18.エリックside
「ロイドに再婚!!?」
姉御は驚愕するが俺はそんなにおかしな事を言ったか?
「……料理上手の家事上手の嫁を貰えば何とかなると思って……」
「その『料理上手の家事上手の嫁』が実家に帰ったんでしょ!」
「あ……」
「マスミが無理だと言う事は、誰だって無理だわ!!」
「いや。あれでロイドは“もっている男”だ。社会的地位も高いし、家柄だっていい。金も持っている上にあの美貌。黙って立っていれば女の方から寄って来る。結婚前からモテていたんだし、少し声を掛けたら妻に立候補する女性は幾らでもいる筈だ」
「ええ、何も知らない女ならね。もしくは割り切った関係なら問題ないでしょう」
「え?」
何の事だ?
意味が分からない。
あれでロイドは紳士だ。女性に対して優しい。
疑問が顔に出ていたのか彼女は溜息を吐くとロイドの過去を話し始めた。
「エリックは結婚後のロイドしか知らないからそんなことが言えるんだわ。あのね、あの馬鹿は結婚前は乱れた性活を送っていたの。同時進行で付き合うのは当たり前。酷い時なんて十人の女と付き合っていたんじゃないかしら? 同時進行で付き合っていた事がバレて女たちが自分を囲い込んで修羅場になっている時でも一人優雅に紅茶を飲んでいるような男だったわ。女性達のヒートアップして取っ組み合いの喧嘩になろうが、刃物を持ち出しての殺傷沙汰になろうがお構いなし。まるで他人事のように傍観している男よ。そんな男と真剣に交際したい女はいないわ。あの馬鹿を巡って五人は自殺、二人は殺されているわ。因みに、殺された二人は交際期間は被っていない上に犯人も特定されていない。素人の犯行じゃない事だけは確かみたいだから、何処かの女が依頼したプロの仕業でしょうね」
……ロイド、お前って奴は。
俺だって浮気の一、二回……いや、三回?四回?ぐらいはある。だがな、それは三股までだ。それ以上だと隠すのは困難になるしバレる可能性も大いにある。女の勘ってのは侮れないからな。それでも殺しまではいかない。グーで殴られて終わりだ。
「まあ、中にはロイドをアクセサリーのように連れまわすのが好きな女性もいたでしょうけどね。でもね、そう言った女はプライドは人一倍高いのよ。浮気の一人に数えられて我慢できるわけがないわ。なのにそう言った女と付き合うのが多いのよね。馬鹿だから。女優やモデル、ダンサーを彼女にする傾向があったわ」
そう言って出てきた嘗ての交際相手の名前に俺は驚いた。どれも聞いた事のある名前ばかりだ。
あの美人女優……ロイドと付き合ってたのか。じゃあ、自室で自殺したっていうのは……。
「パーティーで口説かれたからって言ってホイホイ付き合うなって話よね。来るもの拒まず、っていうのか。ロイドの事だから『断る理由がなかったから』とか思ってたんじゃないかしら」
断れ!
全力で断れ!!
「まあ、去っていくものを追う事もなかったわね。寧ろ、女達の方が縋り付いてたわ。あの馬鹿の何処がいいのかしら?」
「……そんな状態でよく結婚できたものだ」
「奇跡よ。というよりもマスミがお人好しだったから結婚してくれたようなものね」
「……あーー、そのことマスミは知ってるの?」
「勿論。そもそもマスミは元々あの馬鹿の友人だもの」
「……そういえばそうだった」
全てを知った上で結婚したマスミが凄いのか、そのマスミを囲い込んだロイドが凄いのか判断に困るな。
「で、でも……良家の令嬢なら……」
「それはもっと無理ね」
「なぜ!?」
「あの馬鹿の悪評は社交界で知らない者はいないってくらいに有名だからよ」
…………どういうことだ?