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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
16/150

6月中旬

「フッ!」


俺は谷口を投げた。


ガシャアアア!!


奴に着せた全身鎧……“勇者の鎧”が、けたたましい音を上げる。

奴の体重に潰された馬人間は例によって左右に分離し、

ピチピチとのたうち回った後に力尽きた。


「酷いよアキラ君!!

 どうしてぼくがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!

 ぼくは悪いことなんて何もしてないのに……暴力反対だよ!!」


奴が何を言おうと気にしない。

俺は再び谷口を掴み、スライムの群れへと放り込んだ。


ビシャアアア!!


今度は同時に3匹も始末することができた。


「ストライク!!

 いい投げっぷりだぜアキラ!

 今度一緒にボウリング行こうぜ!」


「あたしも行きたいー!

 一緒に行ってもいいよね!」


「おう、来いよ!」


進道君から遊びに誘われた。

ボウリング……未経験のスポーツだ。


「それにしても……谷口なんかのために鎧を買ってよかったのか?

 あれって結構な値段するんだろ……?

 無駄遣いのように思えるが……」


「へっ、谷口のためなわけあるか

 最強の戦士を退学させないように、俺なりに考えた結果だ

 この方法なら“谷口が倒した魔物の数”を増やせるだろ?」


「進道君……ありがとう」


「おい、そろそろ名前で呼べよなー

 俺らはとっくにお前をアキラって呼んでんだぜ?」


「それじゃあ……

 センリ、ましろ……改めてよろしく」


「おう、よろしくな!」

「やっと呼んでもらえたー!」


なんだか気恥ずかしい。

が、嫌な気分ではない。


「もうぼくを投げるの禁止!!」


嫌な気分だ。

俺は谷口を掴み、馬人間の群れへと放り込んだ。




晩飯時になり、いつものように納豆をかき混ぜる。

この匂いにも慣れてきた。

食えないことはないんだし、俺もそろそろ一口くらい……

いや、やっぱりだめだ。

どうしても母の顔が思い浮かんでしまう。


「なあ、アキラ……

 俺、呪われてんのかなぁ……」


「呪い……?

 どこか体の調子が悪いのか?」


「いや、そうじゃなくてさ……

 俺の対戦相手ってクズしかいなくてさ……

 しかもそんな奴らに2連敗だぜ……ショックだよ……」


ヒロシの戦績は2戦0勝2敗。

あと1回負けたら個人戦の出場権を失い、

同時にトーナメントの出場権も得られなくなる。

きっと参加したいはずだ。ヒロシはそういう男だ。


「……俺と試合を組めば確実に勝てるぞ」


「いや、何言ってんだ

 そんな勝ち方をしても嬉しくないよ

 俺は強い相手と戦って勝ちたいんだ」


「ああ、ヒロシならそう言うと思ったよ

 だから俺はお前とは戦わないと決めている

 あと、谷口を勝たせるようなことも絶対にしない」


トロトロになった納豆を白米に乗せる。

今日のトッピングは刻みネギだ。

更に天かすを追加。

シャキシャキ、サクサクの歯応えが癖になる逸品である。


「ヒロシ、鮎の塩焼き食うか?」


「おっ、いいねえ!

 もしかしてそれも例の農家の人から?」


「いや、親父が釣ってきた物だ

 親父は狩りの腕はからっきしだが、釣りの達人なんだ

 俺は肉より魚が好きだから非常に助かってる」


「へえ、魚派か……なんか納得だ

 アキラって猫っぽいもんな

 だってネコの構えとかさ……

 あと狭い所が好きだし、夜目が利くし、体柔らかいし……

 あっ! お前本当は人の皮被った大きな猫だろ!」


「……バレたか」


「認めたな、この化け猫め〜!」






翌日、俺は1組の担任……内藤(ないとう)真也(しんや)訓練官に呼び出された。

いつも仏頂面で、この人が笑った所を一度も見たことがない。

無精髭を生やしており、入学式の時から同じジャージを着用している。

一見だらしない中年男性のように見えるが、

歩き方や視線の動かし方からして相当の実力者なのだと窺える。

又、ヘビースモーカーとしても知られており、

ダンジョンの中でタバコを吸っている姿をよく見かける。


「甲斐、お前に預けたい生徒がいる

 まだダンジョンに入ったことのない者たちだ

 こいつらに魔物の討伐数を稼がせてやってくれ」


まともな頼みだ。

それなのに、なぜか妙な気分になる。


「私は1組の杉田(すぎた)(ゆき)……よろしく」


なんだか人形のような印象の女子だ。

腰まで伸びたストレートな髪がそう思わせるのだろう。

とても華奢で、折れてしまいそうなくらいに足が細い。

体力は皆無に等しく、走り込みでは毎回最下位争いをしている。


玉置(たまき)沙織(さおり)


少し野暮ったい感じの髪型に赤縁眼鏡が特徴的な女子だ。

クラスを名乗らなかったが、1組で何度か見かけたことがある。

彼女は訓練には毎回参加しているものの、

いつもサボっているのであまり良い印象は持っていない。


「3組の森川(もりかわ)早苗(さなえ)です」


ん……森川?

