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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
137/150

11月

甲斐晃が村を平定してからというもの、

状況は少しずつ改善されていった。


長年いがみ合っていた村と里の住民たちは一時休戦し、

魔物という共通の敵を外部へ漏らさないように協力関係を結ぶ。

集落から取り上げた猟銃の返却及び非戦闘員の避難が完了し、

戦闘員の配備を見直して戦力の不足や過剰が発生しないよう調整。


稲葉豊作は崖を修復するついでに人力の昇降機を設置し、

第二防衛拠点から必要な人員を引き上げることが可能になった。

当然その逆も然り、村人を下に送り込むという使い方もできる。

面倒な移動を省略できるので大幅な時間短縮になるのだが、

しばらく宙吊りになるため高所恐怖症の者には耐えられず、

他人に命を預けなければいけないという不安が付き纏う。



聖域北側の激戦区には、新たに300名の冒険者を雇い投入した。

日当5000円+作戦参加中は食費無料。

1ヶ月間無休で15万円。命懸けで戦っているにしては安い報酬だ。

だがそれでも大抵の野良冒険者にとっては破格の高収入であるし、

あまり好待遇にしすぎると全国から志願者が押し寄せてしまい、

ただでさえ人手不足の地方から冒険者がいなくなる恐れがある。


ともかくこの傭兵たちのおかげで北軍は勢い付き、

守るだけで手一杯だった戦線を南下させることに成功、

数日のうちに東軍・西軍との合流を果たせたのだ。

これにより聖域周辺は完全に封鎖状態となり、

麓の町に魔物が流出する恐れはほぼ無くなったとみて間違いない。



内藤訓練官は東軍の総大将として他軍の代表者たちと話し合い、

これから関東魔法学園の生徒をどうするべきか判断を下した。


「今回の緊急事態における我々の役目は終わった

 総員、撤退の準備に取り掛かれ」


「ええっ、帰っちゃうんですか!?」

「森での生活にも慣れてきたのに……」

「ダンジョンのリセットはどうするんですか?」


「それは現場に残る者たちに任せればいい

 まだ魔物が溢れてはいるが、包囲網は築き上げたんだ

 よほどの番狂わせでも起きない限り突破される可能性は無い」


「フラグにしか聞こえないんですがそれは……」


だが総大将の判断は正しい。

今回の任務は流出した魔物の排除と未確認ダンジョンの位置特定であり、

そのどちらも完了したようなものなので、これ以上留まる理由が無いのだ。


ダンジョンの内部調査はまだ実行できる段階ではない。

聖域周辺を封鎖したとはいえ魔物の流出自体は依然続いており、

強引に侵入しようとすれば魔物の波に飲み込まれてしまうだろう。

リセットする必要性は、どちらかといえば無いように思える。

混乱を最小限に抑えられたので魔物の活性化もそれほどではなく、

この流出はいずれ近いうちに止むであろうと確信めいたものがある。


死者0人。

完璧な仕事だ。

生徒たちには誇りを胸に帰還してほしい。

無駄に長引かせれば良くない出来事も起きるだろう。

引き際を間違えてはならない。

今がその時なのだ。






──11月に入り、生徒たちは元の学園生活を取り戻していた。

鉄筋コンクリートの建造物、舗装された道路を行き交う自動車、

退屈な授業、厳しい訓練、もはや生ぬるい手応えの魔物たち……。

普通の高校生が送る青春とは少しかけ離れているが、

彼らにとってはそれが当たり前の日常風景だった。


ニュースをチェックしても、秩父での一件は全くヒットしない。

1ヶ月ほど戦い続けて近隣の町の人々を守り抜いたというのに、

その活躍を知る者はごくわずかしかいないのである。


いいことだ。

その方が都合が良い。


下手に名声をアピールすれば変な奴に目をつけられ、

『冒険者のせいで流出事件が起きた』などと報道されかねない。

大多数の常識人ならばそんなのは事実無根だと判断できるが、

そうでない者たちは捏造された報道を真実だと信じて騒ぎ立てるだろう。

そいつらが嫌いな冒険者や魔法能力者だけを攻撃するのならまだしも、

彼らは頭がおかしいので無関係な一般人にまで被害を及ぼすのだ。


なので、一般人を巻き込まないためにも今回の流出事件、

並びに緊急出動に関しては黙っていた方がいい。

それはわざわざ言葉にするほどのことではないのだが、

中には名声欲しさにベラベラ喋るアホも存在するので要注意だ。


『いやあ〜、実は今、山奥で大規模な戦いをしてるんすよね〜

 なんかすんごい数の魔物が溢れてて、そりゃもう戦争ですよ

 下手したら麓の町なんて一瞬で壊滅するレベルっすね

 まあ、この俺が敵の数ごっそり減らしたんで大丈夫ですけどね

 とりあえず今は野良冒険者の人たちが様子見してる感じっす

 でも、あの人たちに任せてて平気かな〜って心配になりますよ

 ちゃんとした魔法学園で訓練を受けてこなかった底辺の人たちだし、

