表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
129/150

闇に生きる者たち

“秋の夜長が終わらない!? 〜眠れぬ夜の吸血姫〜”


多種多様な闇の眷属が共存共栄するドラクラント王国──。

そこに住まう者たちは夜の間にしか活動できず、太陽を憎んでいた。

だが数千年に一度だけ訪れると云われる天体現象が起きたおかげで、

彼らにとっての邪魔者……あの憎き太陽が輝きを失ったのだ。

やった!ついに我々の時代が来た!

闇に生きる者たちは狂喜乱舞し、国中の至る所で盛大な宴が催された。


数日後、彼らは睡眠不足に悩まされていた。

夜にしか動けない彼らは、日中にしか眠れないのである。

あれだけ憎んでいた太陽が今では恋しい。

不眠の影響で奇行に走る者も現れ始めている。

このままではいずれ全ての国民がおかしくなってしまうだろう。

ドラクラントの地に、かつてない危機が迫っていた……。


さあ、冒険者たちよ!

その手で太陽の輝きを取り戻し、彼らに安らぎの時間を取り戻すのだ!


「……ってのが今月のイベント概要だね

 今年はやたらシナリオに気合い入ってるというか、

 どんどん世界が広がっていってる感じがするなあ

 なんだろう、開発に使えるお金が増えたのかな?」


「早苗!

 そういう生々しい話はやめよう!

 それよりどっちがどっちを担当する?」


「ん〜、そうねえ……

 前回は私がコンセプト通りの使い方をして楽しませてもらったし、

 今回はユキにその機会を与えて進ぜよう」


「ハハ〜、ありがたき幸せ」


担当……それはゲーム内で新しい要素が追加された際、

早苗とユキは有限の時間を無駄にしないためにも

二手に分かれて検証作業を行うようにしているのだ。

つまり、今回も彼女らがドップリとハマっているネトゲに

目玉となる新要素が実装されたということだ。


吸血鬼(ヴァンパイア)


今回は職業(クラス)の追加ではなく、新しい種族の実装だった。

これがまたプレイヤーたちに新鮮な刺激を与え、

ゲーマーではない層にも()()()()がウケて話題となる。


まあ、単純にキャラクターデザインが良かったのである。

キャラ作成時の基本モデルはオーソドックスなドラキュラ風、

フリフリのゴスロリドレス、厨二病全開の包帯ファッションなど、

それだけでも多くのファンを獲得したのだが、

なんといってもイベントNPCのエリザ姫が大衆の心を鷲掴みにし、

後に大量のエロ同人誌が刷られることになる。




「さて、吸血鬼は基本的に魔法寄りのバランス型で、

 ゲーム内時間の夜だけ全ステータスアップするみたいだね

 逆に日中は全ステータスダウンというポンコツっぷり……

 プレイ時間をきっちり計画しとかないと駄目なやつだわこれ」


「早苗も吸血鬼みたいな生活してるから太陽に弱そう」


「え〜? そんなことないよ〜

 ここ港区で一番高いマンションの最上階よ?

 つまり太陽に最も近い場所で生活してるんだし、

 日光なんかでこの私がやられるわけないでしょ」


「カーテン開けるね」


「ギャアアアア!!

 溶けるううう!!」


「ところで検証してほしい職業とかある?

