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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
150/150

3月

「あぁ、今年も無事に

 みんなの卒業を見送ることができたわ……!」


来月から高校8年生になる不破先輩に見守られ、

俺たちは無事に卒業することができた。


この3年間、いろんなことがあった。

インパクトのでかい事件ばかり思い出しそうになるが、

暗い気分になりそうな回想はやめておこう。

めでたい日には似合わない話題だ。




「よっ、アキラ!

 お世話になった人たちに挨拶しに行こうぜ!」


「ああ、行こう」


ヒロシの誘いに乗り、俺たちは体育館を後にした。

そういえば入学初日もこうしてヒロシに誘われ、

おかげで早々にダンジョンに入ることができた。

そのきっかけが無ければしばらく様子見の日々が続き、

現場の空気を知るのがもっと遅くなっていただろう。


ヒロシと友達になれてよかった。

最初は『危なっかしい奴だ』と思う場面が多かったが、

……いや、今でもそうか。

こいつは先月ダンジョン内で羽目を外した結果、

単身でドバイまで転送されたばかりなのだ。

先生方からこってり絞られて反省したようだが、

いつかまた何かしら馬鹿をやらかすのだろう。


ヒロシはなんというか……

チェスで例えるなら、e2のポーンのような奴だ。

ポーンはチェスにおける最弱の駒とされているが

トリッキーな技をいくつも持っており、

有名な定石ではこの駒がゲームの始点となる。

e2……その位置は白の王の御前である。

一般兵でありながら王の前に立つことを許された存在。

王の信頼を得た、最も勇敢なる戦士──王の剣。

それが小中(こなか)(ひろし)という男なのだ。




懐かしき1年4組の教室へ向かうと先客がいた。


「おっ、グリムも来てたんだ

 それに落合先生まで……

 なんにせよ、元4組の面子が勢揃いだな!

 やっぱここが俺たちの出発点みたいなもんだし、

 自然と足が向いちゃうよな!」


とヒロシは納得するが、先客の反応は微妙だ。

なんだか俺たちを鬱陶しそうにしているような、

早く消えてくれと言わんばかりの目で見ている。

だがグリムはやれやれといった感じに首を振り、

ここで何をしていたのかを白状した。


「実は今、先生の彼女候補を探しているところなんだ

 同年代で手が綺麗な女性が好みらしい

 お前たちの知り合いにそういう人はいないか?」


「なっ……栗林!!

 バラすなよ!!

 何してくれてんだ!!」


「いや、俺たちだけで探すのは非効率的です

 人脈を広げといて損はありませんよ

 こいつらは口が堅いし、それにお人好しなので

 協力者として申し分ないと思いますが」


「うぐ……

 言われてみれば、たしかにそうかもしれんが……

 う〜ん……

 それじゃあ甲斐、小中

 俺の彼女探しの件、頼んだぞ」


「ええ……」

「なんでだ……」


最後の日に面倒な依頼を引き受けてしまった。




食堂ではリリコが1人でカレーライスを食っていた。

テーブルには中身の無いどんぶりが1つ置いてある。

卒業式が終わってからそんなに時間は経っていないが、

彼女は既にラーメンを完食していたようだ。


「べつに腹が減ってるわけじゃねーんだけどよー

 これで学食ともおさらばだと思うと、

 今のうちに食っとかねーと損だかんなー」


「ラーメンにカレーかあ

 定番の人気メニューだよな〜

 俺もよく食ったっけ……」


「しかし、オメーラはいいよなー

 魔法大学にも学食あるもんなー

 安くて美味い飯が食い放題だもんなー」


「いや、食い放題じゃないけど……

 ってか、リリコちゃんはそもそも就職組だったろ?

 今更大学に行きたくなってもどうにもならないよ」


「んなもん、オレだってわかってるよ

 ただな、これからはプロ冒険者として、

 学割を使えなくなる現実に不安を感じてんだ

 もしもオレが一文無しになったら、その時は頼むぞ」


「頼むと言われても……

 たしかリリコちゃんは、いろんな大手企業から

 契約のオファーが殺到してなかったっけ?

