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進め!魔法学園  作者: 木こる
3年目
106/150

有馬力

有馬(りき)が目覚めた頃、時刻は正午前だった。

2年生には新人発掘の任務が与えられているが、

彼は己の役目を放棄して爆睡していたのだ。


昨晩、マイナー芸人のコント動画を視聴していたら

思いの(ほか)完成度の高い漫才をこなすもので、

つい過去の作品まで遡ってしまったのが原因だ。


(まあ、しゃーねーわな

 これは不可抗力ってやつだ

 それに同級生は30人以上いるんだし、

 俺1人くらいサボったって誤差だよ、誤差)


そう自分に言い訳しながらサッと顔を洗い、

とりあえず腹が減っているので食堂へと向かう。


ちなみに余談だが、今年の上級生は計48名なので

タワーにある20部屋を2人ずつで使ったとしても

8名は溢れてしまう計算になる。

にも関わらず彼は頑なにルームシェアを拒み、

悠々自適な1人部屋生活を満喫中だ。

3年生の玉置沙織も同じように1人部屋なので、

10名はタワー暮らしを諦めたことになる。




食堂に着くと、目障りな人物を発見してしまう。


「リキ、お前……

 2年はこれから授業だろ?

 早く教室行った方がいいぞ」


小中(こなか)(ひろし)

楽しくて面倒見のいい先輩だと思っていたのに、

急にブチ切れてきたわけわかんない人。

あの時はきっと機嫌が悪かったのだろうが、

それを後輩に八つ当たりするなんてとんでもない。


もうこの人とは関わりたくない。

適当に受け答えしてさっさと会話を切り上げよう。


「外回りから帰ってきたばっかで腹減ってるんで

 飯くらい食わせてくださいよ〜」


まあ任務はサボってしまったが、

腹が減っているのは事実だ。

半分は真実を言っているのだから、

嘘をついていることにはならないはずだ。


「頭悪い奴こそ勉強しとけよ」


その発言にカチンと来る。

たしかこの人も赤点の常習犯で、

他人に説教できるようなご身分ではないだろう。

それを偉そうに先輩風吹かせて、何様のつもりだ?


「お前の中に眠る未知の才能ってやつが、

 未発見のカス能力じゃないといいな」


しかも才能にまでケチをつけられた。

いくらなんでもカス呼ばわりは酷すぎる。

言っていいことと悪いことの区別がつかないのか?


……ああ、そうか。

この人はたしか“無能の4組”の出身者だったな。

輝かしい才能を持っている人間が妬ましいのだろう。

なんと憐れで惨めな存在であろうか。

負け組(そっち側)に生まれなくて本当によかった。




小中大が去ってからしばらくすると、

これまた目障りな新入生共が

昼食を求めて食堂に押し寄せてきた。


連中は揃いも揃って疲れ切った顔をして、

やれ「授業のペースが早い」だの

「この後走らされるのか」だの、

低次元な会話をしながら食券機に並ぶ。


こちらは嫌な先輩と顔を合わせた後で気分が悪い。

誰にも邪魔されず、1人でのんびりと食事をしたい。

だというのに3人組の男子がこの席に目をつけ、

あまつさえ近寄って話しかけてきたのだ。


「あ、先輩

 ここ相席してもいいですか?」


「だめー

 どっかよそに行けば?」


「そんな、4人テーブルですよ?」


「だから何?

 俺は今、1人でここを占有したい気分なんだよ

 それくらい見てわかんねえかなあ?」


「うわ、なんて人だ……」

「仕方ない、ここは諦めようぜ」

「見習っちゃいけないタイプの先輩だな」


と、彼らは目上の人間を小馬鹿にした態度で

その場を立ち去ろうとしたのである。

さすがにこれを放っておくわけにはいかない。

ここで甘い顔をすれば奴らをつけ上がらせるだけだ。


「おい、待てよお前ら

 なんだよそりゃ……

 俺は『相席してもいいか』って質問に対して

 『だめ』って答えただけだろうがよ

 お前らはYES以外の答えを認められないのか?

