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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
111/150

5月

学園ダンジョン第4層にて、3年生たちは苦戦を強いられていた。


「くっ……!

 僕だけじゃ抑えられそうにない!

 誰かもう1人こっちに来てくれ!」


そう声を荒げる正堂をストーンナイトの群れが取り囲む。

その魔物は単体ならば脅威ではないが、

こうもまとまって来られては分が悪い。

しかも相手の装甲は石のように硬く、

いくら学園最強の剣士と呼ばれる正堂と言えど

刃物による攻撃が意味を成さないのであれば、

防戦一方でジリ貧になるのは自明の理であった。


「できれば手伝いたいけど!!

 俺も今、忙しいから!!」


同じく剣士であるヒロシもやはり難儀していた。

彼が抱えている敵は1匹だけだが、その1匹が曲者だった。


例外個体(イレギュラー)

通常の魔物とは違う性質を持つ特別な存在である。

何がどう違うのかは実際に戦ってみるまでわからず、

今回はかなりの大物を引き当ててしまったらしい。


その攻撃力は通常のストーンナイトとは比べ物にならず、

たった一撃で正堂の愛剣“メガ村正”をひしゃげさせてしまった。

それだけの威力があるのだ、きっと重鎧でも防ぎ切れないだろう。

ならば相手の攻撃を正面から受け止めるのは諦め、

身軽なヒロシが回避に専念する作戦で凌いでいた。



地面にはエースアタッカーのリリコが転がっている。

敵にやられたのではない。自滅したのだ。

いや、ある意味敵にやられたとも言えようか。

どうも相手には魔法を反射する能力があったらしく、

一撃必殺のファイヤーボールを跳ね返されて脱落したのだ。


「くっそ〜

 これじゃ迂闊に攻撃魔法使えねーじゃんかよ

 かと言って今回のパーティーにゃ前衛が剣士しかいねえし、

 あんにゃろうに有効打を与える手段が無いときたもんだ」


後衛のセンリは十八番(おはこ)のファイヤーストームで

正堂に群がる雑魚敵を排除しながら愚痴を吐く。

ただ文句を垂らすだけでなく打開策を考えようとはしているが、

次から次へと湧き出てくる雑魚の対応に追われてそれどころではない。


敵の親玉は桁違いの攻撃力と魔法反射に加え、

更には際限無く仲間を召喚する能力まで兼ね備えているようだ。

圧倒的なステータスに多彩な行動パターン。

これではまるでボス戦ではないか。

休暇明けのブランクを取り戻そうと軽い気持ちで立ち寄っただけなのに、

まさかこんな展開になろうとは誰が予想できただろうか。


ジリ貧。

八方塞がり。

負けイベント。


そんな不吉な単語の数々が彼らの脳裏を駆け巡る。



と、その時。

パン!という手拍子の後にリーダーの並木が作戦変更を告げた。


「……よし、臨機応変でいこう!

 ヒロシ君はそのままボスを抱えるとして、

 雑魚の相手は私とセンリに任せてちょうだい!

