かぐや姫は地球に戻る
シリーズの一番上から読んでください。
くわしい事情を知りたい方は。
あらすじ
「なよたけは月のもので、地球のものと一緒にならないことはわかっていました。
だから、愛したものへの未練を残しながらも地球をさりました。
けれど、愛したものはなよたけを忘れませんでした」
「あなたは、一体誰なの」
私は、手錠を解こうと暴れ、声を荒げる。
「私は、いや僕はリユンだよ。どうして逃げたの?」
リユン。
その名前と一人称には、わたしと仲がよかった地球のニンゲンもどきの機械融合生命体だった。
そして、課題を乗り越えて、わたしの婚約者になっていた。
地球にいた時のわたしは、知的な機械融合生命体に好かれる姿にしていた。
そのせいでか、オス型の生命体からの求愛行動が絶えず困っていた。
これでは、地球の調査とわたしのせいで、地球に落とされた『姉と兄たち』の『探索』に集中できない。
だから、わたしの名前の由来のかぐや姫になぞらえて、求婚者たちを利用しようと探索候補地の竹林のことを言ったら、あっさり手のひら返しされた。
どんだけ、あの竹林が危険なのか。
あの生命体たちも、わかっているようだ。
竹の群生地はなぜかジャミングの作用がある。
だから、機械を完全に体の一部とする融合生命体にとって地獄のような場所だ。
生命体にとっては目隠し、耳栓を強制的につけられる場所。
わたしにとってもきつい場所だ。
体も動きづらくなるし、音も聞こえずらい。
けれども、そこに落ちたであろう姉と兄たちをどうしても探したかった。
居候させてもらっている蜘蛛とカマキリみたいな生命体の老夫婦に相談すると、協力してもらうことになった。
そして準備を進めて行く途中に、リユンが村にきて、わたしに、求婚してきた。
「僕も一緒に探させて。手伝うから君が僕を気に入ったら僕と結婚して」
大きな車だと思ったら、大柄な人形に変形してびっくりした。
難題で断ろうとしたら、ついて行くと言った。
さらに、それに喜んだ老夫婦がリユンの分の装備も用意したけど、必要なのはリユンようの目印の糸だけだった。
本当について行く気のようで、持ってきている荷物で十分だった。
それで、ついてくることになったけど、すごく紳士的だった。
竹林の中で急な雨が降れば、車になって庇ってくれたり、糸が絡まりそうになった時咄嗟に切ってくれたり、食料を調達を手伝ってくれたり、ほんと協力的で助かった。
危険な生物を倒したり、追っ払ってもくれて強かった。
わたしだって何もしなかったわけじゃない。
体を綺麗に拭いてあげたり、傷んだ場所を見つけたら、直してあげていた。
リユンの存在のおかげで姉と兄たちが乗っていたロケットの残骸を見つけることができた。
リユンが高い視点を持っていたおかげで埋もれかけていたロケットの残骸を見つけたんだ。
そこに姉と兄たちはいなかったけど、もう死んだんだと心の中で納得してしまった。
「僕はあなたと結婚できますか?」
ロケットの残骸をもち、緊張した様子で見せてきた。
リユンが月の人間、機械だったなら。
もしくはわたしもリユンと同じ機械融合生命体だったなら。
わたしはすぐにでも結婚していただろう。
けれど、わたしの体は融合生命体とは、違う。
よく似せて作られた偽物の体だ。
それに月に姉さんと本当の体がある。
「婚約者からなら、お願いします」
わたしはそうお願いした。
満月が銀色の竹林を照らす中、わたしは笑いかけた。
「ありがとう」
リユンはガラスを触るように優しく抱きしめてきた。
もう次の満月の時には月に帰らなければならない。
もう直ぐ、わたしのロボットの頭のメモリがいっぱいになる。
探していた姉と兄たちの痕跡も見つけた。
ここに、地球にいる意味なんてない。
むしろここにいたら、この善良な生き物の幸せを奪ってしまう。
朱色に発光する糸を辿りながら考えた。
村に帰ったあと、リユンと婚約したことを伝えると村中が新年の祭りかと思うほど盛り上がった。
そして、結婚は『二ヶ月』先の暖かな春にすることにした。
「なよたけ愛してる。玉のように滑らかな肌、まっすぐわたしを見る黒曜の目も君が紡ぐ声も、銀色の髪の毛も、進んで人を助ける優しさも全部好き」
そう言って毎日、わたしを褒めてくれるし、村に残って、村の仕事の手伝いもしてくれる。
「ありがとう、リユンのそんな素直なところがわたしもいいと思うよ」
好きや愛してるなんて言えない。
そしてごめんなさい。あなたの好きなのは全部嘘の私です。
銀の髪も、真っ暗な瞳も、澄んだ声も全部が嘘。
本当は、薄橙の肌に、黒髪で、生々しき赤い瞳孔の目を持っていて、こんなかわいい声なんかじゃない。
醜く不釣り合いの機械が埋め込まれた体をしている。性格だって、本当は根暗だ。知らない人が怖い。狭い場所で閉じこもっておきたい。
姉と兄たちの情報を集めるために演じただけのものだ。
次の満月の時には解放してあげるから。
とうとう、待ちに待った満月の日だ。
月明かりが照らす、竹林はキラキラと輝いてとっても綺麗だ。
「なよたけ、どうして月を見て切なそうな顔をしているんだ」
リユンが心配した様子でわたしに話しかけてきた。
「リユン、月が綺麗ですね」
それがわたしが最後にリユンに言った言葉だ。
愛してるなんて言えない大嘘つきなわたしが最後に吐いた本当だ。
旧時代の小説を知らないこの生き物にわかるわけがない。
「地球にいたわたしは全部嘘。
わたしの住んでいる月の国は、あなたの星を壊した。
わたしはあなたと同じ生物じゃないから、本来手に入れられたあなたの幸せを奪うことになる。
あなたに幸せになってほしかった。」
わたしは抵抗をやめて、脱力しながら答えた。
リユンの車姿や人形の姿での竹林、村での生活を夢で見て、心中で泣いて懐かしむほど未練があった。
姉の前では、未練がないように振る舞い。
もし地球に逃げた時、一目でもいいから、リユンを見たかった。
リユンが車の形態から変形して人形になった。
わたしはリユンの腕の中で、抱えられていた。
「50年も、僕の返事から逃げないでください。本当のあなたと一緒に月を地球から見上げ続けたい」
リユンの機械的な目がまっすぐ私を見ていた。
読んでくれてありがとうございます。