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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
130/150

10月

本日の通常授業を終えた3年生たちは、くたびれた顔で帰路に着く。

空には満月が青く輝いており、その珍しい光景を記録しようと

スマホを取り出してカメラを上に向けた。


ブルームーン。

そのまんま、満月が青く見える現象である。

見られる時期によってそれぞれ異なる呼び名が付いており、

今時だと収穫の月(ハーヴェストムーン)、あるいは狩人の月(ハンターズムーン)ということになる。

又、かつては不吉の象徴として恐れられてきたが、

近年では幸運の象徴として扱う者も多くなった。


まあ、少年少女たちにその知識があろうと無かろうと、

彼らはただ自然が生み出した美しさに惹かれて空を見上げたのである。

そんな、宇宙の神秘に魅せられている彼らの正面から何者かが声を掛ける。


「ただいま」


「おかえり」


…………。


「えっ」


聞き覚えのある声。

見下ろすと、そこには銀髪で長身の少年が立っていた。

彼は記憶にある姿よりもだいぶ髪が伸びており、

月下の秋風に揺らめく様は獅子の(たてがみ)を思い起こさせた。


あの男が帰ってきた。


今度はハズレではない。




甲斐晃が関東魔法学園に帰ってきたのだ。




「アキラーーー!!!」


同級生たちが駆け寄り、友の無事を喜び合い、笑い、泣き、

思い思いの言葉を投げ掛けてアキラを祝福する。

だが、その勢いに気圧されたのか当の本人は困惑気味であり、

抱きつこうとする仲間たちを押し返して宥めるように言った。


「みんな……

 色々聞きたいことはあるだろうが、明日にしてほしい

 報告しないといけないし、それに……少し疲れている

 こちらから声を掛けておいて申し訳ないが、

 とりあえず俺が生きているという事実を伝えておきたかったんだ」


仲間たちは緊急で凱旋祝いを催してもいいほどに浮かれていたが、

アキラ本人が疲れていると言うのなら仕方ない。

たしかに彼からは元気を感じられず、どこかよそよそしかった。

元々大勢で騒ぐのが好きな性格ではないのだ、

今は1人になって心を落ち着けたいのだろう。






──訓練棟の警備員が休憩所として利用していた一室。

そこは甲斐晃の寝床として周知されており、

彼が不在だった間に家具が荒らされた形跡は見当たらず、

それどころか数ヶ月前よりも物が増えていた。


物だけではない。

シャワールームで誰かが体を洗っている音がする。

脱衣所に置いてあるのは……高崎亞里亞の下着だ。

彼女がこの部屋に住み着き、手入れを行なっていたのだろう。


彼女だけではない。

台所には見覚えのあるマグカップが水に浸けてあった。

この部屋にはもう1人住んでいる。


アキラは物音を立てないように自室から退出し、

もう1人の住人を探しに出掛けた。




──立花希望(のぞみ)はゆらゆらと水面を漂っていた。

窓の向こうの月が、彼女を孤独な宇宙飛行士にさせる。


あの人はいつ帰ってくるのだろう。

少し前に手紙をくれたが、今も無事だろうか。

帰ってきたらなんと声を掛けよう。

「おかえりなさい」だけでは物足りない。

これだけ待たせたのだ、一発ぶん殴ってもいいだろう。


「帰ってきたらぶっ飛ばす」


つい口走ってしまった自身の言葉に自然と笑みが溢れる。

しかし本気で楽しいとは思っておらず、怒っているわけでもない。

その感情の正体を突き止めようともしたくない。

今はただ無重力感に身を委ねていたい。

そんな時だった。


ドボン!と、何かがプールに落ちた音がしたのだ。

プールサイドには何一つ重量物は置いていなかったので、

物ではなく人が飛び込んだ音と予想される。

おそらく誰かが彼女の日課を邪魔しにやってきたのだろう。


「アリア……?」


いや、違う。

彼女よりも重そうな音だった。

体重60kgの高崎亞里亞よりも、ずっと重い音がしたのだ。

確率的に考えて男性だろう。

ここは女子用のプールであるにも関わらず、だ。


危機感を覚えた彼女は浮かぶのをやめ、

水底に足を着けて音のした方向を注視する。

すると、そこにはずぶ濡れの制服を纏った大男が立っていた。

だが月光に映し出されたその男は彼女にとっての敵ではなく、

この数ヶ月というもの、立花希望を孤独にさせていた張本人であった。



「──アキラ先輩!!!」



のぞみは水深1mのプールで水の抵抗力に耐えながら歩いた。

泳いだ方が早そうだが、この時の彼女は判断力が落ちていたのである。

そしてアキラは右拳を頭に、左拳を胸に配置して相手の動向を窺う。


「ネコの構え……!?