 金欠になる未来が想像できないんだけど……」


「ああ、それな

 契約書読むのが面倒だったから全部断った」


「はあっ!?」


「だって小難しい文章が何十ページも続くんだぜ?

 あんなの誰が読むっつうんだよ

 学園の弁護士は『必ず自分の目で内容を確認して』

 とか言ってイマイチ役に立たないしよー」


「いやいやいや……弁護士が正しい

 後々問題が起きた場合、自分が不利にならないように

 契約内容はちゃんと把握しとかなきゃ

 ……って、もう手遅れだけど」


「まあオレとしては企業の広告塔(マネキン)になるよりも

 現場で暴れ回ってる方が性に合ってるし、

 今んとこ後悔はしてない感じだなー」


「そりゃ今はいいかもしれないけど……

 うーん……

 本人がそれで納得してるならいい……のか?」


契約冒険者の道を蹴ったのは正直もったいない。

しかも中小企業ではなく、大手からのオファーをだ。

数ある冒険者の形態の中で最も安定しているのが

それだというのに、彼女は本当にわかっているのか?

決断する前にせめて一言くらい欲しかった。


……だがまあ、それがリリコの選択だ。

本人なりに悩み抜いた末に出した答えなのだろう。

もしこの先、彼女が無一文になるようなことがあれば、

その時は少しだけ生活の面倒を見てやろう。

俺たちにできるのはそれだけだ。




訓練棟にはセンリ、ましろ、並木の3人組がおり、

投擲訓練用の的にダーツを放ちながらお喋りしていた。

どうやら彼らは本気で競い合ってはおらず、

的から外れようが特に悔しがる様子は見られなかった。


「まったく、並木め

 すっかり優等生側の人間になりやがって……

 アキラ、ヒロシ、グリムの3人は

 目的意識の強い奴らだから納得できるけどよお、

 どうしてお前まで魔法大学に受かってんだよ?

 この、補習組の面汚しめ!」


「ちょっ、センリ!

 ミナが頑張った結果なんだから受け入れようよ!

 友達なんだから素直に祝福しよう?」


「オホホホホ!

 いいのよましろ! 言わせておけば!

 センリは落ちちゃって残念だったわね〜!

 どんどん嫉妬してもらって結構だわよ!

 あ、そうそう

 今年が駄目でも来年があるじゃない

 そこで合格さえすれば……

 この私の後輩として温かく迎えて差し上げるわ!」


「クソッ!!

 ゴミ女!!」


「あわわ……

 2人共、喧嘩はよくないよ〜……」


「……とまあ冗談はこのへんにしといて、

 私たちもいよいよ卒業かあ

 月並みだけど、長いようで短い3年間だったね」


「おう、そうだな

 体感的に1年も経ってない気がするぜ

 たぶん若者特有の時間感覚ってやつだろう」


「あ、あれ……喧嘩終わり?

 『あたしのために争わないで!』

 って言いたかったんだけど……」


「どんな流れでそうなんのよ……

 まあ、これから新しい環境に突入するわけだけど、

 時間が合う時はちょくちょく遊びに行きましょ

 どうせあんたたち暇でしょ?

 どっちもセレブだし、そこまでガッツリ働かなくても

 お金に困ることなんて無いだろうしさ」


「おいおい、暇なわけあるか

 おれたちゃ北澤さんが推薦してくれたおかげで

 調査隊見習いになることができたんだぜ?

