1月
日本冒険者協会からボーナスが支給された。
100万円。
を、最終作戦に参加した48名で均等に分けて1人当たり20833円。
約2万円……!
端数の16円は関東魔法学園に寄付という形に落ち着いた。
「割に合わねえよ」
「やっぱしこんなもんか……」
「期待はしてなかったけど、なんなのあのクソ組織」
「むしろ予想通りの結果って感じだけどね
国民の善意につけ込んで金儲けがしたかっただけだろうし」
「それにしてもおかしな話だよなあ?
奴らが募金でどんだけ儲けたかは頑なに公表しねえが、
“民間企業がいくら募金したか”の記録は残ってるんだよなあ
ざっと計算すると最低でも30億円は集まってるはずなんだが、
残りの29億9900万円は一体どこに消えちまったんだか……」
「中抜きって怖いね」
生徒たちは怒りと呆れの入り混じった雑談で盛り上がり、
彼らの協会に対する不信感はますます強まる一方だ。
まあ誰かが言った通り、協会に期待していた者は1人もいない。
怒り1:呆れ9といったところだろう。
「んで、みんなはこのあぶく銭どうする?
パアーッと使っちゃう?」
「う〜ん、無難に貯金かなぁ」
「僕は装備品のメンテに充てようかと」
「私はケーキバイキングで」
「中古のゲームソフトでも買い漁ってみるかな」
一同がガヤガヤと話し合う中、
アキラはのぞみにそっと耳打ちをした。
「週末を利用して一泊二日の旅行をしてみるか?」
「えっ!?
……あ、例の件ですか?
でも一泊というのはちょっと、その、なんというか……」
「埼玉に海は無いからな
例の作戦を決行するには、どうしても県外に出る必要がある
日帰りだとのんびりできる時間がほとんど無いだろう」
「や、理屈はわかるんですが、泊まりは……
べつに嫌がっているわけじゃないんです
ただ急というか、ビックリしちゃって……
少し考える時間をもらえますか?」
「ああ、もちろんだ」
──そして週末になり、アキラとのぞみは冬の海へとやってきた。
4月に交際を宣言してからかなりの時間が経過してしまったが、
ようやく2人は念願の初デートに漕ぎ着けたのである。
2人は手を繋いで砂浜に立ち、ただ海を眺めていた。
彼らの身長差は約70cm。第三者からは親子にも見えるだろう。
しかしアキラの容姿が日本人離れしている影響もあり、
この2人に血縁関係を連想する人間がどれだけいることか。
なんともチグハグな外見の組み合わせの男女であるが、
2人はれっきとしたカップルなのだ。
親子や兄妹、あるいは誘拐犯と被害者でもない。
彼らはお互いに一目惚れして交際中の関係なのだ。
「人、いないな」
「冬ですからね」
「冬場でも水温が20度ほどあれば、
案外泳げるものらしいぞ
敢えて冬にサーフィンを楽しむ人たちがいるそうだ」
「へえ、わたしは泳ぐ気はありませんよ」
「俺もだ」
「ところでここまで来ておいてなんですが、
アキラ先輩はまだ動き回らない方がいいのでは?
お父さんに報告した直後、出血多量で倒れたじゃないですか
怪我が完治するまでは安静にした方が……」
「ふふ、『義父さん』か
気が早いぞ」
「そういう意味で言ったんじゃありません」
「俺にとっては、この状況こそが安静だ
余計なことは何も考えずに、ただお前と一緒に海を見て過ごす
これほど有意義な時間の使い方が他にあるだろうか?」
「潮風が傷に染みるんじゃないですか?」
「いや、全然平気だ」
「わたしには、ただ強がってるだけに見えますけどね
正直に言ってみてください、嘘は無しで」
「実は結構痛い
……強がってる、か
言われてみればその通りだな
周りの連中は俺を強い奴だと思い込んでいるようだが、
実際は弱い部分を見せないように取り繕っているだけだ
みんなをガッカリさせたくないという気持ちもあるが、
ただ単純に自分が恥ずかしい思いをしたくないだけだろう」
「見栄っ張り」
「ああ、そうかも……」
「まあ、わたしの前では強がらなくてもいいですよ
他の皆さんの前では今まで通りでもいいですけど」
「カッコ悪い姿を一番見られたくない相手がお前なんだが……」
「カッコ悪くたっていいじゃないですか
そもそも強ければカッコいいという話でもありませんけどね
わたしの初恋の相手は“強くなろうと頑張ってる人”でしたよ?