 なんでも自分の思い通りになると思うなよ」


「いや、その後の台詞が……」


「言い訳すんな!!

 お前ら今日は昼飯抜き!!

 今から校庭30周してこい!!」


「え、ええっ!?

 いきなり何言い出すんですか!?」

「訓練の3倍の量とか……

 しかも飯抜きは死にますよ!?」


「うるせえ!!

 先輩の命令は絶対なんだよ!!

 つべこべ言わずに走ってこい!!」


そして生意気な後輩共は渋々と退散し、

言われた通りに校庭を走り出したのだった。




食事を終え、自室に戻ったリキは

マイナー芸人によるコント動画の視聴を再開する。

同級生たちは今頃授業中であり、

遊び相手がいなくて暇を持て余していたのだ。


(ん……あれ?

 こんなんだったっけ……?)


だが昨晩は腹が捩れるほど笑えたのに、

今見てみると大して面白くない。

たまたま寒いネタに当たってしまったのかと思い、

一番評価の高いコント動画を見返してみるも

滑舌が悪いわ、間の取り方が悪いわで

面白さよりも粗が目立つ始末だ。


(もしかして、深夜のテンションだったから

 面白いと感じてただけのパターンかこれ!?

 ……くっそおおお!! 騙された!!

 なんだよこのクソ芸人!?

 だからお前らは売れねーんだよ!!)


リキは1人憤慨する。

あとでクラスの連中にネタを発表して

人気者になろうと画策していたのに、

こんなにも低レベルな芸では誰かを笑わせるどころか

ただの笑われ者にしかなれなかっただろう。


(貴重な時間を無駄にさせやがって……!!)


そして彼は沸き上がる感情を抑えられず、

スマホを壁に投げつけて破壊したのであった。






──それからしばらく不貞寝をすると、

気づけば時計の針は17時を指していた。

1時間前に授業を終えた同級生たちは今頃、

新人発掘任務・午後の部に出ているのだろう。

またしても出遅れてしまったが、まあ仕方ない。


今日は運の無い1日だった。


そう自分を納得させ、夕食を取りに食堂へ……

の前に、何をするにせよスマホが無いと不便だ。

学園職員に事情を説明して新品と交換してもらおう。

次はもっと丈夫なやつがいい。

こう何度も壊れてしまってはたまったもんじゃない。


(ん、あれは……?)


職員室へ向かう途中、興味深いものに目を惹かれる。

北区画へと歩いてゆく新入生が1人……

彼の顔は強張っており、歩き方がぎこちない。

傍目から見ても緊張しているのが丸わかりだ。

そして彼が向かう先にあるのは……ダンジョン。


どうやら彼が今年の最初の挑戦者らしい。



リキには、こなさねばならないノルマがあった。


それは先輩から後輩へ脈々と受け継がれてきた

関東魔法学園における一種の洗礼行為であり、

ダンジョンに初挑戦する新入生に対して行われる

言わば通過儀礼……悪しき伝統と呼ばれるものだ。

その対象となる者を見かけてしまったのだから、

今はもうスマホの交換どころではない。


嫌な先輩や生意気な後輩、そしてクソ芸人のせいで

何かと気分を害する1日であったが、

あの無知なひよっこをスライムの液体まみれにして

鬱憤を晴らさせていただこう。


「よう、新入り君!

 これからダンジョン行こうとしてる?

 だったら俺が案内してやるよ!

 俺は2年の有馬だ! よろしくな!」


「え?

 あの……はい、僕は井上です

 よろしくお願いします」




だが、リキの目論見は頓挫した。


ダンジョンの前には本日の護衛当番である

神崎と山田が立っていたのだが、

彼らは「上からの指示で通せない」の一点張りで

リキたちを入場させまいと入口を死守したのだ。


「おいおい、ちょっとくらいいいだろー?