 本来は魔法大学を首席で卒業したような奴しか

 入隊できねえレベルのエリート集団だ

 そんじょそこらの野良冒険者よりも

 遥かに忙しいに決まってんだろ」


「そんな高レベルのエリート集団に

 あたしも混ざっちゃっていいのかな……」


「いいに決まってんでしょ

 あんたほどの回復役(ヒーラー)防御役(タンク)を他に知らないし、

 それにまだ伸び代を残してるからね

 今までよりも厳しい環境で揉まれてるうちに、

 あんたの中で眠ってる才能が開花するかもよ?」


「“時間停止”なぁ……

 おれにもその素質がありゃよかったんだけどな」


「あ、でも犬には効かないんだよ」


「どゆこと!?」


あの3人はこれからもあんな調子で

仲良くやってゆくのだろう。




廊下で津田剛志訓練官とすれ違った。

俺たちは社交辞令で会釈してみたが、

相手からは何も返ってこなかった。


……なんなんだあいつ。




俺たちは格技場の前で足を止めた。

ここは体育の授業で柔道か剣道を習う以外の目的で

自発的に入場したことは一度も無い。

何かしら有効利用できればよかったのだが、

他の訓練施設の方が色々と使い勝手が優れていたために

とうとうこの場所に価値を見出すことはできなかった。


「おっ、正堂!

 さすが剣道キャラだな

 やっぱここが一番の思い入れスポットってわけか」


「ああ、うん、まあね

 ……と言いたいところだけど、

 実はそれ以外の目的で来てるんだよね」


「へえ、どんな目的?」


「AVの回収だよ」


「何言ってんだお前」


「いや〜、コツコツ買い集めてここに隠してたら、

 この3年間で随分と溜まっちゃってねえ

 こりゃあ1回で全部運び出すのは無理だぞ〜

 ……と悩んでいたら君たちが来てくれたわけだ

 これも何かの縁だ、手伝ってもらえるかい?

 気になるお宝があれば持っていっていいよ」


「断る」

「OK」


結局、俺たちはAVの回収を手伝わされた。




指導室の前を歩いていると、中から話し声がした。

声の主は内藤先生とユキだ。

ユキは先生のお気に入りの生徒だとは知っていたが、

まさか、な……。


「ヒロシ、何をしている?」


「ん、盗み聞き」


「いや、それはまずいだろ

 プライベートな会話のはずだ」


「いやいや、ユキちゃんも俺たちの大事な仲間だ

 何か変なことに巻き込まれてたら嫌だろ?」


「もっともらしいことを言っているが、

 本当はただの興味本位なんだろ?」


「実はそうなんだ」


……ヒロシからの伝聞によると

中で特にいかがわしい行為は無かったようで、

ユキの進路について確認していただけらしい。

どうやら彼女は早苗の家に住み込むそうで、

コンピューター関係の仕事をするとのことだ。


そういえばユキは数学的な能力に秀でていた。

彼女にピッタリの仕事が見つかったようで何よりだ。

俺たちは魔法学園を卒業したからといって、

必ずしも冒険者にならなくてもいいのだ。

他の選択肢があるのなら、それに飛びついてもいい。

毎日が命懸けの生活を続けなくてもいいのである。




俺たちは職員室で通常授業の先生方に挨拶した後、

学園地下にある医務室を目指した。

闇医者たちには何度もお世話になった。

彼らの助けがあったからこそ俺たちは生きていられる。

この感謝の気持ちを伝えずに去ることはできない。


「……おっと、先客がいたな

 俺たちのことは気にせずに、

 ゆっくりと診察してもらいなよ」


先客は十坂と松本さんだった。

この数ヶ月で松本さんの腹はかなり大きくなり、

妊娠の事実を隠せる状態ではなくなっていた。

父親はもちろん十坂だ。

あの2人は俺たちの与り知らぬうちに関係を発展させ、

見事、愛の結晶を宿すことに成功したのである。


もしこれが大昔のスクールドラマだったならぱ

十坂が教師から殴られる展開もあり得たらしいが、

個人的に、彼は何も悪いことはしていないと思う。

ただただめでたい。それだけだ。


松本さんは魔法大学の入試に合格していたが、

母子の身を案じて入学を辞退した。

その選択に後悔は無いと彼女は語る。

まあ、正直そうしてくれて俺たちは安心している。

冒険活動の場に妊婦がいたら気が気ではないだろう。




校舎を出たのはちょうど正午の辺りで、

柔らかい春の陽気が心地良い。

ああ、今日はなんと穏やかな日だろうか。

この平和な時間が永遠に続けばいいのに。

……なんて発言は控えよう。隣にヒロシがいる。

どうせまたフラグがどうのこうのと説教されるんだ。


「うわ、すっげえいい天気

 こんな日がずっと続いてほしいよなあ」


「お前が言うのか……」


「ん?