アキラ先輩は弱さを自覚して克服しようとしていたからこそ、
目隠しなんかして森の中を駆けずり回ってたんでしょう?」
「あの時、目隠しさえしていなければ、
お前とはもっと早く知り合えたんだよな……」
「その頃のわたしはアキラ先輩より大きかったので、
見てもなんとも思わなかったんじゃないですかね?」
「その可能性は否めない」
「ロリコンめ」
アキラは包帯越しに傷口を軽く叩かれ、身を捩って悶絶した。
しばらくして、アキラはカバンから封筒を取り出した。
「ヒロシから現像した写真を受け取っていたんだが、
デートの件で頭が一杯でまだ目を通していなかった
今見てもいいか?」
「わたしにも見せてください」
「ああ、一緒に見よう」
……。
「なんというか……
大量の鳥がお母さんに群がってる写真ばかりですね」
「『義母さん』か……ふふ」
「それやめてください」
「あれはかなり特殊な戦いだったからな
こういう絵面になってしまうのは仕方ない
ただ、最初の1枚だけは鳥に襲われていない姿だ
もし遺影を飾るとしたらこれを使うしかないだろうな
魔物の写真というのが引っ掛かるが……」
「素朴な疑問なんですが、闘気って写真に映らないんですか?
この時は銀色の光が健在だったはずなんですが……」
「そのようだ
今まで闘気を写真に収めようとした者はいないから、
これはこれで貴重な新発見の証拠にもなるな」
「ところで話は変わるんですが、ビデオを分析した結果、
ラスボスにトドメを刺したのはわたしだそうです
あまり重要な情報ではありませんが、一応報告をと……」
「へえ、お手柄じゃないか
みんなに自慢して回ってもいいんだぞ」
「や、たまたま最後がわたしのファイヤーボールだっただけで、
それまでの積み重ねを考えると大した活躍はしてませんよ」
「活躍、か……
あの戦いで活躍しなかった者は1人としていない
最終作戦に参加した者たちだけに限った話じゃない
それ以前の攻防で戦ってくれた者たちはもちろん、
彼らを支えてくれた町の人たちにも感謝している
聖域ダンジョンは俺1人で攻略しようなんて考えていたが、
それがどんなに無茶なことだったか痛いほど思い知らされたよ」
「文字通り痛い思いしましたもんね
これに懲りたら1人で突っ走るのはやめましょうね」
「ああ、肝に銘じる」
アキラはカバンに写真を仕舞い、
今度は装備品のカタログを取り出した。
「以前から気になっていた商品があるんだが、
ずっと忙しかったせいでなかなか言い出す機会が無くてな……」
「沖縄から帰還した当日に秩父で事件発生でしたからね
まったくタイミングが悪すぎる……
それはそれとして、ようやく武器を持つ気になったんですか?」
「いや、俺の装備じゃなくて、
お前にプレゼントしようかと」
「え、わたしに?
もしかして誕生日用ですか?」
「これなんだが」
と、アキラは頑丈そうな背負いカバンの写真を指差した。
「ランドセルじゃないですか
いりませんよ、そんな物」
「まあ、そう言わずに……
これはただの荷物入れじゃないぞ
クーラーボックスと電子レンジの機能が搭載されていて、
しかも背中を守る防具としての性能がかなり高いらしい
今後の冒険活動で大いに役立つこと間違い無しだ」
「今までそれ無しでもやってこれたので必要ありません」
「お前に似合うと思うんだが……」
「似合うから嫌なんですよ
アキラ先輩はただ、わたしのランドセル姿を見たいだけでしょう?」
「その可能性は否めない」
「やっぱりそうか……って、
100万円もするじゃないですか
はっきり言って無駄遣いだと思います」
「俺はお前のランドセル姿が見たい」
「本性を現しましたね」
アキラは傷口を小突かれ、身を捩った。
空が少し赤らむ頃、のぞみは少しデリケートな質問をした。
「……その後、記憶は戻りましたか?