 熱心な新入りに現場を見せてやりたいんだよ」


「いや、今は本当にだめだってば

 有馬君にもメール来てるでしょ?

 小中先輩のパーティーが何かを発見したから、

 急遽調査隊の人たちを呼び寄せて

 詳しい情報を集めているそうなんだ

 それが何かは僕たちには知らされてないけどね」


「なっ……!?

 小中って、おい……ふざけんなよ

 あいつ、とことん俺の邪魔しかしねえな!?」


1人憤慨するリキを見て、井上は眉をしかめる。

小中といえばあの優しい小中先輩以外にはいない。

誰かの邪魔をするような人ではないはずだ。


「えっ、どうしたんですか有馬先輩?

 小中先輩と何かあったんですか?」


「どうしたもこうしたも、

 あの野郎のせいで俺の評判はガタ落ちなんだよ!!

 あいつさえいなければ俺は今頃、

 魔法学園のエースとして活躍してたはずなんだ!!

 それをあの陰険野郎が悪い噂を流したせいで

 何もかもが上手くいかねえんだよ!!」


勝手にヒートアップするリキ。

実際にはヒロシが噂を流した事実など無いのだが、

彼の中ではそういうことになっているようだ。


「いや、落ち着きなよ有馬君!

 君の評判が悪いのは僕も知ってるけど、

 それは君自身の行いが招いた結果でしょ!?

 責任転嫁はよくないと思うよ!?」


「うるせえよ田中!!

 ザコが口出しすんじゃねえ!!」


「山田だよ!!」


だめだ、完全に冷静さを失っている。

新入生の前だというのに、なんたる醜態だろうか。

彼1人の評価が地に落ちるのは構わないが、

このまま言わせておけば場合によっては

上級生全体への信頼が揺らぎかねない。

これはどうしたものか……。


「……素朴な疑問なのだが、

 なぜこの場に有馬殿がいるのだ?

 我々護衛当番以外の2年生は皆、

 新人発掘任務に当たっている頃合いだろう?」


「俺はいいんだよ!!

 お前らポンコツ連中と一緒にすんじゃねえ!!」


「ポンコツ……!

 また言われてしまった……」


神崎の発言によりリキのプライドが刺激され、

ますます感情を逆撫でる結果となってしまった。


こうなってはもはやまともな話し合いは不可能。

いくら理詰めで諭したところで、

聞く耳を持たない彼には言葉が届かないだろう。

現にリキは極度の興奮状態に陥っており、

力ずくでも押し通ろうという意志が感じられる。



「そこをどけえええええ!!」



と、リキが両手を前に突き出して

今にも全ての魔力を解き放とうとしている。


ソウルキャノン。


貴重な無属性の攻撃魔法であり、

しっかりと準備を整えた状態であれば

最高クラスの破壊力を発揮すると云われる

有馬力の切り札的な必殺技である。


(それをこんな場面で使うの!?)


無論、山田は焦る。

強化や弱体などの事前準備が整っていないとはいえ、

直撃すれば確実にただでは済まない。

攻撃魔法で死ぬことはないにしろ、

トラウマ級のダメージを負うのは必至だろう。



無防備であれば、の話だが。



「マジックシールド!!」



リキの放った黄金色の波動が、

山田の展開した障壁によって完封される。


マジックシールド……

それはいかに強力な攻撃魔法であろうとも、

一度だけ確実に無効化する最強の盾である。

持続時間が短いという欠点はあれど、

タイミングさえ合えば何も問題は無い。


「なっ……!?

 防ぐなよ卑怯者!!」


「防ぐに決まってんでしょ!?

 誰が喰らってやるもんか!!

 ……神崎さん、先輩か先生連れてきて!

 それと1年の君はここから離れて!」


「御意」

「は、はい……!」


その後リキはMPを使い切ったために2発目を撃てず、

接近戦で山田に組み伏せられていたところを

神崎の連れてきた先輩方に引き渡された。

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