17.エリックside
ミス・マープルからの報告を聞き終えた俺は頭を抱えた。
家政婦ロボットにここまでダメだしされる人間って一体……。ヤバイ。ロイドのせいで連合王国の男の評価は最悪だ。いや、その前にミス・マープルの中で人間という生物の評価そのものが落ちている気がする。ロイド一人のせいで。恐るべしロイド・マクスタード。
「ミス・マープル。誤解しないで欲しい。人間は彼奴ほど愚かではない」
≪……それは理解しております。流石にロイド様は特別仕様だと認識しております≫
ホッとした。まあ、あんな馬鹿はロイドだけだ。
ロイドを人間の基本だと思わなかっただけでも十分だ。
≪それにしてもロイド様の機械音痴には呆れてしまいます。電子レンジを二度もダメにしてしまわれるとは……。あれほどご忠告致しましたのに……≫
ミス・マープルの苦労が伺える。
「ああ。全く困ったものだよ」
彼女の言葉を肯定はするものの、ロイドは別に機械音痴と言う訳じゃない。ここで否定するとミス・マープルは混乱するだろうから言わないでおく。いずれ分かる事だ。ロイドは料理器具に疎いだけだ。
それにしてもミス・マープルが訴えるように、ロイドは何故こうも学習能力というものが備わっていないのか不思議でしょうがない。頭は頗る良いのに。天才となんとかは紙一重と言うからな。だが、それを補って余りある程の問題児ぶりだ。俺から言っても効き目はないだろうが話し合いは必要だろう。
五日後――
「俺だって普通のまともな食事がテーブルに並んでいればちゃんとするさ!」
開口一番これだ。
ロイド、お前が言うな。この人間失格者が!!
「あぁぁぁぁ!!マスミの手料理が食べたい!!お昼のランチもサンドイッチも飽きたよ!!!」
ロイドが壊れた。
「マスミの作る煮込みハンバーグが食べたい!!オムライスもカレーも食べたい!!ラーメン、餃子、お好み焼き、とんかつ、肉じゃが~~~!!!」
三十過ぎのおっさんが駄々をこねるな!
「ラーメンや餃子なら中華街で食べられるだろ」
「あれは違う!」
「なにがだ?」
「なんちゃってラーメンと水餃子だもん」
おっさんが「もん」なんて付けるな!気色悪い!!
「我慢しろ!本場は水餃子なんだ!!」
「ヤダ!!俺は焼き餃子がいい!!」
このワガママ坊ちゃんは!
いい加減にしろよ!!
「なら、日本食料理店に行けばいいだろ」
至極当たり前のことを提案したと言うのに。ロイドの奴は嫌そうな顔で俺を見た後に、大きな溜息をこれ見よがしにする。
「はぁ~~~~っ……エリックは分かってないね。海外に進出している日本料理店の殆どが日本人以外が作ってるんだよ。いわば『なんちゃって日本料理』ってやつだ。そういうのは不味いんだ。俺は美味しい日本食が食いたいの」
メンドクサイ奴だな。
食事なんて何でもいいだろ。そこまでこだわるものじゃない。本当に面倒な男だ。これだから奥さんに逃げられたんだな。間違いない。
このままミス・マープルに任せていたら紳士と謳われた俺たちまで「最下位の人間」という評価になるのではないか?
いっその事、再婚相手を探すのも手だな。