答えにくいのなら無理に答えなくてもいいです」
「それが、あまり……
山口と斎藤から聞いた話によると、俺はほとんど無言だったらしい
元からお喋りな性格ではないから特に気にならなかったそうだ
黙々と魔物を処理する光景が不気味だったとも言っていたが、
とりあえずもう1人の俺は普段通りの俺を演じてくれたようで助かった」
「アキラ先輩は失った記憶を取り戻したいですか?
きっと嫌な思い出ばかりだとは思いますが……」
「ああ、忘れてしまいたいことだらけだろうな
それでも俺は思い出したい
あの時あの場所で自分は何をしていたのか、
何ができなかったのかを……」
「あまり思い詰めないでください
アキラ先輩の責任じゃないんですから……」
「そうだとしても、俺は知らなければならないんだ
もしまた同じような状況に遭遇した場合、
被害を最小限に抑えるにはどう動けばいいのかという方法をな
それが生き残ってしまった自分にできる罪滅ぼしだと思うから」
「だいぶ重症みたいですね……
あ、そうだ
有馬力を治療した闇医者を頼ったらどうです?
べつにその人以外でも構いませんが、
他に精神科出身の先生を知らないんで」
「検討してみる」
そろそろ日も落ちようかという頃合いになり、
2人は冷たい風に曝されて身震いした。
「もう充分に冬の海は堪能しましたし、
このへんで切り上げましょうか」
「そうだな……そうしよう」
と、その時である。
宿へと向かう彼らの前に、ある人物が姿を現したのだ。
「え……アリア?
なんでこんな所に?」
高崎亞里亞。
立花希望の親友であり、
一部の生徒からは間女として認識されている女子である。
アキラとのぞみは誰にも行き先を告げずにここへ来たので、
この場で知り合いと遭遇するのは想定外であった。
「先輩の部屋を物色して、行き先を推理したのよ!
そしたら見事に大当たり!
やっぱり2人はここにいた!」
「アリア……帰りな?」
「ちょっ、旅先で偶然再会した親友に対する第一声がそれ!?
もっとなんかこう、他にあるでしょ!?」
「どこが偶然なんだか……
やってること完全にストーカーじゃん
今後のつき合い方を変えなきゃいけないレベルだよ」
「あはは、深刻に捉えすぎぃ〜
そんなマジになんないでよ
べつにあんたから先輩を奪おうなんて考えてないからさ〜
今まで通り3人で仲良くやっていこうじゃないの」
「他人の部屋を物色するような友人はいらない」
「そんなこと言わずにさあ〜
せっかく自腹切って2人を追ってきたんだし、
もうちょっと優しくしてくれてもよくない?」
「そんなの頼んでない
というかわたしたちも自腹だよ?」
「そうだろうけど、あんたたちにはほら、
協会から受け取った汚い金があるじゃない!
補習のせいで作戦に参加できなかった私には、
財布へのダメージが大きいんだけど!」
「だから何よ……
勝手な行動起こしておいて厚かましい
とにかく邪魔だから帰ってくれる?」
「うわ、辛辣〜
先輩からも何か言ってやってくださいよ」
「アリア、悪いが帰ってくれ
俺たちはこれから宿で大事な用事があるんだ」
「大事な……って、あらあらまあまあ
とうとう一線を越えるおつもりなんですね?」
「そうだ」
「違う」
「それはそうと、私は帰りませんからね!
どうせ今日中に地元へは戻れないだろうし、
もう泊まる場所も押さえてあるんで!