 俺、なんか変なこと言った?」


「いや、気にするな

 そんなことより、もう全員に挨拶は済ませたよな?

 俺たちはこれから学園関係者ではなくなるから、

 一度敷地を出たら再入場の手続きが面倒なんだ

 忘れ物は無いようにしておかないと……」


「もう充分だろ

 初対面の事務員にまで頭下げてきたんだし……

 残るは学園長くらいだけど、あのジジイときたら

 卒業式が終わった瞬間、速攻で帰りやがったからな

 ノーカンでいいよあんな奴」


「ああ、俺もあいつは嫌いだ

 ……っと、『嫌い』繋がりで1人思い出したぞ」


「え、誰?

 つーか、そいつもノーカンでよくね?」


「できればそうしたいところだが、

 あの異常者と二度と関わらないために

 今後の動向を探っておきたい

 打ち上げに来るかどうかの返事が無いし、

 これが彼女と会話できる最後の機会かもしれない」


「異常者……彼女……ああ、あれか

 わざわざ会いたくねえなあ……

 でも俺も自衛のために情報集めとくか……」




そして俺たちはタワーまでやってきた。

ここは上級生が寝泊まりするための生活拠点だが、

俺は最後までそれ以外の目的でしか利用しなかった。


それはさておき、()()はすぐに見つかった。

玄関前で大量の家具に囲まれている姿から察するに、

部屋から全ての私物を強制撤去されたのだろう。

みんな計画的に荷物を整理してきたというのに、

この馬鹿女はこれまで何も対策してこなかったのだ。


「あ、ちょうどいいところに来てくれた!

 ねえ、そこの男子2人! これ私の家まで運んで!

 今日中に持ってかないと全部処分されちゃうの!

 それってあんまりだよねえ!?

 ちなみに業者に頼むと自腹なんだって!

 そんなの酷いと思うよねえ!?」


玉置沙織……やっぱり苦手だ。

この声を聞くだけで頭が痛くなる。

だが会話しないと……動向を探らないと……。


「玉置、お前はこの後……

 卒業した後は何をするんだ?

 どこかで冒険活動をする予定はあるのか?」


「はあっ!? 冒険!?

 するわけないじゃない!!

 冒険者なんて底辺の仕事、死んでもお断りよ!!」


ひとまず安心した。

この女は俺たちとは別の道を歩んでくれるらしい。

こんなのが現場に出てこられたらみんなの迷惑だ。

本人にやる気が無くて助かった。


「他にやりたいことはあるのか?

 叶えたい夢とか、人生の目標とか、

 そういうものがあるのなら聞かせてくれ」


「なんなの急に!?

 わけわかんない質問しないでくれる!?

 そんなのあんたには関係無いでしょ!?」


「……それもそうだな」


以前、女子たちから聞いた話によると

こいつは漫画家や小説家、歌手や声優など

様々な職業に興味を持っているらしい。

だが『xxxになりたい』と口にするだけで、

その願望を実現させるための努力をしない。

そんなだから必要な技能が身につくはずもなく、

1つの夢に飽きたら別の夢へ、というふうに

“将来の私”を取っ替え引っ替えしているそうだ。


一生やってろ。


「あと1つだけ質問させてくれ

 お前はなぜこの学園に入学したんだ?

 ここが冒険者の養成機関であることは

 事前に知らされていたはずだろう?

 底辺の職業とやらに就きたくないのなら、

 一般の高校に通えばよかったじゃないか」


「そんなの聞いてどうすんの!?

 さっきからなんのつもり!?

 私を怒らせたいの!?

 そんなことして楽しい!?