 この中で一番パワーのある正堂君が対ボス用の攻撃役(アタッカー)ね!」


それだけ伝えると並木は自分の武器を正堂の足元へと放り投げ、

センリに向かって『盾を貸せ』とジェスチャーを送る。

だがその盾は彼の母親の形見であり、簡単に手放せる物ではない。

センリの答えはもちろんNOだ。

彼はその場にどっしりと腰を落として盾を構え、

自分が雑魚敵相手の防御役(タンク)になることをアピールした。

並木はそれを受諾し、あるいは最初から答えを知っていたかのように

心置きなく攻撃魔法を放つ準備に取り掛かった。



センリ&並木のコンビが雑魚処理態勢を整えたのを見届け、

正堂は足元に落ちていた得物を拾って強く握り締めた。


“女子力(物理)”。

ふざけた名前だが、れっきとした武器である。

棍棒なので初心者でも直感的に扱え、遠心力が増幅する機構により

か弱い女子でもなかなかエグいダメージを叩き出すことができる。

とても高性能なのだが鈍器というカテゴリー自体が不人気なため、

その魅力に気づいている者は少ない。


さておき、正堂は現状で最も有効な攻撃手段である打撃を手に入れ、

敵の親玉に向かって飛び掛かったのだ。




──それから1時間後、彼らは同フロア内の水場に移動していた。

皆ぐったりと項垂れており、リリコはまだ目覚めない。

正堂とセンリはマメだらけになった手を水に浸けて冷やし、

ヒロシは上半身裸になって背中の汗を拭き取っている。


彼らは戦いに勝利した。

だが辛勝である。こんな経験は久しぶりだ。

いくら1ヶ月ぶりの冒険活動だからといって、

いくら例外個体と鉢合わせたからといって、

今回の戦闘内容は素直に喜べるものではない。


「なんか……敵、強くなったよな?

 もしかして俺たちのレベルに合わせて

 魔物側も成長するシステムだったか?」


「んなわけねーだろ

 ゲームじゃあるめえしよお

 逆だ、逆

 敵が強くなったんじゃなくて、

 おれらが弱くなっちまったんだよ」


「俺たちが弱く、か……

 自主練サボったつもりは無いんだけどなぁ

 やっぱ1ヶ月も現場離れるとこうなっちゃうか」


1人反省するヒロシを見て、センリはやれやれとため息を吐く。


「いや、そうじゃなくてよ

 最強の前衛が抜けた穴がでけえって話だ

 おれらは今、その影響をモロに喰らってんだよ」


「最強の前衛……」


復唱してハッと気づく。

ああ、そうだった。

このパーティーにはあいつがいない。

岩の魔物を素手で粉砕できる、あの規格外の男が。


「あいつ今頃何やってんだろうな?」


「さあな

 現地の情報は一切入ってこねえからなぁ……」


沖縄は現在、交通機関はおろか電波のやり取りも制限されており、

情報を外部から得ることも内部から発信することもできない。

ここまで明白な異常事態であるにも関わらず、

どの報道局もその件を取り扱おうとはしない。

おそらく……いや、100%平輪党が裏で糸を引いているのだろうが、

10代半ばの少年少女たちに真実を暴く術は持ち合わせておらず、

それを世間に訴えたところでどれだけの人が耳を傾けるだろうか。


結局、彼らにはアキラの帰りを待つことしかできないのだ。






翌朝、正堂は昇降口で同級生を見かけたので声を掛けた。

彼はただ挨拶をした。それだけだった。


「やあ、おはよう

 おふたりさん」


するとその2人はビクリと体を震わせ、

お互いに距離を取るようにのけぞるという反応を示した。

繰り返すが、正堂はただ十坂と松本に朝の挨拶をしただけだ。


「ばっ……何が『おふたりさん』だ!

 セットみたいに言うんじゃねえ!」


「そ、そうだよ!

 十坂君とはたまたまそこで会っただけだからね!?

 決して一緒に通学してきたわけじゃないからね!?」


こころなしか、おふたりさんは赤面しているように見える。

ただ挨拶をしただけなのにこの慌て様……怪しい。

彼らは新2年生が学園内のタワーに住めるようにと、

自ら志願して部屋を明け渡した“通学組”だ。

この時間帯に一緒にいたとしても、なんら不思議ではない。


(この2人……休暇中に何かあったな)


