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進め!魔法学園  作者: 木こる
1年目
13/150

6月上旬

俺とリリコは指導室に呼び出された。


「んだよ、オレ悪りいことなんて何もしてねーぞ……今んとこは」


「心配するな

 この部屋はそういう場所じゃない」


社会の闇を見させられる部屋だ。



「甲斐、対人戦に関する頼みを覚えているか?」


「ええ、八百長の件ですね

 リリコが呼ばれたということはつまり、彼女を勝たせたいと」


「相変わらず話が早くて助かる

 高音(たかね)は進道との対戦で敗北してしまったんだ

 これで通算2敗……お前の出番というわけだ」


相手が進道君なら仕方ない。

彼は現状1年生で最強どころか、上級生をも凌ぐ魔法使いだと噂されている。

魔法を習得していないリリコが遠距離戦のスペシャリストに敵うはずがない。

いや、もし1つ2つ魔法が使えたとしても限りなく勝ち目は薄いだろう。

進道君はそれほどまでの“魔法使い”なのだ。


「え、ちょ、ちょっと待てよ!

 なんだよ八百長って……

 あーくん、そんなことやらされてんのか!?」


「詳しくはあとで説明するが、俺は試合に出ても必ず負ける仕様なんだ

 その負けを有効活用しようというのが先生方のお考えだ

 お前には是非、トーナメントに出場してもらいたいらしい

 だから出場条件である“個人戦での1勝”をここで確保しておきたいんだ」


「え〜……

 それってなんかズルくね?

 他の生徒はみんな真面目にやってんのにさ〜……」


高音(たかね)、それは違うぞ

 もう既に生徒同士の八百長は横行している

 進級ノルマの3戦をさっさと終わらせたい連中の間でな

 その件について俺たちは一切介入しない

 当魔法学園において個人戦での八百長は合法だ」


校内暴力OK。八百長もOK。

改めてすごい環境だと思う。


「う〜ん、合法なら……まぁいっか

 んじゃあさ、あーくんは見返りに何貰ってんの?」


「見返り……?

 いや、金品は受け取っていない

 強いて言えば無駄な時間を過ごさなくて済む、というのが見返りだ」


「あーくんは昔っから変わってねえなぁ

 オレだったら目一杯ふんだくってやるけどな」


「お前も昔から変わってないな」


「ん? お前ら知り合いだったのか?

 ……いや、余計な詮索はよそう

 それで高音(たかね)、甲斐と試合を組む気はあるのか?

 ちなみにトーナメントの優勝賞金は100万円だ」


「やります」


その後すぐに対戦が行われ、リリコの個人戦績は3戦1勝2敗となった。




午後の訓練にて、新しいメニューが追加された。

担当するのは2組の花園(はなぞの)美咲(みさき)先生で、訓練官の紅一点だ。


「イェーイ!

 プール開きーっ!」


俺たちは訓練棟の温水プール室に集められていた。

これから行われるのは“綱渡り”と“水中走行”らしい。

ただ生徒たちは訓練内容よりも気になることがあり、困惑している。

はしゃいでいるのは花園先生ただ1人だけである。


「先生!

 女子の姿が見えないんですが!」


「なによ失礼ね〜

 女子ならここにいるじゃない!」


そう言って彼女は白いTシャツを脱ぎ捨て、

きわどい水着姿を思春期の男子たちに見せつけた。


「花園先生がここにいるということは、

 他の訓練官はもう男しかいませんよね?

 女子が別の場所で同じ訓練を受けているとしたら……

 それって大問題じゃないですかねえ!?」


「えぇ、うっそ、完全スルー!? 既読無視!?

 私結構イケてる方だと思うんだけど!?

 40過ぎてもプロボーション崩れてないし!!」


男たちは沈黙した。


「はあ、もういいわ……今年もダメだったか……

 ……えっとね、ピチピチギャルたちは上の階のプールにいるわ

 そんで担当の訓練官はお察しの通り、男よ」


思春期の男子たちがざわつく。

彼らは一様に不公平感を抱いていた。


「担当は……みんな大好き“クマちゃん先生”こと、津田先生よ」


「あ、なんだ津田先生か〜」

「それならまあ許せるかなぁ」

「残りの2人じゃなくてよかった〜」


一同は安堵の表情になる。

津田先生はとても陽気な人柄で、男女問わず人気があったのだ。


「ちなみにぃ〜、これはここだけの話なんだけどぉ〜

 あの人の奥さん……元教え子なのよね

 しかも卒業直後に結婚したから……あれは絶対にやってたわね」


「おい嘘だろエロ熊あああ!!」

「よくも裏切りやがったなあああ!!」

「そんな奴に女子の訓練任せちゃだめだろおおお!!」


その後、女子の訓練は花園先生が担当することになった。




訓練終了後に自室で柔軟運動を行なっていると、

佐々木先輩から電話が掛かってきた。


「もしもし、甲斐です

 どうかしましたか?」


『ああ、疲れているところ悪いんだが、

 ダンジョンの前まで来てくれるか?