リリコを完封したという、あの森川さんか。

彼女だったのか……たしかに派手なタイプではない。

足首まで隠すロングスカートがお淑やかさを感じさせる。




校舎を出ると、パラパラと雨が降っていた。

この土埃の匂いは好きだ。


「森川さん、これを」


俺は傘を彼女に渡した。

玉置さんも傘を持っていないが、

杉田さんが持っているので2人で使えばいいだろう。


「そうすると甲斐君が濡れるけど……」

「俺は学ランを羽織るから平気だ」


身長差があるので、俺が誰かと一緒になると必ず女子が濡れてしまう。

この場合はこうするのが正解だろう。


「ユキちゃん、傘入れて〜」

「傘が濡れちゃう……」


独特な感性の持ち主らしい。



ダンジョン前に到着すると、苦手な先輩が待ち受けていた。


「うわ……

 ハーレムパーティーが来たよ……」


「工藤先輩

 妙な誤解はやめていただきたい

 これは内藤先生から頼まれたんです」


「ホントにぃ〜?

 アンタの趣味で連れ回してんじゃないの〜?

 どうせダンジョン内で変なことする気でしょ〜」


「疑うのなら確認すればいいじゃないですか……

 とりあえず計画書を受け取ってください」


「どれどれ……

 あ〜、この字は間違いないわー

 はい承認っと」


なんだかものすごく嫌われている……。


「じゃあ早速出発……と言いたいとこだけど、

 先に入ったパーティーがまだ戻ってきてないのよね

 2年は1人ここに残ってないといけないから、

 アンタちょっと行って見てきてくれる?」


「何をまた……

 俺を単独で入場させたのが原因で叱られた件をお忘れですか?」


「そりゃ覚えてるけど……アンタなら平気っしょ

 もう既にアタシらより強いんだしさ

 バルログ1人でやっつけたんでしょ?」


「そういう問題では……」


ああ、これは言い合いになる。

そう覚悟した時……。



「……工藤先輩!!

 緊急事態です!!」



ダンジョンの中から同級生たちが血相を変えて飛び出してきたのだ。

緊急事態……まさかまたバルログが出たのか?


「2層にゴーレムが出現しました!

 加藤先輩が食い止めてくれてますが、

 あまり長くは持たないと言ってました!」


「げっ、やば……

 ゴーレムって4層の魔物なのに……

 剣士だらけの2年生にとって天敵なんだよアイツ……

 とにかく緊急招集かけなきゃ……

 甲斐晃、加藤を手伝ってやって!

 なんだったらそのまま倒しちゃってOK!」


「はい!」


俺は現場へ急行した。



「えっ……

 甲斐君、武器持ってなかったよね……?」


「死にたいんでしょ」


「アキラが死んじゃう……」




──第2層。


そこには5m以上の巨大な岩の塊が佇んでおり、

加藤先輩は群がるコボルトたちを巧みな剣捌きで串刺しにしていた。

転がる死体は全て同じ位置を貫かれている。

正確無比な刺突技術。

さすがは学園最強の魔法剣士と噂されるだけのことはある。


「おお、心強い援軍が来てくれた!

 状況は聞いてるよね?

 僕は今、ゴーレムに“バインド”の魔法をかけて足止め中だ

 あいつは刃物による攻撃がほとんど通用しないから、

 僕らのような剣士には倒すのが難しい相手なんだ

 鈍器で外殻を破壊して“核”を潰すのがセオリーなんだけど……

 君の拳は鈍器みたいなもんだし、たぶん壊せるよね?」


「やってみます

 注意すべき攻撃などはありますか?」


「うーん……

 かなり動きが遅いから大丈夫だと思うけど、

 掴まれたらそのまま握り潰されるから……それくらいかな

 それで毎年100人くらい死んでるらしいよ?」


掴まれたら即死……要注意だ。


とりあえず、まずは観察だ。

バインドで下半身を束縛しているとはいえ上半身は動く。

どれくらいの距離で攻撃を仕掛けてくるのか確かめる必要がある。


まずは10m……さすがにこれは遠すぎる。

奴の体長に近い5m。これも反応無し。


4m……3m……2m…………?


