招かれざる者
アキラは父に似て闘争心とは無縁のおとなしい性格であり、
1人で図鑑を読んだり、動物を眺めるのが好きな少年であった。
母の狩りについていく理由は観察のためであり、
決して命の奪い方を学びたいわけではなかった。
だが、この土地で生きるために狩りは必要な行為だと受け入れ、
5歳になる頃には自力でウサギを仕留められるまでに腕を上げた。
その年の冬、初めて目にする獲物の足跡を追っていると、
吹雪の中から異形の獣が2人に襲い掛かってきた。
母はただの熊だと思ったらしく、完全に油断していた。
アキラは母が傷を負う姿を初めて目の当たりにした。
激闘の末、母は異形の獣の首を掲げながら雄叫びを上げ、
幼い息子をその場に残して吹雪の中へと消え去っていった。
アキラは母を追わなかった。
幼心に理解していたのだ。
母は未知なる強敵との邂逅に歓喜し、更なる闘争を求めて旅立ったのだと。
村の大人たちはアキラの話を信じなかった。
彼らは翼の生えた熊など存在しないと一蹴し、鼻で笑った。
信じてくれたのは父をはじめとした一部の理解者だけである。
父らは失踪した母を探すため、そしてアキラの名誉挽回のために、
都会から善意の協力者を呼び寄せてくれた。
冒険者を。
彼らはアキラの話をすんなりと信じてくれた。
というのも彼らは異形の獣──“魔物”を狩る専門家であり、
翼の生えた熊は実在すると断言してくれたのである。
それでも村人は信じなかった。
それどころか村人らは冒険者たちが滞在している家屋に火を放ったり、
商売道具である装備品を傷付けたりして、嫌がらせの限りを尽くしたのだ。
彼らはよそ者が嫌いだった。
ただそれだけの理由で善良な協力者を追い返したのである。
冒険者たちが村を去った後、アキラは己を鍛え始めた。
崖をよじ登り、水の中を走り、木から木へと飛び移った。
鹿を追い、猪に立ち向かい、狼を屠った。
獣と渡り合うには、自らも獣になるしかない。
異形の獣と渡り合うには、自らも異形の獣になるしかない。
アキラは鍛錬を続けた。
人の形をした獣へと生まれ変わるために。
「──まったく、とんでもない生徒を受け入れてしまいましたね」
「甲斐晃
男、身長192cm、体重96kg、非魔法能力者ゆえに属性は存在しない
とても15歳には見えないし、それ以前に日本人のスペックを超えている
まあ、中には同じような体格の持ち主もいるだろうが……問題はそこではない」
「ええ、本来は全ての受験者を落とすのが目的の一般入試なのに、
彼は文字通りの力技で突破してしまいましたからねえ
個人的に面白い人材だとは思いますが、この先どうなることやら……」
「こいつの身体能力ならアスリートの世界で大成するだろうに、
それを蹴ってまで冒険者の道に進みたいだなんて……本当に変わった奴だよ」
「まあ入学を許可してしまった以上、我々も気を引き締めて参りましょう」
「ああ、そうだな……」