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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
128/150

紳士の社交場

銀座の小洒落たバーに2人の男が来店し、

そのうち1人は手慣れた仕草でカウンター席に腰掛け、

顔馴染みであるマスターにお決まりの注文を頼んだ。


「烏龍茶、ロックで」


「ふざけんな」


ここは酒場だというのに、この客……内藤真也はいつも酒を頼まない。

程良く薄暗い照明、落ち着いたジャズが流れる夜の酒場。

そんな場所に割とイケてる顔立ちの中年男性が入ってきたら、

そこはウイスキーの1杯でも引っ掛けてほしいところだ。


まあ、こいつが飲まない理由は知っているが、

それならどうしてわざわざこんな所に来るんだ?

酒場だぞ?一番来ちゃだめな場所だろう。


「わしにはバーボンを、ストレートで」


「おっ……?

 はい、少々お待ちを」


なんだこの爺さんは。

てっきり内藤の連れかと思い込んでしまったが、

たまたま一緒に店に入ってきただけのまともな客だったのか。


「では、お疲れ様でした」

「うむ、お主もようやった」


2人の客が互いを労い、コップをコンと鳴らせる。

なんだ、内藤の連れだったのか。

それにしても誰だ?

どこかで見たことがあるような……?

訝しんでいると、内藤が半笑いで話しかけてきた。


「なあ、こちらのお方が誰だかわかるか?」


「いや、どこかで似た顔を見た気はするんだが……

 まあ貫禄からして、かなり高い身分のお方だろうな

 それもただの金持ちじゃねえな

 超が付くほどの大富豪だろ

 最低でも社長……どころかグループを束ねる会長クラスで、

 金を稼ぎたいという動機じゃなく、自分の趣味を優先させていたら

 気づけば超大富豪になっていた……ってとこか?」


と、簡単にプロファイリングした結果を伝えると、

バーボンの爺さんはカカカと心底嬉しそうに笑い、

内藤の肩をポンポンと叩いて喜びを表現したのだ。


「当たり! 当たりじゃ!

 ようそこまで見抜いたなあ!?

 お主、本当はわしを知っとるんじゃないか!?」


「いえ、失礼ながら存じ上げませんね

 一度でも当店にお越しになった方なら忘れないのですが……」


そう答えると爺さんはますます上機嫌になる。

まったく、何がそこまでウケたのかわからない。


「仕方ない、少しだけヒントをやろう

 お前は『不破夏男』という名前に聞き覚えはあるか?」


「答えじゃねえか」


不破夏男……。


…………。



……えっ、不破夏男?



「ちょっ……えええ!?

 まさか、そんな…………本物!?

 あの不破開発の……ってか、魔法学園作ったりした人だろ!?

 レジェンド中のレジェンドじゃねえか!!

 半世紀くらい前の写真しか見たことねえから気づかなかった!!」


「ガハハ!!

 まあ、すぐに気づけんでも仕方なかろう!

 あの頃のわしには白髪なんて1本も無かったからのお!」


「は、はあ……」


レジェンド爺さんが自分の膝をバンバン叩きながら大笑いする。

本当に何が楽しいんだかなあ……。




「──して、内藤君

 日本冒険者協会に勝利した感想をお聞かせ願えるかね?」


「え、いやいや

 あれで勝ったとは思ってませんよ

 奴らの提示したデタラメな基準を突っ撥ねただけですからね

 あの組織を解体させた時こそ我々の勝利と言えるでしょう」


「ほほう、生真面目な男じゃのう

 そのデタラメな基準じゃが、お主以外の者が協会に出向いていたら

 きっと連中にとって都合の良いルールばかり採用されたじゃろうな

 冒険者の未来を守ったと言っても過言ではない

 素晴らしい功績じゃと思うし、少しは浮かれてもええんじゃないか?」


「あまり持ち上げないでくださいよ

 私はただ、自分がやるべき仕事をこなしただけですから」


「ふむぅ……

 なあ、マスターよ

 此奴(こやつ)とは同級生なんじゃろ?