 これっていじめだよねえ!?」


本当に面倒な女だ……。


玉置に限らず、何も学ぼうとしない生徒は他にもいた。

そいつらはどんな目的があって入学するに至ったのか、

無駄な椅子取りを未然に防ぐにはどうしたらいいか、

その判断材料が欲しかったのだが……。


「私は騙されたの!!」


「……ん?」


これは答えてもらえるパターンだろうか?


「『君にはすごい才能があるから是非来てほしい』

 って頼まれたから入学してあげてやったのに、

 先生は何も教えてくれなかった!!

 あいつらのせいで全然魔法使えないんだけど!!

 いや使えるけど、それって自力で覚えたやつだし、

 あの人たちいる意味あんのって感じだよ!!」


「自分の意思で訓練をサボっていたんだろう?

 学ぶ気の無い者にどう教えろというんだ?」


「そこをどうにか工夫するのが先生の仕事でしょ!?

 あんな走ってばかりの汗臭い訓練じゃなくて、

 もっと楽なやつなら私だって真面目にやったよ!!

 ってゆうか、体鍛えてなんの意味があんの!?

 魔法使いを育てたいんだったら、

 魔法の修行だけやらせてればいいじゃん!!」


「お前はその課題もサボっていただろう……」


「もしかして掃除機のこと言ってる?

 あんなのやる意味無いよ 馬鹿馬鹿しい

 私はもっとこう、魔法使いっぽいとゆうか、

 ファンタジックな感じの修行がしたかったんだよ」


その汗臭くて馬鹿馬鹿しい訓練があったおかげで

俺たちは数々の困難を乗り越えてこれたんだが……

まあ、こいつにそれを説いても無駄だろうな。

聞き捨てよう。


「みんなが使ってる魔法なんて全然可愛くない!!

 私はねえ、(ほうき)に乗って空を飛んだり、

 猫とお喋りしたり、心を読んだり、変身したり、

 そーゆーロマン溢れる魔法が使いたかったの!!

 なのに、戦いに使うやつしか教えないじゃん!!

 こんなの詐欺だよ!! 私の3年を返してよ!!」


そんな魔法は存在しないんだよ、馬鹿め。

……いや、ヒロシなら使えるかもしれないが、

あいつは特殊すぎて勘定に入れない方がいい。


「最低の高校生活だった!!

 みんなはさぞかし楽しかったことでしょうねえ!!

 山とか、沖縄とか、ドバイとか行ったんでしょ!?

 どっか遊びに行くなら私も誘ってよ!!

 なんで私だけ仲間外れにするかなあ!?

 私、そんなに嫌われるようなことしたかなあ!?」


「どの口が言ってるんだ……

 野村を撃った件を忘れたのか?

 それ以外にもお前を嫌う要素は色々あれど、

 あの一件が決定打になったのは間違いない」


「あれは事故だもん!!」


……もう会話を切り上げよう。

これ以上続けるのは危険だ。

この魔物を狩って罪に問われる事態は避けたい。






玉置が大量の荷物に囲まれながら何か喚いていたが、

俺たちはそれを無視して速やかにタワーから離れた。


「はあ…………」


無意識にため息が出る。

疲れた。しんどい。心が重い。

関東魔法学園での最後の思い出がこれかと思うと、

なんともやるせない気分になってしまう。


だがまあ、魔法大学でも嫌な奴と出会うのだろう。

その予行演習みたいなものだと割り切るしかない。

最近は比較的まともな人間とばかり接してきたせいか、

世の中には多種多様なクズが存在している事実を

忘れかけていたところだ。


さっきのは予行演習。

そう思うことにしよう。


「せっかくいい気分で学園を去れると思ってたのに、

 最後の最後でケチがついちまったな

 口直しにもう一度校内をうろついてみるか?