 やっぱりいざとなったらまた俺の出番かな〜って思ってます』


やられた。


猿軍団に上着を持っていかれた峯岸来夢(らいむ)は、

財布やスマホを諦め切れずに何度も秩父に足を運んでいた。

他の同級生の荷物はテントごと発見されて戻ってきたというのに、

自分の貴重品だけ未回収な現状が我慢ならなかったのである。


そんな折、旅番組の撮影を行なっていたレポーターに声を掛けられ、

調子に乗って公開すべきではない情報をカメラに向かってぶち撒けたのだ。

しかもそんなに目立ちたいのならば本名を名乗ればいいものを、

画面のテロップには“関東魔法学園の有馬君”と映し出されており、

もし視聴者からクレームが来た場合に備えて対策済みだった。




峯岸のやらかしから1週間が過ぎた。

例の旅番組はそれほど視聴率が高いわけではなかったのだが、

突然『戦争』や『壊滅』などの不穏なワードが飛び出れば話は別だ。

視聴者はこの物騒な事件に関心を示し、ただ真実を知りたがった。


今日も学園には大量の問い合わせが殺到し、

職員だけでなく3年生たちもその対応に追われていた。

内容は秩父の安全性に関わる質問が大多数であり、

次点で有馬という生徒の処遇についてだった。


10代半ばの若造が人生の先輩を底辺呼ばわりする絵面は

事情を知らない者から見ても不愉快な感情を抱くのに充分であり、

たちまち映像が拡散されてネットのおもちゃと化したのだ。

その結果、“関東魔法学園の有馬君”は生意気なクソガキの代名詞として

この短期間ですっかり有名人になってしまった。


「あ、いえ、ですから周辺の魔物は既に排除済みでして……」

「戦争が起きたなどという事実はございませんのでご安心ください」

「いや、だからテレビに出てたのは違う生徒なんですよ!」

「私たちは決して野良冒険者の方々を馬鹿になんかしてません!」

「取材は一切お断りします」


ただでさえ1ヶ月分の授業が遅れているというのに、

特に3年生の半数は魔法大学への進学を控えているのに、

たった1人のアホのせいで貴重な勉強時間を奪われてしまった。

そんな彼らを気遣うはずもなく、電話はひっきりなしに掛かってくる。

これが暇人によるいたずら電話ならどれだけよかっただろう。

相手がふざけた人物ならこちらも真面目に対応する必要は無い。


だが残念、問い合わせの多くは秩父の住民からであり、

自分の住んでいる町が壊滅するかもしれないと聞かされれば

彼らが不安になるのもごく当然の反応だった。

それにあの場所は観光名所だ。

近くに危険な魔物の巣があるとなれば客足が遠のいてしまう。

どうにかしてほしいという気持ちはみんな同じなのだ。




事態の鎮静化を図るため、学園長が動いた。

これまでろくに働きもせず椅子にふんぞり返っていただけの学園長が、

他人には根性論を押し付ける癖に自分にはとことん甘い学園長が、

珍しく正しい判断を下したのである。


「峯岸来夢を退学に処す」


ぶっちゃけただの損切りだが、英断には違いない。

彼を切り捨てたところで魔物の流出が止まるわけではないが、

これ以上何かやらかされる前に手放すという選択は間違っていない。


「ついでに有馬(りき)も退学に処す」


そして学園長は学園長だった。

せっかく英断を下したかと思えば、次の瞬間にはこれである。

有馬力は勝手に名前を使われてバッシングを受けている被害者だというのに、

学園長にとってはどちらの生徒も当学園における負債であった。

どちらも学園長の一存で保護されていた生徒たちであるが、

ひとたび不要と判断されればこんなものだ。



有馬はこの処分を受け入れた。

4月の暴走以降、彼は同級生から避けられてきたし、

彼自身も他人を避けて生活していた。

何か用事がある時は七瀬を通すように徹底し、孤独であった。

学園長の決定に不満は無い。むしろ感謝すらしている様子だった。


「リキを退学にすると言うのなら、俺もこの学園を去ります」


名乗り出たのは七瀬圭介。

他の生徒が有馬と距離を置く中、彼だけは以前と変わらずそばにいて、

やれ靴下が裏返しだとか、やれ食べ終えたらすぐに食器を水に浸けろだとか、

まるで口うるさい母親のように文句を言いながら世話を焼いてくれたのだ。


2人を退学させないように訓練官や3年生、一部の2年生たちは抗議したが、

学園長は“関東魔法学園の有馬君”を追い出すことに固執しており、

当の有馬本人が処分を受け入れてしまったので結果は変わらなかった。


去る者追わず。

学園の方針により、将来有望な2名の経歴に傷が付いてしまった。



「ヒロシ先輩、俺……

 あの時は色々と酷いこと言って、すいませんでした!!」


「リキ……

 うん、あの時のお前の態度は本当に酷かったな

 滅茶苦茶ムカついたし、正直ぶん殴ってやろうかと思った」


「うぐっ……!

 そう、ですよね……」


「でもまあ、許すよ

 まさか感情が暴走する能力持ちだったとはなあ

 そのせいで自己嫌悪に陥って苦しんできたんだろ?