 昔からこんな感じなのか?」


「ええ、はい

 本当は嬉しい癖に素直に喜ばないんですよね

 謙遜することで更に褒められようとする、いやらしい奴ですよ」


「ほうほう、彼はいやらしい男なんじゃな」

「そうなんですよ」


「なっ……誤解を招くような言い方!」


「ほほほ、謙遜のしすぎもよくないぞ

 場合によっちゃ嫌味と捉えられかねんからな」


「ぐっ……!」




レジェンド爺さんが2杯、3杯と燃料を投下してゆく。

できればそんなハイペースな飲み方はしてほしくないのだが、

まあ、これくらい飲める客はそう珍しくない。

だがやはり、彼の年齢を考えるとどうもな……。

酒好きが興じてバーのマスターやってる身としては複雑だ。


「ところでここだけの話なんじゃが、

 実はわし、ちょっと小説を執筆してみたのよ」


「ほう、小説ですか

 どんな題材をお書きに?」


「まあなんというか……

 勧善懲悪モノといったところかのう

 学園から上がってくる報告書に目を通してるうちに、

 こう、インスピレーションが湧いてしもうてな」


「元々変わり者ばかりの魔法学園だというのに、

 今の世代は特に変わった生徒ばかりですからね

 彼らが創作意欲を刺激してくれるのも理解できます

 ……それで、ストーリーはどのような感じで?

 勧善懲悪となると水戸黄門みたいなものでしょうか?」


「──時は199X年、世界は核の炎に包まれた」


「待ってください

 それはまずいですよ」


「うむ

 書いてる時には気づかなんだが、

 翌日に読み返してパクリだと発覚しての

 慌てて全文を削除して事なきを得たわ」


「まあ、気持ちが先走ってるとそういうことも……

 あったりなかったり……するのかもしれませんが……」


「ちなみに主人公のモデルは甲斐晃じゃった」


「ああ、はい

 イメージ通りです

 あいつも妙な武術を使いますからね」


「とりあえずパクリはいかんと反省したわしは、

 別の生徒をモデルにして違うジャンルの物語を考えてみた

 7つ揃えたら願いが叶うという不思議な球を探す冒険活劇をな」


「反省が活かされてませんね」


「うむ

 わしにはつくづく創作の才能が無いのだと気づかされたわ

 なのでその日のうちに筆を折り、アトリエを爆破したのじゃ」


「それはまたスケールの大きい話で」


……この爺さん、自伝を書いた方がいいんじゃないか?




それから2人の客はしばらく談笑した。

盗み聞きするつもりは無かったが、他に客がいないせいで

否が応でも不破夏男氏の豪胆な声がここまで届いてしまうのだ。

客がいない、といってもこの店が不人気だという意味ではなく、

外で待機している黒服の男たちが客を遠ざけているのだろう。

まったく迷惑な話だ。


「時に理事長

 以前、学園長に灸を据えた際に『お気に入りの生徒がいる』

 というような発言をなされたそうですね?

 もし差し支えなければ、それが誰なのか教えていただけますか?

 その生徒を依怙贔屓しようというつもりは毛頭ございません

 ただ個人的に興味があるだけです」


「ああ、そんなこともあったのう

 わしのお気に入りは高音凛々子じゃよ」


「え、高音……ですか?」


「なんじゃ、意外かね?」


「ええ、まあ

 彼女は攻撃力のパラメータに全て振り切ったような人物ですし、

 もっとこう、賢い生徒に目をかけているものとばかり……」


「わしはおっぱいが好きでな」


「はい?」


「これまでに6人の妻を娶ったが、

 いずれも無加工の天然巨乳じゃった」


「あの、なんの話を」


(みのり)を見てみい

 あれの母親もBIGなBUSTの持ち主じゃったが、

 娘はそれ以上に成長してくれた

 もちろん実の娘に欲情などせんが、わしゃあ嬉しゅうて嬉しゅうて……」


「はあ……」


「高音凛々子の母親も、それはそれはたわわな果実を実らせていてな

 浜辺から水平線を眺める彼女の横顔に、わしゃあ一目惚れしたもんだ」


「へえ、そうですか

 …………

 ……え、高音の母親と会ったことがあるんですか?」


「うむ

 わしの趣味はサーフィンでの、夏が来る度に海へ出掛けるんじゃが

 ある年、プライベートビーチに侵入した者がおった

 彼女は数日前に恋人からプロポーズされたものの、

 どう返事しようかと悩むうちに敷地へ入り込んでしまったんじゃ

 部下たちは彼女を追い返そうとしたが、わしはそうしなかった

 代わりにカクテルを振る舞い、沈む夕日を背景に2人で語り合った……

 まあ、一夏の思い出というやつじゃな」


たしか不破夏男氏の年齢は80歳を超えていたはず。

生徒の親が結婚したのが大体20年前と仮定すると、

当時の彼は60歳以上ということになる。

その年齢でサーフィンを楽しんでいたとは、まったくタフな爺さんだ。


「そういうわけで、高音凛々子はわしの娘かもしれん」


「どういうわけで!?」


なんかとんでもない発言が飛び出したぞ……。

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