 なんで身を守ってるんですかねえ!?」


「ぶっ飛ばされるのは嫌だから……」


「やっ、さっきのは冗談です!!

 本気にしないでくださいよ!!」


「冗談……か」


警戒を解いたアキラはみぞおち付近を叩かれた。

のぞみは本当は顔を殴りたかったのだろうが、

身長差が70cmもあるとさすがに届かない。

ここはひとつ、彼女のためにしゃがんでやるべきなのだろうか?

……いや、そんなことをしたら余計に機嫌を損ねてしまいそうだ。



「おかえりなさい」



のぞみの腕がアキラの背中に回る。

アキラは彼女の表情を確認したかったが、

視界には頭頂部しか入ってこないのでそれは叶わない。

まあ、ここまで密着しているのだから2発目を貰わずに済むのは確かだ。



「ただいま」



ともあれ、これでようやく実感が湧いてきた。


俺は魔法学園に帰ってこれたのだ、と。






──警備室では2名の警備員がモニターを眺め、

プールで事故が起きないようにと職務を遂行していた。


「室長、あの2人……

 もうかれこれ30分ほど抱き合ってますけど、

 そろそろ引き剥がした方がいいですよね?」


「あれ絶対に入ってるよね」


「入ってません

 そういう事態を未然に防ぐのも我々の役目ですからね

 ……って、なにまた仕事中にビールなんて飲んでるんですか

 そこはせめてノンアルにしておきましょうよ」


「仕事中に飲むお酒が一番美味しいんだなあ、これが

 あんたもたまには羽目を外してみたら?

 アキラ君が帰ってきてめでたい日なんだし、

 上の連中もとやかく言ってこないでしょ……たぶん」


「お断りします

 とにかく引き剥がしてきますね

 続きはカメラの無い所でやるように伝えてきます」


「あああ〜、ダメダメ!!

 せっかくいいとこなんだから!!」


「転職しようかな……」



<ビィー!! ビィー!! ビィー!!>



「……え?」

「は……?」



<ビィー!! ビィー!! ビィー!!>



「ちょっ、これ……」

「嘘でしょ……?」



<ビィー!! ビィー!! ビィー!!>



「また緊急事態かよ!?」

「タイミングが最悪すぎる!!」



怒りをあらわにしたのは警備員たちだけではない。

モニターに映し出された若い男女も突然の警報に動揺しており、

音声までは拾えていないが、のぞみが何か叫んでいる姿を捉えていた。

だが彼らもプロライセンスを持つ正式な冒険者であり、

すぐさま気持ちを切り替えてタワーへ向かう準備に取り掛かる。


「……って、あれ?