 とてもお前を責める気にはなれねえよ

 ……俺もごめんな

 先輩として支えてやるべきだったのに、

 どうすりゃいいのかわからなくて結局何もしてやれなかった」


「や、そんな、全然気にしなくていいですよ!

 ヒロシ先輩には充分お世話になりました!

 もちろん他の先輩方にも感謝してます!」


「ああ、そうだ

 今は忙しいから無理だけど、暇が出来たらまたラーメン奢ってやるよ

 母ちゃんの仕事仲間の自称ラーメン通が一流だと認めてる店でさ、

 試しに食ってみたけど、あれは絶対にお前が好きそうな味だったわ」


「え、マジっすか!?

 是非ご馳走になります!

 いや〜、今から楽しみだなあ!」


「よし、約束な

 とりあえずKがいるから金銭面の管理は心配無いと思うけど、

 いつでも連絡が取れるように余裕で電話代払えるくらいは稼げよな」


「うぃっす!

 一足先に専業冒険者になって現場で揉まれてきます!」


その後、有馬は以前迷惑をかけてしまった者たち全員に謝罪し、

晴れ晴れとした表情で学園を去っていった。


湿っぽい別れにならずに済んでよかった。

彼は些細なきっかけで凶暴化してしまう厄介な能力のせいで

多くの信頼を失ったが、相棒の支えにより人の道を踏み外すことなく、

再び前を向いて進めるまでに自信を取り戻せたのだ。


彼らの行く先には様々な困難が待ち受けているだろう。

しかし、ドン底から這い上がった人間は強い。

きっとあの2人なら大丈夫。

そんな期待感を胸に、去りゆく者たちの背中を見送った。






──翌日。

進道千里はタワーの廊下で目障りな人物を見かけたので声を掛けた。


「峯岸、なんでお前がまだここにいるんだよ

 さっさと荷物まとめて消えろ、邪魔だ」


「え?

 いや、べつに」


「なんだそのゴミみてえな返事は……

 まあいい、今日中に出てけよ

 もし明日も見かけたら、おれの魔法でお前を燃やす

 そんでもって部屋にあるモンは全部焼却炉で燃やす」


「え、ちょ、ちょっと先輩〜!

 そんなおっかないこと言わないでくださいよ〜!

 有馬が退学したんだから、もういいじゃないっすか〜!

 これで“関東魔法学園の有馬君”はいなくなったんだし、

 そのうち俺の退学は取り消されるんじゃないですかね〜?」


「やっぱ今この場で燃やしてやろうか?

 ただでさえ余計な仕事が増えてクソイラついてんのに、

 てめえに都合の良いクソ理論を展開してんじゃねえよ

 お前の退学処分は満場一致の決定事項なんだよ

 本物の有馬と違ってな」


「いや〜、俺は残しといた方がいいっすよ

 確実にあの精神異常者よりはマシな才能の持ち主ですし」


「いらねえよカス

 この精神異常者め」


「そういや先輩って生徒会の副会長でしたよね?

 よくわかんないけど、それなりに発言力があるんでしょ?

 上の連中に、俺の退学を取り消すように伝えといてくださいよ〜」


「伝えるわけねえだろうが

 本当になんなんだお前……」


まさかここまでのクズが下級生の中に紛れていたとは。

全くのノーマークだったので被害を被るまで発見できなかった。

どうしてこの人種は共通して自らの非を認められないのか。

何があっても絶対に謝らない点も谷口や玉置と同じだ。

しかも完全に手遅れの状態でもゴネればなんとかなると思っている。

よく今まで殺されずにのうのうと生きてこれたものだ。


そんな感想を抱いていると、スマホが震えたのでそれに応じる。

発信者は生徒会長であり、すぐに生徒会室まで来てほしいとのことだ。

どうやら内藤訓練官もその場にいるらしく、重要な話だと察しがつく。


「峯岸、お前も来い

 客の目的はお前だからな」


「へ、客?

 いや、面倒なんでパスしまーす

 そういうのは生徒会の仕事なんでしょ?

 仕事をサボっちゃいけませんよねえ」


「うるせえ、来い」


突如、峯岸の全身が魔法の炎によって包み込まれる。

この程度の攻撃はそこそこの魔法防御力があれば痛手にはならないのだが、

まともに訓練をこなしてこなかった彼が防御の仕方を知るはずもなく、

生まれて初めて味わう地獄の苦しみに慟哭し、ズボンを濡らしたのだ。

基本情報

氏名:水原 乃愛 (みずはら のあ)

性別:女

サイズ:E

年齢:17歳 (8月21日生まれ)

身長:151cm

体重:45kg

血液型:AB型

アルカナ:節制

属性:氷

武器:ヘヴンズゲート (杖)

防具:フリージングムーン (盾)

防具:ストーンコールド (衣装)


能力評価 (7段階)

P:3

S:3

T:3

F:4

C:7


登録魔法

・バインド

・フリーズ

・ライジングフォース

・エクリプス

・ヒール

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