 今、調査隊の方々がお見えになっていてな……

 先日のバルログ討伐の件で確認したいことがあるそうだ』


「はい、すぐに向かいます」



現場には3人のプロ冒険者が待機しており、

その中で一番大柄な男性が自己紹介してくれた。


「やあ、君がアキラ君だね

 俺は調査隊の北澤だ よろしく

 調査隊ってのは、まあ文字通りいろんな調査をしてるんだ

 新しく発見されたダンジョンの地形や出現する魔物の種類、

 最寄駅からの距離、現地の物価、治安の良し悪し……

 それから、疑わしい討伐報告の真偽を確かめるのも俺たちの仕事だ」


疑わしい討伐報告……まあ、そうだろう。

自分でもまだ少し信じられない部分がある。

あの最強の母に傷を負わせた相手に、

俺は無傷で勝利してしまったのだから。


「君が単独で撃破したというバルログだけど……

 本来は防御役(タンク)支援役(サポート)攻撃役(アタッカー)の役割分担が

 しっかりと機能してようやく攻略可能なレベルの強敵なんだ

 それを入学したての新人が1人で倒してしまったというのだから、

 疑いの目が向けられるのも仕方ないと理解してほしい」


「あ、いえ

 当然の反応だと思います

 自分自身、まだ実感が無いもので……」


「そう言ってもらえて助かるよ

 嘘つきはここでギャーギャーと反論してくるからね

 ……それで、とりあえず君の実力を確認させてほしい

 もう6月に入ってしまったからバルログはいないと思うけど、

 少しダンジョンをぶらつきながら魔物を退治してくれないか?」


「ええ、そういうことでしたら」


プロ冒険者との同行……これは色々と学べそうだ。




北澤さん以外の2人は名乗ることなく、ただ黙々と仕事をこなしている。

1人はビデオカメラをこちらに向け、もう1人は歩きながらメモを取っていた。


「お、早速スライムがいるね

 それじゃお手並み拝見といきますか」


「北澤さん

 申し訳ありませんが、スライムは後回しにしてもよろしいでしょうか?

 誠に勝手ながら、極力この身を汚さないように処理したく存じて──」


「おいおい、待ってくれ!

 君は普段からそんな喋り方なのか?

 そう変に固くならなくても大丈夫だぞ?

 むしろリラックスしてもらわないと本当の実力を測れないよ

 俺たちはただ、冒険者の先輩ってだけさ

 それにここの卒業生でもある

 同じ学園の先輩後輩同士、もっと気楽にやろうぜ!」


注意されてしまった。


「はい、それでは……

 俺はスライムを倒す時、いつも馬人間を使っています」


「ん、馬人間を使う……?」


「ええ、スライムを近接攻撃で倒した場合、

 どうやっても液体が飛び散って服が汚れてしまいますからね

 そこで、馬人間をぶん投げて倒すようにしているんです

 これなら武器を装備せずに遠距離攻撃が可能ですし、

 2匹の魔物を同時に倒せて一石二鳥なんです」


「ふむ……理論的には合ってる思うけど、

 馬人間の重さは最低でも100kg以上あるぞ?

 君の体格なら可能なのかもしれないが……

 これは是非、この目で確かめてみないとな」



そして、馬人間はすぐに見つかった。

普段ならもっと探し回らないといけないのに、やけに都合が良い。


「そういえばさっき、『6月だからバルログはいない』

 というようなことを仰っていましたよね?

