どうにかして自分も通いたかったのかもしれないな」
「女子校なんですけどねえ」