もう既に手の届く距離なのに、ゴーレムは全く攻撃してこない。


1m……。


そこまで来て、ようやくゴーレムはのっそりとした動きで右腕を振り上げた。

遅い。遅すぎる。谷口よりは少し速い程度だ。

こんなスローな攻撃で毎年100人も死んでいるとは信じ難い。



その後、何度か攻撃を誘発してみたが、“掴む”以外の行動はしてこなかった。


「先輩、もしかしてゴーレムの行動パターンはこれだけですか?」


「うん、そうだよ

 なんというか……ゴーレムは防御特化の魔物なんだ

 こいつを相手にしてる間に他の魔物に囲まれたりとか、

 そういう敵同士の連携プレーで厄介になるタイプだね

 出現したのが2層でよかったよ

 ここの魔物はさほど強くないからね」


なるほど。

単体では脅威ではないにせよ、集団になると面倒になるのか……。

敵味方共に“チームワーク”は強力な武器だと言える。


「では、そろそろ叩いてみます

 素手なので成功するかはわかりませんが……」


「君ならできちゃうと思うけどなぁ」


敵の行動パターンが1種類だと知った以上、

攻撃特化の型で全く問題無いだろう。


俺が選んだのは……“トラの構え”。


「ふううぅぅ……」


精神を集中させ……



「ぃぃいやああああぁぁぁ!!!」



……!?


信じられないものを見た。


どういうわけか杉田さんがゴーレムに捕まっている。

ダンジョンの前に置いてきたはずの彼女が突然目の前に現れ、

しかもあのスローな掴み攻撃の餌食になろうとしていた。

このままでは握り潰されてしまう。


(すなわ)ち、死だ。


「まずい……!!」


「杉田さん!!」


俺は拳を強く握り締めたが、それではいけない。

攻撃が当たる瞬間までは脱力だ。

今回の場合、貫手では指を折るだろう。

使うのは掌底だ。


この一撃で決める。



絶対に……助ける!!



「ハアァッッッ!!!」



俺は加藤先輩から教えてもらったゴーレムの“核”の位置……

人体で言えば横隔膜の少し上の部分に渾身の打撃を与えた。

するとゴーレムの外殻は無数の石片となって飛び散り、

壁や天井を破壊していった。


“核”……おそらくこの赤くて丸い塊がそうなのだろう。

これを潰せば勝ちだ。

俺はそれを鷲掴みにし、力の限り握り潰した。


ブシュウウウゥゥッ!!


血と同じ色をした液体がスプリンクラーのように周囲を濡らす。

爆心地にいる俺は全身が真っ赤に染め上げられる。

だが、いくら汚れたって構わない。

彼女を助けるのが最優先だ。


「オオオォォッ!!」


渾身の力を込めて“核”の中身を搾り切ると、

ゴーレムの体は無数の石片となってガラガラと崩れ去った。


「……杉田さん!! どこだ!?」


ゴーレムの右腕があった辺りを見やるが、そこに彼女の姿は無い。

もしかして石片の下敷きになってしまったのだろうか。

これはまずい。急いで救出しないと──


「ここだよ」


彼女は俺の背後にいた。

あり得ない。いつのまに……いや、それよりも。


「怪我は無いか!?

 どこか痛い所は!?」


「アキラは私に気がある……」


やはり不思議な子だ。




「いやあ、しかし『核を潰すのがセオリー』とは言ったけど、

 まさか本当に素手で握り潰すとは思ってもみなかったよ……

 この場合の“潰す”は、“やっつける”的な意味だったんだけどね

 ……まあ、とにかく無事にゴーレムを処理できてよかったよ」


そういうニュアンスだったのか……。


「ところで杉田さん、君はもしかして……

 “瞬間移動(テレポート)”の使い手だったりする?

 もしそれが事実だとしたら、冒険者史に革命が起きるレベルだよ」


「お母さんが使ってたから……」


「んんん……っ!?

 これはなんて言っていいのか…………未知との遭遇?

 今年の新人は規格外な生徒ばかりで驚かされっぱなしだよ……」


テレポート……聞いたことがある。

SF作品などでは定番の超能力だそうで、

遠く離れた場所へ一瞬で移動できる能力らしい。

“この世に存在しない魔法”として周知されており、

もしその事実が覆ってしまったら、

日本冒険者協会は新しい資料を作成しなくてはならない。


「杉田さん、協会から何か嫌がらせを受けていないか?」


「臭い缶詰が送られてきた……

 魚が入ってた……おいしかった……」


彼女は仲間だ。

基本情報

氏名:杉田 雪 (すぎた ゆき)

性別:女

サイズ:A

年齢:15歳 (2月14日生まれ)

身長:135cm

体重:21kg

血液型:A型

アルカナ:世界

属性:無

武器:なし

アクセサリー:ビニール傘


能力評価 (7段階)

P:1

S:2

T:2

F:7

C:8


登録魔法

・テレポート

・セブンスサイン

・バタフライエフェクト

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