正堂の伊達眼鏡がキラリと光る。

が、彼は特に勘繰ろうとはしなかった。


モヒカンと天使の組み合わせ……一見するとミスマッチな2人だが、

これはこれでありなんじゃないかと思える。

十坂勝という男は不良めいた格好をしてはいるが、

これまでの学園生活で問題行動を起こしたことは一度も無い。

授業も訓練もサボらずに出席し、定期的に行われる身体測定においては

甲斐晃、正堂正宗に次いで概ね高い成績を収めている。


同級生一同は皆、うっすらと理解しているのだ。


十坂勝はいわゆるファッション不良であると。




朝のHR(ホームルーム)が終わり、生徒たちは訓練棟へと移動した。

3年生の時間割は午前中に訓練、午後からその他の時間、

そして1日の締めが通常授業となっている。

前半に体力を消耗してからの学業への取り組みはきついものがあるが、

これも訓練官不足を補うための苦肉の策なので諦めるしかない。

特に現在は3人しかいない訓練官のうち1人が音信不通、

1人が日本冒険者協会に出向いて重要な話し合いをしている最中であり、

実質、落合訓練官がワンオペで全生徒の面倒を見ていることになる。

彼の負担を少しでも軽減するには生徒たちの協力が不可欠なのだ。

学園内で余計な問題を起こしてはならない。それに尽きる。


「問題が起きた」


その落合訓練官の口から不穏な発言が飛び出てしまった。

ざわめく生徒たちをよそに、彼は続ける。


「まあ、それほど騒ぎ立てるようなことでもないがな

 これはすごく……個人的な問題だ

 その、なんだ……

 …………

 ……俺は魔法を使えなくなった」


「ええっ!?」

「先生が!?」

「なんで……」


「以前にも話した通り、魔法能力者というのは

 大体30歳前後になるとある日突然魔法が使えなくなる

 体の中に魔力があっても、それを出力できなくなるんだ

 これは能力者なら誰しもが通る道だ

 俺にもとうとうその時が来た……それだけのことだ

 発覚したのが戦闘中ではなかったのが救いだな」


そう言い放つ彼の表情は暗い。

今まで平然とできていたことが急にできなくなる。

きっと本人にとっては相当なショックだろう。

魔法の扱いに自信のあった者ならば特に、だ。


「今後、後輩に魔法の手本を見せなければならない時は

 お前たちの手を借りる機会もあるだろう

 その点を留意しておいてくれ

 それと今まで緊急事態の際には俺も戦闘に加わっていたが、

 これからは戦力としてあまり期待しないように

 魔法ロスの影響で全身の倦怠感が酷くてな……

 まだこの一般人としての肉体に慣れてないんだ

 少し剣を振っただけで息切れしやがる……なんとも情けない話だよ」


魔法ロス……他人事ではない。

個人差はあれど能力者は無意識に魔力で身体能力を補強しており、

それが消えてしまえばその辺の一般人と大差無いのだ。

30歳といえばちょうど体力の衰えを感じ始める時期でもあるし、

その喪失感は一般人として生きてきた者たちよりも強く響くのだろう。

いつかは自分たちも同じ道を辿ることになる。

それを忘れてはならない。






「──しっかし、アキラロスに続いて先生の魔法ロスか

 今年度は初っ端から向かい風が吹いてるよなあ」


「ああ、だがそれが当たり前だと思い出さなきゃならねえ

 おれらの先輩は今までアキラ無しで活動してきたんだし、

 20代の訓練官なんて全国に数人しかいねえよ

 普通は30過ぎて現場を退いた冒険者が目指す職業だからな

 しかもその貴重な数人は無認可の冒険者養成機関に雇われて、

 金目当てのろくでもない経営者に使い潰されるのがオチだ」


「へえ、訓練官ってそういうもんなのか……

 俺たちはかなり恵まれた環境で育ったんだな」


「今頃気づいたのか?

 まあ、よその環境と比べる機会なんて無いから仕方ねえが……

 ちなみにおれの見立てだと、現時点でおれらの実力は

 そんじょそこらのプロ冒険者よりも上のレベルにある

 お前らも新宿での戦いでその差を痛感しただろ?

 本来は現場の冒険者が事態を収める手助けをするだけのはずが、

 あん時ゃ完全に立場が逆転しちまってたからな

 しかも国内の猛者が名を上げようと集まる東京の地でだ

 関東(ここ)で培った戦闘技術は本物ってことだぜ」


そう言われ、ヒロシは少し誇らしい気分になった。

彼だけではない。玉置以外の同級生たちも同じ気持ちだった。

強力な後ろ盾の無い状況だが、ここで立ち止まろうとは思わない。

彼らは自らの意志で前に進もうと決意したのだ。

向かい風の吹く、その先へと──

基本情報

氏名:高音 凛々子 (たかね りりこ)

性別:女

サイズ:G

年齢:18歳 (4月27日生まれ)

身長:167cm

体重:60kg

血液型:A型

アルカナ:女帝

属性:炎

武器:バーニングエンジェル (両手剣)

防具:タイガーパンチ (籠手)

防具:レッドデビル (衣装)


能力評価 (7段階)

P:8

S:5

T:2

F:16

C:4


登録魔法

・ファイヤーボール

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