 何かハッピーな隠しイベントがあるかもよ?」


「いや、やめておこう

 打ち上げの予約時間が迫ってる

 俺たちは少し長居しすぎたようだ」


「そっかあ

 じゃあ、これでいよいよ学園ともお別れだな」


「ああ……」


俺たちは同時に振り返り、校舎を見渡した。

見慣れたはずの建物たちが、なんだか違って見える。


今立っている位置からは見ることができないが、

あの向こうには俺とヒロシが出会った場所がある。

あの無茶な試験は今年も行われたのだろうか?

あとで先生に聞いてみよう。


訓練棟。

この3年間、走って走って走りまくった場所だ。

ある意味、一番印象に残っている施設とも言える。

俺が寝泊まりしていた部屋はのぞみに引き継がれ、

アリアはタワーに引っ越すことになったそうだ。


タワー……は、もういいな。飛ばそう。


焼却炉。

俺の冒険活動における重要アイテム、

段ボールの供給源として機能していた場所だ。

魔法大学の焼却炉エリアにも、

入り心地の良い段ボールがあればいいのだが……。


芸術棟。

結局、あまり利用する機会が無かった。

仲間内で最もこの場所に通っていたのは、

おそらくヒロシだろう。

そういえばあそこには錬金釜が置いてある。

最終決戦の際にヒロシが使用した賢者の石は、

もしかしてあの部屋で作られた物だろうか?


「なあ、ヒロシ──」


「うおっ、やべえ!

 2人して回想に浸ってる時間なんてねえぞ!

 このままだと完全に遅刻しちまうよ!」


「……そうか」


「名残惜しいけど、もう行こうぜ!

 思い出を振り返りたい時は、また来りゃいいんだ!

 入場手続きが面倒なのはしょうがねえよ!」


「また来ればいい、か……

 そうだな、そうしよう」


そして俺たちはその場を後にした。




正門前では、意外な人物が待ち構えていた。

……否、意外な人物“たち”だ。


「やれやれ、やっと来たな……」

「いつまで待たせんだ! 遅っせーよ!!」

「会場に遅れちまうだろうが!!」

「まあまあ、そうカッカしなさんな」

「罰としてあの2人に奢ってもらおうかしらね?」

「料金は支払い済みのはず……」

「はは、本気で言ったわけじゃないさ」

「なら二次会はあいつらの奢りってのはどうよ?」

「二次会あるんだ……それいいね!」


なんと、そこには同級生たちの姿があった。

とっくに打ち上げ会場へ向かったものと思っていたが、

彼らは揃いも揃って俺たちを待ってくれていたのだ。


「へへっ、待たせちゃって悪いな!

 俺たちは準備OKだから早速出発しようぜ!」


ヒロシは門から出ようとするが、

仲間たちが割り込んで行く手を阻む。


「おい、待てヒロシ

 その前にやることがあるだろう」


「へ?

 まだなんかあったっけ?

 何も思い残すことは無いはずだけど……」


「ほら、()()()()()()

 せっかくだからお前に言わせてやろうって、

 みんなで話し合って決めたんだ」


「いつものアレ…………あっ、アレかあ!」


ヒロシが何を求められているのかを察し、

一同は安心した表情で成り行きを見守った。


「今日もゼロ災で──」


「馬鹿!! 違げえよ!!」

「そっちじゃねえよ!!」

「もう1つのやつ!!」

「毎年恒例のアレだってば!!」


「毎年恒例……あああ、そっちかあ〜〜〜!!」


ギャラリーからブーイングを浴び、

ヒロシは間違いに気づくことができた。

そして今度こそはという意気込みで拳を固め、

俺たちも同じようにその意志を拳に込めて、

例の台詞に備えるのだった。



「俺たちの戦いは──」



「「「「「 ──これからだっ!!! 」」」」」

基本情報

氏名:甲斐 晃 (かい あきら)

性別:男

年齢:18歳 (4月6日生まれ)

身長:200cm

体重:100kg

血液型:A型

アルカナ:魔術師

属性:なし

武器:戦う意志 (素手)

アクセサリー:卒業証書


能力評価 (7段階)

P:10

S:10

T:10

F:0

C:0

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