 私は夜間ボーナスの計算式が加算なのか乗算なのか気になるから、

 まずは暗殺者(アサシン)で試そうと思ってるけど」


「ユキは本当に暗殺者が好きねえ

 もしそれで大当たり引いたらコツバメ作り直す?」


「いや、それは絶対に無い

 妖精(フェアリー)は見た目も性能も虫っぽいから良いんだよ……

 機能美ってやつでさ、余計なオプションが一切付いてないんだよね

 小学生の時、教室にスズメバチが入ってきて騒ぎになったんだけど、

 私は生きる芸術を目の当たりにして(いた)く感動したもんだよ

 あのカッコいいフォルムもそうだけど、ロボット感というか、

 地球外生命体を連想させる何かが昆虫にはある

 ムカデやヤスデとかの多足類は嫌われがちだけど、

 あの数学的な美しさを理解できないのは人生損してると思うよ」


「ゲームの話に戻ろうか

 私の予想では夜間だけじゃなくて影状態にもボーナスつきそうだから、

 影騎士(シャドウナイト)と忍者も検証しといた方がいいと思う

 まあ、影のマント持ってるからどの職業でも影状態になれるけどね」


「OK、あとで試してみる

 私から早苗にリクエストしたい検証項目は特に無い、かな」


「検証する前から結果が見えてるからねえ

 吸血鬼の種族固有スキル……“手のひらを太陽に”

