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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
140/150

12月

『秩父は今、冒険者のせいで大変な状況になっているそうですね?

 どうしてそうなってしまったのか、解説をお願いします』


『ええ、まず視聴者の皆さんが知っておくべき前提として、

 冒険者という職業そのものが不必要な存在なんですね

 彼らは市民の味方のように振る舞っていますが、

 実は冒険者こそが諸悪の根源でありまして、

 今回の流出事件も彼ら自身が引き起こしたものだと考えられます

 これまで秩父にダンジョンは存在していなかったのですが、

 それがある日突然現れるなんておかしいとは思いませんか?』


『それはたしかにおかしいですね

 もしや、冒険者がダンジョンを作ったということですか?』


『そうとしか考えられませんね

 彼らは金儲けのために平和な地に魔物の巣をこさえ、

 そこで罪の無い魔物たちが攻撃的な性格になるように調教し、

 タイミングを見計らって一気に解放したんだと思います

 そして彼らはあたかも正義のヒーローのように颯爽と登場し、

 自分たちで作り上げた“敵”を処理して報酬を得ているのでしょうね』


『それってマッチポンプじゃないですか!

 まるで消防士が放火犯だったみたいな話ですよこれは!

 そんな悪逆非道が許されていいのでしょうか!』


『いいえ、よくありませんね

 思い返せば去年に起きた2つの大きな流出事件にしても、

 冒険者が現場に駆けつけるまであまりにも早すぎた感じがしますね

 あらかじめ魔物が流出するのを知っていたとしか思えません』


『つまり、今まで起きた流出事件は全て冒険者が仕組んだものだと……?』


『はい、私はそう思います』



──高崎亞里亞はスマホの電源を落とし、大きく振りかぶった。

その様子を一部始終見守っていた立花希望が小さな身を挺して止めに入る。


「どう、どう

 落ち着いてアリア

 それ学園の所有物だよ

 投げるなら自分のにしな」


「そうだけども!!

 あまりにもムカついて!!

 現場では必死に戦ってる人たちがいるのに!!

 絶対に冒険者のせいなんかじゃないのに!!

 こんな、公共の電波で言われ放題だなんて……!!」


「あのね、何度も言うけどね、

 その番組観るのはもうやめなって

 わたしたちをこき下ろすのが目的なんだし……

 出演してるのは何かの専門家ってわけじゃないし、

 素人の戯言にいちいち反応してたらストレスで頭おかしくなっちゃうよ」


「私は“敵”が何考えてんのか知りたいの!!

 こいつらぶっ潰すための材料が欲しいんだってば!!」


「それは理解できるけど……

 もっと別の所から情報を集めた方がいいんじゃないかな」


「それってどこよ!?」


「さあ? わかんない

 でもそんなニュース風バラエティー番組を観てても、

 わたしたちにとって有益な情報を得られないのは確実だよ」


親友に諭されたアリアは怒りの矛先を見失い、

不貞腐れた表情のままドサッと着席した。

同級生たちは彼女が落ち着いてくれたことに安心し、

教科書やノート、単語帳に目を通して各自勉強を再開する。


「あ〜〜〜、ムシャクシャする!!

 どうしてこう世の中は歪んでるのかしらねえ!!」


尚も怒りが収まらない彼女は机の中からポテチの袋を取り出し、

始業3分前であるこのタイミングでバリバリと貪り始めたのだ。


「ちょっと、アリア!

 これから期末テストだよ!