 時期によって魔物の発生頻度が変わってくるんですか?」


「ああ、その通りだよ

 発生頻度だけでなく、季節ごとに配置変更もあるよ

 3層の魔物が1層に来たり、逆に1層から5層にお引っ越し……とかね

 この学園ダンジョンはそういう配置変更が緩やかな方さ」


「バルログは春の魔物ということですか?」


「うん、だから進級試験に使われてるんだ

 適正パーティーでの討伐難易度がちょうどいいし、

 2月後半から3月終わり頃までが一番湧く時期だからね」


奴と初めて遭遇したのは1月だ。

まあ少しズレただけかもしれないが、その件はあとで確認しよう。

今は目の前に迫り来る馬人間を捕獲するのが優先だ。






「……フッ!」


俺は馬人間をスライムに向かって投げつけた。

標的は潰れたジャムパンのようになり、中身の液体が周囲に飛び散る。

馬人間は衝撃を受けた影響で左右に分離してのたうち回り、

しばらく地上で溺れる魚が如く暴れた後にぐったりと息絶えた。


「うおぉ……本当にやりやがった……

 しかも片手であんなに軽々と投げちまうんだもんなあ……

 君がオリンピックに出たら日本は金メダルだらけだよ」


「恐縮です

 入学前にも先生方から同じような評価を頂きましたが、

 俺はそういった競技には興味ありません

 冒険者以外の職業に就こうと考えたことは一度も無いですね」


「へえ、それは随分と珍しいパターンだな

 普通は『自分には戦う力があるから』って理由で選ぶんだけどなぁ

 最初から『冒険者になりたい』って考えてるのは相当だよ

 自分で言うのもあれだけど、冒険者なんて日本じゃ底辺の職業だからね

 危険な現場で働いてるにも関わらず給料は安定しないし、

 一部の頭おかしい連中からは犯罪者呼ばわりされるし……

 ……もしよければ、君が冒険者になりたい理由を聞いてもいいかな?」


理由、か……。


「『聖域ダンジョンを攻略するため』というのが理由です

 俺の故郷には“聖域”と呼ばれる立ち入り禁止の領域がありまして、

 おそらくそこに未発見のダンジョンが存在しているはずなんです

 10年ほど前に冒険者の方々の協力を得ることができたのですが、

 同郷の者たちからの嫌がらせにより調査は断念してしまいました

 俺も村では嫌われていますが、それでもよそ者よりは扱いがマシです

 これは傲慢な考えかもしれませんが……俺がやるしかないんです」


「村……よそ者……聖域……」


ああ、しまった。

少し情報量が多かったかもしれない。


「アキラ君、その話……もっと詳しく聞きたい

 よそ者を嫌う村ということは、かなりの僻地(へきち)なんだろう?

 そこに冒険の拠点を築き上げれば、とんでもない大金が動くのは確実だ

 未発見のダンジョンは冒険者にとって一攫千金のビッグチャンスなんだ」


「やめておいた方がいいと思います

 あの時の冒険者たちも同じ考えでしたが、

 わずか3日で都会に帰ってしまいました

 生半可な覚悟で向かえば必ず後悔するでしょう

 下手したら死にますよ

 あの場所に善良な人間は一握りしかいません

 村人の多くは、よそ者を24時間監視して寝込みに放火するような連中です

 それを踏まえた上で行きたいと言うのなら止めはしませんが……」


北澤さんは熟考の末、とりあえず場所だけでも教えてほしいと願い出た。

これは現地に向かう気なのだろう。

陰湿な村人たちに殺されなければいいが……。




「──さて、君のパワーについては充分に確認できた

 上がどう判断するかはまだわからないけど、俺はもう疑ってないよ

 アキラ君なら拳だけでバルログを倒すことは可能だ、とね」


そう言われ、なんだか嬉しくなる。

“上”という面識の無い人たちからの評価ではなく、

目の前に実在する人物が俺の能力を認めてくれているのだ。

それも、プロの冒険者からのお墨付きとあらば尚更だ。これは誇らしい。


「ただ、いくらアキラ君の力が強いからといって

 それだけであの強敵相手に防具無しで無傷ってのはちょっとね……

 そこで、今度は君の反応速度と運動能力を確認させてもらうよ

 ちょっと荒っぽいやり方になるけど……いいかな?」


「ええ、よろしくお願いします」


「……俺はこれから10分間、君を殴り続ける

 アキラ君は避けるなり防ぐなりして生き延びてくれ」


つまり、北澤さんは俺の防御能力を確かめたいのだろう。

彼がファイティングポーズを取ったので、俺も同じように身構える。


「“スピードスター”の異名を持つ、この俺の動きについてこれるかな……?」




──10分後。


「ついてきた……」


北澤さんは10分間、空振りし続けた。

それはそれですごい体力の持ち主だと思う。

格闘技ファンの進道君から聞いた話によると、

プロボクサーは試合中、3分毎に1分間のインターバルを挟むらしい。

そして、全力の空振りは何よりもスタミナを消耗するそうだ。

それを休憩無しで攻撃し続けたのだから、やはり現役の冒険者はすごい。


「パワー、スピード共に高水準……

 魔物に対する知識もあるし、戦術眼にも不足無し……

 これはもう疑いの余地は無いね

 “甲斐晃は単独でバルログ討伐を成し遂げた”……俺はそう判断する

 まったく、とんでもない後輩と出会っちまったな

 これは調査に協力してくれた礼として受け取ってくれ」


そう言い、北澤さんは財布から数枚の1万円札を取り出した。


「いえ、受け取れませんよ

 俺は自分の能力が正当に評価されただけで充分です」


「いやいや、そうもいかないんだ……

 バルログ討伐時に同席した宮本って生徒から、

 『今度焼肉奢ってくださいよ〜』って言われちゃったからね……

 俺は、後輩からの頼みを断るのは先輩の恥だと思ってるんだ

 だから俺の面子を保つためにも是非、この金は受け取ってほしい」


宮本先輩……抜け目がない人だ。

とりあえずこの金は討伐時のメンバーで使い切ろう。

基本情報

氏名:栗林 努 (くりばやし つとむ)

性別:男

年齢:15歳 (1月18日生まれ)

身長:175cm

体重:45kg

血液型:A型

アルカナ:審判

属性:炎

武器:レンタルソード (片手剣)

防具:レンタルシールド (盾)


能力評価 (7段階)

P:3

S:5

T:5

F:4

C:3

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