偶然にも先輩たちの隣の宿ですよ!」
「偶然、か……?」
「絶対に違う」
宿に着くなり、のぞみは威嚇した。
いくら親友といえども境界線は存在する。
これからゆっくりと温泉に浸かり、美味い飯を食い、
温かい布団に入ってぐっすり寝る予定だというのに、
それを邪魔されてはたまったもんじゃない。
アリアは食い下がったものの、やがて根負けし、
自分の部屋でおとなしくすることを渋々了承したのだった。
だがそこは間女。
彼女は己の欲望に忠実な生物であった。
「やっぱり私も混〜ぜて♡」
と、嬉々として隣の宿に乗り込むアリアだったが……
「よう、間女
やっぱこっちに来やがったな」
「……へ?」
そこにはなぜか浴衣姿の高音凛々子が、
立て膝座りで蟹鍋を貪っていたのだ。
彼女だけではない。
大広間には関東魔法学園の面々が勢揃いしており、
新鮮な海の幸をふんだんに使った豪勢な料理を
心ゆくまで堪能していたのだった。
呆然と立ち尽くすアリアが横に目を向けると、
アキラとのぞみが苦々しい顔で彼らを見下ろしていた。
2人にとってもこの展開は想定外だったのだろう。
「いや〜、お邪魔しちゃって悪いねあーくん!
おめーらがコソコソ話してるの盗み聞きしてたら、
なんとなくオレも海が見たくなってさ〜!
せっかくだからみんなで行こうぜってなって、
その結果がこれってわけよ!」
「リリコ……みんな……
帰ってくれないか?」
「なんだよつれねえなあ
まあそう怖い顔すんなよ
夜中におめーらの部屋に突入したり、
窓の外から中の様子を覗き見したり、
壁越しに聞き耳立てたりしないから安心しろって」
「全部実行するつもりなんだろ?
本当に迷惑だからやめてほしい」
「おいおい、古いつき合いなんだし、
もっとオレのことを信用しろよなー」
「信用ならしている
お前は何かをやらかす側の人間であると」
「それよりおめーらも空いてるとこ座れよ
早く食わねえと蟹が無くなっちまうぞ」
と、鍋を3つ独占しているリリコに促され、
アキラたちはため息混じりに着席した。
まったく賑やかな夜だった。
2人きりで過ごす予定は狂わされてしまったが、
まあそこまで急がなくてもいいだろう。
アキラは人生の目標を達成したのだ。
聖域ダンジョンの攻略という最初の目標を。
ようやく訪れた休息の時間だ、
これからはもっとのんびりと生きてもいいのである。
──所変わり、とある病院の一室では
魔物の人権を守る会・四天王の城戸紗理奈が
ノートPCを何台も並べて黙々と作業していた。
彼女は先日、過労で倒れて搬送されたばかりであり、
本来は仕事のことなど忘れて安静にすべき身だが、
彼女には休んでなどいられない事情があった。
去年は激動の1年だった。
同じく四天王である“88”の八巻が死亡し、
その後、“90”の渡が逮捕されてしまった。
残された四天王は“77”である彼女と、
正体不明の人物、“00”の2名のみ。
城戸は本業である性風俗産業の管理だけでなく
失った2名が担当していた分野の業務まで請け負い、
キャパシティーを超えた結果、ぶっ倒れたのだ。
八巻が生きていた頃が懐かしい。
彼とは顔を合わせる度にいがみ合っていたが、
決してお互いが憎くてそうしていたわけではない。
どちらも有能な人物だと認め合っていたし、
そこまで年齢が離れていなかったので
価値観に大きな相違は無かったように思える。
健全なライバル関係。
城戸にとって、八巻とはそういう男だったのである。
渡に関しては……まあ、どうでもいい。
あれは典型的な無能の中間管理職だった。
ただ教祖の友人という理由だけで特別待遇を受け、
永らく組織のNo.2の座に君臨していたに過ぎない。
今まで充分に甘い汁を啜って生きてきたのだ、
そのツケが回ってきたというだけの話である。
コンコン、とノックの音がする。
看護師だろうか?