 最終確認とかしなくていいの!?」


「30秒で食べ切るから大丈夫!」


そう、期末テスト。

この期間は彼女ら2年生だけでなく3年生も学園に帰還しており、

高校生としてこなすべき課題に取り組んでいた。

勉強時間が不充分だったという事実は学園側も汲み取っているので、

出題範囲は2学期前半までと大甘な措置が取られた。

その代償として3学期の中間テストの出題範囲が大幅に増えてしまうが、

それはもうカリキュラムの都合上仕方ないことだと諦めるしかない。


ちなみに秩父の防衛線には日当1万円で雇った野良冒険者300名を配備し、

魔法学園の生徒たちが抜けた穴をギリギリ埋め合わせることができた。

しかしそれは埼玉以外から300名の戦力が消えるということでもあり、

ただでさえ人手不足な地方の負担が増えてしまうのは自明の理だ。

彼らは頼もしい味方ではあるが、あまり長居されても困る。




3年生の教室の窓から連絡役のタカコが勇壮に飛び立ち、

生徒たちはしばし大空を眺めた後、机の上を片付け始めた。

始業まであと1分。リリコは窓際の同級生に声を掛けた。


「タカシ〜、そろそろテスト始まんぞ〜」


「ヒロシだよ」


「手紙にはなんて書いてあったんだ?」


「ん、村は無事だって報告だよ

 それと、村長の怪我の治りは順調だそうだ

 どうもババ様の秘薬が効いたみたいでさ、

 もうヒグマを捻り潰せる程度にまで回復したらしい」


「人間じゃねえな

 あーくんはなんて返事したんだ?」


「いや、特には何も」


「なんだよ、もったいねえな

 せっかく村の支配者になれたんだから、

 気に入らない連中をガンガンこき使ってやりゃいいのに」


「俺の個人的な好き嫌いで余計な指示は出せない

 あの連中は防衛線の維持に貢献してくれているんだ

 変に口出しをすれば現場を引っ掻き回してしまうだろう

 ……まあ今が平常時であれば、

 無駄に疲れるだけの命令を与えていたかもな」


「早くその日が来るといいな

 ……しっかし、あーくんが新村長か〜

 どういう方針で村を運営してくつもりなんだ?

 当然、よそ者歓迎のスタンスだよな?

 都会の文明を持ち込んで近代化を目指すよな?」


「おい、待て……

 俺は村長の座なんかに興味は無いぞ

 あのジジイを倒したのは、そうする必要があったからだ

 もしも新しいリーダーを立てなければならないのであれば、

 石井さんか親父辺りが適任だろうな」


「ババ様を忘れてんぞ」


「いや、あの人は引き受けないだろう

 独裁体制への抑止力として敢えて補佐の立場にいるのだし、

 それに年齢を考えると、あと何年生きられるかわからない」


「そういや、ババ様の正確な年齢っていくつよ?」


「さあな

 それは誰にもわからない」


「謎多き女、だな……」






期末テスト2日目。

昨晩に強めの雨が降った名残りで、

校庭にはいくつかの水溜まりが出来ていた。

あれを喜ぶ生徒はいない。

訓練用に調整された人工のぬかるみよりも、

自然現象が生み出した悪路の方が断然走りづらいからだ。


しかし、その悪路を好む者もあった。

校庭を駆け回る少女はわざと水溜まりのある場所ばかり移動し、

服が泥だらけになるのも構わず自作の歌を口ずさんではしゃいでいた。


「♪みっずたっまり〜

 ♪みっずたっまり〜

 ♪ひっざにみっずがた・ま・る〜

 (セリフ)『膝に爆弾を抱えてるんだ』」


作詞・作曲:アロエ


「ひっでえ歌詞」

「大目に見てあげようよ、子供なんだし」

「うちのお婆ちゃんが悩まされてるやつだ」

「関節水腫だな……研究所にそういう症状の所員がいるのか?」

「それより何しに来たんだろう、あの子」


かつてダンジョンで拾ってきた謎の少女アロエ。

いくら警察が調査しようとも該当する行方不明児童は存在せず、

魔力の波長が魔物に近いという事情により慎重な対応を求められた結果、

国立魔法技術研究所がその身柄を預かっていた。

それが突然学園に姿を現したのだから、皆が関心を示すのも無理はない。

だが生徒たちには期末テストという目下の課題が差し迫っており、

今はそちらに集中するため、少女の件は一旦忘れることにした。




午後になり、大半の生徒は魂が抜けたようにぐったりとしていた。

試験の内容自体は中間テストの時とさほど変わりないのだが、

つい先日まで戦闘モードだったのをいきなり切り替えるのは難しい。

そんな彼らに追い討ちをかけるように昨日のテストの結果が返ってくる。

この時点で2名の3年生が赤点を取ってしまい、冬休みの補習が確定した。


1人はリリコ。

まあ、彼女が赤点を取るのはいつものことなので誰も驚きはしなかったが、

もう1人の脱落者は同級生たちにとって意外な人物であった。


「まさか正堂が転落するとはな……」

「調子悪かったのか?」

「準備期間短かったもんねえ」

「化けの皮が剥がれただけだろ」

「なんにせよ、これで補習組の仲間が増えたね!」


正堂は答案用紙に書かれた2桁の数字を見つめながらプルプルと震えている。

仮にも文武両道の優等生として立ち回ってきた男だ、さぞかし悔しかろう。

秀才のイメージを損なわないように伊達眼鏡まで掛けているというのに、

補習が確定した今となっては、その小道具はもう意味を成さない。


「先生!

 去年のように補習を免除するわけにはいかないんですか!?

 あの時も大変な状況だったじゃあありませんか!