 日中のステダウンが減少する代わりに夜間のステアップも減少……

 弱点を克服できる代わりに強みも消える微妙なパッシブだわね

 常に安定した性能を求めたい人向けなんだろうけど、

 それなら素直に最初から他の種族を選べばいいわけで……

 まあ、見た目を重視してプレイする層には嬉しいのかもね」


と、これが彼女たちの見解だった。

だが日の目を見たのはその微妙扱いされていた方であり、

前回に引き続き、またしても早苗が当たりを引いてしまったのだ。

まだイベントストーリーを読み進めていない彼女たちは、

このゲームにおける吸血鬼の扱いがどういうものか知らなかったのである。




エリザ姫。


今回のイベントにおける中心人物であり、

プレイヤーを目的地へと導く案内役を担うNPCだ。


彼女の人気の秘訣は、まず見た目にある。

金髪縦ロールに自信たっぷりのツリ目、

色鮮やかな高級ドレスに身を包んでおり、

小道具の扇子を手放さないその出立ちは

ギャルゲー全盛期における“わがままお嬢様”や“ツンデレ”、

近代的な見方をすれば“悪役令嬢”に属する類型だろう。


だが、それだけで天下は取れない。

エリザ姫はノブレスオブリージュの精神の持ち主なのだ。

彼女は性格がきつそうな外見に反して生意気な台詞を一切口にせず、

ただ国民を救いたい一心で困難に立ち向かう熱血キャラだった。

そのギャップがなんともたまらないのである。

エリザ姫が主役となるエロ同人誌においては、

そのキャラ付けがきちんとなされているか否かで

作者が原作エアプかどうかを確かめる試金石となる。


そして何より、エリザ姫のポンコツっぷりである。

どれだけ高貴な精神の持ち主だろうが、彼女はものすごく弱いのだ。

敵に向かって威勢の良い啖呵を切った数秒後にやられるその姿は

“姫騎士”感があり、同時に“即落ち”の属性も兼ね備えている。


シナリオの終盤で正気を失った国民たちが大暴れする中、

持ち前のド根性で最後まで正気を保っていられた彼女は

完全に太陽を克服して王国を救うことに成功するが、

反動で“吸血鬼なのに夜にしか眠れない体質”になってしまう。


その本末転倒なオチも含めてエリザ姫というキャラクターであり、

彼女が今年のベスト美少女アワードに輝いた要因なのである。




……と、これが前提知識なのだが、エリザ姫云々に関しては

“人気のゲームキャラがいる”とだけ覚えておけばいいだろう。

プレイヤーたちはその人気キャラを模倣したアバターを作成し、

いわゆる原作再現プレイを楽しむ者が後を絶たない。

周囲を見渡せばどこもかしこもドレス姿の吸血鬼だらけで、

“エルザ”だの“エリーゼ”だの、似たような名前ばかりで混乱する。

それだけ彼女が愛されているという証拠だろう。


原作でエリザ姫が行き着いた“昼夜逆転型”は

『夜間は超弱いが日中は超強い』という非常に尖った性能であり、

種族固有スキルを全く振っていない“夜型”のステータス補正よりも

1.5倍ほどの大きな開きがある。

要するに、この吸血鬼という種族は昼間にこそ本領を発揮するのだ。


「夜が苦手な吸血鬼とか……そうきたか

 夜間ボーナスを活かすなら当然夜型のままでいいけど、

 “日中ボーナス”みたいの持ってる職業ってあったっけ?」


「んーと……

 薬草師(ハーバリスト)のパッシブで“太陽の恵み”があるけど、

 生産効率を高めるだけのスキルだから期待はできないなぁ

 まあ一応検証はしてみるけどね

 とりあえず夜型も昼型も時間帯限定ではあるけれど、

 森精(エルフ)以上の魔法アタッカーになれるのは確実ですな」


「それにしても原作再現ねえ

 私はアニメとかゲームに詳しくないからよくわかんないけど、

 早苗はそういうのやってみたいと思う?」


「私もそこまでガッツリオタクってわけじゃないよ

 話題作のゲームならとりあえず本編クリアまではプレイしてみるけど、

 アイテムコンプリートとかのやりこみまではしないからね

 ……でも、()()()()()はちょっと再現してみたいかも」


「ほほう?

 たぶん知らないだろうけど、誰?」


「アキラ君」


「んんっ!?

 それはアニメかなんかのキャラ!?

 それとも()()()()()!?」


「うん、()()()()()

 己の身一つで強敵を屠る、小細工無しのストロングスタイル……

 あんな現実離れした人はフィクションの登場人物みたいなもんでしょ

 こないだ実装された格闘家(ファイター)のコンボレシピも完成しつつあるし、

 ここらで本腰入れてキャラクリしてみるのも面白いんじゃないかと」


「…………」


「……やっ、べつに深い意味は無いからね?

 恋愛的な未練とか全然無いから安心して!

 あの人ロリコンだし、対象外だから!

 あくまで性能!

 ゲームキャラとしての性能で選んだだけだから!」


「本当かなあ……

 実はまだ心のどこかでワンチャンあるかもとか思ってるんじゃないの?

 全く相手にされないまま、ぽっと出の後輩に全部持っていかれた癖に……」


「いや、ホントホント!

 決して現実(リアル)でポシャった恋愛をゲーム内で成就させたいとか、

 そんな闇の深い考えの下に作成するわけでは断じてない!

 なんだったら、バーチャルアキラ君が完成した(あかつき)には

 バーチャルユキであるコツバメと結婚させてもいいよ!?」


「なっ……バーチャル婚……!

 それはそれで闇が深いような……

 ……けど、満更悪い気はしない!」


「でしょ!?

 だから、作るね

 バーチャルアキラ君を……!」


こうしてアキラから相手にされなかった女2人は

闇深プロジェクトに着手したのだった。






キャラクター名は当然“アキラ”。

種族は人間(ヒューマン)、性別は男、職業は格闘家と、

こちらも原作再現プレイをするなら当然の選択である。


当ゲームにおける“人間”は他のネトゲでも大体そうであるように、

全ての能力が平均的な万能タイプの種族という位置付けにある。

他の種族より知性と技術力に優れているという特徴があるが、

INT(知力)DEX(器用さ)のステータス補正が高いというわけではない。


知性と技術力。それはプレイヤー自身の腕前を指す言葉である。


ゲーム中にアイテムやスキルを使用する際はリストから対象を選択するか

コントローラーやキーボードに割り当てたショートカットを利用するのだが、

他の種族ならアイテムとスキルで登録可能な枠が分かれているところ、

人間だけはその枠を越えてショートカット登録ができるのだ。


この仕様はアイテムを多用する生産職にはうってつけであり、

様々なスキルを使い分ける必要がある支援職にも有利に働く。

そして攻撃のバリエーションが豊富なコンボ型格闘家にも恩恵が大きく、

戦闘職には向かないとされている人間でも活躍の機会が与えられる。


早苗はこの仕様と格闘家の親和性の高さに着目して、

バーチャルアキラを作成しようと思い立ったのだ。

決して終わった恋愛に未練があるとか、そういう理由では断じてない。


たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