どうせまた安静にするようにと言いに来たのだろう。
それは無理な話だと何度も伝えているのに、
どうも彼らにはそれが理解できないらしい。
今回は怒鳴りつけて追い返してやろう。
城戸は軽く咳払いをしてから「どうぞ」と言った。
……が、部屋に入ってきた人物を一目見て、
城戸は口をパクパクさせてその場に固まったのだ。
2つに割れたへんてこな帽子にブカブカの衣装、
白塗りの顔面には星やハート模様の化粧、
その中心には真っ赤な丸い鼻……ピエロだ。
「ハ〜イ、こんばんは〜♪
お嬢ちゃん、元気にしてるかな〜?
おっと、ここは病院だったネ!
元気じゃないからここにいるんだよネ!
でも大丈夫! 僕が元気にしてあげるヨ!」
城戸はその不審者を拒絶しようとするが、
恐怖に身が竦んだのか、思うように声が出せない。
深夜3時の病院にピエロの存在は異質すぎたのだ。
ピエロは怯える城戸などお構いなしの様子で、
手にした長風船を素早く器用に結んだりして
犬や猫などの動物の形を作り上げてゆく。
城戸は押しつけられたそれを素直に受け取った。
そうしなければ何をされるかわからないからだ。
「早く元気になってくださいネ
ラッキーストライクさん」
城戸は心臓が凍りつくような感覚を味わった。
それと同時にある可能性が脳裏をよぎり、
少しばかりの安心感を得ることができた。
「え、私をコードネームで呼ぶってことは……
あなた、もしかして……ロストナンバーなの?」
ピエロはニコニコ顔のまま、一礼をした。
ロストナンバー……本名は不明。年齢も不明。
奇抜な化粧と服装のせいで全体像を捉えられず、
声がハスキーなため、やはり性別も不明。
個人情報の一切が謎に包まれている人物であるが、
魔人会内部における役割ははっきりしている。
彼……いや、彼女かもしれないが、
とりあえず彼は清掃業者や葬儀屋などの
“片付けの専門家”を取りまとめているのだ。
組織にとって都合の悪い者を消しているという
黒い噂も立っているが、確実な証拠が無いため、
それは単なる憶測の域を出ない。
「それで……私になんの用?
まさか、わざわざお見舞いに来ただなんて言わないでしょうね?」
「え?
なんかおかしいですか?
そのまさかですよ?
あなたが倒れたと聞いて、急いで駆けつけてきたんです
だって僕たちは仲間じゃないですか
仲間が大変な時に放っておくなんてできませんよ」
「ふん、白々しい……
四天王会議に一度も出席しなかったあんたが、
仲間だのなんだのとよく言えたものね
何か別の目的があるんでしょ?
さっさと用件を伝えて終わらせてちょうだい」
「う〜ん、僕って信用無いなぁ
一応会議にはちゃんと参加してたんですけどねぇ
時間が合わない時はリモートになっちゃったり、
雨で出歩きたくない気分の時は人形を送ったり、
僕なりに工夫を凝らしてみたんですけどねぇ」
「そんなもんどうでもいいから、
早く本来の用事を済ませなさい!
私はあんたと違って忙しいのよ!」
「おっと、怒らせちゃいましたか?
これはこれは、とんだ失礼を致しました
では望み通りに用事を済ませてしまいましょう
ついさっき、教祖が死にました
その事実を知るのはごく一部の者だけです
おそらく魔人会はこれでもう終わりでしょうね」
「えっ、教祖様が……死…………ええっ!?」
あまりにも唐突なニュースを知らされ、
城戸は再び口をパクパクさせるのだった。
が、すぐに気を取り直して意見する。
「え、待って
それは冗談じゃ済まされないわよ?