 今回の魔物流出は新宿の時よりも規模が大きいですし、

 現場は僕たちの力をすぐにでも欲しがってると思いますがねえ!」


もっともらしい。実にもっともらしい意見だが、

彼はただ補習を回避したくて必死になっているだけである。


「いや、それがだな

 当初は全員の補習を免除してやる予定だったんだが、

 新たに追加した傭兵が想定以上の働きをしてくれてな

 このままのペースでいけば3ヶ月以内には鎮圧可能という計算だ

 もちろん現場に人が増えれば事態の収拾は早まるだろうが、

 それは赤点を取らなかった者たちに任せておけばいい」


「くそっ、味方が優秀すぎるばかりに……!」


「復習を怠ったせいだろう」


正堂は反論できず、悔しそうな表情のまま席に着いた。




その翌日、新たに3名の脱落者が出る。

センリ、ましろ、ユキだ。

彼らは年季の入った補習組の常連たちである。

いい機会なのでヒロシは常々感じていた疑問を口にした。


「センリは合理的な考え方のできる人間だし、

 魔法の知識が深いから秀才キャラのイメージあったんだけどさ、

 どうして毎回赤点取っちゃうんだ?」


ここぞとばかりに並木も便乗する。


「たしか経営コンサルの勉強してた時期もあったんだよね?

 よくわかんないけど、数字に強くないと務まらない仕事だよね?

 それなのに数学で赤点なんか取っちゃって恥ずかしくないの?」


この2人、補習組から脱却できたことで調子に乗っているのだ。


「おい、お前ら……

 これまで仲間として苦楽を共にしてきたってのに、

 今回は赤点取らなかったからっていい気になりやがって……

 そうやって余裕ぶっこいてると、いつか痛い目見ることになるぜ

 具体的には3学期の期末テストとかな……

 そこで落としたら一発でアウトだってのをよく覚えとけよ」


その予言めいた脅しには内心焦らされるが、

ヒロシと並木は不敵な笑みを崩さず、勝者の余裕を見せつけた。


ともあれ、これで冬休みに自由に動ける生徒が確定した。

そして彼らは誰に命令されるでもなく、

自らの意志で聖域ダンジョンの攻略に力を貸そうと決心していた。






──時が過ぎるのは早いもので、あれよあれよという間に2学期が終了した。


3年生が6名、2年生が4名、計10名の生徒が駐車場に集合し、

荷物を積み終わった者からさっさとバスに乗り込んで暖を取る。

その日の気温はとても低く、朝から雪が降っていた。

埼玉では珍しい気象現象に皆がそわそわする中、

アキラは手の平にぼた雪を乗せ、その溶け方を観察していた。


「積もる可能性は低いとはいえ、悪天候には変わりない

 長引くと厄介だ……早く止んでくれるといいのだが」


「アキラ先輩……

 その発言がフラグにならないといいですね」


「フラグ? またそれか

 以前にも友人たちから同じような指摘をされたが、

 俺の言葉ひとつで運命が定まったりするとはとても思えない

 もしもそんなものが実在するのだとしたら、

 おちおち将来の展望を語ることすらできやしない

 俺はフラグなんてただの迷信だと思っているし、

 これからも遠慮無く発言させてもらうぞ」


「軽い冗談のつもりだったんですが、

 そこまで大真面目に返されるとどうしていいやら」


「のぞみ

 この戦いが終わったらデートしよう」


「うぇっ!?

 不意打ちすぎますって!!

 しかも典型的な死亡フラグの構文!!」


「ああ、すまん

 このまま何もしないうちに卒業するのが嫌で、つい……

 戦いに集中したいならこの話は忘れてもらっても構わない

 もっと落ち着いている時に誘うべきだったな……」


「あ、いえ、べつに断ってるわけじゃないんで気にしないでください

 行きましょう、初デート

 わたしは森と山以外ならどこでもいいですよ」


「森と山以外か……

 それなら海はどうだ?」


「今は雪の降る季節なんですが……

 でもまあ、いいでしょう」


「よし、決まりだな」


フラグを立て終えたアキラは傍目にもわかるレベルでご機嫌になり、

浮かれ気分を利用されて残りメンバーの分まで荷物を積み込まされた。

基本情報

氏名:中野 虎破流 (なかの こはる)

性別:女

サイズ:A

年齢:17歳 (4月11日生まれ)

身長:179cm

体重:58kg

血液型:O型

アルカナ:太陽

属性:炎

武器:ハートワーク (槌)

防具:プリテンダー (盾)

防具:クリスタルエンパイア (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:5

S:4

T:5

F:2

C:4


登録魔法

・ファイヤーボール

・マジックシールド

・アナライズ

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