 アキラ君がプールで突っ立ったまま動きませんね」


「あら、ホント」


「まあ、数ヶ月もの長期任務明けで疲れてるでしょうし、

 今回はお休みしても誰も文句は言いませんよね」


「う〜ん、そういう理由じゃないと思うけどなァ」


「と言いますと?」


「勃起が収まるのを待ってるのよ」


「あー」




タワーに集合した面々はアキラの姿を見てざわめくが、

塩素の匂いで何かを察し、ずぶ濡れの理由を追及するのはやめた。

それよりも今は緊急事態の内容が気になる。

今回の警報は大音量だったので、でかいヤマであることは確実だ。


「埼玉と群馬の県境で魔物の襲撃があったんだが、

 対処した冒険者たちの報告によると

 魔物は秩父方面からやってきたとのことだ

 その地域にダンジョンが存在するという記録は無いが、

 魔物が出現した以上は放置できない

 秩父は群馬、長野、山梨、東京に隣接している土地で、

 もし大規模な魔物の流出が発生すれば甚大な被害がもたらされるだろう

 よって今回の任務は外をうろついてる魔物の排除、

 未確認ダンジョンの位置特定及び内部調査、

 そしてもし必要とあらばリセットも行う!」


「おお、やること多いな……」

「秩父ってどこだっけ?」

「埼玉の左の方だよ」


「尚、今回の活動範囲は広域につき、

 よその魔法学園との合同任務になる

 岩手の北日本魔法学園は北の群馬方面から、

 大阪の日本魔法学園は西の長野方面から、

 愛知の中央魔法学園は南の山梨方面から、

 そして県内の我々は東側から進軍する手筈だ」


「もう1つあったよね?」

「東京魔法学園だろ」

「千葉にある東京魔法学園ね」


「残念ながら東京からの援軍は無い

 唯一の取り柄である生徒数の多さを活かせる絶好の機会なんだがな

 まあ、来ないものに期待してもしょうがない

 前述した4校の生徒と近隣の冒険者たちでなんとかするぞ」


「先生、よろしいでしょうか?」


その発言の主に注目が集まる。

ああ、そういえば彼の出身地は秩父だ。

今回の現場は甲斐晃という人型の猛獣が生み出された場所なのだ。


「あの地域には魔物以外にも危険な存在が生息しています

 不用意に足を踏み入れれば命を落とす者も出てくるでしょう

 なので危険生物の縄張りには決して近づかないように、と

 協力者たちに周知徹底をお願いしたいのですが」


「危険生物か……

 わかった、そうしよう

 ではどんな生物がいるのか、その縄張りはどこにあるのか、

 お前の知っている範囲でいいから教えてくれ」


「ええ、ではまず最も危険な生物からいきましょう

 村人たちはよそ者を嫌っており、物陰から猟銃を発砲してきます

 それから電気柵や地雷があるので絶対に村へ近づいてはいけません

 一口に村と言っても大まかに3つの区画に分かれていまして、

 東側にあるのがその排他的で攻撃性の強い人間が住まう“村”、

 西側には“里”、俺が生まれ育ったのは中間地点の“集落”です

 厳密に言えばどれも集落ですが……まあ、細かいことはいいでしょう

 とにかく村周辺、特に東の区域は要注意だと伝えていただきたい」


「にわかには信じ難い話だが……

 お前が言うなら本当なんだろうな

 他に注意すべき生物はいるのか?」


「他ですか?

 この時期は熊や毒蛇、ヒクイドリなどが出没しますが、

 人間に比べればどれも大したことありませんよ」


「そうか

 とりあえず全部教えてくれ」




打ち合わせが終わり、生徒たちは各自装備を整えて駐車場に集合する。

緊急事態ではあるが今回の移動にはヘリを使わず、

全員を一括で現地まで運べるように新しい乗り物を利用することにしたのだ。


大型バス。

補助席をフル活用すれば60人以上が乗れるだけでなく、

雨風を凌げる休憩所としても使える優れ物だ。

今までは職員の自家用車だけでもどうにかなっていたが、

今年は30人以上も進級した影響もあり、思い切って購入したのである。


生徒たちはこれから戦いに赴くのだと理解していたが、

このような乗り物を目の当たりにしてしまうと遠足を連想してしまい、

多くの者が内心ワクワクしていたのは言うまでもない。


が、ここに全く遊び心を持たない男が1人。


「なあ、アキラ

 沖縄から帰ってきたばっかなんだし、

 今回は休んだ方がいいんじゃないか?

 さっき自分で『疲れてる』って言ってただろ」


「状況が変わった

 秩父の未確認ダンジョンということは、

 “聖域ダンジョン”である可能性が非常に高い

 俺1人でどれだけ探しても見つからなかったが、

 これでようやく発見できるかもしれないんだ

 もし発見できたとして、村人の攻撃から身を守るために

 拠点から目的地までの安全なルートを構築しないといけない

 それができるのは今のところ俺だけだ」


「本当に危険な連中なんだな、村人……」


「全員ではないけどな

 集落の住民は善良な人々で信用できる

 あの場所は、村や里に居場所を失った者が生き残れるように

 ババ様が長い年月をかけて築き上げた最後の砦なんだ」


「おっ、ババ様とはこれまた懐かしい名前が出てきたな

 たしか村の御意見番で、秘薬作りの名人とかだったよな?」


「ああ、よく覚えていたな

 実質あの人が地域のまとめ役みたいなものだから、

 彼女が『よそ者を攻撃するな』と命令すれば、

 大半の村人はそれに従うはずだ

 100%安全になるわけではないが、だいぶマシにはなる

 だからまず俺はババ様との接触を最優先に単独行動させてもらう」


「おいおい、単独行動って……

 俺たちもついてくぜ!

 仲間なんだから、もっと頼ってくれよな!」


「いや、ついてこれないだろう

 誰も登山用の靴を履いてないのを見ると期待できない

 (ふもと)の町で装備を整えたとしても、初心者には厳しい道のりになる

 同行を申し出てくれたのはありがたいが、

 未経験者をフォローしながらだと余計な時間がかかってしまう」


「お、おう……

 そっか、現場は山だったな……」


こうして彼らは決戦の地、秩父を目指して出発したのだ。

基本情報

氏名:高崎 亞里亞 (たかさき ありあ)

性別:女

サイズ:F

年齢:16歳 (2月22日生まれ)

身長:155cm

体重:60kg

血液型:A型

アルカナ:恋人

属性:炎

武器:鎖鎌 (暗器)

武器:手裏剣 (暗器)

武器:吹き矢(長) (暗器)

防具:肉球天国(わんこ) (衣装)

アクセサリー:新約魔物図鑑

アクセサリー:こけし

アクセサリー:水玉リボン


能力評価 (7段階)

P:5

S:6

T:4

F:4

C:6


登録魔法

・ファイヤーストーム

・リベリオン

・マジックシールド

・バインド

・エクリプス

・ディーツァウバーフレーテ

・ディスペル

・ソウルゲイン

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