よりによって教祖様をネタにするだなんて、
やっていいことと悪いことが……」
「いえ、ネタとかではなく真実です
私がこの目でしっかりと確かめましたので」
「いや、でも、そんな……
…………
まさかとは思うけど、あんたが始末を……」
「人聞きの悪いことを言わないでください
ただの寿命ですよ
あの人の暮らしぶりはあなたもよくご存じのはず
食いまくり、飲みまくり、遊びまくり……
そんな生活を何十年と続けてきたのですから、
体への負担は相当なものだったでしょう
まあ、あまり気を落とさないでください
誰にでもいつか必ず訪れる最期の日が、
たまたま今日だったというだけの話です」
城戸は頭が真っ白になり、
しばらく何も考えることができなかった。
そんな彼女とは正反対に、ロストナンバーは
再びひょうきんなピエロモードになり、
風船で動物を作っては城戸の周りに並べるのだった。
しばしの沈黙の後、城戸はまだ混乱中であるものの
なんとか建設的な質問を絞り出した。
「これから魔人会は……私はどうなるの?」
「魔人会はまず間違いなく解散するでしょうけど、
すぐにでも別の集金組織が結成されて、
信者の大半はそちらに吸収されるのでしょう
あなたの処遇については断言できませんが、
おそらく新組織のリーダーに抜擢されるかと」
「え、リーダーって……そんなの無理よ!
たった3人分の仕事さえこなせずに倒れたんだし、
この私に教祖様の後釜なんて務まるわけがない!」
「1人が抱えられる仕事量は1人分までですよ
それに、後釜になろうという考えもよろしくない
これから立ち上がるのは新組織なんですから、
前任者のやり方を全部真似る必要はありません
四天王という少数精鋭体制にご不満なら、
十天王でも百天王でも人を増やせばいいんです
仕事量も責任も分散して、気楽にやりましょうよ」
「仕事を分散……」
それは、過労で倒れたばかりの彼女にとっては
これ以上ないほどに魅力的な提案だった。
たしかに人手不足だとは薄々感じていたのだ。
魔人会という組織は権力を一極集中させるため、
運営方針に口出しできるのは教祖と四天王のみで、
それ以外の者は全てただの信者という扱いである。
一応、支部長という役職の者が存在はするものの、
彼らは上下からの情報を伝達するだけの連絡役にすぎない。
その者たちにある程度の権限を与えてみてはどうか。
統制が取れなくなる危険性は捨て切れないが、
少なくとも今よりは確実に仕事がしやすくなるはずだ。
どれだけの信者がついてきてくれるかはわからないが、
とりあえず新組織ではなるべく上下の隔たりを取っ払おう。
それは単に自分の仕事が楽になるというだけでなく、
組織全体の透明性が高まる結果にも繋がるだろう。
以前、ある支部で根拠の無い悪質なデマが流され、
無実の少年がリンチされるという痛ましい事件が起きてしまった。
支部長はその事実を隠蔽しようと必死だったが、
八巻との共同調査により証拠を押さえることができた。
もう二度とあの悲劇を繰り返してはならない。
「もし仮に私が新組織のトップになったとして、
理念とか活動方針とかは私が決めてもいいの?
それとも上の人間には何かしらの計画があるのかしら?」
「あの人たちはお金さえ手に入れば他はどうでもいいでしょうし、
そのへんは好きにして構わないんじゃないですか?」
「それもそうね……」
城戸は口元に手を当て、じっくりと考え込んだ。
そんな彼女をロストナンバーはニコニコと見守り、
沈黙が続くと組織の在り方などについて語り始め、
質問があればすぐさま返答して知識を授けた。
城戸が新組織の方針について真剣に考えるほど、
すっかり言葉巧みに乗せられてその気になればなるほど、
ロストナンバーは愉快でたまらないといった表情になる。
だがそこはピエロ。
城戸とは最初から常に笑顔で接していたため、
彼女がこの微妙な表情の変化に気づくことはなかった。
基本情報
氏名:立花 希望 (たちばな のぞみ)
性別:女
サイズ:B
年齢:16歳 (3月21日生まれ)
身長:128cm
体重:32kg
血液型:A型
アルカナ:魔術師
属性:炎
武器:苦無 (暗器)
武器:手裏剣 (暗器)
武器:吹き矢(短) (暗器)
防具:肉球天国(にゃんこ) (衣装)
アクセサリー:新約魔物図鑑
アクセサリー:こけし
アクセサリー:縞々リボン
アクセサリー:∞ SYSTEM
能力評価 (7段階)
P:3
S:7
T:8
F:4
C:8
登録魔法
・ファイヤーボール